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鋼鉄のフロイライン  作者: 九十九 大和
第三章 休日の過ごし方
14/28

休日の過ごし方(2)

諸君、アハトゥンク!

一ヶ月ぶりの更新です、お待たせしました。

あと、今回はなんか不完全燃焼気味なので、あまり面白くは無いかも知れませんが、どうぞお付き合い下さい。

すっかり日が落ち、星の瞬き以外の光源はなく、真っ暗な山肌に陽気な笑い声や歌が微かに響いた。



Die Fahne hoch!

die Reihen dicht geschlossen!

S.A. marschiert

mit mutig-festem Schritt,


|: Kam'raden die Rotfront

und Reaktion erschossen

marschier'n im Geist

in unsern Reihen mit :|



Die Straße frei

den braunen Batallionen

Die Straße frei

dem Sturmabteilungsmann!


|: Es schau'n auf's Hakenkreuz

voll Hoffnung schon Millionen,

der Tag für Freiheit

und für Brot bricht an :|



Zum letzten Mal

wird nun Appell geblasen!

Zum Kampfe steh'n

wir alle schon bereit!


|: Bald flattern Hitlerfahnen

über allen Straßen,

die Knechtschaft dauert

nur noch kurze Zeit! :|



Die Fahne hoch!

die Reihen dicht geschlossen!

S.A. marschiert

mit mutig-festem Schritt,


|: Kam'raden die Rotfront

und Reaktion erschossen

marschier'n im Geist

in unsern Reihen mit :|



Die Fahne senkt!

Horst Wessel ist erschossen!

In unser'm Herzen

nur noch wach er lebt,


|: Dein rotes Blut, Kamerad,

Ist nicht umsonst geflossen,

D'rum doppelt hoch

Die Freiheitsfahne hebt! :|



Sei mir gegrüßt,

du starbst den Tot der Ehre!

Horst Wessel fiel,

doch tausent neu ersteh'n.


Es braust das Fahnenlied

voran dem braunen Heere.

S.A.bereit,

den Weg ihm nachzugeh'n.



Die Fahnen senkt

vor Toten, die noch leben.

Es schwört

S.A.die Hand zur Faust geballt.


Einst kommt der Tag,

da gibt's Vergeltung-kein vergeben,

wenn Heil und Sieg

durchs Vaterland erschallt.



Die Fahne hoch!

die Reihen dicht geschlossen!

S.A. marschiert

mit mutig-festem Schritt,


|: Kam'raden die Rotfront

und Reaktion erschossen

marschier'n im Geist

in unsern Reihen mit :|



どの声も若く瑞々しい乙女の物で、彼女等の歌う歌はどれも力強く力を奮い起たせるような不思議な響きを持っていた。


国を追われ、生き延びる為に厳しい岩肌の山脈を登り、頂上を過ぎて少しの所で餓えと渇きで力尽きた小さな少女とその姉が、不思議な歌に誘われるように最後の力を振り絞って、その歌声の元に歩き始めたのだった。





