ドラゴン退治
諸君、アハトゥンク!
この章は、次で終わりです!
第二章はどんなでしょうw
追記、2013/04/03 前方機銃の口径を修正
12.5mm→7.92mm×57
凹凸の激しい斜面を、順調に下って行く。
朝発生した霧のお陰か、地面が湿っているので土煙が立たない。
これなら発見される可能も低いはずだ。
やはり、皆緊張しているのか、表情が硬い。
仕方無いだろう。
これが普通だ。
「みんな大丈夫だ。敵だろうが味方だろうが、私は常にィッ!?」
し、舌を噛んだ…
かなり痛いぞ…
しかし、誰かが吹き出したのを切っ掛けに、車内が笑いに包まれる。
博士なんて、背中をプルプル震わせなが、必死に笑ってる。
もちろん、あの薄気味悪い笑い声でだが。
「も、もう知らん!」
「イヒヒヒヒッ、少佐が拗ねたねぇ」
「は、博士は早く街へ向かえっ!」
私がす、拗ねる筈が無い。
私はガキじゃ無いからな。
この山の斜面は、土と岩、それとぼちぼち木が生えているだけのハゲ山だ。
殺風景過ぎてつまらないが、運転士はそうもいかないだろう。
なんせ、大小様々な石や岩があり、霧の影響で地面が少しぬかるんでいる。
いくら履帯だと言っても、滑る時は滑るのだ。
少し危ないかと思ったが、一列縦隊で慎重に下山する事にした。
何故危ないかと言うと、前を走っている戦車が、下手にブレーキを掛けてしまうと、幾ら車間を空けて走行していても玉突き事故に発展する可能性があるからだ。
ましてや、山の斜面を下っているのだから、余計危険が大きい。
まぁ、追突された所で、壊れたりはしないとは思うがな。
「博士、この山の標高はどれ位だと思う?」
「イヒヒヒヒッ、器具が無いからねぇ…だいたい2500メートル程だと思うねぇ。我々のいた基地で1500メートル位かねぇ」
特筆する程高くは無いようだな。
戦車で乗り越えられなくは無い。
しかし、何故山の中腹なんて所に我々を送ったのだ?あの甲冑女は。
「そうか…ありがとう博士」
「イヒヒヒヒッ、礼には及ばないねぇ。そう言えば、少佐宛に国家元帥殿からプレゼントが届いていた見たいだねぇ」
プレゼントだと?
まあ、あの豚はちらほらと、メッサーシュミットやら陸軍でも無いのに、このⅣ号戦車やら贈ってくる。
何かと踏んだら喜ぶヤツだったからな。
だが、パイロットがいないのに、戦闘機贈ってもらった時は困った。
確かまだ倉庫で眠っているはずだ。
しかし、今度は何だ?
「初耳だぞ。中身は何だ?」
「出撃中に来たらしいからねぇ。確か中身は38(t)だったかねぇ?それと、Ⅲ号突撃砲だねぇ…目玉商品は別にあるけどねぇ」
「ほぅ」
今回は中々役に立ちそうな物を贈ってくれたみたいだな。
目玉商品と言うのは気になる。
戦闘車両が増えるのは有難いが、また博士が改造するに違いない…
今度はどんな言い訳が聞けるだろうか。
ふと、キューポラから外を見ると、どうやら山道らしき道に入ったらしく、真っ直ぐとなだらかな斜面を通って、鬱蒼と生い茂っている森へと道が続いていた。
これは有難い。
樹海のような森に突っ込むのは自殺行為でもあるし、貴重な戦車が壊れる危険性もある。
樹を薙ぎ倒しながら進むのは、実はかなり車体を痛めるのだ。
「イヒヒヒヒッ、贈られて来た車両は、私が弄っても良いかねぇ?」
「…任せる」
どうせ、私が許可しなくても勝手に改造するのは眼に見えている。
実際、そっちの方が普通より、断然強化されているのは確かなので、使えない限り文句は言うまい。
斜めになっていた車体が、平行になった。
ついに山を降りたようだ。キューポラの外はまさにジャングルだ。
密集して生えている樹に、絡まるツタ。
樹の幹に掴まっているカラフルなトカゲ。
あれは猫位の大きさがありそうだ。
樹海というよりも、密林と言った方がしっくりとくる。
足許を見ると、いつの間にかネルケがシューリーの膝の上に座って、照準器から外を見てはしゃいでいた。
シューリーは、そんなネルケの髪の毛を手櫛で鋤いている。
その横顔は、何時もの怯えている顔ではなく、とても穏やかで、歳の離れた妹を見守る姉のようだ。
可愛い部下の微笑ましい場面を壊す程、落ちぶれてはいないので、今はそのままにしておこう。
しかし、ここまでブッシュが濃いと伏兵が恐い。
連中は何をしてくるか分からないからな。
いや、待てよ?
