交易
諸君、アハトゥンク!
約束通りの投稿です。
次話の投稿は、まだ未定です。
ドラゴンを退治してから3日が経過した。
あの日にアウクトベルク執政官に見せた双眼鏡の効果は素晴らしく、是非とも売って欲しいと言われ、日を改めて持って行くと約束した。
それが今日なのだが…
「やっぱりお洋服とかー、化粧品は欲しいよねー」
「ボクは使わないから分かんないけど、隊長なら使うんじゃないかなぁ?」
「えー、たいちょーが使う訳ないじゃん!」
コイツら…完璧に遊ぶ気満々だな…
凸凹の山肌を走る戦車の中で、ナハトとネルケがキャピキャピと姦ましい。
良くまぁ舌を噛まないものだ。
全くもって信じられん。
出撃前にあれ程、遊びではないと言った筈なのにな。
今日は、元々貯蔵の少なかった食料品の調達だ。
幾つか博士に頼んで作って貰った双眼鏡と、数日分の食料品と交換するのが目的だ。
「少佐殿に失礼ではありませんか?」
殺風景な山肌を走る車内に、何時もの面子以外の凛とした声がした。
声の発生源に目を向けると、私の様に肩口で切り揃えられた絹のような黒髪が特徴の高身長の乙女が、シューリーと座席を共有しながら座っていた。
彼女の固く横一文字に結ばれた口元は、とても強い意志を持っている事を感じさせる。
だが、ムスッとした表情をしているため、せっかくの整っている顔が台無しなのが、玉に傷だ。
「ミヤビ、大丈夫だ。この程度の事は日常茶飯事だ。一々目くじら立てては、こっちが持たないぞ」
「ですが少佐殿…分かりました」
心なしか彼女の両眉が下がった気がした。
彼女の名前はミヤビ キリツボ。
確かカンジとやらで書くと、桐壺 雅緋だったかな?日本人の文字は難しくて分からんが、そうだったはずだ。
彼女は隊唯一の日本人で、盟友の大日本帝国陸軍 少尉だ。
何故帝国軍人がここに居るのかはひとまず置いておく。
性格は他の日本人と同じように謙虚で大人しいが、直ぐにキレて突撃しようとするところと、何かと死に急ぐところがあって、制御するのが一苦労だ。
しかし、良く気弱なシューリーが座席を共有したな。いや、気弱だからこそかな?
何時も通り、座席を共有しながらもシューリーは、ソワソワして落ち着きが無い。
博士は何時もの笑い声を轟かせながら、猫背で運転している。
うむ、こちらも何時も通りだな。
「博士、あとどの位だ?」
「イヒヒヒヒ…そうさねぇ、あと30分位だねぇ」
「了解した」
キューポラから外を見ると、既に密林の中に入っていた。
たまたま目に入った樹の幹に、猫程の大きさがありそうな、黄緑色の足の長いゲジゲジが大量に貼り付いていた。
生理的嫌悪感で背筋がぞぞっとした。
否応なしに、異世界だと言う事を意識させられた。
だが、アレは酷いな…
シューリーか、虫嫌いのナハトが見たら卒倒するに違いない。
あまり、今は外を見るのは止めよう。
今回の街への交易は、全四号戦車を動員した。
理由は色々あるが、どの車両の後部にも、牽引型の履帯式コンテナを装備しつつ、高機動を損なわない戦車がこれしか無いと言うのが大きい。
ちなみに、このコンテナの大きさは、大体38(t)より少し小さい位だ。
最大装甲は15mmで、素材は余った装甲板。
