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鋼鉄のフロイライン  作者: 九十九 大和
第五章 迷宮の影
25/28

救命活動

諸君、アハトゥンク!

どうもあけましておめでとうございます。

遅くなってすみません。

ーーーーハーベゲルン 午後四時五分


「これは酷い……」


その光景を目の当たりして、ポロっと口から零れ出た言葉はこれだった。

街を取り囲む城壁はなんとか大丈夫そうだったが、城門から続く大通りは滅茶苦茶になっており、怪我人が地面に寝かされていて、家族だと思われる人物達が寄り添って涙している。

石造りの綺麗だった町並みは、地震によって破壊され石塊の山が量産されていた。

きっと、あの山の中にまだ人間が居るのだろう。

あまりの凄惨さに我々はある意味圧倒されたと言っても良いだろう。


戦車のエンジン音を聞いてやって来たのだろう、諜報要員としてハーベゲルンに残した部下が走って来た。

町娘が着る様な麻の服を着ている。


「敬礼はいい、現状を報告しろ」

「はっ!現在ハーベゲルンの家屋の内、三分の一が倒壊。幸いな事に石材が大半の構成物だった為、火災による二次被害は発生していない様です」

「だが、火災が起こるのも時間の問題かも知れない…だろう?」

「はい。倒壊した建物の大半が大きい通りに面していたので、下敷きにされた住民が多いです。幸いな事に、戦車で侵入出来ない所にある家屋は、お互いが支え合って倒壊した物はありません。しかし、家具の下敷きになった住民は多そうです」

「了解した。各隊は東西南北に別れ各々救助に当たれ。比較的大きな街だ、我々だけでは焼け石に水かも知れないが、近場にいる住民達を指導し迅速に救助しろ。ミヤビから聞いた話だが、地震の後には数回余震が有るらしいからな」


戦車の上から指示を送る。

コンテナから続々と飛び出す、スコップやツルハシを担いだ部下が分隊長に率いられてあっちこっちに駆け抜けて行く。

歩兵小隊は小隊長が指示を出して分隊に分け、護身用にライフルとスコップを持ち、工兵達を追い掛けて行った。


本来は戦車で街の反対側に工兵を運ぼうと思って居たのだが、道は人を下敷きにしている建物だらけだったので、門前から動けなくなってしまった。これは誤算だ。

四号車には障害物除去用にドーザーブレード(ブルドーザーの先端に着いているアレ)を装着して来たが、どうやら無駄になりそうだ。


街の中心にある領主の館までは徒歩行軍するしか無いので、歩哨に数人立たせてサッサと戦車から降りる。

遠目に見た領主の館の外見は平気そうだが、実際どうなって居るかわからないので、急ぐ必要がありそうだ。


戦車の側面に括り付けられているスコップを外し、肩に担いだ。

シューリーが代わろうとするが、手で制してツルハシを持つ様に指示する。

ネルケやナハト、博士も各々手に掘削器具を持ち、先生に至っては医療品が満載された大型の背嚢に雑納を縛着して、更に両手にも薬箱を持って完全武装だ。


きっと、領主の館の庭を野戦病院にするつもりなのだろう。

ここでは、確かに狭過ぎる。


「行くぞ」



ブーツのつま先で小さな破片を蹴飛ばし、大きな石材は跨いて進む。

苦痛からの呻き声や悲鳴、咽び泣く声が耳を叩くが今は何も出来ない。

部下の工兵や歩兵達が救助するのを待って貰うしか無いのだ。


もっと兵力が有れば…多少はマシな結果が待って居るだろうが、生憎と無い物ねだりと頭から一蹴する。

これが現実なのだ。

死ぬ奴は死ぬ。

もしあの時、もしその時、もしもしもし、あくまでもifである。

現実にもしもひったくれも無い。


だが、早く領主の館に辿り着けば、助かる命は有るかも知れない。

未来にifはあり得るのだから。…


「急げ!先生、博士に荷物を少し渡すんだ!」

「ダメよぉ少佐ちゃん!薬品の瓶はとても割れやすいんだからねぇ!」

「Na,toll‼︎Scheiße‼︎‼︎(ソイツは素晴らしい!!クソッタレが!!)」

「イヒッ、そうカッカするのは止め給え」

「私は冷静だ!」

「いや、そうは見えないねぇ。少佐の悪い癖だねぇ。この間も、ボリシェヴィキ共に友軍兵士が弄ばれて殺された時に同じ様子だったねぇ。ちっとも冷静ではないねぇ」

「ぐっ……ぬぬ…ええい喧しい!急ぐぞ!」




無事だと思っていた領主の館は後ろ半分が崩壊していた。

門前には既に大勢の住民が集まっており、長槍を持った衛兵が事態を収拾せんと大声を張り上げて帰るように言っていた。


「現在アウクトベルク執政官殿は被害状況を把握しておられる最中である!もう暫くしたら、きっと【広報玉】で住民に通達がされる筈だ!だからここに集まるのでは無く、埋まっている住民の救助に向かってくれ!」

