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鋼鉄のフロイライン  作者: 九十九 大和
第三章 休日の過ごし方
13/28

休日の過ごし方(1)

諸君、アハトゥンク!

今回は「喪女」をそっちのけで書いてしまったので、更新出来ました。

今回から、第三章が始まります。第三章は、殺伐とした話は少な目で行こうと思っていますので、どうぞよろしく。

ちなみに、今回はクイズがありません。

濃密な霧が立ち込め、生地が分厚い筈のテントの中は肌寒い空気が満ちている。

外からは虫の音一つせず、このテントの主の安眠を妨げるような命知らずはいない。


そのテントの隅に鎮座している、武骨で簡素な木製のベッドに似合わない、中央が膨らんでいるピンク色の掛け布団が、一定感覚でモゾモゾと蠢いていた。


掛け布団の下に誰かが入っている事は間違いないのだが、明らかに怪しいので、好奇心旺盛な者か怖いもの知らずくらいしか、布団を捲ろうとはしないだろう。


それから数回モゾモゾと蠢いたあと、枕の方にニョキッと頭が生えた。


「うむ、眠れん」


このテントの主はそう呟くと、寝癖でボサボサの銀髪をガリガリと掻いて、外見に見合った可愛らしい欠伸を吐いては、白い飾りっ気の無い下着姿でテントから這い出した。





何故だ…眠い筈なのに身体が火照って疼く。

そうだ…シューリーの所に行こう…


火照った身体に冷たい山風が気持ちよい。

ふと空を見上げると、霧が途切れて満天の星空が見れた。

溜め息が自然に漏れるほどに、各々が自由気儘に輝き栄えている様は、百万ライヒスマルクを払っても良いと思える程美しい。

直ぐに濃霧がサッと星空を隠してしまったが、久々に良いものを見た気がする。


よろよろと両手を突き出して、危なっかしげに眠け眼でシューリーのテントを目指す。

トンと冷たいコンクリート製の壁に手が触れた。

どうやら格納庫に着いたらしい。

そのまま壁伝いに進んで行き、何も考えずに格納庫の中に侵入する。


倉庫の中も濃霧が侵入しているようで、暗い上に視界が悪くて躓いて転けてしまった。

転けた拍子に何か布の様な物を両手で擦ったが、あまり気にせず頭にのし掛かっている布を払い除けて立ち上がると、ほぼ真っ暗なテントの中で、何となく寝台に寝っ転がる人の形が見える。


よたよたと近付いて、首許まで被っていた毛布を引き剥がした。

だが、一向に起きる気配はしない。


……うむ、『シューリー』は爆睡しているな…


そっと『シューリー』に手を伸ばすと、プニィと軟らかいが張りの有る弾力がした。

結構大きい。


……むう、『シューリー』のヤツ…いつの間にこんな育ってしまって…まぁ、私のは慎ましくて中々なものだかな。悔しくなんか無いって、何を考えているんだ…


取り敢えず、しっかりと揉んでおく事にした。

手に収まらない程だったのは驚きだが、今はあまり考えずに身体の火照りを取る事を優先する。

肩周りの凝りを解すように指を這わせつつ、『シューリー』に覆い被さって、首筋に唇を這わせた。


そこで初めて反応があった。

ピクンと『シューリー』が小さく動いた。


「……Eー75…」


小さい寝言だったが、意味が分からない。

どうやら考えるにE計画の型番らしいが、聞いたことがない。


…はて、そんな戦車有ったか?

しかし、なぜ『シューリー』がそんな事を知っているんだ?


