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鋼鉄のフロイライン  作者: 九十九 大和
第四章 新たなる戦場の香り
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戦の終わり

諸君、アハトゥンク!

さて、今回でこの章は終わりとなります。

と言いますか、遅くなってすいません。

『Hello、少佐ちゃん!生きてる~?』


シューリーに抱えられて戦車に戻った時、見計らったかのようにヘッドフォンから聞こえて来たのはなんとも気の抜けた声だった。

しかも、それは一番手間のかかる一番面倒臭い奴の声だ。

なる程、これで全て解決したぞ。


「『お陰様で良く聞こえるぞクソッタレが。よくも私を爆殺しようとしてくれたな、死神クロイツェル大尉』」


本名、ヴェロニカ=アンタニナ=エリザベータ=クロイツェル

階級は大尉。

捕虜は獲らず、その場に居る味方以外の生命体を残らず駆逐し、民間人だろうと構わず射殺して火炎放射器で証拠を隠滅する殺人狂。

殺人に対して正気を疑う執拗さと執念を持ち合わせており、ソ連戦車に単身で肉薄して、砲身に火炎放射器を突っ込んで車長と装填士を焼き殺し、砲弾を誘爆させて通信士と操縦士を纏めて爆殺したと言う所業をした伝説を持つ。

あまりの冷酷さにヒトラーも沈黙して見て見ぬ振りをする程である。

そのキチガイ地味た言動などから、敵味方共に付けられた称号は【死神】。これ程彼女にうってつけの二つ名は無いだろう。まさにヴェロニカ=アンタニナ=エリザベータ=クロイツェルと言う人間を体現している。


『ち、違うよぅ!撃った先に少佐ちゃんが居たんだよぅっ!私の所為じゃ無いからっ!!』

「『いや、その理屈はおかしい…。結果的に助かったのかもしれんが、酷い土煙りの所為でどうなったのか分からんし、後方の味方が大混乱になっているのだが』」


後ろを振り向くと、完全に隊列を崩して今にも潰走しそうなハーベゲルン守備隊の姿が見える。

各小隊の隊長と古参の下士官達が必死に大声を張り上げて秩序を取り戻さんと躍起になっていた。

私の所為じゃ無いが、なんだか申し訳ない気持ちになって来たのは確かだ。


「『まったく……で?どうやってここへ?』」

『………さぁ?気付いたらここに居た感じだよ。最後の記憶は、近くで爆発物が炸裂した事だけ』


「『………そうか。怪我人は居るのか?』」

『結構居るかな。さっきヴァルハラに迎えられたのが三人で、今にも逝きそうなのが二人?あとはみんな軽傷かなぁ……あー、今もう一人ヴァルハラに逝った~。ちなみに男だから、第833重砲兵大隊の砲兵かな?これで、今にも逝きそうな少年兵一人残して男は全滅かなぁ』


「『分かった。こちらには先生が居る。そちらで我々の位置を把握して居るなら、重傷患者と亡骸を乗せて連れて来い』」

『ほいな分かった』


ブツリと一方的に通信が切れた。

妙に高い声が聴こえなくなった事で、周囲の音が遅れて帰って来る。


口の中がジャリジャリするのが不快で、唾を吐いて砂利を吐き出した。

そのまま身を乗り出して守備隊の隊長の所に駆け寄って、先の爆発は味方による支援攻撃によるものだと説明して、事態の収束を促す。


「『こちら一号車、迫撃砲による砲撃を一斉射した後にハーベゲルンへ迅速に撤退せよ』」

『了解!』


いまだ宙高く舞い上がった土煙りが漂う戦場に全面を覆うような爆発が巻き起こり、土煙りが一時的に晴れる。

そこはまさに地獄の様な情景になっていた。


着弾地点だと予想される放射状に抉れた地面。

土に塗れた何か。

強い力に引き裂かれた人間の胴体程の大きさの金属片。

着弾地点から遠ざかる様に散らばっている赤黒い小さな肉片と血飛沫の跡。

そして、離れていたが故に死に切れなかった生者の呻き声。


誰かが胃の中身を戻す水音が聴こえる。

無情に、頭の中がスッと冷え込み冷静になるのが分かった。

その戦場の更に奥に、見える筈も無いが忌むべき男の天幕が幻視出来た。

既にラーケンの姿は見えない。


彼女等は知る由もないが、暗い戦場に紅く輝いていたラーケンは、【ロキ】の砲手に目標にされていたのだ。飛び出した発着信管付き60cm重榴弾は誤差30cm以内で地表に着弾して炸裂した為、ラーケンは何が起きたのかも分からず蒸発してしまったのだ。