「暫くって何時だよ!」

「そうよそうよ!!」

「なんとかしてよ!」


売り言葉に買い言葉では無いが、衛兵達の言葉を全く聞こうとしない住民との間に、不穏な空気が流れる。

見た感じであると、一触即発と言った所であろうか。少しの切っ掛けで詰め寄せている住民は暴徒に早変わりするであろう。


だが、今はそんな連中も邪魔である。

拳銃を引き抜き空に向けて発砲した。

パパン!


突然の発砲音に驚き、群衆がこちらに注目した。

近くで発砲音を聞いた連中の中では、腰を抜かして座り込んでいるものもいる。


「何をして居るか貴様ら!!大した用も無ければ、即刻怪我人をここに連れて来い!」


大声を張り上げて威嚇しながら前に前進を開始する。コンマ一秒も時間が惜しい。


まるでモーセが海を割るが如く、人の波が割れて正門まで一本の道が出来上がった。


「お勤めご苦労」

「えっ…は、はい!」


群衆の思考回路が復活する前にサッと通過し、群衆とやりあっていた衛兵に敬礼をして勝手に敷地内に侵入した。

中に入ってしまえばこっちのものだ。


「先生はここを野戦病院にしてくれ。ネルケとナハトは先生の護衛でここに残る事。シューリーと博士は私に着いて来い」

『了解!』


先生がいまだに呆然と我を失って静まり返って居る群衆の方へと向かって行き、反対に私は半壊した館へと走り出す。

硬く閉ざされた扉のノブを回すが、内側から鍵が掛かっている様で開く気配がしない。

思い切って重厚な木製の扉を叩く。


ドンドンドンドン


「開けてくれ!私だ、少佐だ!執政官殿に会いに来た!」


ドンドンドンドン


そろそろ拳が痛くなってきたぞ。


「おい!救援に来たんだ!開けてくれ!!」


もう一度叩こうと思って手を振り上げた時に、やっと鍵が開く音がして白髪の執事長が姿を現した。


「こ、これは失礼致しました。ショウサ様、こちらになります」


完全に扉が開いて、中に入れず様になった。

後ろを振り向いて博士と目が合うと、頷かれたので中に入る。

正面ホールは荒れ果てており、高そうな壺や絵画が地面に落ちていたり粉微塵になっていて、被害総額はとんでもなさそうだ。

廊下ではメイド達が右から左に走り回っており、中には帯剣して武装しているメイドまで居る始末である。

そして、何やら執事長の雰囲気がおかしい。


「どうした。……まさかとは思うが、執政官殿に何かあったのではあるまいな」

「そ、それが…」

「ハッキリしろ!それでも執事長か!!」

「…!失礼致しました。実は…先程大地が揺れた際に、御館さまの部屋が倒壊に巻き込まれまして…現在使用人一同で救助活動中なのです」

「なんだと!?何故それを早く言わない。我々も加わろう。それと、事後報告で申し訳ないが、庭を野戦病院に使わせて貰うがよろしいか?」

「はい、お願い致します」

「二人とも、こっちだ」


シューリーと博士を引き連れて荒れ散らかった廊下を走り、足元に転がった欠片を蹴飛ばしながら執務室の存在していた所に到達する。

途中、値段の張りそうな絵画や壷、細かく精緻な細工が為された儀礼剣などが床に落ちた衝撃で壊れて居たが、そこは流石に不味いと思ったので跨いで通った。


執務室前に到達した時は、壁が突き破られ部屋の入り口は瓦礫で埋まっており部屋の内部は完全に崩壊している状態で、メイドと使用人達が必死に救命活動をしている。


「これは…おい!執政官殿!意識はあるか!返事をしてくれ!?」


瓦礫に向かって大声を張り上げる。

窓枠に残った硝子がビリビリと震えた。

だが、微かに声らしいものが返って来た様な気がする。

それを確かなものにする為に、もう一度声を張り上げた。


「私だ!少佐だ!応援を連れて来た!!下手に動くと更に崩壊するかも知れん、ジッとして居て欲しい!!」


やはり、微かに瓦礫の隙間から声が聞こえた。他の使用人達は聞こえて居ない様だったが、博士とシューリーはきちんと聞こえて居た様で、お互いに顔を見合わせて頷いた。


「やるぞ」

「「了解!」」

「野戦仕込みの古参兵を舐めるな!」


ツルハシとスコップを瓦礫に突き刺し、次々に掻き出して行く。

私がツルハシを大き目の石材に叩きつけて粉砕しては、シューリーがスコップで小さくなった欠片や掻き出せる瓦礫を撤去して行く。