疑問に思いつつも、首筋にキスの雨を降らし続ける。

さらに、耳たぶを甘噛みしては吸う。

が、しかし起きる気配が無い。

よっぽど爆睡しているらしい。


これは好都合なので、片手で胸を鷲掴みしながら、もう片手で『シューリー』の頭を抱いて、軽く唇を貪った。

舌で唇をそっとこじ開け、下を『シューリー』の口内に侵入させ、舌を絡めさせては唾液を交換する。

口を離すと、ねっとりと唾液が舌の先端から糸を引き、微かな光源に反射して淫靡に光った。

次に下半身の方へと手を滑らせたところで不自然な睡魔に襲われた。

今まで眠たくても眠れなかったのにだ。

しかも、こんな良いところで…


「おのれ、これから良いところなのに……駄目だ…………眠い」


『シューリー』に抱き着きながら、毛布を掛け直して、微睡みの中に沈んだ。






博士の朝は早い。

空が白み始めると同時に、寒さにより目が醒め、着ている服と白衣を清潔な物に換えると、早速それを洗濯して干す。

流石に、皆がまだ寝ている早朝から機械を操って、騒音を撒き散らしたりする程博士は常識を踏み外してはいない……はずだ。


だが、今日は何時もと違って博士の目覚めが遅い。

太陽が昇り始めて、早起きな隊員がちらほら起き始め出したが、そこで彼女等は何時もと違う事に気が付いた。

そう、何時も格納庫の入り口付近に天日干しにされている筈の博士の衣類が見当たらないのだ。

それに、何時も朝に格納庫から響いてくる筈の、気味の悪い笑い声が聞こえて来ないのだ。

怪しいが親しみのある博士が心配になった早起き組は、本来は止められているが、博士のテントを確認してみる事にした。

びくびくしながら、数人のフロイライン達が格納庫の入り口を覗いたその時だった。

テントの中から、正にこの世のモノとは思えない悲鳴が響き渡ったのだった。


「イッヒィィィィィィィイイイイィィィイイィィィッッッ!!!!」


あまりの怖さに一人が泡を吹いて失神し、二人がへたりこんで放心しながら失禁し、残りは泣きながら逃げ去った。


もちろん、悲鳴は博士のものだが、悲しきかな彼女達には悲鳴と取られなかった。


何故、こんな悲鳴を博士があげたかと言うと、何時もなら寒さで目が醒めるのだが、今日は何故か圧迫されるような息苦しさを感じて目覚めた博士。そして不可思議に温い身体。

何かおかしいと思った博士は、身体を起こそうとした時に異変に気付いたのだった。

自分が掛けている毛布の一部が盛り上がっていることに……

何かが自分の寝台に居る事は確かなのだが、毛布を捲ってはいけないと、技術屋の頭が警鐘をガンガン鳴らすが、研究者の心が好奇心に負け、そっと毛布の端を持ち上げてから直ぐに下ろした。

これは見間違いに違いない、きっと夢なのだと自分に言い聞かせつつ、手の届く位置に置いてある瓶底眼鏡を掛けてから、もう一度毛布を捲る。


やはり夢では無かった。

確かにそれは、自分の腹部に抱き着いていた。

そこで博士が決壊したのだった。


悲鳴があがり、元凶が起き出した。


「うむぅ……なんの騒ぎだ?シューリー……」


眠たげに眼を両手の甲で擦り、大きな欠伸と伸びをして、少佐は毛布から這い出した。

もちろん、下着しか着けていない。

この濡れ場とも言える現場に、少佐と『やりまくりたいらしい』総統閣下が居合わせたらこう言っているだろう。


『畜生めぇぇぇぇぇぇっ!!』


だが残念、ここはそれが叶わぬ異世界である。

頑張れ総統閣下!


「……ん?なんで博士が居るんだ?と言うか、何故私が博士と一緒に寝ていたんだ?シューリーの寝台に忍び込んだと思ったのだが……」

「………イヒヒヒ…それは私の台詞だねぇ少佐。説明したまえ」

「ふむ、身体が火照って眠れなかったから、シューリーで慰めようとして……そう言えば、何故私は格納庫なんかに入ったんだ?」

「………イヒヒヒ」

「それで、博士をシューリーと思い込んで……」

「何をしたのかねぇ…私にイヒヒヒ」

「…ふむ、キスと胸を揉んだ気がするな。博士は意外に持っているんだな」


ピシッと博士が固まり、視線が胸元へ落ちる。

博士の首筋には、幾つものキスマークがあった。

そして、博士は自分の胸を掬い上げるように両腕でたゆんと持ち上げた。

首を捻りつつ、暫く少佐の目の前でたゆんたゆんと上下させたところで…


「私への当て付けかっ!?博士、良い度胸しているな!!」


ついに少佐が涙目で吠え、博士は不気味な笑い声でそれをいなしていると、何事かと十四年式拳銃を片手にミヤビがテントに乱入し、少佐の姿を見ては錯乱して博士に拳銃を乱射するという事件に発展した。

もちろん、博士に銃弾の一発も当たる筈がなく、その拳銃乱射事件にちゃっかり巻き込まれ、危うく蜂の巣にされるところだった少佐は、すこぶる機嫌が悪くなり本物のシューリーに宥められる結果に終わった。