履帯は、戦車の整備の時に、戦闘には使えないと判断された履帯が、博士の趣味?で様々な戦場や工場から運ばれて来たものがかなりあったので、整備兵や特殊工兵が博士の指示の元に、鍛え直したものを使ってある。
それらをリベット打ちして、無理やり組み合わせた急造品だ。
だが、かなりしっかりとした作りで、そんな簡単には壊れ無いとの博士のお墨付きもある。
今回はこれに、品物を積み込んで帰る予定だ。
アウクトブルク執政官の食い付き様は良かったので、すべてのコンテナが埋まるとは思ってはいないが、かなり融通しては貰えるだろう。
それに、整備兵と特殊工兵以外には内職をしてもらったから、それなりの数の双眼鏡を揃えられたからな。博士に作って貰った物は、どういう訳か造りが凝ってい過ぎて、数を揃えられなかった。
それらはきちんと布や緩衝材で包んで、この戦車のコンテナに詰めてきた。
暫く、騒がしい車内を眺めながら、ナハトとネルケの会話を聴いていたが、博士の声で現実に引き戻された。
「少佐」
「どうした?」
「あと1km程だねぇ」
気が付くと密林を抜け、草原を走行していて、あの門が大きく見え始めていた。上部ハッチを開け、上半身を乗り出しながら愛用の双眼鏡を取り出し、門の入り口を見る。
既に門の下には、見覚えのある顔が立っていた。
「『各車、減速を開始しろ。間違っても“お客様”に砂ぼこりを掛けるなよ』」
『了解!』
早速、車内にクラッチを変える音が鳴り、続いて博士の薄気味悪い笑い声が響く。
シューリーが肩をビクッと震わせ、ミヤビは頬をピクつかせた。
「はかせー、その笑い声何とかなんないの?」
「イヒヒヒヒ…無理だねぇ」
ナハトが呆れ顔で、もう何度目になるか分からないやり取りをした。
「ナハト、博士の癖は、もはや存在意義の領域に達している。諦めろ」
「たいちょー!…じゃあ、しょうがないなぁ」
「…少佐…」
ナハトは、地味に納得したが、どうせまた同じ事を言うから放置。
インカムからは、博士の恨めしい声が聞こえたが、これも何時もの事だ。
この2人に関しては、突っ込みを入れた時点で負けだ。
門に近付くにつれ、速度が目に見える形で減速していく。
やがて、門から10メートル程の所で停車した。
砲塔から降り、少し汗を滲ませている中肉中背より、やや太めの男性に近付く。
「先日振りですかな?アウクトベルク執政官」
「えぇ、ようこそおいで下さいました。ハイ」
「そちらも変わり無いか、騎士ヒルデガルド殿」
アウクトベルク執政官の後ろに控えていた、甲冑姿の女騎士に挨拶をする。
彼女には世話になったしな。
なんにしても礼儀は大切だ。
「ショウサ殿もお変わり無いようで、なによりです」
「あぁ、お陰様でな」
一通り、社交辞令としての挨拶を済ませると、アウクトベルク執政官が立ち話もなんだと、街の中にある領主館に招待してくれた。
戦車を中に入れても良いかと聞くと、是非にと答えてくれたので遠慮無く前進させる。
先にアウクトベルク執政官は館へと馬て戻り、私は戦車に戻ってから、ヒルデガルドの先導する馬の後をついていく。
門を通過する際に、門衛と思われる2人の鎧を纏った兵士が、背筋を伸ばし、左手の拳を右胸に当てるポーズを取った。
成る程、あれがこの世界の敬礼か。
どれ、こちらも答礼でもするかな?
