『終末者』の兆し(1)
諸君、アハトゥンク!
色々更新が遅れて申し訳ありません。
お仕事やら学業やらが大変なもので…
なんとか頑張りますので、お付き合い頂けたら幸いです。
なお、今回は某総統閣下シリーズの香りがプンプンするようなしないような回なので、総統閣下や某空軍大臣や某宣伝大臣のイメージを崩したく無い方は、前半部分は読まない方が良いかと思われます。
「……まだ見つからんのかッ!!」
夜のベルリン、石造りの伝統ある街並みが美しい街である。
家々の窓から生活の灯りが漏れ、歌や笑い声が聴こえて来る。軍の度重なる快進撃により、ベルリンの街は陽気なムードに包まれている。
しかし、とある会議室ではテクノカットとチョビ髭がトレードマークの総統が顔面を真っ赤にして怒鳴り散らしていた。
「現在二個歩兵師団を動員して、全力で捜索しています!総統、見つかるのも時間の問題です!」
「そうです、基地があった土地丸ごと消滅するなどありえません!総統、また血圧が上がりますよ!」
デップリと突き出した腹を上着の上からベルトで抑えているゲーリングが、ゲッベルスの言葉に乗っかって早口で捲し立てる。
「俺は何回それを聞いたと思っているんだ!バーカッ!!」
「じゃあ聞かないで下さい!大体、宣伝大臣の私に捜索させようとする意味が分かりませんよ!!」
「お前なら国民にそれとなく見かけたらご連絡下さいみたいな事言えるだろうが!」
「書類上には存在しない部隊なのに、どうやって国民に説明すれば良いんですか?!無理に決まってるでしょう!!そう言うのはゲーリング元帥に全部任せて下さいよ!!」
「ちょっ!?言って置きますけど、一応私は国家元帥といえども空軍なんですよ!本当なら、マンシュタイン辺りの仕事でしょうに!既にエルモッリから小言の嵐が来ているんですからね!」
「だから、お前らに頼んでんだろうが!畜生めぇぇぇッ!!」
「自分だけ小言を受けない算段なんでズルイですよ!」
「そうです!」
「総統の俺が部下に小言をもらうなんて可笑しいじゃねぇか!」
「あっ、こら逃げるな!」
色んな意味で台無しな一国家のトップ達であった。
一頻りゲッベルスとゲーリングからネチネチと嫌味を貰ったヒトラーは、こめかみに#マークの血管を浮き上がらせながら、ドップリと深く椅子に座り直す。
人差し指で仕切りに卓上をコツコツと叩く様子から、相当機嫌が悪い事が伺えた。…総統だけに。
流石に言い過ぎたと反省した二人は、居心地が悪そうに身じろぎをする他ない。
ギロリとヒトラーが二人を射抜く。
「大体だ……どうやったら基地丸ごと姿を眩ませる事が出来るんだ?そんな事が出来てら、我が軍は飛躍的に進化するぞ」
「そうですね…報告によると、どうやら跡地と思われる場所には禿山のような荒れた岩肌が残されて居たようです」
「………ますます意味が分からなくなったぞ。一体少佐たんは何処に消えたんだ?」
「…総統閣下、少佐たんは無いかと…」
「なんだ貴様!俺の趣味にケチをつけるつもりかぁっ!?」
「だ、大体少佐はロリババa…」
「ロリじゃねぇよっ!!テメェアウシュビッツ送りにされたいのかゲーリング!!」
「ま、待って下さいよ!ロリでは無くても、我々より歳うe…」
「それ以上、喋るな…」
「………申し訳ありません閣下」
はぁ、とゲッベルスが額を押さえながら溜息を吐く。
『また始まってしまったか……一体いつ二人は学習するのやら…そして、大体は総統閣下が権力で国家元帥を押さえ付けて終わるのですがね……』
何時ものパターンと化してしまった喧嘩に、再び深い溜息を吐いた。
子供よりも酷い二人の喧嘩に巻き込まれない様に、部屋の隅の方に下がって様子を眺めていると、廊下の方から慌ただしく走って来る軍靴の音が聞こえて来た。
相当焦っているようで、何度も転けそうになって足音が飛び、悲鳴や怒号が聞こえて来る。
これは只事では無い…本能に頼らずも尋常ではない足音に、喧嘩をしている二人の間に割って入る。