ちなみに、錯乱して拳銃を乱射したミヤビは、鎖で簀巻きにされたあとに、少佐自らが営倉にぶちこみ、1日の謹慎処分にされた。

ぶっちゃけ、真の加害者は少佐である。






「おはようございます。ショウサ様」

「お、おはようございます!」

「ああ、おはよう」


博士のテントから自分のテントに戻ると、入り口でメイド長と大剣メイドが揃って並び、恭しく頭を下げた。

言わずともなが、メイド長のお辞儀は洗練されている、一種の技能だ。

腰を折りつつも背筋が恐ろしいほど真っ直ぐで、どこでバランスを取っているのか甚だ疑問である。


こちらは片手を軽く挙げて応じ、二人に近付いた。

大剣メイドは私を見て顔を赤くして背け、メイド長の咳払いで慌て元に戻すが、直ぐに下を向いてしまって呆れられている。


「ま、まぁ立ち話もなんだ。大した物も無いが入ってくれ」

「ありがとうございます」

「あ、ありがとうございます!」


大剣メイドがガチガチに固まって緊張しており、思わず苦笑してしまう。


ふむ、やはり何か洒落たものでも有った方が良いのかも知れんな。

他人を呼んだ時に、意外に困るな…


テントは司令部用の大天幕なのだが、何を置いて良いのか分からず、結局ベッドと机とタンスしかない。


空間が空きすぎていて、勿体無いとは思ってはいるが……何を置けば良いのか分からん…


二人をテントに招き入れ、博士から借りた士官服を脱いではタンスから正装を取り出して着込む。


やはり、この格好が一番しっくり来るな。

まぁ、なんだかんだ言って毎日この姿をしているからなぁ…


タンスの中には、黒のSS士官が十着ほど入っている。

着ては洗ってを繰り返しているのだ。

やはり清潔なのが一番だな。


着替え終わったので、二人に椅子を勧めるが、やんわりと断られてしまった。


「取り敢えず一杯いくか?」


さすがに部下になったとは言え、何も出さないのは意に反するので、私が机の引き出しの奥に大事にしまってある二十年物のバーボンウィスキーを取り出し、コルク栓を抜いてグラスに少しだけ注ぐ。


「いえ、私共は「頂きます!」…貴女は……」


メイド長はやはり断ろうとしたが、大剣メイドがそれを遮って、見よう見まねで不恰好な敬礼をした。

私はそれに微笑ましさを感じ、再び苦笑を漏らしつつ、バーボンウィスキーが入ったグラスを二つ手渡した。


メイド長と大剣メイドは、渡されたグラスを見て驚いている。

渡したグラスは、昔にヴェネチアで購入した安いヴェネチアングラスだ。

薄い青色と赤色と緑色の三つが中々味が出ていて、買ってしまったのだが、結構気に入っている。


「どうだ?安物だが良い色をしているだろう」

「…えぇ、素晴らしい一品でございます」

「メイド長様!凄い良い香りがしますよ、このお酒」


目をキラキラさせて、ヴェネチアングラスを見ていた大剣メイドは、バーボンウィスキーの芳醇な香りに気が付いたらしい。

まだ二十年しか経っていない比較的若い物だが、熟れた果物のような香りこそしないものの、樽木の香りと少し角の取れた口当たりは、次の一杯がどうしても欲しくなってしまう魅力を持っている。