「飲め飲め!今日は無礼講だ!!」

『はい!』

「ビールを空けろ!酒瓶と樽を空にしろ!酒を飲めないと抜かしたゲルマン人はユダヤ人が皮を被っているぞ!」


そう言って、私はビール瓶を傾ける。

夜の間外にほっぽり出して冷やし、日中は格納庫の地下室で安置していたビールだけに、ひんやりと冷えていて中々に美味い。

のど越しで弾ける炭酸の発泡が、爽快感をもたらし身体は更なるビールを欲して疼く。

そこで、まるで歳の離れた妹でも見るかのような笑みを浮かべてチビチビとビールと飲んでいるハルアキが眼に留まった。


「どうした、気味の悪い笑みなど浮かべて私の乙女達を眺めて。手を出したら問答無用で射殺するぞ」

『いえ……こう言った酒宴は二度と出来まいと思っていたので』

「そうか、これはハルアキとメイド達の歓迎会も兼ねているのだ。勿体ぶらずにもっと飲め」

『はい』


腹が据わったのか、ビールを一気に飲み干す。

良い飲みっぷりだ。

ハルアキを見ていた部下達が歓声を上げ、ビール瓶をお互いに打ち鳴らして声高らかに乾杯と歌う。


「たいちょー、ザワークラフト食べましょうよぉ~」

「いらん」

「即答!?」


ナハトが後ろからビール瓶片手に摺り足で近付いて来た。

非常に動きが気持ち悪い。

こんなのでも、無線手としては一流なのが理解し難い。


「たいちょー!今回は絶対に大丈夫だって!」

「だが断わる」

「なんでーっ!?」

「念には念をだ。それでまた倒れてしまっては話しにならんだろう」

「倒れないかも知れないじゃないですかぁ!」

「倒れるかもしれんだろう」

「ぶぅーー!!」

「まぁ、そう膨れるな」


別に私はナハトが嫌いな訳ではない。

むしろこう言う膨れっ面をしたりする所は愛らしいと思う方だ。

しかし、戦闘が終わった途端に眠りだすのは許せんがな。

本当はもう大丈夫と言うナハトの言葉を信じて、彼女のザワークラフトを食べてやりたいが、部下達の長、彼女らの命を預かり護らなくてはならない手前、何かあってからでは遅いのだ。


せめてもの慰めという形で、頭を撫でておく。

一瞬ポケーッと惚けた顔を見せたが、すぐに口をすぼめてぽかぽかと肩を叩いて来た。


「たいちょーはズルいです!こう言う時だけ優しくしてくるのは!」

「まぁ、それが私の特権と言うやつだな」

「おぼーだぁっ!」


更に追撃を仕掛けて来ようとするナハトをかわし、言葉が分からない筈なのにこちらを生暖かい眼で見ていたハルアキに押し付ける。

我ながら惚れ惚れする手際の良さだ。

ナハトは行く手をハルアキに阻まれて騒ぎだし、言葉が分からないハルアキはそれを見て困惑してアタフタし出す。

実に愉快な場面だろう。

チャップリンと良い勝負が出来るのでは無いだろうか。

あとが面倒なので、ナハトが人の壁を突破してくる前に離脱する。


「…隊長」

「む?シューリーか。どうした?」

「…一緒に、どうですか?」

「頂こう」


飲み干した瓶をそこら辺のテーブルに置き、シューリーが持ってきていたビールを受け取る。


「そう言えば、シューリーとは長い付き合いだな。だが出逢ったばかりの頃を昨日のように思い出せる」

「……隊長。私もです。あの頃は戦車も無く、よく二人で山岳を駆け回りましたね」

「あぁ、そうだな…あの頃からシューリーは射撃は一流だったな」

「…いえ、隊長ほどではありません」

「謙遜するな。…私には戦車砲は扱えん」


照準は出来ない事は無いが、いかんせんシュトリヒを合わせるのがどうも上手くいかない。

それに何故ああも簡単に砲弾を当てられるのかも分からん。


私は沸々と沸く自虐心を払拭する為に、シューリーから貰ったビールを燕下する。

冷たく発泡する液体が気分を落ち着かせ、頭をすっきりと鮮明なものにした。


「…隊長?」

「…ん?あぁ、すまない。感傷に浸っていた。シューリーと私での初陣で、敵陣の真っ只中に取り残されて包囲された時の事を思い出してな。恐怖のあまりに失禁した時のシューリーが可愛くてなぁ」

「た、隊長!ややや止めて下ひゃい!…あうぅ」


盛大に噛んだシューリーは、顔面を真っ赤にして顔を伏せてしまった。

脇から覗く耳と首筋が真っ赤になっている。


「別に恥ずかしがる事ではないぞ。…聞かせてやろう、イェーガーは何が何でも隠そうとしているが、彼奴は初めて私と部隊に来たときにな、兵員輸送車で移動したんだが、イギリス軍に襲われて弾丸が頬を掠めただけで、色々と漏らしたんだ」

