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鋼鉄のフロイライン  作者: 九十九 大和
第二章 交易
9/28

誘拐

諸君、アハトゥンク!

さて、今回は少し早めに投稿出来ましたが、前回よりも4百文字程短くなっておりますので、ご了承下さい。

なお、今回の後書きクイズなのですが、都合によりお休みさせて頂きます。

…そうそう、更新速度の件なのですが、悪魔でこちらは【喪女】と違い、本編では有りませんので、この更新速度になってしまいます。大変申し訳ありませんが、出来る限り善処は致しますので、何卒ご容赦を…


【追記、2014/11/2 微修正】

金貨一枚から、直ぐに「金貨二枚」「金貨二枚と銀貨二十枚」「金貨三枚」と値段が吊り上がって行く。

案外、サクラなんて連中がいるのかも知れない。


どれ、早速やってみるか。

懐から万年筆を取り出して、紙に「金貨四枚」と書いた。

それを、木の棒の先端に留めて、司会に見える様に挙げる。


こちらに気付いた司会が、「金貨四枚」と読み上げた。

だが、瞬く間に値段が更新されてしまう。

まったく、これだから金持ち連中は困る。

金貨一枚で、四人家族が何日暮らせると……いや、私も人の事は言えんが…


「金貨十枚、金貨十枚です!」


司会が大きな声で、他に居ないか呼び掛け出した。

他からは中々挙がらない。

このままでは決まってしまう。

いけないいけない、早く書かなくては。


慌て紙に「金貨十一枚」と書こうとしたら、隣の方で動きがあった。

スッと何かが上がり、すかさず司会が「金貨二十枚です!」と言った。

会場がざわめく。

やはり、金持ち連中でも金貨二十枚は懐に痛いのだろう。

完全に札が挙がらなくなった。


だが、一気に金貨十枚も高い値段で出したのは誰だろう、と右を向くと、博士がにまにまと声もなく笑いながら、札を挙げていた。


…私がなるべく金のかからない様に落札しようとしていたのに…き、金貨二十枚は痛いぞ…幾ら盟友とは言うものの、一兵卒に金貨二十枚はなぁ。

仕方無い、きっちり働いて返して貰うか。


そう言えば、「金貨十枚」で落札しようとしたヤツは、『卿』だったなぁ。

良い気味だ。


階下から見下ろすと、真っ赤な顔をした『卿』が、こっちを睨んでいた。


「怖い怖い」

「…た、隊長、どうしました?」

「いや、気にする様な事じゃ無いさ」


シューリーに聞かれていたようで、心配されてしまった。


もう誰も買えるヤツが居なかったようで、司会の最終確認が終わり、落札が決まった。

博士がこちらにくるりと顔を向ける。


「イヒヒヒ、と言うわけで、少佐頼んだねぇ」

「…やっぱりな!」


だと思ったよ!

完全に私の読み通りじゃないか。まったく。


これでは金貨が幾つあっても足りん。

冗談じゃないぞ。


キリキリと痛む頭を押さえながら、もう一度階下を見ると、あの日本人が喚き散らしながら連れていかれるところだった。


そして、どうやら目玉商品が売れてしまったので、競りは終わったようだ。

下に行ってから大金を取り出すのもアレなので、先にアイゼハイマンに渡しておく事にした。

懐からズッシリと重みのある袋を取り出して、金貨二十一枚をそこから抜いて、アイゼハイマンに渡す。

受け取ったアイゼハイマンは、冷や汗を掻きながら「直ぐに領収書と、御盟友様を連れて参ります!」と、巨体を揺らして壁に消えて行った。


「なぁ博士…一兵卒に金貨二十一枚も出す必要は無いのではないか?」

「イヒヒヒ、それは違うねぇ」

「…?どういう事だ?」


ヤレヤレと肩をすくませながら、博士が言ってきた。


「少佐は、彼の階級章を見たかねぇ?」

「いや、まったく関心がいかなかった」

「…イ、イヒヒヒ……彼はあれでも大尉だったねぇ」


なんと、全然気が付かなかった。

まぁ、士官なら高い金を出した甲斐があったかな?

