少年Rの物語(1)
高くボールが上がる。
それは西日と重なってはっきり見えない。
まぶしい…。
その影は俺からどんどん離れていった。
ここは、神戸の郊外にあるニュータウンだ。
そのため、この街にある僕の学校の生徒数は
700人弱で、勉強も部活動も盛んだ。
そういえば、この前このクラスの戸田が塩化ナトリウム電池の自由研究で、表彰されていた。あいつは天才だ。夏休みも教師であるあいつの両親に勉強させられてたんだろう。
僕の成績はクラスでも中の上くらい。母親には受験生なんだから…とあの戸田も通っている塾に通わされていた。はっきりいって、キツイどころではなかった。全くついていけなかった。でも、僕は泣き言ひとつも言わずにこの夏休み、通い続けた。むしろ、塾は居心地がよかった。
え…?勉強熱心だって?
僕は勉強なんてどうでもいいし、賢くなんてなりたくない。
じゃあ何故その塾に通い続けたのか。それは疑問に思うことだろう。
それは僕に逃げ道がほしかったからだ。
ちょっと前まで周りからバカがつくほど、
「さすが良ちゃんねー」と言われ続けていたのに。
僕が所属しているサッカークラブは強豪チームだ。いつも学校が終わってから車で一時間かけて通っている。
去年の新人戦では圧倒的な実力で県大会を優勝し、学校の英雄になった。僕はこのチームの司令塔で10番を任されていた。そのため、今まで地味キャラだった僕も、一躍学校の有名人になった。小学生の時から気になっていた前田さんにも告白され、付き合うことになった。
そして3年間の部活動の集大成をみせる総体では全国まで駒を進め、優勝候補に名乗りをあげていた。
大会の前日、僕たちは会場である福島にむけて地域の期待と前田さんからの「良介ファイト‼」と刺繍された必勝祈願のお守りをもって、神戸をあとにした。
チームは、やる気と活気に溢れていた。
しかし、僕たち日陽SCユースは全国のピッチを踏むことはなかった。
あの事故があったから…