緊急救援
諸君、アハトゥンク!
取り敢えず、次話は喪女を更新してからになりますので、また期間が空きますが、よろしくお願いします。
ーーーーハーベゲルン 午後二時四十分
「今日はニワトリが活きが良いよ!」
「見てくれ、この新鮮な野菜を!」
「魚~、魚は要らんかね~」
ハーベゲルンの中央市場、そこは周辺都市よりも活気に満ち溢れ、今日も客引きの喧騒が響く。
今日、ここハーベゲルン出身の冒険者の一人が、久々に帰って来ては懐かしいハーベゲルンの中央市場をニヤニヤしながら練り歩いていた。
男は、若草色のマントを羽織っており足取りはとても軽い。
そしてマントの襟後ろから、剣の柄だけが飛び出ている。
ふらふらと左右をにある店を眺めながら、何をするでもなく店を冷やかして行く。
はたと一つの露店の前で立ち止まり、店主のおばさんに声を掛けた。
「よぉおばちゃん!今日のオススメはなんだい?」
「はいいらっしゃい。今日はケリリムの実が美味しい……あんたラケムかい!?」
「よぉ、久しぶりだな!俺が出てってから、結構変わったなぁ。ここも」
「そりゃそうさ。大体あんた、今まで何処をほっつき歩いてたんだい」
お互いに苦笑いしながら再会を喜ぶ。
ラケムと呼ばれた冒険者は、ケリリムの実を手に取り匂いを嗅いだ。
甘酸っぱい良い匂いがした。
「こりゃ良い鮮度だなぁ。一つ幾らだ?」
「なに、一つくらい持って行きな。折角会ったんだ、バチ当たりゃしないよ」
「お、ありがてぇ。遠慮せずに貰ってくよ。………ところで、この間侵略されそうになったってギルドで聞いたんだが…どうなったんだ?」
ギルドで聞いた時は、あまりの衝撃に飛び出しそうになったが、上位の先輩方にぶん殴られて正気に戻された光景が脳裏に浮かんで、自然に苦い顔をしてしまう。
それを勘違いして取ったおばさんは、安心させるように笑いながらなにがあったかを説明し始めた。
「ああ、確かに攻撃はあったよ」
「そ、そしたらどうやって……」
「そりゃあんた、『鋼鉄の女騎士』様達が追い返してくれたんだよ」
「『鋼鉄の女騎士』だぁ?なんじゃそりゃ。馬まで鉄で出来てんのか?」
「馬、とは言えないけどね…なんだろうねぇ、あれの凄さは見て見ないと分からないさ。まぁ、最近は見ないけど、近い間に顔を出すんじゃ無いかね」
「はぁ~、なんだか良く分からねぇが、他所の軍隊を追い返せるくらいなんだから凄いんだろうよ。で、美人なのか?」
「あぁ、美人ばっかりだね。みんな若いし…大体平均して、19から22歳くらいじゃないかね。彼女達の団長は、度を越して美人だよ」
「おぉ!良いねぇ」
「変な気起こすのはやめときな!アレは皆影を抱えているよ。見た目じゃ分からないけどね、アタシには分かるよ」
「ふむ……そうかぁ、おばちゃんが言うなら本当だろうな」
「そうさ。しかし、あの団長様は別格だね…ありゃ死神だよ。いや、本物の死神って訳じゃ無くて、常に戦場に居ないと気が狂っちまう気狂いだね」
「そいつはすげぇな…すでに気が狂ってるのに、更に気が狂っちまうのか」
「そうさ、だからやめときな。あんたの手には負える娘はあの中には居ないよ」
「へいへい。ご忠告痛みいるよっと」
「本当に分かってるんだか分かってないんだか…まぁ、あんたの人生だから知らないけどね、アタシャ」
ハッハッハッと二人で悪い笑みを浮かべて見せた。
ラケムかシャリッとケリリムの実を齧り、果汁が滴る。甘い香りがふわりと漂って、周りを歩いている通行人の幾人かが生唾を飲み込んで、香りの発生源を探し始めた。
「ん、美味いな。…そんで、そのどうやって連中をおい……な、なんだ!?」
突如、動くはずが無い地面が激しく揺れ始め、あちらこちらで悲鳴が上がる。
脆そうな石造りの家や木造の家は音を立てて崩壊し、一部の地面は隆起した。
今まで、大地は動くことは無い、これが絶対の常識であったが、それが覆された今、すわっ世界の終わりかとラケムは思った。
「おばちゃん危ねぇ!!」
地面に四つん這いになって堪えているおばさんの上に、住宅の一部が崩れて落ちて来たのだ。
大地が揺れている中で、ラケムはマントを脱ぎ捨て神速の速さで背中に背負っていた大剣を振り抜いた。
一撃で石材を粉砕し、おばちゃんの上に落ちる筈だった建築材を破壊する。
