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鋼鉄のフロイライン  作者: 九十九 大和
第五章 迷宮の影
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迷宮探索(2)

お待たせしました。

「…とんでもない場所だな。一体全体どうなっているんだ?」


Ⅳ号戦車毎パルテノン神殿擬きに突入すると、中は地下要塞の様になっており入り口よりも広い通路が真っ直ぐと続いていた。

仮にそれが大通りとして、格子状に横通路が出来ている。横通路は大通りよりは少し狭く、この戦車がギリギリすれ違える程しかない。

壁は凹凸の無いつるりとした素材で出来ていて、コンクリートに光沢を出した様な感じである。

天井は高く十メートル程あり、活動する分にはなんら問題はなく、室内でしかも光源も無い筈なのに昼間のように明るく拍子抜けであった。


「ショウサ殿は迷宮は初めてですかな?」

「あ、あぁ…そうだな。とても不思議な気分だ…ツッコミ要素が多くて悩ましいな」

「は、はぁ。そうですか」


下の方から博士の興奮するような不気味な笑い声が漏れて聞こえて来る。勘弁して欲しい…

シスターのベールを被ったジャンヌが、ただでさえ狭いコマンダーキューポラに身体を捻じ込んで顔を出した。

その際に謎の剛力で無理矢理出て来たので、内側の突起物に背中を抉られて悶絶しそうになった。


「ぐぉ……ッ!?な、何をする!隣のキューポラから身体を出せジャンヌ!!」

「あら、いいではありませんか。昔は良く馬の上でやったではないですか。それにちょっとくらい背中が抉られても死にはしないでしょう?」

「全然良くないぞ…ええい暑苦しい!」


叫んでもロバに説法状態で聞く耳を持たず、辺りをキョロキョロを見渡している。

辺りにはこちらを物珍しそうにみている兵隊達がいた。どうやらこの迷宮の調査に来た連中らしい。

まぁ、我々が後から来ているので成るべく邪魔にならない様にしなくてはならないな。


「博士、兵士を踏まないように気を配れ『こちら一号車、くれぐれも兵士には気を配れ。それと指示の無い攻撃は厳重に控える事…余程不味いと思えば各車長に任せる。以上終わり』」

『了解』


一列縦隊に陣形をとり、大通り(仮)を時速二十キロで進んでいく。横穴からはちらほらと兵士が飛び出して来て、度々轢きそうになって減速とブレーキを繰り返す。

危なっかしくて仕方が無い。


そのまま真っ直ぐと突き進むと、大体入り口から三キロ程進んだ所で突き当たりになり、その壁には入り口の様なポッカリと空いた黒い空間が姿を現した。

ただ、形はなんの縁取りもされてはおらず、手掘りのトンネルの様な感じでゴツゴツとしており壁とはまるで別の素材のように見える。


「これは二階層への入り口です。既に我々が入って次の入り口を発見しておりますが、入っている兵士の数は少ないので魔物と遭遇する確率はかなり高いでしょう」


アルミンがそう言って真っ黒な入り口を指差した。


「とは言ったものの、出てくるのは普通のゴブリンとコボルド、それとスライムくらいですが…」


イメージとしては緑色の小人と犬頭の妖精、それとドロっとした粘菌のデカイ奴だな…

まぁ、本当にそうかは分からんが、面白そうだ。

博士の新兵器を試すには人型の敵の方が都合がいい。


砲塔の後部にあるバスケットに件の『ミョムニル』が入っている。

聞いたところによると、どうやらゴブリンは身長こそ子供並みだが、人間の大人と同じくらいの耐久力だそうで、性能実験には持ってこいの相手の様だ。


まぁ、罠も二階層程度ならない様なので即決で前進するように全車通達する。



二階層は入ってびっくり、なんとそこには曇天が広がっており地面は黒土にスネ程の草原が随分と向こうまで続いていた。しかし、空はあるのに突き当たりの壁がずっと向こうの空の果てまで伸びているのはなんとも形容し難い。