「…ぷふっ、私だけではないんですね」

「そうだな。……例外はナハトか」

「ですね…寝てましたから」


荒れ地を全力走行している戦車の中で、平気な顔をして寝れるナハトの神経と図太さが理解出来ない。

まぁ、今更言った所で直しようも無し、言って直れば苦労はしない。


「博士も…例外、か?」

「ずっと…レバーに頬擦りしながら笑っていましたね……」

「あれは猫目から外を見ていなかったぞ絶対」


博士も人を軽く超越しているからな。

一言で表すなら「人外」に限る。


もう一口ビールを飲んで瓶を空にし、シューリーに新しく手渡されたビールに口を着けた。


「…隊長は、初陣…どうだったのですか?」

「ん?私か……あまり面白い話ではないな。あの頃はまだこの欧州全体が酷くてな…お互いの顔が見える距離で殺し合っていたさ。私は今でも覚えている。初めてこの手で突き殺した東洋系の兵士の顔を」


あれは筆舌に尽くし難い。

お互いに死にたく無くて必死だった。

無我夢中で得物を振るい、相手が私の顔を真っ直ぐ見て動きが鈍った隙に、突き刺した。

その時の絶望とも悲しみとも安堵とも分からない表情が、今でもたまに現れては問い掛けてくる。

まだその時は同じ歳くらいの少年だった。

彼は現れてはこう言う。


『どうだい?』


ただそれだけだ。

会う度にたったそれだけしか言わない。

私は彼を旧来の友として迎え、そう聞かれる度に近情報告する。

聞くだけ聞くと満足したかのように消えるか、それとも日が出始めるといつの間にか居なくなっている。


それと一回だけ、名も知らぬ彼と酒を酌み交わした事があった。

度数の強い、燃えるようなキツい酒だ。

小グラスに擦り切り一杯を入れ、彼に差し出すと一気に飲み干し、私も真似をして飲み干すと、彼は笑って消えていった。


彼は一体何を私に伝えたかったのであろうか。

長い間考え続けているが、私には分からない。

いや、これから先、彼が話してくれるまで分かる日は来ないだろう。

ある意味それで良いのかも知れない。

何時かまた、彼に出会ったら聞いてみるとするか。


「隊長も…大変だったのですね」

「あぁ、大変さ。当時はトラックやら戦車やらが無かったからな。長距離も近距離も歩かなくてはならないし、補給線が延びきってこちらまで食料が届かなかった事もよく有った」

「少佐!それでそれで!」

気が付いたら辺りは静まり返っていて、皆が私の話を聞いていた。

ネルケが眼をキラキラさせて、その先を促してくる。


「それで、か。そうだな…他にはお互いに得物が壊れて、相手が死ぬまで殴り合いをしたとか。食糧が無くて略奪を上官に強要されて、現地で住民の娘に手を出そうとしたから後ろから斬り捨ててやったりだな」