…ミヤビみたく突撃思考は勘弁願いたいがな。


「隊長、あのお兄ちゃん大尉だったんだね!」

「みたいだな…全然まったくこれっぽっちも気が付かなかったが……ネルケ、お前より階級は奴さんの方が上だからな」

「イシシシー、分かってますよっと」


本当かどうか怪しいものだ。

叩っ切られないか心配でしょうがない。

まぁ、ミヤビが居る手前、そんな事は無いと思うが…


「まぁ、お前に任せる。…あとは知らん」


ここにナハトが居ないのが、唯一の救いだな…

アイツが居たら、『え!男!?たいちょーが食べるの!?』…とか言い出す事間違いない。

私がそこいら辺の男捕まえて、なりふり構わず食う様な娼婦か売女な訳が無かろう。

……ま、まぁ、私はこんなだが、人並みには恋もするし男だって恋しくなる時くらい有る。

かと言って私が処女か処女では無いかと言うと……何を考えているんだ私は!?


やはり、余計な事は考えない方が良いに違いないな。


買うものも買ったし、ある意味ではもうこの場所には用は無い。

領収書と日本人を受け取ったら、ミヤビと合流し、日本人を渡してもう少しだけめぼしい物を物色したあとに、基地に帰るとするか。


まだアイゼハイマンが帰ってきていないが、全員に部屋から出る様に言う。

自分は、シューリーをエスコートしながら率先して壁に進む。


部屋から出ると、顔面から汗を吹き出させたアイゼハイマンが、日本人を捕まえている職員数人を引き連れて、階段を上がってきていた。


「orewodousurutumorida!!hanasekonoyarou!!」


声が尋常じゃなく大きい。

すかさずシューリーが、私の後ろに隠れた。

セバスチャン殿は、我々の前に立つ。

意外に広い背中をしている。

中々私の好みにそっているな。琴線に触れているぞ。


我々の前まで連行されて来てまで、大声で喚き散らしている。

仕方無い、下士官仕込みの罵りでもしてみるか?


「…コホン……アハトゥンク!!!!」


両腕を背中に回し、日本人の目の前で怒鳴り散らす。

自分でも中々の声量だと思う。博士すら耳を塞いでいるのだから。

やっと私に気付いた日本人は、なんだか呆気に取られているので、もう少し声量を抑えて追撃をかけてみた。


「良いかよく聞けこのクソッタレのゴミ虫野郎。日本人だからって調子に乗りやがって、テメェの面を見てるとゴミ溜めに顔を突っ込んだ気分になる!!とっとと失せて、ママのオッパイでも吸ってろと言いたい所だが、テメェを落札する為に金貨を二十一枚も使う羽目になりやがったんだ!!あぁ?どう責任取るつもりだ?いつまでも喚いてないで、何かまともな事を話してみやがれ黄色い猿めがっ!!極東の二等民族の分際で、白人優良人種である私の目の前で良い度胸してるな、このゴキブリが!!!!」