見たところ、この樹海は熱帯雨林の様にも見えなくは無い。
ソ連の領内に、この様な気候の土地などあったか?
聞いた事もない。
まるでジャブローだな。
中南米なのか?
それなら友軍の可能性もある。
「まだ森は抜けなさそうだな…そうだ、森を抜けたら草原だったのを忘れていた。『一号車より各車へ、森が終わる少し手前で一時停車する。追突に注意せよ。以上』」
手元のスイッチで、全車両に対して警告を入れる。
あんなただっ広い草原にノコノコ出たらバレてしまう。
そんなのは御免だ。
味方にしろ敵にしろ、余り無用心に姿を現すのはバカがやる事だ。
「イヒヒヒヒッ、仕事するねぇ」
「当たり前だ。可愛い部下をみすみす殺してなるものか」
「キャー!あの隊長が私の事可愛いって!!ねぇ聞いたネルケ!」
コイツ(ナハト)は戦車から放り出すか?
通信士一人居ないところで、私が兼任すれば大丈夫だしな。
「ナハトー、隊長のコメカミがピクピクしてるけどさぁ。大丈夫?」
ネルケが、口に手を当ててプププと笑う。
ナハトはと言うと、素早く顔を赤くして青くして常色に戻す技を披露し、嘘臭く咳払いして無線機にかじり付いた。
コイツらは…
「た、隊長……森が開け、ます…」
シューリーが、照準器を覗き込んで言った。
言われてキューポラから外を覗くと、確かに道の先が草原になっていた。
それに、草原に近付くに連れて樹の生えている間隔がだんだん開いてきていた。
博士に指示して、後一歩で森が終わる地点で直角に左折して、木々の隙間に押し入る形で戦車を前進させ、少し邪魔な樹を薙ぎ倒して、砲を草原の方に向けて停車する。
僚機も、お互いに車間を空けて同じ様に停車した。
さて、これから一仕事だ。
戦車を降りて、薙ぎ倒した樹の枝や適当な草を引き千切って来ては、砲身や車体に乗っけて擬装する。
実は以外に一苦労だったりする。
これは博士を除く全員で迅速に行う。
灰色は森の中では以外に目立つからだ。
さっさと擬装するに越した事は無い。
「よし、この位で良いか。全員乗車!と、シューリーは残れ。ネルケは博士に言って測儀鏡を取って来てくれ」
「…ふえぇぇ…りょ、了解」
「了解ー!」
シューリーはオロオロキョロキョロとしながら近付いて来て、ネルケは飛ぶように戦車の中に戻って行き、直ぐに細長い筒と肩当てを持って出てきた。
それを受け取って、最前列の樹の後ろまで走る。
木陰になっていて、明るい外からは多分見えないはずなのだが、念には念を入れる。
「ベテラン砲手のシューリーに任務を与えよう」
「…了解!」
びくびくしていたシューリーの顔が、引き締まる。
いい顔だ、これでこそ熟練の戦士だ。
性格と意識を切り離す事が出来ないヤツは、この部隊にはいらないからな。
ナハトは良い例だ。
早速、肩当てと合体させた測儀鏡をシューリーに装着する。
「ここから街が見えるな?私の肉眼で見えているのだから見えない筈は無いが」
「…大丈夫です。見えます」
腰のポーチから双眼鏡を取り出して構える。
双眼鏡の向こう側に、白い石?か煉瓦で出来た城壁みたいなモノが見える。
「城壁、か…時代錯誤だな。シューリー、距離は?」
「…1740メートルです。端数は切り上げました」
そこから双眼鏡を右にゆっくりずらして行く。
大きめの門がある。
次に舗装されて無さそうな道。
農夫?に、なんだあれは…仮装行列か?