「おぉ、少佐過激だねぇ!」

「当たり前だ。私の目の前で女を不当に虐げる奴は許さん。ほら、お前達も飲め!全員二日酔いになるまで飲み干せ!」

『ヤヴォール!!』


再び新しいビールを手渡され、飲み終わった瓶を格納庫の外にポイッと捨てると、ゴチッと軽めな打撃音が聞こえて小さい悲鳴が聞こえてきた。

シューリーとお互いに顔を見合わせると、おもいっきり瓶を机に叩き付けて割り、注目を集める。


「総員警戒!侵入者だ!」


そう叱咤すると数人が所持していた武器を構え戦車を盾にし、その他数名が戦車の上部機銃に取り付き、後は壁に作られた銃器掛けから得物を取った。

これなら、騎馬隊に突撃されても返り討ちに出来るだろう。


全員が殺気をたぎらせて、ギラギラと両目を光らせる。

格納庫の半開きにしてある扉を睨んで、今か今かと待ち構えるが、一向に入ってこない。

その前に、物音一つ聞こえない。


「…おかしいな」

「…変ですね。ジークフリートに偵察させますか?」

「そうだな。我々しか銃は持ってなさそうだから大丈夫だろう」


ちなみにジークフリートとは、あの死んだ振りの得意な忌々しい狼の名前だ。

博士に拾われてからと言うもの、私と博士には服従し、部下達には可愛がられている。

しかも、何故か私達の言うことが理解出来るようで、物を持って来させても正確に持ってくる。

……机の奥に安置していたバーボンウィスキーも取ってきたくらいだ。


「ジークフリート!外を探ってこい」


ティーゲルの運転手ハッチから顔を出したジークフリートは、私の命令で外に飛び出して行く。

出て直ぐに、何かを二つ引き摺ってきた。


元は相当良い生地で高価だったであろうドレスの成れの果てを纏い、所々解れた二人の金髪の上には美しい二つの宝冠が電球の光で輝いていた。

どうみても、行き倒れたお姫様にしか見えない…


「……はっ!衛生兵、今すぐ手当てしろ!!シューリー、手伝え!」

「…は、はい!」


私は姉だと思われる、ネルケ程の身長の姫君を抱き上げて、他の部下が上の物を退けた机に寝かせる。

シューリーは、私の胸辺りしか身長の無い子供の姫君を抱き上げて、同様に机の上に横たわらせた。


私に呼ばれた衛生兵が応急箱を持ってやって来て、すぐさま二人の診察を始めた。


「……先生、どうだ?」

「う~ん、目立った外傷は見当たりません~。強いて言うならぁ、お姉さんの頭に出来たタンコブくらいかしらぁ…どちらもぉ、極度の疲労と空腹で、ここに来れなかったら死んでいかもしれないわねぇ~」