このまま建物の近くにいると危険と判断したラケムは、腰を抜かしたおばさんを引っ張り上げ、道の中央へと移動して揺れが収まるのをジッと待った。
永遠にも感じた長い時間、それは一分だったかも知れないし三十秒だったかもしれない。しかし、その悪夢のような時間が終わり、あたりを見回した時はぞっとした。
倒壊した建物こそ少なかったが、露店はひっくり返り商品は撒き散らされ、倒壊した建物に押し潰された人や助けを乞う人々の呻きがとても恐ろしい。
「な、何が起こったんだ…」
この日、局地的な地震がハーベゲルンを襲い、少なくない死者を出した。
原因は、なんとハーベゲルン全周を囲んでいる城壁の隣に地下迷宮が現れた為であった。
この地震が発生した直後、ハーベゲルンに滞在していた少佐の部下数名は、即座に基地に連絡を入れ、後に必要であろう救援を要請していた。
ーーーー基地 午後二時二十分
「ねぇ、少佐ちゃん」
「なんだクロイツェル大尉。私は忙しい」
「連れないなぁ少佐ちゃんも!それに、ヴェロニカって呼んでよ~」
「用が無いなら私は行くぞ」
「ある!有ります少佐ちゃん!…なんかね、私の部下から博士の天幕で怪しい光と雷みたいな音が聞こえるって苦情が来てるんだよぉ。しかも夜中に…なんとか言ってもらえない~?」
一瞬その苦情に頭を抱えそうになる。ある意味、我々は慣れみたいなもので、またやっている程度で気にしなくなっているのだが、確かに新入りには不気味過ぎて不安だろう。
どうしたものか…
「分かった。私が言いに行く…お前も着いて来い」
「えぇ~!?やだよ!怖いじゃん!」
「ええい小賢しい!お前も当事者だろう!!」
「あっちょっ!?そこ引っ張っちゃダメだよ少佐ちゃん!あっ!んんっ?!」
へんな声を上げるクロイツェルを引き摺って、格納庫内の博士の天幕の前まで行く。
確かに、昼間の今になるまで謎の発光が見て取れる。
チカチカ光る度に強烈な音が出て、格納庫の扉を全て開けて居なかったら、反響して凄いことになって居ただろう。
「おい博士!今度は何をやって居るんだ!」
ばさっと天幕の入り口を開けると、火炎放射器のようなモノを背負った博士が鉄板に筒先を向けて、何かやって居た。
バツンッ!
落雷のような音と共に鉄板に走った電撃、そして私を襲った、車に撥ねられたような強烈な衝撃と痺れるような激痛。
「ぐわっ!?」
「少佐ちゃん?!」
吹っ飛んだ私は、整備中の戦車に衝突し止まる。
激痛に目の前がチカチカと点滅を繰り返す。
しかも、痺れたように身体が満足に言うことを聞かない。一体何が起きたのか…
クロイツェルが私に駆け寄って来て、私の身体を見回す。
「うわっ!短剣が溶けてるよ!?他に怪我は…少佐ちゃんの髪の毛が総立ちしてる以外は平気そうだね……立てる?」
「か、か…身体が…ひ、ひひひ…痺れて、ひう…言う事を聞かん」
「呂律までしっかりと回ってないよ?!頭を強く打たなかった!?」
「だ、大丈夫…だ」
両手をジタバタとさせるも、上手く立ち上がれない。
どうしたものか…
「イヒヒヒ…少佐、立ち入り禁止と書いてあったろうにねぇ。まぁ、怪我がそれだけで済んで良かったねぇ」
「おのれ博士…一体何を…」
「イヒヒヒッ、この間の龍を解体していたらだねぇ。拳程の宝玉が頭部から出て来たのだねぇ。私はそれが高エネルギー体の塊で有ることを突き止めて、何か少佐の武器になるかどうか実験をしていたんだねぇ」
「いたたた…そうか、で、私にここまでしたんだ。当然出来たんだろうなぁ?」
「イヒヒヒ…少佐の今の姿が成果じゃないかねぇ。しかし、短剣に雷撃が引き寄せられなかったら、少佐も今はあの世かもしれないねぇ。その悪運を分けてくれ給え」
そう言った博士に助け起こされる。
しかし、痺れが残り立ち上がるのに少し時間がかかった。
言われてみれば、私のところまで連鎖して電撃が飛んできたわけで、それで私が吹き飛ばされるのであったら、とんでもなく強力な兵器である。
しかも、私の身代わりとなった短剣が融解するとは、これは尋常ではない…
「そうか。弾はどれ程撃てるんだ?」
「今のところは不明だねぇ。あえて言うなら、この宝玉が消滅するまでだねぇ」
博士が背負っていた箱型のタンクを開けると、正八面体の紅く輝く宝玉が基盤にはめ込まれて居た。