門から中世の騎士みたいな格好をした連中が、大勢で槍を持ったまま馬に乗って走って行った。
その後を、真っ黒なローブを羽織って杖を持った連中が、馬を急かして騎士達を追って行った。
「おい、シューリー…見たか今の」
「……は、はい。祖父の家に飾ってあった物と良く似てました」
「そうか…あぁ…一体何処なんだここは…?」
どうやら中南米の線でも無さそうだ。
まだ先程の連中の顔を見ていないから、白人なのか黒人なのか黄色人種なのか分からないが、いずれにせよ、言葉が通じるかが問題だ。
さて、これからどうする?計画通り強行偵察でもするか?
場合によっては威力偵察もありだな。
「…た、隊長!あれを見て下さい…」
シューリーが、測儀鏡を覗き込みながら、仮装行列が走り去った方向を指差している。
微かに指先が震えているように見えるのは気のせいか?
ともかく、言われた通りに双眼鏡を向ける。
馬に乗った騎士達が、一斉に持っていた槍を何処かに向かって投げた。
騎士達が槍を投擲した方向に、更に双眼鏡を移動させる。
スーっと、赤い何かが横切った。
行き過ぎたみたいだ。
ちょっと戻してっと………はぁ?
いやいや、何かの間違いだろ…そんな筈は無い!!
あんなモノは存在しない筈だ!!
赤く鞭の様にしなる強靭な長い尾、パッと見コウモリの様な形をした巨大な翼、真っ赤な鱗に覆われた象より太い胴体、そして長い首の先端には、トカゲを思わせる骨格の鱗に覆われた頭。
私の拳程もありそうな牙が、耳まで裂けた大きな口から覗いている。
そして、大きく開けた口から紅蓮の炎を吐き出して、騎士の一人を馬ごと丸焼きにしていた。
どう見てもお伽噺に登場するドラゴンにそっくりだ。ご丁寧に火まで噴いている。
そっくりどころかそのまんまではないか。
自分の眼で見ているのに、未だに信じられん…
本当に我々は何処に来てしまったのだ…?
真面目に騎士の格好をしている連中、火を吐く巨大トカゲもといドラゴン。
時代錯誤な城壁、そして攻撃手段は槍…
ん?ローブを着た連中の杖先から稲妻が走らなかったか、今。
今度は魔法使いか何かか?もう勘弁してくれ…
頭が追い付いて来ないぞ…
「…い、今ローブを着た人が頭から食べられました…」
「シューリー、実況しなくても良い…」
連中を助けてみるか?
余り意味ありそうに見えないし、弾の無駄にもなるしなぁ…
しかし、上手くすれば交易が可能になるかも知れないぞ?
どうする?
…………そうだ!
先ずはドラゴンの実力を測ろう。
「シューリー、山の中腹にある基地からあの巨大トカゲまで、直線でどのくらい距離が有るか測れるか?」
「……山さえ見えれば可能です」
「分かった、おい!三号車!さっきの道まで回してくれ」
一番端に停車している三号車の砲塔後部に乗っかり、戦車長に合図して移動する。
横を見ると、戦車跨乗は初めてなのか、シューリーが震えながら両目を閉じて必死にしがみ付いていた。
そこまで怯えるか?