ラーケンを中心に展開していた歩兵と騎兵は、外周部を除きほぼ即死。

一番端の兵士ですら重傷と言う結果に終わった事から、いかにその威力が桁違いなのかが分かるだろう。


「『こちら一号車、各車両は楔形陣形を取りつつ低速で前進せよ。随伴歩兵は戦車騎乗し、周囲を警戒するように。以上だ』」

『了解!歩兵の回収を急ぎます』


各車両の車長が声を挙げて、迫撃砲を片付けて居る歩兵を急かす。

完全に分解し終えた歩兵は、戦車によじ登り砲塔後部のバスケットにしまい込んだ。

騎乗が完了した戦車ごとに点呼がされ、全て回収した所で二号車から無線連絡が入った。


『こちら二号車、全員の戦車騎乗が終了しました』

「『ご苦労。側面に回って居る四号車達が来たら…来たか。よし、パンツァーフォー』」

『ヤヴォール』


戦車掩蔽壕を乗り越えて低速で前進する。

軍曹以上には、第一師団から拝借して来たMP40を渡してあるが、それ以下の兵士にはkar98kが支給されており、現在は銃剣を着剣している。


戦車は敵兵の亡骸を引き潰しながら進む。時たま生きている運の悪い兵士を轢走して生まれる断末魔の叫びを背景に進む。


「王国に栄光あれ!」


死んだ振りをしていた敵兵が起き上がり戦車に切り掛かるが、随伴歩兵に射殺されて物言わぬ骸に成り果てた。


ティーゲルの横にラインハルト騎士が並走し、ヘルムの面頬を押し上げる。


「ショウサ殿!我等は何をすれば良いですか!」

「では先行して、あのいけすかない屑野郎が逃げない様に天幕を包囲して欲しい」

「分かりました!」


ラインハルト騎士は戦車の後ろをついて来ていた守備隊の騎兵達と合流し、私の依頼を言ったのだろう、五百騎程の騎兵が戦車を追い抜いて真っ直ぐ天幕へ駆けて行った。


残る生者に弾丸を撃ち込んでトドメを刺しながら進み、放射状に地面が抉れている地点に着いた。

そこで、穴の中心部に何か光ったのが見えた。


「博士、一回停めてくれ」

「イヒヒヒ…何かみつけなのかねぇ少佐」

「まあな」


音もなく止まったティーゲルから飛び降りて、敵が居ない事を確認してから光っている何かに向かってそっと歩いて行き、しゃがんでそれを掴む。


「………なんだこれは?」


六角形にカットされた白く発光する謎の宝石のような何かは、小さく脈動し始めた。

次第に強くなる脈動と共に光量を増す白い光。

急いで地面に捨てようとするが、どうしてか手から離れない。指は開いていると言うのに、まるで接着剤が着いているかの様に手から取れないのだ。

すわっ、罠か!と思ったが、チカッと一際強く光ったら安定してほのかに光を放つだけの宝石になってしまった。

どうやら、もう手から外れる様だ。


「一体なんだったんだ?」


魔法の類いであれば門外漢なので、ひとまずポケットに仕舞い込んで再び戦車に搭乗する。


「イヒヒヒッ、なにか光ったけれど大丈夫だったのかねぇ」

「あぁ、何が起きたのか私にも分からん。それに変な宝石を拾った」

「イヒヒヒ…それは気になるねぇ。実に気になる。貸しては貰えないかねぇ」

「どうせ駄目だと言っても勝手に持って行くクセに何を言っているか。ほら、無くすなよ。私のだからな」


博士に宝石を放り投げて渡し、再び前進する。

遠目だが天幕を取り囲んだ騎士達が見えた。そろそろ虐殺地帯を抜けるので、速度を上げても大丈夫だろう。


「博士、加速してくれ」


不気味な笑い声の返事を寄越した後に、ガクンとギアが入れ替わり二段階増速する。

コマンダーキューポラから天幕を眺めると、戦車のライトが当たった所が複数揺れているのが見えた。

どうやら風ではなさそうだ。


こちらに気付いた騎士達が天幕を警戒しながら振り向いた。ちょうどいい。


「『全車、騎士の外周を周り続けろ』博士、天幕の右端を掠め取る様に突っ込め。シューリーは砲塔を左に旋回させて、砲身で天幕を引っ掛けろ。倒れたらそのまま一回転させて取り外してくれ」

