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鋼鉄のフロイライン  作者: 九十九 大和
第一章 遭難
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出会い

諸君、アハトゥンク!

これで、第一章は終わりです。

取り敢えず、次回は一章の登場人物紹介を挟みまして、それから第二章をスタートさせたいと、思っております。


ちなみに、少佐達はドイツ人ですが、敵性語である英語や和製英語を使う事に関しては、小説の作成上止むおえないので、ご容赦下さい。

戦車を前進させて、ゆっくりドラゴンの亡骸に近付いて行く。

火炎放射のせいで、ここから亡骸までの草が扇状に無くなっており、未だに燻っている。


首の前まで行くと、僚機もこちらに近付いて来た。


キューポラのハッチを開け、外に出る。

しかし、派手に炎を焚き付けてくれたものだ。

せっかく灰色に塗ってあったのに、煤けて黒くなってしまっている。

無線のアンテナの一部など、溶けてしまっていた。

まぁ、機銃を上部に取り付けて無かったのが唯一の救いだな。

貴重なMGを失う所だった。


ざらついた装甲を撫でてから地面に降りる。

運転士用のハッチが開き、ニョキッと瓶底眼鏡を掛けた博士の頭が飛び出して来て、ヌゥーっと降りてきた。

普通に降りてくる事は出来ないのだろうか。


「博士も興味があるのか?」

「イヒヒヒヒッ、科学者としては大いにあるねぇ。特に鱗辺りがねぇ」

「成る程。剥ぎ取って行くと良いのではないか?」

「そうさせて貰おうかねぇ」


やはり、腐っても科学者だな。

いや、現役か。

…だがドラゴンは大きいな。

尻尾の先から頭の先まで30メートル位あるのではないか?


試しに鱗でも叩いてみるか、ふむ、以外に金属質な手触りだな。

叩くと、コンコンと鉄板を叩いている感じがする。


急に後ろの方から、馬の嘶きが聞こえた。

振り返ると、先程の三人の騎士達が馬を降りて近寄って来た。

さて、どうなるものかな?


騎士達は少し離れた所で止まった。

どうやら、相手も我々を警戒しているようだ。

博士は相変わらず、我関せずでドラゴンにかじり付いているが…


「私は、栄えあるフェルディナン王国騎士団二級騎士、ラインハルト・フォン・ヴァンダーファルケだ。今回は助太刀有り難く思う。貴殿は…いや、貴殿達は……一体…」


おお、母国語ではないか。運が良いのか?


その騎士は最初は威勢が良かったが、だんだん声が萎んで行った。

ヘルムを被っている頭が、頻りに私の頭の先から足までを行ったり来たり、隣の戦車にチロチロ動いている。

興味津々なのは分かるが、名乗りの途中で余所見をするとは…


「私は、ドイツ第三帝国、独立特務特隊、通称『鋼鉄のフロイライン』隊長、階級は陸軍少佐。そうだな…そのまま少佐とでも呼んで貰おうか」

「貴様!ラインハルト殿が得体の知れない貴様に正式な名乗りを上げたと言うのに、なんだその言い方は!」


なんだか後ろの一人がしゃしゃり出てきた。

はぁ、こう言うヤツはどこにでもいるな…

分からせてやるのも面白いか?