怪しく輝く宝玉の光に、後ろに居たクロイツェルが生唾を飲み込んだ。
「随分と大きいな…私の拳よりも一回り大きいくらいか」
その宝玉は大体十五センチくらいだと思われる。
どんな材質で出来ているのか分からんが、きっと一財産築くぐらいならば十分なのではないだろうか。
「ううむ…まぁ短剣が溶けてしまったからな。有難く使わして貰おう」
「イヒヒヒッ、賢明な判断だねぇ」
「うわぁ、また少佐ちゃんの攻撃力が上がったよぅ。ちょっかい出せないじゃない!!」
「……どうやらこいつの犠牲者第一号を貴様のようだな。クロイツェル大尉」
「ま、まぁまぁ…い、一体何の話か私分からないな!?じゃ、じゃあねー!!」
どこにそんな力を蓄えているのか、呆れる逃げ足で天幕から飛び出して行った。
あまりの逃げ足に、あの博士でさえ頬を引き攣らせて『イヒッ…』としか言わなかったくらいである。
「あの逃げ足を再現する兵器は作れないか?」
「流石に無理じゃ無いかねぇ…」
ピュゥーッと風が天幕の中に入り込んでは明後日に抜けて行った。
「少佐殿!ハーベゲルンの諜報班より緊急入電です!」
格納庫の屋上で博士と最新兵器の名前を決める為に議論していたら、通信兵の曹長が駆け上がって来た。
「敬礼は要らん!さっさと読んでくれ」
「はっ!ハーベゲルンにて地震が発生、原因は不明。被害甚大の為、大至急応援を送られたし。以上です!」
「そうか、ハーベゲルンがこのままでは不味いな……博士、車両は幾つ出せる?」
「イヒヒヒ…現在、四号戦車二両はオーバーホール中でねぇ。その代わり三号突撃砲は出せるねぇ」
「無限軌道は六両か…守備隊以外の連中を分乗させたとして、だいぶギリギリだな。山岳地帯でタンクデサントはさせたく無い」
「居心地は保証出来ないけれども、コンテナを接続すれば多少は増やせるねぇ」
「それでも何人乗れるだろうか」
「イヒヒヒ、緩衝材を乗せて、精々十人が限界だろうねぇ。それ以上はミンチになりかねんよ」
くいっと瓶底メガネの鼻当てを持ち上げる。
助けに行った側がやられてしまっては本末転倒になってしまう。
かと言って、ハーベゲルンまで歩兵を走らせる訳にはいかないし、あの謎生物が居る森を歩かせたく無い。
それでも六十人の工兵と歩兵を一度に輸送出来るならやるしか無いだろう。
コンテナを引く戦車の燃料だって無尽蔵では無いのだから。
「よし、博士急いでコンテナを戦車に接続してくれ。私は部下を選別する」
「イヒヒヒッ、分かったねぇ」
博士と別れ、短く警笛を鳴らして部下を格納庫に集合させる。
ただ事では無い雰囲気にエリナとユリシア、日本人大尉の天城晴明、そして現在療養中で先生の天幕に居るはずのシャルロッテも集まって居た。
集まれる人間が集まった事で、点呼係りの大尉が号令をかける。
「アハトゥンク!」
軍人は皆背筋を伸ばして私に注目した。
「ご苦労。さて、どうせ通信兵から各々聞いてしまっているとは思うが、我等の補給限ともなっていたハーベゲルンで地震が発生したようだ。かなりの被害が出ていると予測されるので、工兵と一部の歩兵を戦車とコンテナに分乗させ、支援に行く。歩兵はよく建設作業を手伝わせている第五小隊と第六小隊を出す。今回は、客分はハルアキだけを連れて行く、各員急げよ」
『ヤヴォール』
急げ急げ!
各部隊の指揮官が檄を飛ばし、準備を急がせ、次々とコンテナに兵隊を押し込んで行った。
乗り込み終わった所から点呼が開始され、その点呼が終わる頃には次のコンテナへの乗り込みが完了している。
結果、三分程で全車両出撃可能となった。
「よし、準備は良いな。パンツァーフォー」
重厚なエンジン音が格納庫を揺さぶった。
『しかし少佐殿。何故私を連れて行こうと?』
「何故とは面白いこと聞くなハルアキ。何故か分からんか?」
『…分かりません』
「それはな、お前は我が基地唯一の使える男だからだ。良いか?クロイツェルの部隊に居た第833重砲兵大隊の生き残りの少年兵は、まだ入隊したばっかりの新兵でヒョロヒョロで、全治二ヶ月の怪我まで負っている訳だ。こう考えたら、力仕事で使えそうなのはお前しかいまい」
『成る程…ありがとうございました』
「まぁ、それだけ期待しているのさ。博士、増速してくれ」