「了解!」

「イヒヒヒ…」


さっそく、キューポラから身を乗り出して騎士達に退くように手で合図する。身の危険を感じてか、騎士達はスッと道を開けた。

そこに真っ直ぐ突っ込んで、私の注文通りに天幕の右端を掠め取る様に走り、砲身はしっかりと天幕の生地を絡め取った。


バキバキと柱に使っていた木材が折れる音がしてあっと言う間に倒壊して、少し戦車に引きずられた後に生地が砲身から外れて地面に落ちて止まった。

すると、天幕が引きずられた事によって、中に居た連中の姿が表に出てくる。

全身甲冑を着込んだ今までの連中とは一味違った雰囲気の連中だ。

その真ん中に、あられもない姿を晒すエリナの妹が見える。そして、その隣には、彼女の首輪から出ている鎖を握り締め歯軋りをしているフェルドマンの姿が有った。

これで役者が全て揃った訳だ。


無事なMG34を担いで、ティーゲルから降りる。


「ショウサ殿、相手は相当の手練れです」


馬に騎乗したラインハルト騎士が隣に来て囁く。

確かに円陣を組んだ連中は他の奴よりは強いだろうな。


「まあ見てろ。連中なぞ大したことは無い」


連中から10m程間隔を開けた所で、フェルドマンが腹立たしげに口を開いた。


「き、貴様は一体何者だ!!私の計画を邪魔しおってからに!!!」

「何者?これはおかしな事を聞くな。少し前に一度会って居るではないか……あぁ、その時私はヘルムを被って居たな」

「で、では貴様あの時のッ……?!」

「察しが早くて助かる。ラインハルト殿の隣に居たのが私だ」


さらに苦虫を噛み締めた様な顔で、額に血管を浮き上がらせたフェルドマンが、我慢出来なくなったのか喚き散らした。


「奴をなんとしても殺せ!生かして帰すな!!」

「それは私の台詞だろうに。エリナの妹!聞こえて居るならしゃがめ!!」


精気の失せて居た瞳に一瞬活力が戻ったのを見逃さず、MG34の銃口をこちらに盾を前面に押し出して、剣の鋒を真っ直ぐに私の心臓目掛けて突進して来る馬鹿共に向けて引き金を引き絞っる。左から右に軽く薙ぎ払う様に銃口を振る度に血煙と断末魔の悲鳴が挙がり、生命を摘み取って行く。まさに作業と言っても過言では無いだろう。


銃口を振り抜いた後には、しゃがんだエリナの妹と腰を抜かしたフェルドマン、そして既に息の無い騎士達の亡骸が転がっているのみで有った。


「………さて、誰をどうするって?」

「ぐくぅっ………!」


股間の辺りを濡らしながら、情けない姿を晒しているフェルドマンが顔面を蒼白にしながら鎖を手繰り寄せる。


「う、動くな!こいつがどうなっても………!?」


ピンと張った鎖をMG34の7.92×57mmモーゼル弾で強引に引きちぎり、ついでに左手も吹き飛ばしておく。

一発でグチャグチャになった左手を抑えて、フェルドマンがのたうち回る。


「うわああああああああああっっ!!手が、手がぁぁぁぁあ!?」

「五月蠅いぞ俗物が。手の一つ二つ吹き飛ばされたくらいで大袈裟だぞ」


スッと蹲っているエリナの妹に上着を掛けて抱き上げ、五月蠅いフェルドマンの顔面に長靴の爪先を叩き込んで黙らせ、そのまま守備隊の騎士に拘束されて後方に引きずられて行った。


「………あっ………」

「安心すると良い。私は君の味方と思ってもらって構わない」

「………くび、わ……を」

「首輪か?少し待て」


銃剣で黒色の首輪を切断する。

途端に、なにか強い力の奔流が私の身体を駆け抜けて行った気がした。


「な、なんだ一体?」

「ありがとうございます。鋼鉄の馬を操る方」

「もう良いのか?」


先程までは足腰立たないような状態だったのだが、急にしっかりと立てる様になったエリナの妹。



「鋼鉄の馬、か。戦車の事だな?まぁ、いい。所で名前を教えてくれ」

「はい。シャルロッテとお呼び下さい」

「そうか。ではシャルロッテ、先程のは一体なんだ?首輪を切った途端に何か私の身体を通過して行ったぞ」


「私に付けられていた首輪は吸力の首輪と言い、着用した者の九割の力と魔力を奪うと言われて居ます。突き抜けたのは私の魔力でしょう……私はあの首輪の所為であの男に………クッ!!」

「……事情は察した。だが今は落ち着いて欲しい」


「も、申し訳ありません」

「よろしい。まず、私は君の事を知って居る。戦う前に会ったと言うことではなく、君の姉から話を聞いたからだ」


「だ、誰ですか!?」

「エリナ…エカテリーナとユリシアだな」


「そう……ですか。良かった……」

「いまは私が保護している。さて、君の事だが、どうする?私に着いて来るも良し、復讐するも良し、誰にも知られない様に隠遁するも良し。後は君の好きな様にすると良い。私は街を防衛するついでにエリナに救出を頼まれただけだからな」


「わ、私は………」

「まぁ、取り敢えず二人と会ってから決めると良い。案内しよう。……博士!帰るぞ!」


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