「はぁ、人と話す時はまず被り物を取れ」

「なんだと!?」

「おい、止さないか」

「お前の名前と階級を言え」


ラインハルトと名乗った騎士が、後ろの一人を止めるが、私はここで終わらせるつもりは無いので、続ける。


「…フェルディナン王国騎士団三級騎士、オスヴァルト・カルステンス」


渋々といった感じで返事が帰って来た。


「王国騎士団とやらの階級は分からないが、騎士と言う位なのだから士官なのだろう?」

「…そうだ、だからどうした!」

「少佐、これは階級なのだが、高級士官だぞ?大隊長、そうだな、千人隊長と同じと思ってくれて構わない」


まぁ、大隊は約600名だけどな。


「ぐっ…」

「言っておくが、多分お前は階級が上の人間に喧嘩を売った訳だ」

「ガキが、そんな階級の筈が…!」

「おい!止めないかオスヴァルト!」


ラインハルトが声を大きくして、オスヴァルトを叱咤する。

だがはっきり言って、ラインハルトは部下の教育をちゃんとしていないのにも問題がある。

それに、私はガキでは無い。


「ガキ、か。私は自分の年齢を弁えているのだがな。若造が」

「貴様ぁぁっ!!」


ラインハルトの制止を振り切って、逆上したオスヴァルトが抜剣して斬りかかって来た。

愚かなヤツだ。少しつついただけでこれだぞ。

短気にも程がある。

基地に待機している、日本人より短気だぞ。

まったく、少し矯正してやる必要があるな。


後ろで、前方機銃の遊底を滑らせる音が聞こえたので、片手を挙げて制止させる。

オスヴァルトは、雄叫びを上げて一瞬で距離を詰めて来た。

曲がりなりにも訓練は詰んでいるようだ。

かなり速い。だが、その程度だ。


「死ねええぇぇぇえぇぇぇぇえええぇ!!!!」


ブオンと風を切る音を響かせながら、上段から振りかぶった長剣を両手で振り下ろしてくる。


「バカが。お前もその程度か」


半身を右に引き、一直線な読みやすい剣筋を避け、腰から引き抜いた愛銃で硬直しているオスヴァルトの左手を撃ち抜く。

乾いた音に続いて絶叫が上がるが、気にする事はない。

次に右の太ももを撃ち抜く。

たかがフルメイルの鉄板など、至近距離から撃った7.63mm×25モーゼル弾の前には紙に等しい。

簡単に穴を穿ち、鮮血を散らす。

オスヴァルトは呻き声を上げて、左手を右手で押さえながら方膝立ちになる。

ちょうど良い位置に頭が来たぞ。

ヘルムを取らない礼儀のなっていないヤツには、痛い目にあってもらうのが一番良いな。


頭に向かって、ステップを踏んでブーツの踵を振り抜く。

コメカミに踵が刺さり、一瞬遅れて真横にぶっ飛んだ。

そして、直ぐに重力に引かれて地面に叩き付けられた。


「どうした若造?私を殺すのではなかったか?」


オスヴァルトは、喚き散らして左手を庇いながらヨロヨロと立ち上がろうとするも、転んでしまい、遂にはヘルムを取って胃の中身をぶちまけた。

上手いこと脳震盪を起こしたようだ。


「その程度では、長生きはしないな。すぐ頭にきてしまう短気なところ等は、治した方が良いぞ。それと、剣術をもっと習え。お前は単調過ぎて読みやすい」

「ショウサ殿、もうこの辺りで…部下の粗相を何卒お許し下さい」


ラインハルトは、ヘルムを取って素顔を曝し、方膝を付いて臣下の礼をとった。ラインハルトの後ろに何もせず控えていた、もう一人の騎士も、ヘルムこそ取らなかったが同じように臣下の礼をとった。


「今回は、貴殿の顔に免じて不問としよう。だが、次は無いぞ。そこで吐いているバカをしっかりと教育するんだな」

「ははっ」


淡い金髪を揺らして、もう一度深く頭を下げたあと、オスヴァルトを介抱しに向かった。

もう一人の騎士は、その場に残っていた。

こちらに向かって来る。

相手は背が高いので、自然に見上げる形になる。

ヘルム越しにくぐもった女の声が聞こえて来た。


「ショウサ殿、貴女は変わった魔法をお使いになりましたね」


おかしな事を言うヤツだ。私が魔法を使える筈が無い。


「何を言っているか分からんな」

「ご冗談を、瞬時に魔物防御魔法が添付されている鎧を突き抜けて、攻撃されたではありませんか」


なんだ?私は単にモーゼルをぶっ放しただけだが、それの事を言っているのか?まったく良く分からん事を抜かす。

ここは、適当にはぐらかした方が良いな。


「何でも良いが、貴殿は?」

「…申し遅れました。フェルディナン王国騎士団特務騎士、アンネマリー・ヒルデガルドです」


ヒルデガルド…どこかで聞いた事のある名前だな。

たしかアフリカ戦線の方で活躍してるとか…

いや、今はそんな事はどうでも良い。


「名乗ったは良いが、素顔は見せないか」

「申し訳ありません。職務上、人前で素顔を曝す事は禁止されておりますので、ご容赦下さい」


物腰は柔らかい。

言葉使いは丁寧と来た。

仕方ない、多少は大目に見てやるか。


「そう言う事ならば仕方あるまい。我々も同じ様なものだ」

「恐れ入ります。…ところで、先程の魔法や、ファイアドラゴンを意図も容易く葬り去った、この馬要らずの鉄車。そして、ドイツ第三帝国…私が無知なだけかも知れませんが、見た事も聞いた事もありません。貴女達は一体何処から御出になられたのですか?」