いや、シューリーだから仕方無いか…
然り気無く片手で腰を抱き寄せてやると、一瞬ビクついたが、震えは止まったようだ。
なんだかアツっぽい吐息が聞こえて来るのは気のせいだろう。
木々を薙ぎ倒して作った道を逆走する。
倒れて無い樹に車体を擦って、上から葉っぱ等が落ちてきた。
変な虫が落ちてきた時は、シューリーが見ない内に蹴落とす。
戦車跨乗して直ぐに道に出た。
道の真ん中から、丁度良く山が見えた。
この辺りで良いだろう。
「三号車は周辺を警戒、間違ってもこちらに主砲を向けるなよ」
「了解!」
「シューリー、頼んだぞ」
「…りょ、了解!」
シューリーは再び測儀鏡を覗き込んで、山の中腹にある基地を見付けて、回れ右でドラゴンまでの距離を測り、頭の中で計算を始めた。
下を向きながら何やらブツブツ小声で言っている。
直ぐに視線を元に戻した。どうやら計算が終わったようだ。
さすがベテラン砲手だ。
「…約6700です」
「分かった。上出来だ。さすがシューリーだな」
「…そ、そんな…ことあり、ません……」
「いや、同じ事を私は出来ないからな。誇って良いぞ。…三号車!無線を基地に繋げろ!」
シューリーの肩を叩いて励まし、三号車からインカムとヘッドフォンを借りる。もちろん繋ぐ先は基地だ。
「『私だ、基地の方で拾えているか?』」
『はい、感度良好。少佐殿、どうしましたか?』
「『アハトアハトで砲撃して貰いたいものがあるのだが』」
『は、はい。多分大丈夫です。霧も晴れた様なので』
「『よろしい。外に出て双眼鏡で草原を見てもらえば分かるのだが、街から少し離れた所に火を吐く翼を持った巨大トカゲがいる』」
『は、はぁ』
「『そいつの翼を砲撃して欲しい』」
『りょ、了解しました…ただいま砲兵に伝えます』
「『頼んだ』」
さて、あそこから狙えるかな?
アハトアハトの有効射程は約15キロメートル、基地には射程ギリギリで戦車を撃破出来る優秀な砲手がいるから大丈夫だとは思うが…
『少佐、聞こえてますかい?』
無線から、低い女性の声が聞こえて来た。
先程の通信兵とは違うみたいだ。
「『その声は…イェーガーだな?』」
『ご名答!…さてと、少佐の言っていたドラゴンだが、こちらでも確認した』
イェーガーは、最高の砲兵だ。
彼女だけは、私が直々にスカウトした隊員だ。
砂漠の狐殿からは凄く文句を言われたが、こちらは本当にお願いしたら許して貰えた。
彼は珍しく、話せば分かる御仁だった。
彼女とセットでアハトアハトを四門もくれた。
「『どうだ、狙撃出来そうか?』」
『出来る。翼を狙えば良いのかい?』
「『頼む』」
『了解』
さすがだな、やはりこの部隊は最高だ。
出来ない事は無い。
さて、残る問題は騎士達が砲撃の巻き添えにならなければ良いが。
まぁ、特殊徹甲弾だろうから大丈夫だと思うがな。
やっぱり、あのアハトアハトも博士の手が入っている。
ただし、砲自体の性能は変わらず、俯角が15度まで取れるようになっているだけだが。
これには訳があって、四門のアハトアハトは、朝登った倉庫の屋根の四隅に配置されているせいだ。
その為、敵に近付かれた時に俯角が取れないと、困るのだ。
双眼鏡で、一度ドラゴンの方を見るとたくさんいた筈の騎士達が、もう三人まで姿が減っていた。
まずドラゴンに剣で挑んで倒せるのか?
よく見たら鱗に弾き返されてないか?
ドラゴンが、残りの三人を平らげようと長い首を振り回しているところに、高速で飛来したアハトアハトの砲弾と思われる物が翼を直撃した。
翼は根元からもぎ取られ、血飛沫をあげた。
突き抜けた徹甲弾が、そのまま地面に直撃して土を巻き上げた。
遅れて、山の方角から砲撃音が聞こえて来た。
素晴らしい腕だ。
実に満足する結果と言えよう。
ドラゴンと言えどアハトアハトには勝てないようだな。
設計士に乾杯!
