少年Tらの物語(1)
まさか自分が生きている中でこんな事故が身の近くでおこるとは思わなかった。
これはチャンスだとおもった。
俺は村上俊樹。
悲劇のサッカー部キャプテンの関口と同じクラスだ。
今日あいつは3日ぶりに学校にきた。
何事もなかったかのように今までと同じ顔で教室に姿を現した。
無駄に強がってカッコつけやがって。
どうせ周りの奴らに「関口くんて強いんだね」とか言われたいだけなんだ。
俺はあいつが大嫌いだ。
強豪サッカークラブのキャプテンだからっていつもクールに振舞ってやがる。
ほらみろ。クラスのやつらが集まってきて嬉しそうな顔してやがる。
作戦通りとでも思っているんだろう。
こんな時でもそんな事考えているのかよ。
全くウザい奴だ。
自分のこと悲劇のヒーローとでも思っているんだろう。
精神的ショックが強すぎて鬱にでもなってくれればよかったのに。
まあいい。俺がさらにあいつを悲劇に陥れてやろう。
「ふっ。気の毒なやつだ」
「まったくだ。悲劇のヒーロー扱いされてマジ調子乗りやがって」
いつもつるんでいる橋本健太が関口の愚痴を言う。
「だよねー。マジきしょいわ、あいつ」
吹奏楽部の松下菜々(まつしたなな)もそれに続く。
「吹部のみんなもさー、関口の事マジ嫌ってたからさー、超いい気分」
教室の片隅で関口の愚痴を言いあっていると、あるやつが突然つぶやいた。
「あいつ、いじめてやろーぜ」
聞き覚えのない声に全員が声のした方を見る。
上田拓馬だった。勉強もスポーツもできないやつだったから、俺たちはそいつをウザ田と呼んでいた。
「はぁ⁉てめーに何ができるんだよ。視界から消えろ」
松下が言う。
だが上田はその場から動こうとしなかった。
「まてよ。いい提案がある」
「あ?なめてんのか?だからお前に…」
「おい、ちょっと待て。おもしろい。聞いてみようじゃないか。う・え・だ・くん?」
松下が殴りかかろうとした所を村上が止める。
「今日の放課後話すから屋上にきてくれ」
そう言って上田は立ち去った。
俺、村上は何か始まりそうでとてもワクワクした。
密かに笑みを浮かべた。