コイツ、中々キレるヤツだ。

参謀として、我隊に欲しいくらいだな。

さて、これをどうするかだ。

彼処の街は、基地から一番近い街だ。

補給するには持ってこいの場所にあるし、仮の拠点とするにも良さそうだ。

ここは仲良くしておいた方が得策だな。


「初めにはっきり言って置くが、我々は貴殿ら王国に仇為すつもりは無い。そして、我々の事だが詳しい事は言えない。いや、我々の中でも不明瞭な点が有るため、言いたくても言う事が出来ない」

「…分かりました。敵意が無い、そう言って頂けただけでも十分です」


やけに物分かりの良いヤツだ。

その方が助かるがな。


「助かる。そこでなのだが、出来ればあの街で交易をしたいのだが…出来ないだろうか」


暫く考えるように黙っていたが、良い答えが帰ってきた。


「わかりました。代表者に話をしてみましょう」

「ありがたい。我々はそれまで街の外で待っていよう」

「わかりました」


よし、事態は良い方向に向かいつつあるぞ。

ここがどこであるか分からないが、何とかなりそうだ。

街と交易が可能になったら、最低でも食料には困らないはずだ。

食料問題は士気にも関わってくるからな。

とても無視は出来ない。


「博士、そろそろ移動するぞ」

「イヒヒヒヒッ、コイツは中々興味深いねぇ。出来ればサンプルを持ち帰りたいくらいだねぇ。少佐」

「分かった分かった。頭でも持って帰るか?」


地面に転がっているドラゴンの頭を見やる。

生気の無い目が、ギョロリと私を見詰めていた。

まぁ、私に出会ったのが運の尽きだな。戦友(とも)よ。


「大変申し訳ありませんが、ファイアドラゴンを討伐した証しに、頭を王都に送らないといけませんので…何せ天災級の魔物だけありまして、討伐された事例があまりありませんので」