三人の騎士達はこれを好機と見たか、頭に気を付けながら斬りかかって行った。
「『小隊全車に通達、狩りの時間だ。あの騎士達を助けるぞ。博士、迎えに来てくれ。以上』シューリー、また頼むぞ」
「…りょ、了解です!」
「良い返事だ。諸君!パンツァー、フォー!!」
博士エンジンが高い唸りを上げて草原を疾駆する。
幾らサスペンションが強化されているとは言え、草原には凸凹があるので結構揺れる。
だが、あの山肌よりは雲泥の差だ。
僅か三両のⅣ号戦車で一列横隊を組み、ドラゴンに向けて突撃する。
後方に履帯で草土を巻き上げ、土煙を立たせながら、エンジン音を轟かせる。
騎士達は、我々の轟かせるエンジン音に気付いた様で、こちらに振り向いた。
我々に翼をもがれたドラゴンも、こちらに気付いたご様子。
「貴様らそこを退けぇー!!」
キューポラの上から叫び、右手を横に振る。
ちゃんと意志が伝わったのか、残りの三人が直ぐ様ドラゴンから離れた。
それを確認した後、ハッチをしっかりと閉じる。
無線を使って、部下達に同じ様にするよう命令した。これは、ドラゴンが火を噴いた時に対策だ。
「『全車、的の50メートル手前で一時停車、弾種徹甲で一撃を加えた後、私は中央で踏ん張るので、お前らは左右に展開して的の脇腹をつついてやれ。以上』博士、頼んだぞ」
「イヒヒヒヒッ、仕方無いねぇ。任せたまえ」
「シューリー、お前は何時も通りに頑張れ。ネルケもな」
「…「了解!」しました!」
「ナハトは…あぁ、特にする事無いよな」
こういった時に、通信士って仕事あったか?
対戦車戦でもあるまいしなぁ。
「ひ、ひどーい!オーボーです!私だって、副操縦士や機銃手兼任してますもん!博士が怪我したら代わりに私が運転するんですからね!」
「え?博士って怪我するのか?初耳だぞ。きっと、博士は戦車で踏んでも死なないと思うが」
彼女ならあり得る話だ。
肉体を丸っきり改造してそうだしな。
博士が機械だと言っても私は信じるぞ。
「イヒヒヒ…ヒッ、少佐は私を超人か何かと勘違いしているねぇ…」
「いや、超人だろ」
「イヒヒヒヒ…」
「分かったか、ナハト。博士は怪我などしないのだ。だがら、頑張って機銃でドラゴンの眼球でもねらってろ」
「りょ、りょーかい?…とてつもないゴリ押しを見た気がするぅ……」
「……何か、言ったか?」
「何でもないでーすっ!!」
ナハトを無理矢理黙らせた時には、ドラゴンまで既に残り100メートルを切っていた。
もし徹甲弾が貫通しなかったら?と言う不安が過るが、我々の戦車には奥の手がある。
本来は、伍長殿が厳しく使用を規制しているが、では最初から戦車に積むななんて言いたくなるのと、ここは何処だか分からないから、使っても大丈夫だろうなんて思ってたりする。
「少佐、50メートルまであと3秒…2、1、停車だねぇ」
一斉に、急停止する。
体に凄い慣性の力がかかった。
足を踏ん張り、両手でキューポラの突起に掴まって、慣性に堪える。
手から、履帯が地面を滑っている振動が伝わって来た。
前のめりになっていた車体が、履帯の大きい摩擦力で止まった事によって、通常に戻った。
今だ!
「主砲発射用意!!徹甲弾!」
「距離50だねぇ」
「装填完了!」
「照準良し!」
「準備完了!全車何時でも撃てます!」
「フォイエル!!」
バズンッ
三つの音が重なった。
砲口の重厚なマズルブレーキが発砲炎を十字に拡散し、衝撃と輻射熱が車体の表面を舐める。
48口径7.5cmの徹甲弾を放った心地よい衝撃が、ほぼ同時に車体を襲い、車体の前部を跳ね上げた。
ガコンと、反動で下がった薬莢がバスケットの中に排出される音が響き、装填手が次弾を速やかに装填する。
砲口から高速で放たれた、硬い金属塊である徹甲弾は、爆炎を背に、空気を切り裂いてドラゴンに飛翔する。
私にはその姿がしっかりとと見えた。
これだ、これこそが殺し合いだ!