どうやら天井の果てはなさそうだ。


「…一体どうなっているんだ?ドラゴンと魔法を見てからもう驚くまいとおもっていたが、まさかここに来てこれか」


ここに来て?と呟きが聴こえていたのかアルミンが首を傾げるのを目の端に捉えつつ、ぐるりと草原を見渡す。

戦車から降りて地に足着けると柔らかな土がブーツの底に当たる感覚が分かった。

屈んで細長い葉が根元から何本も出ている雑草を引き抜く。根っ子にはやはりしっかりと土が付着しており、土の栄養価も高そうにみえた。


「…っ」


葉っぱを触った時に、手袋が汚れるのを嫌って素手で触った所為で、人差し指の腹を切ってしまった。

紅い雫が滲み湧き、指を伝って地に落ちる。

じっとその様子を見ていたら、何時の間にか人差し指が咥えられていた。


「………で、貴様は一体なにがしたいんだ?」

「…ほへはわふぁふし「えぇい、私の指を口に入れたまま喋るで無いわ!!」ぶべらっ?!」


何時の間にか私の方に旋回していた砲塔の照準器を通して、私が怪我をしたのを知ったミヤビが戦車を飛び出して咥えに来たそうだ。


アホだ。


元々救いようが無いのは知っていたが、それは過小評価だったと思い知らされる。

まぁ、別に私の血を舐めた程度では何の害も無いので、腰に提げたM24型柄付き手榴弾ポテトマッシャーで頭を一撃するに留めた。

それで頭がカチ割れないミヤビもミヤビだが、普通致命傷になる事を平然と部下にやる私もだいぶコイツらに毒されて来ているのかも知れない。


「馬鹿者が…雑菌で腹を下すぞ」

「大変美味でした」

「あのなぁ」


朱の差した頬を押さえながら、ぬらぬらと妖艶に濡れる舌をチラリと見せるのはおかしいと思う。

早速、その仕草に当てられたアルミンが赤い顔をして兜の面頬を降ろした。だが、しっかりとこちらは見ているようである。


「……はぁ、さっさと乗れ」

Jaヤー!」


そさくさと隊では小柄な彼女がキューポラに足を掛けて潜って行く仕草にも、我々ゲルマン人には無いヤマトナデシコの流麗さが表れるが、実態は変態と抜刀隊とハラキリの死にたがりの集大成である。

アレを娶る男はさぞ大変であろうと簡単に予想がつくが、寧ろあのじゃじゃ馬が好きになる様では大概そいつも相当の変態に違い無い。

我等が親愛なるちょび髭の伍長殿も相当のド変態だが、アレはまた別の変態度合いである。まぁ、愛人が自殺したくなるのもよくわからないでも無いが…


「よし、この地質なら履帯が潜る事も無いだろう」


履帯が潜るとは、泥濘地や緩い軟地盤で履帯が摩擦係数の関係で地面に噛み合わず、そのまま地面を掻いてしまう事だ。

履帯の半分まで潜ると救い出すのは至難の技で、戦車牽引車などで引っ張り上げる他難しい。人力でも出来ないことは無いが、周りに木材や鉄板が無ければまず不可能だろう。


こちらもさっさと戦車に戻って前進を始める。


「『各車楔形陣形を取れ、ここにも王国兵士が居るかも知れないから、一号車以上の速度は出さない様に。ただし、敵意ある行動を取った場合は轢走して構わん』」

『了解』


周囲を警戒しながら戦車がゆっくりと前進を始める。

最初危惧したような履帯が地面に潜る事もなく、しっかりと地面を噛んで直進した。

望遠鏡を覗いて索敵をするが一面緑色で見え辛く、ゴブリンも緑色らしいので保護色になっているのか、姿すら見えない。

それでも執拗にグルリと見回すと、一瞬緑一色の中に白っぽい何かが映り込んだ。

慌てて戻すと人間の三分のニ程の身長の二足歩行をした犬が居た。

手には1.5m程の木製の槍を持って居て、まるで狂犬病に掛かった白いダックスフンドみたいな顔をしていてる。半開きの口からダラリと垂れ下がった舌にダラダラと涎が零れているのを見たら、ダックスフンドなんて生易しいものではない。


更にしゃがんで居たのか、そのコボルドの隣から三体のコボルドが姿を現した。

向こうはまだこちらに気付いては無いらしい。確か、犬の視力は弱い筈だから、その影響もあるのかもしれない。


車内無線を使って博士に指示を出した。


「十時の方向に標的を確認した。数は四、向かってくれ。『各車、十時方向に回頭せよ。我に続け』」

『了解』


勢いを殺さずにキリキリと履帯を軋ませながら回頭する。

操縦席の博士からもコボルドの姿を確認出来たのか、少し増速した。


「博士、撥ね飛ばすなよ」

「イヒヒヒ、任せると良いねぇ」


本当に大丈夫か心配になりつつも取り付け型のMG34の遊底を引き、暴発防止の為に前進させてあるボルトを後退させて撃発可能にし、短く三回引き金をタップした。

シャン!シャン!シャン!と特有の発砲音がして、四匹居た内の二匹から鮮血が飛び散る。白い毛皮が無惨にも引き裂かれ内臓を撒き散らしながらきりきり舞いになって崩れ落ちる。

コボルドは認識外から攻撃されてパニックを起こしており、木の槍を振り回している。私の隣に居たアルミンも突然の事に驚いて耳を塞いでいた。

更に二連射を加えて完全に目標を沈黙させる。


「…完全に死んだか?」

「えぇ、多分ですが完全に死んだでしょう……ですが、ショウサ殿は凄い魔法をお使いになられるようですな…簡単にコボルトを屠るとは」

「なに、この程度は対したことはないが、連中を倒した事によって何か良いことは無いのか?」


そう、何か無くては意味がない。

弾だってタダでは無く無限に湧き出てくる訳でも無い。


「ええ、勿論あります。迷宮はキチンと魔物を間引いておかないと外に溢れ出して害悪を撒き散らす存在ですからな。コボルドの場合は牙を抜いて迷宮前の受付に持って行けば少ないですが金が出ます」

「成る程な…毛皮には使い道は無いのか?」

「ありますが、嵩張りますし剥ぐ手間を考えれば割りに合いません」

「そうなのか…いや、分かった。ありがとう」

「いえ」


これで迷宮の化け物を倒せば金になることは分かったが、一体幾らになるか分からない現状、無闇に発砲するのも憚られる。

かと言って下車して白兵戦と言うのも危ない。中世ならいざ知らず、例え木の槍だとしても今の戦闘服では貫通する可能性が高い。


「何にせよ、牙は貰っておこう」


犬のミンチから牙を抜く為に近づいた。

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