戦車上から、まっすぐに伸ばした右手を45度の高さに上げ、挙手の礼を取る。
次いでにハニカンでみると、顔を赤くしていた。
まったく、面白いものだな。
門の内側の街並みは、中々のものだった。
地中海に面している街のように、白い漆喰で塗り固められた家々は、太陽の光を受けて白亜に煌めいて見えた。
戦時下では見る事の出来ない光景だ。
実に美しい。
白い街並みは、きちんと区画整理されているようで、道が広く、四号戦車なら擦れ違えそうな程だ。
その往来のど真ん中を、ゆっくりとしたペースで走行する。
この通りはどうやら商店街のようで、活気に溢れていたが、戦車のエンジンの唸りと地響きで、皆こちらを振り向き唖然としていた。
その顔ときたら、実に見物だ。
面白い。
よくよく観察すると、皆肉付きが良いな。
食べ物には困っていなさそうだ。
「ネルケ!見て見て!あの女の子が着てるフリルのお洋服カワイー!!」
通信士用のハッチを開けて、ナハトが騒いでいる。
まぁ、仕方無いか。
これまでずっと戦闘に明け暮れ、休暇もろくに取れず、何日も風呂に入れないで陣地構築したり、排泄物は空薬莢の中に溜めたりだの、女を暫く止めていたからな。
ネルケが持ち場を離れ、ナハトの横から顔を出した。
「すごいキレイだね!」
インカムから、楽しそうなネルケの声が聞こえて来て、思わず頬が緩んでしまった。
「おい、シューリー」
「ひゃ、ひゃい!」
見事に噛んだな。
素晴らしい噛みっぷりだ。
「ちょっとこっちへ来い」
「は、はいぃ…」
ミヤビに席を譲り、頭上に注意しながら私の足元にきた。
ちょうど良い位置に頭が来ていたので、取り敢えず撫でる。
「…た、隊長!?」
「ほら、お前もここから外を見ろ。生憎このハッチは成人男性用でな、ブカブカなんだ」
「…で、でも…隊、長と…」
「ほら、おいでシューリー」
「…はい」
おずおずと、上半身を割り込ませてきた。
キューポラの上部ハッチは、2人でちょうど良い位だな。
なんだか分からんが、下から歯ぎしりの様な音が聞こえた気がする。
「うわぁ…!?」
街並みを見たシューリーは、感嘆の声を上げた。
片手で口を押さえつつ、何時もとは違う意味でキョロキョロしだした。
とても良い顔だ。
おどおどしている時や、戦闘時の引き締まった表情も嫌いでは無いが、好奇心を掻き立てている時のシューリーの顔は、とても美しい。
なんだかんだ言っても、シューリーは私のお気に入りだからな。
実に可愛い。
いや、部下全員可愛いがな。
彼女は特別だ。
なんたって、栄えある最初の部隊員なのだからな。
ナンバーがあるなら、私がアインでシューリーがツヴァイだ。
さりげなく腰に手を回し、戦車が急に止まっても怪我をしない様に、しっかりと引き寄せる。
今度は、下からハンカチを食い破る様な音が聞こえた気がする。
「…た、たた隊長…!?」
「気にするな…それよりも、あそこで手を振っている少年少女達に振り返してやれ」
「…え?ぁ…は、はい!」
道の端に、少し薄汚れた服を着ている少年少女達が大きく手を振って居たので、シューリーに話を振ってみた。
シューリーは、私に言われた通りに手を振るが、何処と無くぎこちない。
「もう少し、自然体で良いんだぞ」
どれ、ここは一つ私も手を振ってやるとするか。
次世代を担う、小さな少年少女達にヒラヒラと手を振り、何時もなら国家元帥や伍長殿に“お願い”する時に使う、最高の笑顔を向ける。
すると、少年達は顔を真っ赤にして眼を反らし、少女達は黄色い声を上げつつ、自分達以外に赤面している少年達の尻を蹴り上げ始めた。
「この位の事は、お前にも出来るはずだ」
「で、ですが……わたし、は…」
「大丈夫だ。私が保証しよう」
「…隊、長」
まったく、世話の焼ける部下が多くて、退屈しないな。
実に素晴らしい。
「少佐殿!シュリヒト殿だけズルいであります!」
下から、少しヒステリック気味な声が聞こえた。
どうやら、ミヤビの悪い癖が出たようだ…
どうにかならないだろうか。
「ミヤビ、私にどうしろと?外なら照準器を覗けば見えるだろう」
「そう言う事ではありません!」
はぁ、また始まった。
人間の集団を円滑に纏めるのは、実に大変だな。
「ではどうしろと?」
「自分も少佐殿と一緒に外を見たいであります!」
コイツは何かと私に拘る。一体どうしたものか。
「すまないシューリー。代わってやってくれないか?」
「…は、はい…」
来た時同様、おずおずと戻って行き、入れ違いにミヤビが入って来た。
なんだか鼻息が荒いのは、気のせいだろうか。
いや、気のせいでは無いな…
「しょ、少佐殿!」
「なんだ?」
「美しい街並みでありますね!」
「そうだな。戦時下では見れない風景だ」
「こ、この風景よりも!しょ、少佐殿の方が、ぁ…ううう美しいで、であります!」
「……そうか。ありがとう…だが、口説き文句としては3点だな」
「ガーン…!!」
顔色を絶望に染め上げ、しなしなと倒れそうになる。危ないので、倒れ無いように抱き留めてやる。
仕方無いな…
そもそもコイツは、何故ついて来たのだったか?