何とも間延びした声で、淡々と診断結果を述べる先生。

ちなみに先生というのはあだ名で、本名はエリス。

階級こそ准尉だが腕は確かで、彼女のお陰で未だにこの部隊では死人が出ていない。

だから、我々は敬意を籠めて先生と呼んでいる。

先生は私がグーデリアンの部隊からすっぱ抜いて来た逸材だ。

彼女は部隊に埋もれていて、才能が発揮されていなかったので、特に嫌味は飛んで来なかった。


「シューリー」

「…なんでしょうか」

「タンコブを作ったのは私だと思うか?」

「…おそらくは」

「…だろうな。そもそも、何故こんな岩山の中腹に居るのだ…まぁ、来てしまったものは仕方無い。先生、面倒をみてやってくれ。この基地で死なれると目覚めが悪い」

「任せてぇ」


その間延びした声と聖母のような慈愛に満ちた微笑みに癒されつつ、酒宴は再開した。

少しだけ声を押さえながら酔っ払い達と国歌を歌い、私以外の皆が酔い潰れるまで飲んだ。

一人、静かな寝息しか聞こえなくなった格納庫の中で、ゆっくりとビールの瓶を傾ける。

左の肩にはネルケの頭が、太股の上にはシューリーの頭が乗っている。

シューリーの頭を撫でながら博士の姿を探すと、地べたに大の字に寝っ転がりながら爆睡していた。

彼女の枕代わりに、ジークフリートが横たわって寝ている。

ナハトは、博士の邪魔にならないようにジークフリートの背中に抱き着いて寝ていた。

みんな幸せそうな寝顔をしている。

先生は、姫君二人を病院(彼女の大天幕)に運び込んで、ここには居ない。


さて、では本物の侵入者を倒すとするか。


「そんな所に突っ立ってないで、入ってきたらどうだ?」


半開きになっている扉を睨みながら、ビール煽る。

暫く沈黙が続いたが、一人の黒装束が入ってきた。

骨格からして男のようだ。


「……何故わかった」

「それはこちらの台詞だ。貴様何をしにきた?」

「…………」

「だんまり、か。当ててやろう。二人の姫君を捜しているのだろう?」

「………っ!」

「当たりか。彼女らを見付けてどうする?息の根を止めるのか?」


覆面の隙間から覗く眼が、こちらを真っ直ぐみる。

私も、何も言わずにビールを傾けつつ見詰め返す。

先に、相手がスッと視線を逸らした。

それから踵を返して出て行こうとする。


「まて、ここの場所を知ってしまったからには、生かして帰さん」


誰かが戻し忘れたシュマイザーを掴み、銃口を向ける。

相手は、銃を見たことが無いので鼻で笑った。


「もう一度聞くが、彼女をどうする?」

「……それを聞いてどうするのだ」

「場合によっては会わせてやってもいい」

「……私は姫様の“影”だ。姫様はこの山脈を越えた所にあるエルベスト王国の王女殿下なのだが、貴族の一部が反乱を起こし、王城が占拠された」

「成る程、隣の国でクーデターが起きたのか。国王はどうなった?」

「……陛下は王妃殿下と共に囚われた。他の王子殿下や王女殿下は辱しめを……っ!!」


ギリリと離れていても聞こえる程の力で歯軋りをする“影”…相当恨んでいるに違いない。


「ふむ、では何故貴様はあの二人と一緒ではなかった?」

「……追手の“影”を始末していた」

「口では何とでも言えるな」

「……我々“影”の名誉に誓おう」

「だから……はぁ、まぁ良いだろう。何か証拠になる物は無いか?」

「……姫様から頂いた、この王家と姫様御二人の紋章の刻まれた短刀を預ける」


真っ白な鞘に三つの金色に輝く紋章が入った、美しく精緻な装飾が施された宝剣を手渡された。

一つは盾に吠える二頭の獅子、もう一つは交差する白百合に一角馬と蔓草、最後の一つは三日月に天馬と菫だ。


「分かった。まだ完全に信用をした訳では無いが、少しは信じてやろう。しかし、ここを見付けた事は大したものだが、ここに二人が居なかったらどうするつもりだった?まぁ、ここを見付けた時点で生きては帰さんが」

「……もし、姫様が居なかったら、貴殿達を殲滅してこの建物を拠点にするつもりだった。と言っておく」

「はっ、我々も甘く見られたものだな。間者一人に、そんな簡単に我々が殺られる筈がない……諸君、そうだろう?」


小さい声から普通の大きさに変えてそう言うと、全員が起き出した。

全員が、何かしらの得物を手にしている。

我々は訓練で殺気と気配を鋭く感じ取る訓練をする。

それは寝ていても有効だ。


「……っ!?」

「そう言う事だ。貴様が我々を賊の類いだと勘違いしているようだが、それは違うぞ。我々は一国の正規軍だ」

「……この国のか」

「いいや、我々はドイツ第三帝国の軍人だ。麓の街とは贔屓にしてもらっているがな」

「……見たことも無い服装や武器と思われる物をもっているのは、何か関係があるのか?」

「さてな。だが、一つ言えるのはどこの国も我々の技術力には到底及ばないな」

「…………」

「それ程戦争を繰り返し、それこそ大量の血を流して築き上げた歴史が有ると言う事だ。気にする事ではない。……先生、三人付けるから彼を案内してやれ」


「分かったわぁ」


「っっ!!!?」


“影”の後ろから、暗闇から滲み出るように姿を現した先生に、大きく後退って距離をとる“影”。


「彼女は衛生兵だ。普段は戦闘を行わない彼女の気配を気付けないとはな。それでは我々を出し抜く事は出来んぞ。武装をすべてここに置いてから行け」


完全に諦めたのか、観念したのか分からないが、衣服のあっちこっちから様々な暗器をドサドサ出した。

あの博士でさえ、笑いながら呆れている程だ。


「幾ら隠すと言っても、流石に限度というものが有るだろう……靴の裏に仕込んだ刃物も外せよ」

「……何故そこに有ると?」

「さてな。企業秘密だ」


きちんと、靴底をくり貫いて埋め込んだカミソリ状の刃物も置いていった。


「よし、もう無いだろう。先生、連れて行ってやれ」

「あらぁ、少佐は来ないのかしらぁ」

「今日はまだ良い。まだ起きて無いだろうからな。患者を叩き起こしては不味いだろう」

「少佐にしてはぁ、珍しいわねぇ」

「なんだそれは……」


無意識に溜め息が出て、仕方無いので手を払って“影”を先生に案内させる。


「いいから早く案内してやれ。あと、有志で四人一緒に着いていけ」


ああ、あの甲冑女と一晩寝ることを条件に、遭難と言う名の休暇を掴んだ筈なのだが……私達は、何故こう言う訳の分からん問題に出逢ってしまうのだ?