その言葉に、博士の方眉がピクッと微かに動いた。


「なら、心臓を塩漬けにして送れば良いと思うけどねぇ。これだけ巨大な生物の心臓なら、証拠になる筈だねぇ」


博士は、なんとしても頭を持って帰りたいらしい。

何か魅力的なモノを見出だしたのだろうか、科学者は良く分からん。


「た、確かにそうですが…我々の剣では、鱗を突き破る事が出来ません」

「それなら問題ないねぇ。7.5cm砲徹甲弾が開けた穴から、肉を掻き分けて行けば良いと思うねぇ。なんなら、街まで引っ張って行くから大丈夫だねぇ」

「は、博士…隊長は私なのだが…」

「少佐ならやってくれるねぇ」

「…………分かった」


博士には、どうも甘い気がするのは気のせいだろうか…

しかし、こんな巨大なモノを四号三台で牽引出来るのだろうか…


「分かりました…ショウサ殿も大変なのですね…」

「あぁ…」


博士は嬉々としながら、一人で大きなドラゴンの頭を持ち上げて、一号車の後部にくくり付け始めた。

重く無いのだろうか…

ラインハルトとオスヴァルトは、眼を剥いて博士を見ている。

誰から見ても、色々と規格外な人なのだろう…


「では、悪いが先に行っていてくれ。我々は、亡骸にロープを縛り付けなくてはならん…」

「分かりました。それでは、街の代表者に話をしています」

「頼む。…全員降車!手伝ってくれ!」





「頑張れよ…四号戦車博士スペシャル!街まではあと少しだ…!!」


エンジンが猛回転する音が、車内に響き渡る。

キューポラから僚機を見ると、排気管から凄い勢いで排気ガスが噴出していた。残りの燃料は大丈夫だろうか…

幾ら、博士エンジンに換装して250km行動出来るようになったとは言え、これではさすがに燃料をドカ食いし続けているからな。


「シューリー、大丈夫か?」

「ふえぇぇぇ…た、隊長!」


顔面を真っ青にして、ぶるぶる震えている。

ネルケはつまらなそうにして、ナハトは居眠りときた。

博士は頻りに笑い続け、その声にシューリーが怯えまくると言う悪循環。

誰かどうにかしてくれ…


ゆっくりと巨大なドラゴンをワイヤーで引き摺って行き、やっと街の門前にたどり着いた。既に太陽は真上に昇っていた。


門前には、野次馬の町民達がドラゴンの亡骸を一目見ようと大挙して押し寄せていた。

はっきり言って邪魔だ。


その野次馬達の最前列に、ヒルデガルドと少し小太りな中背の人物が並んで立っていた。

全車を停止させ、ハッチを開けて外に出た。

二人が、こちらに走り寄って来る。


「待たせた」

「本当に引っ張って来てしまうとは…感服いたしました。…それでですね、こちらがこの街の最高責任者です」


ヒルデガルドが一歩下がった。


「えぇ、私はこのハーベゲルンの執政官を務めております、レーベン・アウクトベルクと申します。ハイ」


頻りに額の汗を拭っている。

気温は暑く無いので、冷や汗だろう。

アウクトベルク執政官は、緊張しているのかカチカチになっていた。


「私の事は少佐と呼んで欲しい」

「は、はい。ショウサ殿…えぇ、つきましてはファイアドラゴンを討伐して頂き、誠にありがとうございます」

「やはり、かなり危険な生き物なのか?ドラゴンは」


ヒルデガルドとアウクトベルクは、両方揃って頷いた。


「えぇ、あのドラゴンに壊滅させられた街は数えきれません。ハイ」


そこまでか…余程血に飢えていたのだろうか。

この生き物を倒す為に、一体どれ程の戦士が死んで行ったのだろう。

まぁ、最後は六発の砲弾の前に敗れたのだかな。


「そうか。まぁ、前置きは置いておいて、本題に入ろう」

「この街と交易したいと言うお話ですね。もちろん喜んで交易させて頂きます。ハイ」


ふむ、話がポンポン進むな。

まぁ、この執政官や特務騎士に何か下心があるかも知れないとは言え、ここは一つ、好意にあやかろうではないか。


「ありがたい。これからよろしく頼む」

「えぇ、こちらこそよろしくお願い致します。ハイ」


アウクトベルク執政官が差し出した手を、しっかりと掴み、握手をした。

何故だか知らないが、野次馬達が歓声が上がった。

ふむ、我々が歓声を上げられたのは何時以来だろうか。

パレードの時は呼ばれて無いしな…あ、SS将校の時以来だった。


「久しぶりだな…」

「えぇ、何がでしょうか?」

「我々が民衆から歓声を受けるのがだ…」

「ドラゴンを討伐される程のお力をお持ちになっているのに、何故でしょうか?」


アウクトベルク執政官が、さも不思議そうに首を傾げた。


「フフッ、上官に嫌われているだけだ。表舞台から蹴落とされたのだよ」

「えぇ、たくさん事情がおありのようですね」

「まぁ、な。…その代わり、と言ってはなんだが、結構好きにさせて貰ってはいるがな」


アウクトベルク執政官に、ニヤリと笑って見せる。

アウクトベルク執政官は、一瞬唖然とした表情を浮かべたが、直ぐに人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。


「ショウサ殿も悪いお人ですね。ハイ」

「さて、何の事だろうな?」


アウクトベルク執政官が、噴き出したのを皮切れに、不覚にも二人して笑ってしまった。

この執政官とは仲良くしていけそうな予感がする。


「お話は纏まったようですね。それでは、私はこれで失礼します。ファイアドラゴンから、心臓を摘出する作業を指揮しなければなりませんので」


ヒルデガルドが一礼した。彼女と出会ったのは、ある意味幸運だったと言える。彼女がいなければ、ここまでスムーズに行かなかっただろう。


「あぁ、色々と助かった。騎士ヒルデガルド殿」

「はい。それでは失礼します」


ヒルデガルドは人混みに、小走りで消えて行った。

さて、折角交渉が成立したのだ。

早速、食糧を求めてもバチは当たるまい。


「早速でなんだが、ここに双眼鏡と言う物があってだな…―――――」


こうして、我々と彼らは出会いを果たした。

これも全て、あの甲冑女が仕組んだ事なのだとしたら、何だか腹立たしいが、今回は感謝でもしておこう。

そう、我々の遭難はこれから始まったばかりなのだから。




いかがでしたか?

自分なりには、上手く書けた方だと思います。


そんでもって、次回予告。

戦闘な章の次は、日常だよねっ!…編です。こうご期待!


『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ

このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!

正解しても何も無いけどね。

それでは行きます!


『時風』


これはなんと読むのでしょうか!

出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。

そして、前回の答えの発表です!


『馥郁』と書きまして、『ふくいく』と読みます。

意味は、良い香りが漂っている様子のことです』


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