あぁ、確か買い物がどうとか言って、無理やりついて来たのだった。
まだ、彼らの貨幣すら手に入れていないのにな。
「少佐殿…!」
「しっかりと立たんか」
「し、失礼しました!」
途端にシャキッとする。
扱い易いのか扱いづらいの分からんヤツだ。
せめて統一して欲しいものだな。
「イヒヒヒヒ、どうやら見えて来たようだねぇ。少佐」
インカムから博士の声が聞こえ、顔を上げると、街の中央に小高い丘があり、その上に煉瓦造りのゴシック様式似な大きい屋敷が見えた。
白い漆喰の街並みと相まって、煉瓦の錆朱が浮き上がって見える。
館の建っている丘の周りには、ぐるりと鉄柵で囲まれており、道の突き当たった所にある入り口の前には、完全武装で槍を持った衛兵がそれぞれ左右に二人づつ立っている。
中々の警備体制は堅いようだな。
見たところ、ここの科学文明のレベルは中世のヨーロッパ程であるから、かなり厳しい警備体制だろう。
ヒルデガルドが、衛兵に何やら会話すると、直ぐに鉄製の門を開けた。
彼女が手で合図してきたのを確認したので、それに従って敷地内に進入する。
若緑の芝生が生えた丘の斜面には、真っ直ぐと館の玄関へと続く道が走っていて、そこを上がって行く。
坂を登る時に、速度が低下しないように博士がクラッチを切り替え、アクセルを軽く踏み込んだ。
エンジンの回転数が上昇し、唸りが大きくなった。
履帯で道を耕しながら、坂を登りきり、玄関の少し前で停車させる。
さてどうしたものか。
許可無しに手入れの行き届いている芝生の上に、勝手に停める訳にはいかない。自国の一部やイワン共の土地なら気にしないが、今の我々は完全な部外者であり、迎えられている側だからな。
ヒルデガルドに聞いてみるか?
「ようこそいらっしゃいました、ショウサ殿。ハイ」
ちょうど良いところに、アウクトベルク執政官が両開きの扉を開けて出てきた。
「すまない、戦車は何処に置いたら良いだろうか?」
「えぇ、何処でもお好きな所にお置き下さい」
「本当に良いのか?かなり手が入れられた芝生の様だが…」
「えぇ、構いません。ハイ」
「申し訳ない。『各車、向かい合わせに停車させろ。無駄に地面を掘り返さないようにな』」
『了解!』
私の命令通りに、屋敷の右前の敷地に、向かい合わせで六両が駐車した。
戦車を駐車して直ぐに、命令もしてないのに全員がワラワラと戦車から降車してきて、私の前に整列した。
「…総員30名、異常無し!車両異常無し!」
イェーガーの次の最先任である、シューリーが戦闘時の顔で敬礼をしてきた。
…仕方無いか、降りて来るなと言っていないしな。
「ご苦労。暫しここで待機、追って指示する。以上だ」
「…はっ!了解しました!」
全員が休めの姿勢を取る。それを確認した後に、後ろを振り向くとアウクトベルク執政官が呆然としていた。
おや?一体どうしたのだろうか…
ヒルデガルドは…表情が分からないな。
ひとまず、彼らを引き戻すとするか。
「早速、あそこに停めさせてもらったが、大丈夫だろうか」
「……え?えぇ、問題ごさいません。ハイ…」
「どうかしたのか?」
「失礼を承知でお尋ねいたしますが、ショウサ殿の軍隊は全員女性なのでしょうか?ハイ」
一気に吹き出て来た、額の汗を拭きながら、アウクトベルク執政官が聞いてきた。
あぁ、珍しいのだろうな。こちらでも同じだからな。まったく、つくづく伍長殿には“感謝”するよ。
何処へ行っても、同じ反応が帰ってくる。
いい加減飽きたぞ、私は。
「あぁ、そうだ。色々あってな…基地にいる連中もみんな女だ」
「基地、ですか?」