昼夜砲弾飛び交い、夜戦野戦はもちろんのこと、暗殺拉致放火強襲拷問…それらの一つをほぼ毎日やらされていた遭難前よりはマシか。


「さて、寝直すか」

「…そうですね。朝方は冷えますから、扉は閉めておきましょう」

「そうだな。起きた時に霧で何も見えないのはアレだからな」


全部で四つある大扉の内、二つは大抵閉まっているので、半開きの大扉を四人係りで閉める。

多分、先程先生の護衛として着いて行った四人は、“病院”に泊まるはずだから大丈夫だろう。


「さて、おいでシューリー」

「…隊長?」

「ぶぅーー!シューリーばかりズルい!」

「ナハトもほら、纏まれば暖かい筈だ」


二人を抱き寄せて、背中を擦る。


「しょ、少佐殿!自分も一緒によろしいでありますか!」

「少佐~、僕も一緒で良いですかぁ?」


ミヤビとネルケも来た。

だが、しっかりと手にはビール瓶を握っている。


「お?何やってんだ?そんなに固まって」

「固まって寝ようと思ってな。可愛い奴等だよ…その手に持っている瓶はなんだ?」

「成る程ね。…これか?さっき“大きな天幕”で見付けて来たんだ」


イェーガーがニヤリと笑う。

黒い緑色の瓶と、透明で向こう側が透けている瓶を持っていた。

まさかとは思うが…


「私の秘蔵していた、アブサンとウォッカでは無いだろうな、え?イェーガー」

「さ、さてな。見付けたんだ」

「ほう、何処の大きな天幕か教えて貰おうか。今すぐそれを渡せ……さもなくばお前の恥ずかしい話を惜しみ無く部下達に公開しよう。まぁ、ある程度脚色されてるかもしれんがな」