「閣下!失礼ながら!」
「なんだ!今俺は大事な話をしているんだ!」
「それどころではありませんよ!何やら様子がおかしいです」
「…何だと?」
ヒトラーが怪訝な顔をした途端に、ドアがノック無しに空いて陸軍少尉が転がり込んで来た。息も絶え絶えで、酸欠の為に顔面を真っ赤にした少尉は声を絞り出そうとして失敗しては咳き込む。
予期していたゲッベルスは水差しを少尉に渡して落ち着く様に言い、少尉は頷いて水差しから直接水をラッパ飲みする。
あまりに突然な出来事に思考回路が停止して、口を開けたままのヒトラーとゲーリングは、報告に来た少尉の初めの一言で正気に帰った。
その内容は、彼らにとっても想像を超えた事だった。
「ほ、報告、しますっ!捜索活動をして居た歩兵師団の内、一個師団の音信が途絶えました!最後の交信の内容で、聞き取れた内容の内、ドラゴンが現れた、銃器が効かないとの理解不能な事で、途中支離滅裂な言葉が飛び交い、無線が混線した所で途絶えました!!」
「「「…………………は?」」」
三人の脳裏に、連合軍の秘密兵器と言う言葉が浮かぶが、それは無いと直ぐに考えを否定する。
歩兵とは言え、一個師団約一万人の兵士が丸々壊滅するなんて話は聞いた事が無い。
殲滅戦ならあり得るだろうが、短時間で全滅などあり得ない。
想像と思考が追いつかない状態で、まだ少尉が先を続けたそうに待っている。
「……よもやとは思うが…まだ何かあると言ったりするのか?」
「えっと………はい…」
ヒトラーは座った椅子からずり落ちそうになりながら、蒼白な顔に掛かった前髪を掻き上げる。
「続けたまえ」
ゲッベルスは、言葉が出て来ない総統に変わって先を促す。
背筋を伸ばした少尉は、一瞬ヒトラーを見て躊躇った後に、口を開いた。
「……一個師団が壊滅したと思われる地点から、約南西に百キロの地点で訓練の為に整備していたカール自走臼砲三番機『ロキ』が行方不明になりました」
「……………少佐に続いて『ロキ』もか!!一体どうなっているんだ!?だれか俺に何が起きて居るのか教えてくれ!!!!」
「誰かっ!誰かあるか!!至急ヴェルナー中佐を呼んで来い!総統閣下が取り乱した!!」
今まで溜まったモノを全て吐き出すが如く、唾を飛ばしながら堰を切ったように髪を振り乱し、何度も机を両手を叩きながら喚き散らす。あまりの怒りに脳の血管が切れてしまいそうな程だ。
ゲッベルスは少尉に飛び火しないように速やかに退室させる。
「しかも、『ロキ』を運用している部隊は、よりにもよってアイツの部隊じゃなかったか!!?」
「……総統閣下の思っていらっしゃる事で間違いは無いかと」
三人の脳裏に、一人の陸軍将校の顔が浮かぶ。そして、一同の共通している思考は『まともでは無い』と言う言葉だった。
「ヤツの場合は裏切りの可能性も否定出来んぞ」
「確かに…彼女の場合は殺人行為が正当化される戦場にさえ居られれば良いだけですからね」
「捕虜どころか、無抵抗の市民まで殺す心理が理解出来ん」
「少佐も彼女の事は若干苦手な様子でしたからね」
「ヤツの方は少佐を好いて居たからな。皮肉な物だ……私には拳銃を突き付けるクセに…」
未練タラタラに愚痴るヒトラーを見て、肩を落とす二人。
もうこれ以上仕事が増えない事を祈る二人は、矢継ぎ早に外で待機している部下達に指示を送るのだった。
「あ痛たたたた………何人生き残ってるかしら?」
ちらほらと返事が返って来るが、弱々しく今にも消えそうなのが数人、全体の半分以上が返答無し。
しっかりとした返事が返って来た数は二十人……
『ロキ』の隣には三両の弾薬運搬用の改造四号戦車の姿が見えるが、中までは無事か分からない。
はっきりと無事なのは、この『ロキ』の近くにいた私達だけ。
あとは知らない。気絶しているのか、単に死んだのか。まぁ、死んだら死んだでそれまでの事。