おっと、口が滑った。
ヒルデガルドは鋭い様だから、気を付けなくては。
「あぁ、何処にあるかは教えられないが、基地だ」
「そうですか。ですが、敵対の意思が無いのであれば構わないと、国王陛下からお達しが来ておりますので、お気になさらず」
「すまない」
物分かりが良く、行動が早い国王で助かった。
だが、3日で国王と連絡をとるとは…
王都が比較的近いのであろうか。
地理については、この際アウクトベルク執政官に教えてもらうとするか。
「では、ショウサ殿とお付きの方々、どうぞこちらへ。ハイ」
人当たりの良さそうな笑顔で、先を促してくるので、言葉に甘んじて部下達と一緒に館の中に入る。
「ほぅ…」
不覚にも、感嘆の声を上げてしまった。
もちろん、後ろは姦ましい。
全て大理石の床や、高い天井には豪華なシャンデリアが吊り下がっており、キラキラと上品な淡い金光を放ち、広いロビーを照らしている。
ロビー中央の奥には、二階へと昇る大階段があり、踊り場から左右に別れて上に続いていた。
玄関から大階段まで真っ直ぐに敷かれた朱色の絨毯の真横には、ズラリとメイド服を着たメイドが、数人の執事と共に立っていて、一斉に頭を下げてきた。
「「「いらっしゃいませ!お客様方!」」」
「あ、あぁ。出迎えご苦労…」
かなりの数がいるな…
アイン、ツヴァイ、ドライ…ざっと50人程いるぞ。
一個小隊と二個分隊か。
…おっと、いかんいかん。何でもその方向に考えるのはいかんな。
これ程集めるとは。
実は、アウクトベルク執政官は好色だったとかは無いだろうな…
「彼女達は、募集したら集まって来た出稼ぎです。ハイ…どう言う訳か、集まり過ぎて、これでも半分は面接で落としたのです。ハイ」
「そ、そうだったのか」
彼には申し訳ないな…
下手な勘繰りは危険だ。
先入観は、正常な判断を鈍らせると言う事は、戦場では当たり前の事だと言うのに…
「それでは皆様、こちらへどうぞ。ハイ」
アウクトベルク執政官に案内され、中央の大階段を昇り二階へと上がる。
そのまま、手入れの行き届いている塵一つ無い廊下を少し歩き、向かい合っている扉の前で止まった。
「えぇ、それではショウサ殿はこちらに、お付きの方々はこちらのお部屋へどうぞ」
「なっ!?」
アウクトベルク執政官が、通路を挟んで向かい合っている、左右の扉を手で指した。
驚いたミヤビが、何かを言いかけたが、右手で制する。
我々は客人なのだから、家の主人に従うのは当然の事だ。
「私はここに、話し合いに来たのだ。故に、この場を設けてくれたアウクトベルク執政官の指示に従う義務がある。違うか?」
「し、失礼しました!!」
「くれぐれも、使用人の方々に迷惑をかける事の無いよう、気を付けろ。シューリー、頼んだ」
「…りょ、了解!」
しっかりと頷いたシューリーに頷き返し、アウクトベルク執政官が開けてくれた右の部屋に入る。
ちなみに、略帽は戦車の中に置いてきた。
部屋の中は、大きな窓のお陰で明るく、壁際に置かれている数々の調度品を照らしている。
部屋自体の基調は質素だが、それが価値の高そうな調度品を際立たせていた。
「ほぅ、この壷は良いものだな…」
「えぇ、お分かり頂けますか」
「あぁ、詳しくは無いが、一般人よりは見る目があると自負している」
「その壷は、この部屋にある壷の中でも一番高い価値があります。ハイ」
「そうか」
日本の瀬戸物の様に、艶と光沢のある藍白の表面をしていて、古代エジプト文字のような紋様が描かれている見事な曲線の卵型壷は、やはり価値の高い物のようだ。
どうだ?私も見る目があるだろう?