「ま、待つんだ少佐。話せば分かる」

「さぁ、私には分からんな。それを渡さん限り」

「く、くそっ!ほらよ!」


ドン、と机の上に置いた。

ウォッカは開いてないが、アブサンが少し目減りしていた。

どうやら、少しイェーガーが飲んだようだ。

少しヨモギの匂いがする。

「…隊長、良い香りですね」

「たいちょー、これ少し飲みたい!」

「ナハトとネルケはよしておけ。これらは度数が高い。ナハトは更にバカになるぞ」

「なんでっ!?」

「これ以上可哀想な頭になって欲しくないからだ」

「三次方程式とかも解けるよ!ナハト頭悪くないよ!」

「いや、そう言う頭の良さでは無くてだな……とにかく、これらは誰にも飲まさん。良いか、これを飲むとな…アレのようになってしまうぞ」


そう言って、未練がましい視線をアブサンに送っているイェーガーを指差す。

それを見ると、全員が納得したように頷いた。


「おい!何故納得するんだよ!あたしに恨みでもあるのか!?」

「ある!私の秘蔵酒を飲んだ事だ」

「それだけっ!?」


ギャアギャア騒ぎ出したイェーガーを当て身で黙らせて、アブサンの酒瓶を傾ける。

かなりの甘味と強烈なアルコール特有の辛さが、胃袋を熱したように熱くさせた。

ヨモギのリキュールとは思えない、アメリカ製のお菓子のような香りが鼻腔を吹き抜け、血液が沸騰したかの様に血管を巡る。


「たたたたいちょー!!一気に飲んだらバカになっちゃいますよ!」

「バカな事を言うな。もとから私は戦馬鹿だ」

『(あっ、自覚あったんだ…)』


さて、良い具合にアルコールが回ってきた所だ。

さっさと寝てしまおう。

こう夜更かしをしている間にも、燃料を食って発電機を動かしているのだ。

戦車の燃料も限りが有るし、一回の出撃での消費がバカにならない。

早い所燃料の問題は何とかしなくてはならないな。

まぁ、明日考えよう。


「消灯だ!明かりを消して発電機を止めてこい!」

「了解!」


発電機と電源に一番近い部下が、それぞれを消しに行った。

そう間を開けず照明が落ち、天井付近にある明かり取りの窓から月明かりが射し込んできて、うっすらと格納庫の中が明るくなる。


「たいちょー良い匂いがしますよ!」

「アブサンの匂いじゃないか?」

「ナハト!少佐殿の隣は私の位置でありますよ!」

「はて、なんの事ですかねぇ。ミヤビ?知らない娘ですね」

「なっ!?」

「ナハト、お前口調が変わっているぞ…お前こそ誰だ」


喚くミヤビを黙らせて、ネルケを膝の上に乗せ、シューリーを抱き寄せる。

身長差は有るが、コテンとシューリーが私の肩に頭を乗っけた。


「どうした?」

「…私は、久しぶりに優しく笑っている隊長を見ました」

「そうか?……いや、そうかもしれないな」

「…私と一緒に初めて作戦を成功した時、隊長は同じ様に笑ってくれました」

「あれから……七年経ったのか。本当に大きくなったな……最初はシューリー、次はナハト、今はネルケに身長を抜かれてしまった」

「…クスッ、隊長はお変わりありませんね」

「こら、気にしているのだぞ」


膝の上のネルケが、背中を向けてクスクス笑っている。

腹いせにおもいっきり抱き締めて、両手でその未熟でつぶらな果実を揉みし抱く。


「ひゃぅっ!?あぁん!た、隊長!?ひぅっ」

「お仕置きだ。お前好きだろ?摘まれる事が」

「あぅぅぅ、気持ちです~!」

「…隊長、寝てる人も居ますから、程々にして下さいね」

「あぁ、分かっている。ほら、お前も寝ろ…明日はゆっくりで良いからな」

『おぉ~!』

「なんだその反応は…私だって、英国紳士の連中程お堅くは無いぞ。ほら、お前らさっさと寝ろ!でないと明日は五時起床にするぞ」


そう脅すと、シューリーも含めて全員がガタガタと一斉に寝静まる。

被っていた軍帽を置いて、髪の毛を掻き上げた。

型が崩れない様にネルケの頭に乗せて、ゆっくりと微睡みに身を任せる。

意識が遠退くのが分かった。




ハッと目が醒めると、辺りはまだ薄暗く早朝のようだった。

寝る前に五時と言ってしまったせいで、体内時計が仕事をしてしまったらしい。

もちろん、全員引っくり返って寝ている。


完全に私に体重を預けて寝ているネルケを起こさないように退かし、戦車の砲身に引っ掛かっていた誰かのM40型野戦外套を着込み、音がしない様に大扉の下に付いている人間用の扉を開けて外に出た。

外付けの階段を上がって、上に居た見張りの部下の肩を叩く。

ビクッと震えが伝わってきた。


「おっと、すまない…」

「い、いえ…とんでもありません」

「代わろう。寒かっただろう?今日は10時程まで寝てて良いぞ」

「あ、ありがとうございます!」


小銃を預り、部下が階段を降りていく音を静かに聞く。

ベンチに座り、外套のポケットに入っていた薄荷の結晶を専用のパイプに入れて、人肌で暖めて気化させる。

それを吸引して爽快感を味わうのだ。


「意外に美味いな…誰のだ?これは……ここに名前が」


木目の美しいパイプの吸い口に、ローマ字でミヤビと入っていた…


「ミヤビのか……一先ず一服し終えたら、使ってないと言い張るか」


ホッ、息を吐き出した口から、白い湯気が立ち上った。

お読みくださり、ありがとうございます。

初っ端から、ドイツ語の曲の歌詞を乗っけましたが、何の曲だか皆さんは分かりましたか?

わかった人は凄いですね。

この曲は、ホルスト・ヴェッセルの「Die Fahne hoch!」日本語訳しますと「旗を高く掲げよ!」になります。

ピンと来た方も居られるかと思います。この曲はナチス党(国家社会主義ドイツ労働者党)の党歌です。

本来は、ホルストがゲッペルズの創刊した『デア・アングリフ』と言う新聞に掲載された詩でホルストが凶弾に倒れた際に、歌詞が付けられた物のようです。


まぁ、少佐はナチ党とヒトラーの事は嫌いですが、どうやらこのメロディーはお好きなようです


『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ

このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!

正解しても何も無いけどね。

それでは行きます!


『馨香』


これはなんと読むのでしょうか!

出来ればパソコンで調べるのはやめましょう。

そして、前回の答えの発表です!


『赫焉』と書きまして、『かくえん』と読みます。

かくえんとは、火が赤々と燃え上がる様子を表す言葉です。

また、炎が光り輝く様も表しています。』

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