辺りを見回しても、共に行動していた第833重砲兵大隊の連中の姿どころか、『カール』や『アダム』『エーファ』『オーディン』達の姿も見えない。
『ロキ』の甲板から乗り出して地面を見ると、円形に切り取られた様に地質が異なっている。
「こりゃ一体……どうなってる訳かぁ?真っ暗で何も見えんし……軍曹!居るか!」
考えるのが面倒なので、取り敢えず軍曹を呼ぶ。軍曹が居れば万事解決する…筈だよね。
「司令官殿。お呼びでしょうか」
「呼んだ呼んだ。あのさ………ここ、何処?」
軍曹は怪訝な顔をして辺りを見回し、首を横に振る。
「さっぱり分かりませんな」
「あちゃー、軍曹も分からないかぁ。じゃあ、私が分かる訳無いよねぇ。ま、いっか!何とかなるよね」
「し、司令官殿、自己完結するのは早急では?」
「いやいや、大丈夫だって……だって、あっちでドンパチやってるんだから、居るのは敵か味方でしょ?ならそれに聞けばわかるよう」
「成る程……測距儀を持って来させましょう」
「お願いね」
軍曹が敬礼して向こう側へ走って行く。
彼女が返って来る間、なんとなぁくドンパチをやっている方を見て居ると、照明弾が打ち上げられた。
瞬間にゾクリと背筋に喜びの震えが走る。
「見ぃつけた………」
▲+ー▲
押し切れる。
物量を火力で押し切れる計算だったが、まさか魔法がここまでやるとはな……計算違いだ。
途中までは順調に騎兵と歩兵を減らし続けられたのだが、ラーケンと複数の魔法使いが戦場で何かしたと思ったら、迫撃砲弾が阻まれると言う事態が起きた。前回の結界の様な物を展開したのだろうと容易に想像出来たが、どうやら特性が違う様で、こちらは上方向には効果があるが、前後左右には効果が無い様で、機銃弾や戦車砲弾は当たっている。しかし、それだけでは圧倒的に火力不足である事と、分散されては榴弾も効果が薄くなってしまった。
向こうは損害無視でこちらに突撃をしてくる始末……
「クソッ!連中はソ連兵か!?」
「た、たいちょー!MGの銃身が焼き付いちゃいましたよ!換えを下さい!」
「なんで予備を持って無いんだ!ナハト!」
「もう予備も使っちゃったんですってぇ~!?」
「待ってろ!その間MP40で我慢しておけ!!」
「ひえぇぇぇぇ~」
情けない声を出すナハトを置いて、戦車の中にある予備のMG34を引っ張り出して渡す。
「良いか!これが最後のMGだ!大事に使えよ!!」
「りょーかい!!」
このMGがイかれれば、前方機銃を外すしか無い。
と言うか、一体短時間に何発連続発射したんだ?
「少佐!榴弾残数七発!」
ネルケの焦った様な顔と、無線機から僚機の残弾を報せる苦々しい声が、思考力を低下させる。
冷静になろうと抑えても、周りからの焦らす様な声で冷静さが失われそうになる。
「…………こうなれば、最後の手段を取りざるを得ないか……?」
これだけは最大の悪手だと思って、どの様な戦場でも使わなかった禁じ手の一つ。
これは、場合によっては使用した自分達も被害を喰らいかね無いもの故に、出しもしなかったが……
「………シューリー、アレを使うかも知れん。準備してくれ」
「……ア、アレ…ですか?だ、大丈夫なんですか…?」
「背に腹は抱えられんだろうに。こっちに来ない事を祈る他あるまい」
「………りょ、了解しました」
シューリーは、四枚の鍵が付いた鍵束を取り出し、ネルケを押しよけて弾薬庫を覗き込む。
砲弾同士の接触を避ける為にわざわざ設けた蜂の巣状の弾薬庫から、鍵穴の付いた蓋が被さって取れないようになっている所に、鍵を挿し入れて蓋を外す。
手を添えてそっと中にあった一本の砲弾を取り出してネルケに渡した。
砲弾の先端部分には無数の小さい穴が空いており、先端が白く塗られていた。
「ネルケ、大事に装填しろよ。なるべく衝撃を与えないようにな。一歩間違えば私達は等しくヴァルハラ行きだ」
「ひぇっ……しょ、少佐!これ……なんですか?」
「……先の大戦が産んだ死神だ」
「死神?」
「あぁ……サリンと言う名のな」