博士はその隣で崩壊しそうな所や掘削し切れていない所にスコップを突き刺してフォローしてくれて居た。

一時間掛けて、ようやく部屋の入り口から廊下に溢れ出ていた瓦礫を全て取り除く事が出来たが、まだ部屋の中に入れてすらいない。

天井に空いた穴から見ると、どうやら二階以上も完全に崩れており、その瓦礫が全部一階に積もっているらしかった。

だが、応援は呼べない。

現在割ける人員は全て一般市民に向いており、下手にこちらへ割くと後々貴族はどうとかと、執政官が要らぬとばっちりを受けてしまう可能性が出てくるのだ。

みな、表には出さないかも知れないが、裏や影、人々の心の中までは分かった物では無い。


「すまないが水を持って来ては貰えないだろうか?」

「は、はい。ただいまお持ちします!」


小姓のような少年に頼むと、顔を赤くしてすっ飛んで行った。

いやはや、使いやすいものだ。


「イヒヒッ、黒いねぇ。少年の純情を弄んでるねぇ」

「なんの話だかサッパリ分からんな」


あの気味の悪い笑い方で周囲を引かせている博士を一蹴して、額の汗を袖で拭いながら再びツルハシを振るった。

しばらくして少年が持って来た水を受け取り、三人で回し飲みする。

いい具合に冷えた水が身体中に染み渡るのが分かる。


改めて部屋の惨状を見ていて、まだまだ掘り出すのには時間がかかりそうだ。

まして、この部屋に積った瓦礫だけで何トン有るか分からないが、よくそんな瓦礫に飲まれてアウクトベルク執政官も生きていたものである。

だが、それも時間の問題のようだ。急がなければ…


再びツルハシを振るいスコップでひたすら掻き出す作業を続けた。


何時間瓦礫の撤去をしたのか分からないが、辺りが次第に暗くなり始める。

日没が始まったようだ。使用人達が蝋燭やランタンを持って来始め、挙句の果てには魔法だかなんだか分からないが、謎の発光体がふよふよと宙を漂っている始末。

既に理解を超えていた。


それでもまだ部屋の真ん中迄しか瓦礫を撤去出来ていない。

定期的にアウクトベルク執政官に呼び掛けて、まだ生きて居るかを確認しつつ救出を急いだ。


次第にシューリーと博士の疲労が溜まって来たようで、先程から動きが緩慢になってきた。

かく言う私も腕が棒になったように感じる。使用人達も掻き出した瓦礫をバケツリレーで運び出していたので、既に全員が限界だった。

そこに、少し前から姿が見えなかった執事長が飛び込んで来て、一人の女性を連れて来ては叫んだ。


「土属性魔法士を連れて来ました!」


おぉ!と使用人達が感嘆の声を上げ、顔を綻ばせる。しかし、こちらはなんの話だかさっぱりわからない。

魔法使いなのは分かるが、こちらはいまだにその原理すら解明していないので、喜んで良いのか分からないでいた。


「皆さん離れて下さぃ!」


言われた通りに場所を空け、後ろに下がって何をするのか見物する事にする。博士は何が始まるのか興味津々だが、対してシューリーは胡散臭いモノを見る様な眼をしていた。

確かに元の世界で魔法使いなんて言ったら胡散臭い事この上ないが、ここは異世界である。今迄の常識は当てはまらないだろう。もう諦めた。


『土地神に仕えし地の精霊よ、我が願いを聞き届け給え。瓦礫を退けよ!ロックムーブ!』


手にした杖の先端が茶色の光を放つと、大量の瓦礫が宙を舞い崩壊した天井から次々に飛び出し、館の庭にうず高く積った。

人力でやっていたこちらはポカーンである。唖然、その言葉しか当てはまらない。


「ふぅ。良い仕事しましたぁ」


額の汗を拭った茶髪の魔法使いは、良い汗かきましたぁ、と気の抜ける声を出して水筒から水を飲み始めた。


「アウクトベルク執政官殿!」


ハッとして声を出す。

瓦礫が無くなったところには居なかったのだ。


「こ、ここです…ハイ」


傷だらけだが、依然として形を保ったままであった、重厚なデスクの下からアウクトベルク執政官と娘のマリアシャルテが出てきた。

すこしやつれてはいるが、どうやら幸いな事に怪我はしていなかった様だ。


無事が確認出来たせいか、今になって疲労が押し寄せて来た。

あぁ、風呂に入りたいものだ…

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