「それではそちらにお掛け下さい。ハイ」
部屋の中央にはソファーが二つ、テーブルを挟んで置いてあり、部屋に入った時から見て右側のソファーに座るよう、促された。
「それでは早速、本題に入らせてもらっても?」
「えぇ、お願いします。ハイ」
さて、先ずは食料品と少々の貨幣を、双眼鏡と交換してもらえるかだな。
上手く行くだろうか。
「我々が現在欲しているのは、食料品とこの国の金銭だ」
率直に切り出すと、アウクトベルク執政官は一つ頷き、額の汗を拭った。
「えぇ、承知しました。どれ程の量が必要でしょうか。それで話が変わってきますので…」
当たり前か。
双眼鏡一つの価値など、たかが知れている。
だが、アウクトベルク執政官の食い付き様から察するに、もしかしたら“ここ”には双眼鏡と言う物が、存在しないのかも知れない。もしそうであるならば、これ一つの価値は、一体どれ程の物なのだろうか。
「先ず聞きたいのだが、この国に双眼鏡はあるのか?」
「…いえ、わたくしは見た事も聞いた事もございません。ソウガンキョウと申しましたか…?それ一つで、我々の戦争の戦略が変わります。ハイ」
ビンゴだな。
やはり存在しないようだ。さて、アウクトベルク執政官は、これ一つに何処まで出せるだろうか?
「それでは、これ一つで何処まで出してもらえるだろうか」
懐に仕舞っていた、メイドイン博士の双眼鏡を取り出して、テーブルの上に置く。
無駄にレリーフやら、空の薬莢を切って作った装飾やらが目を惹く。
よしよし、アウクトベルク執政官の目が釘付けになっているな。
「…ショウサ殿のご要望の食料品は、こちらで全て揃えさせて頂きます。お入り用の数を後程仰って下さい。それと貨幣ですが、金貨100枚…いえ、120枚ご用意致します。ハイ」
「すまないが、この国の貨幣の価値が分からないのだが、ご教授頂けないだろうか」
かなりの金額を提示してくれているのだろうが、価値が分からなければ何の意味も無い。
「えぇ、お教え致しましょう。先ずは、この国の最小価値の貨幣は銅貨です。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百五十枚で金貨一枚となっております。なお、平均した一般人の年間収入は、金貨三枚~五枚です。ハイ」
成る程、と言う事は、博士の作った双眼鏡に破格の値段が付いた訳だ。
良い滑り出しだぞ。
「成る程、ではそれで頼む」
「ありがとうございます。ハイ」
立ち上がり、互いにしっかりと握手を交わし、博士産双眼鏡をハンカチに包んでアウクトベルク執政官に手渡す。
まったく、何に高額な値段が付くかわからんな。
小銃なぞ渡した日には、一体どうなってしまうのだろうか…
まぁ、我々の手札をそう簡単に渡す訳は無いがな。
「失礼します」
ちょうど、ソファーに座り直したときに、コンコンと扉がノックされ、裾等にフリルを使った、軽そうな萌黄色の簡易ドレスを着た女の子が入って来た。
手には、ティーセットが載った銀の円いプレートを持っている。
「お父様、お茶を御持ち致しましたわ」
マ・〇べ「あの壷は良いモノだ…」
少佐「この壷は良いものだな」
マ・〇ベ「おぉ、ここにもあれの価値が分かる者が居ようとは」
少佐「まぁ、な」
マ・〇ベ「どうだ?ここは一つ、私とジ〇ンも為に尽くさないか?」
少佐「すまないな、ガリガリな男には興味がないのだ」
マ・〇ベ「ウ〇ガン!あの壺をキシリア様に届けてくれよ…あれは……いいものだ……!」
出来れば、お気に入り登録お願いします!
『今回から始まりました~、何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『已己巳己』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『蚰蜒』とは、『ゲジ(ゲジゲジ)』の事です。
ゲジゲジとは、ゲジ目の節足動物の総称。これに舐められると、頭が禿げるという俗説があるそうです。
実は肉食で、黒光りするGの天敵だそうで、退治してくれる益虫ですが、『不快害虫』でもあります。
毒性はほぼ無いので、噛まれても問題はありませんが、雑菌を多く持っているので、必ず殺菌消毒をしましょう』