例の日本人は、抵抗もせずにポカーンとしている。

博士を除く、全員が同じような状態になっていた。

私の背後で、バタンと何かが倒れる音が聞こえ、つられて振り向くと、シューリーが気絶して倒れていた。

少し彼女には刺激が強すぎたみたいだ。

博士は、肩を震わせて笑ってる。


「イッヒ、イヒイヒイヒヒ、ヒッ…傑作だねぇ。なんだい?ヤンキーの海兵隊の真似事かねぇ?……さて、ここは少し私に任して貰おうかねぇ」

「…お、おい。どうするつもりだ博士」

「なぁに、大した事じゃ無いねぇ」


白衣のポケットに両手を突っ込んだ状態で、ヒョコヒョコフラフラと日本人に向かって歩き出す。

なんだか見ていて危なっかしい。


ここからだと、博士の表情が見えないが、日本人と押さえている職員の顔が引き吊っている。


この時点で、大抵の予想が付いてしまう私は、もはや手遅れ処置無しだろうか…


博士がくねくねしながら、なにやら日本人と会話を始めた。

何を話しているのか、さっぱり分からん。


『アナタ日本人アルか?』

『お、お前は日本語が話せるのか!?』

『少しダケなら、話せるアルよ。私と、向こうのカワイコチャン達、ドイツ人アルね。階級、アナタより高いアル』

『そ、そうか……と言うか貴女の日本語は、誰に習ったんだ…ですか?』

『イヒヒヒ…気にしたら、負けアルよ。でもアナタ、もう少しの所で奴隷にサレる所だったアルね。それを、少佐、助けたアル』

『……少佐、殿…ありがたい』

『私は、少佐違う。少佐は、あの銀色髪の毛』


急に博士が、私の方を指差した。

そこまでは良いのだが、くねくねしていて気味が悪い。


日本人がこちらに近付いて来た。

ちなみに、気絶したシューリーはセバスチャン殿がおぶっている。


『ドイツ語で、ありがとうはどう言えば良いでしょうか』

『アリガトウ?「ありがとう(ダンケ)」アルよ』


今のはありがとう聞こえたぞ。

なんだ?何がしたいんだ?


こちらへ向き直った日本人が、敬礼をした後に右手を差し出して来た。

どうやら私と握手がしたいらしい。

仕方無いので、しっかりと握手する。


ア、アリガトウ(ダ、ダンケ)

「なんだ、そう言う事か。もう少しリズミカルに言えれば良かったが、まぁ合格だろう。ようこそ、我が部隊へ」


日本人はまた怪訝な顔をするが、博士が私の言葉を翻訳したので、もう一度ありがとうと言って手を握り返してした。


それに頷いて対応し、全員を引き連れて一階に降りる。

出口までアイゼハイマンがエスコートしてくれたので、すんなりと行けた。


「今日はいきなりの訪問すまなかったな」

「い、いえ!とんでもございません。ここの門は、ショウサ様には常に開いております。またお越し下さいませ」

「あぁ、ではまたよろしく頼む……おっと、そうだ。アイゼハイマン殿」

「…?なんでございましょう」

「また、彼のように奇妙な格好をしていて、奇妙な言葉を話す人間が連れて来られたら、真っ先に私に連絡をして貰えないだろうか。しょっちゅうこちらへ顔を出す予定だから、アウクトベルク執政官に言って貰えたら、私に伝わる筈だ。もちろん代金は出す」

「分かりました。私も奴隷商人仲間のツテで、探してみます」

「すまないが頼んだ」

「はい、またのお越しをお待ちしております」


アイゼハイマン職員一同が、一斉に頭を下げた。

最後にもう一度だけ礼を述べてから、奴隷市場を後にした。


再び住民達の好奇な視線を浴びながら、出店を探して街道を彷徨いていると、さっそく好奇心に負けたネルケが、日本人の大尉にちょっかいを出し始めた。

日本人の周りをくるくる回ったり、袖や裾を引っ張ってみたり、気付いたら手を繋いでいた。

一見すると、年の離れた兄妹か親子だ。


日本人はと言うと、何とも言えない微妙な表情をしていた。

敢えて言うならば、なんでなつかれているのか分からない、とまぁそんな感じだ。


丁度良い所に、また芳ばしい香りを漂わせた出店があったので、匂いに釣られてそっちに引き寄せられていると、左後ろの方から悲鳴が聞こえ、そちらを見やると一両の馬車が、こちらに向かって爆走して来ていた。


わざわざぶつかってやる意味も無いので、横にずれて遣り過ごそうとしたら、擦れ違いの瞬間に突然開いていたドアから手が伸びてきて、中に引っ張り込まれた。


掴まれたのが胸辺りだったので、息が吐き出される。


「ぐふっ!?」


胸がキリキリと痛み、思うように息が吸えない。

もしかしたら肋骨の二、三本が逝ってるかもしれない。


「ゴホッゴホッ……ううっ」


何とか頭を上げて、私を誘拐しようとした輩の顔を拝もうとする。

そいつと眼が合った。


成る程……納得がいった。

確かに、アンタならやりかねないな…クソッタレ…


胸の痛みが強くなり、視界が点滅し始めた。

だんだんと、意識が遠退いて行き、何も見えなくなった。



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