砲口が吐き出す悲鳴、そこから造り出す悲劇、そして砲弾は非情にも犠牲者を求む。
素晴らしい!私はこれが好きだ!いや、大好きと言っても良い!
これだけで飯が食える!
飛翔した砲弾は、ライフリングによって与えられた回転に従って、速度を上げながら50メートルを突き進む。
これを食らえば、例え鱗が予想外の硬さで弾き返されても、強い衝撃を与えるだろう。
何度も殴り付けてやっても面白そうだ。
どうせヤツは逃げれないだろうからな。
遂に三つの砲弾が、ドラゴンの命を刈り飛ばす為に、その鱗を弾き飛ばし、肉を抉り、骨を砕いた。
血飛沫が舞い、ドラゴンの絶叫が空気を更に振動させる。
だが倒れない。
とんでもなく凄まじい生命力だ!
ならば、倒れるまで何度でも殴り付けてやるまでだ。
僚機は既に命令通りに、左右に展開し始めた。
私は、正面で踏み留まる。
ここで、直ぐ次弾を放ってはつまらない。
シャラララララランッ
ナハトが、前方機銃を使ってドラゴンの顔面を狙い掃射を始めた。
さすがに、7.92mm×57弾は弾き返されているが、かなり嫌そうに頭を振って避けようとし始めた。
「良いぞナハト。もっとやれ!」
「りょーかいです!」
ドラゴンが遂に怒りの咆哮を上げ、口から炎を噴き出した。
地味に高温と思われる炎が、砲塔上部を舐める。
キューポラのハッチを閉めてはいるが、ちょっと不味く無いか?
「ネルケ!急いで弾を抜け!誘爆するぞ!」
真っ青になったネルケが弾を排出し、博士が急速に後退する。
熱で砲身が変形していなければ良いが…
未だにドラゴンが火を吐いているが、既に圏外に逃げ出しているので大丈夫だが、とんだ飛び道具だ。
まさか50メートルも届くとは…
外から砲撃音が二つ。
どうやら僚機が横腹にブローをお見舞いした様だ。
ドラゴンの火炎放射が止み、苦悶の叫びを上げて苦しみ出した。
キューポラから双眼鏡でドラゴンを見ると、両方の脇腹から盛大に出血していた。
どれ程の損傷をさせたのかは不明だが、かなりのダメージを与えたのは確かだろう。
「シューリー、一撃で仕留めろ」
「…了解!」
「弾種徹甲弾」
「装填、完了ー!」
「照準良し!」
「フォイア!」
バズンッ
車体の後部がズンッと沈み、直ぐに戻る。
第二射である必殺の一撃は、死を孕みながら一直線にドラゴンに向けて疾駆する。
パッと鮮血が迸り、パタリと咆哮が止む。
ドラゴンの長い首の真ん中を貫いた砲弾は、周辺の組織や骨を引き千切り、胴体と頭を寸断した。
もう余り血液も残っていなかったのか、思った程出血はしなかった。
「お見事!」
神々も称賛あれ!やはり良い腕をしている。
シューリーにキスでもしてやろうか?
さてと、その前に倒したドラゴンの面でも拝むとしようか。
「博士、亡骸まで進めてくれ」
「イヒヒヒヒッ、顔を拝むのかねぇ。了解」
しょーさ殿『アハトアハト!そいつは良い!大好きだ!!』
少佐『素晴らしい!私はこれが好きだ!いや、大好きと言っても良い!これだけで飯が食える!』
しょーさ殿『君とは気が合いそうだぁ。私と共に地獄を創らんかね?』
少佐『生憎、私はデブはお断りなんでな』
しょーさ殿『・・・・・・ドークッ!ドクーッ!!』
『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『馥郁』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。
そして、前回の答えの発表です!
『急瀬』と書いて、『きゅうらい』と読みます。
意味は、川の急流における浅瀬のことです』