「これはバーボンウィスキーと言ってな、美味いぞ?」

「…ショウサ様には、本当に驚かされます」

「飽きないだろう?」

「えぇ、実に……」

「ふむ、まぁとにかく乾杯と洒落込もう。これ一杯しかやれんが」

「はい」

「えっ…」

「さすがにコイツは難しいが、ビールとエールくらいは貯蔵庫に有るから、後で飲み明かすかね?」

「はい!是非!!」

「良い返事だ。勝利に!!」

「「勝利に!」」


グラスを一息に煽り、焼けるような液体を燕下する。

まるで液体が熱を持っているみたいに、バーボンウィスキーが通過したところが熱い。

胃袋がカッとして、口から鼻に香りが通り抜けた。


さすがにメイド長は歳だから、一息に煽るような事はしなかったが、三口程で飲みきり、件の大剣メイドは真似して煽ったは良いが、度数のキツさに噎せている。

初めて飲むような人間にはキツいだろう。


程よく体の芯が温まったところで、本題を促す。


「それで?私に何か用が有ったんじゃないか?」

「そうでした。危うく目的を忘れる所でした。実は、この娘をショウサ様の侍女にして頂きたく」

「侍女か……正直言えば、私はあまり必要としないが、どうしてだ?ここに残ると言う事は、街へは戻らないと言う事だぞ?今は霧が濃いから自由に出歩かせているが」

「はい、それは重々承知しております」

「……成る程、すべては言わなくて良い。あまり楽しく無いかも知れんが、宜しく頼む」


「は、はい!」

「…ありがとうございます」


二人共ほっとした顔をして、緊張していた肩が下がった。


「それで、メイド長はどうするのだ?」

「はい、私はここでは無いところでお世話になりたく存じます」


メイド長が山を下るとなると、ここには果たして何人残るものか…

まぁどちらでも良いか。

何時も通りかそうではないかの差だからな。


考えるだけ徒労に終わりそうなので、深く考えるのは止めた。


「さて、これから私は行く所が有るのだが、君たちはどうする?」

「はい、それでは一度、私共は戻ります」

「了解した」


頭を下げた二人は、私のテントから出ていった。

急に静けさを取り戻したテントの中で、グラスの片付けと博士から借りた上着をハンガーから下げる。

そこであることに気付いた。

上着はごく一般的な若草色の軍服だが、何故か襟元の階級章と肩章がむしり取られている。

これは一体どういうことなのだろう。


ここに博士は居ないので、後で聞いてみよう。





私は、格納庫に設けられた通信室の椅子に座って、じっと待っている。

これが用事なのだが、一向に来る気配が無い。

かれこれ私は、この椅子に座って目の前の机に肘を着いて三十分が経っている。

ミヤビを使いに出したのだが、何処で道草を食っているのやら……しばき倒す必要があるか?


あまりに暇すぎて、机の上に紙と一緒に置かれた万年筆を手に取り、無駄にインクを滲ませてみたり、分解させては組み立ててみたりする。


そうする事十分、やっと扉が叩かれ、ミヤビと日本人が入ってきた。


「随分と遅かったじゃないか。私を待たせるとは良い度胸だな。え?」

「すすすすみませんであります!!同郷のよしみで話が弾んでしまいました!」


……そう言う事もある、か。


「はぁぁ…まぁ、ミヤビは我が隊唯一の日本人だからな。そう考えると積もる話しもあるだろう。今回は許そう」

「少佐殿!ありがたくあります!!」


ミヤビはローマ式敬礼をするが、後ろにいる日本人は怪訝な顔をしてミヤビを見ている。

まぁ、言葉が分からないから当然だろう。


「では通訳を頼むぞミヤビ」

「はい」


私の向かい側に日本人将校を座らせる。

ちらりと日本人の顔を見やると、それに気づいてか、曖昧な笑みを返してきた。

日本人特有の薄い顔付きで、眉毛はキリッとしていて力強さを感じさせ、引き締まっている頬から顎にかけては、やはり男なのだなと思わせるものがある。中々にいい男だ。

そして、今からその彼に尋問を始めるのだ。

まぁ尋問と言っても、ただの当たり障りのない質問を幾つかするだけだがな。


『では始めよう。先ずは君の名前が知りたい』

『はい。自分の名前は天城晴明であります』


アマギハルアキか…

ふむ、ハルアキ…良い響きじゃないか。


万年筆で、紙に名前を書き込む。


『次だが、所属は?』

『はい。大日本帝国陸軍ガダルカナル島基地対空防衛守備隊第二中隊隊長であります』


な、長いな…が、ガダルカナル島基地…守備ぃ……忘れた。まぁ良いか。


適当に紙には日本陸軍と書いておく。


『階級は大尉だったか?』

『そうであります』


大尉か…イェーガーと同じだな。


『生まれは日本の何処だ?』

『帝都東京の浅草であります』


トウキョウのアサクサだな。

日本か…皇帝を頂点とする軍事国家だったな。

一度行ってみたいものだ。

マイコとやらに興味がある。


『ふむ、では家族はいるか?』

『はい、祖母に父と母が…それと歳の離れた弟と妹がおります』


六人家族とは…これはまた大家族だな。

結構な事じゃないか。


『君は…どうやってこちらに来た?』


一瞬、ハルアキの顔が曇るのを見逃さなかった。

暫く沈黙が続いたが、根気よく彼が自分から話してくれるのを待っていると、ポツポツと話してくれた。


『自分はガダルカナル島基地の滑走路を航空機の爆撃から防衛する、対空機銃陣地の指揮を取っていました。その日の朝はとても静かで穏やかだったのでしたが、深夜に見張りから警鐘が鳴らされ、何時もの訓練通りに機銃陣地の一つに入ったのです。段々アメ公のエンジンの音が近付いて来て、密林の向こうからドーントレスとヘルキャットが姿を現したので、滑走路上空まで来る前に撃墜すべく撃ち方を始めたのです。ですが、奮戦虚しく数機しか撃墜出来ず、最期に見た光景は頭上に敵機の25番が落ちてくるところでした。次の瞬間には既に草原に居たのです』

『25番とは?』

『250kg爆弾の事です』


ふむ……死んだと思ったら草原に居たか。

どうなっているのやらさっぱりだな。まず情報が圧倒的に足りない。

かと言って、私が夢に見たあのクソ忌々しい甲冑女の事を言っても、狂人としか思われん。


『そうか…災難だったな。最期に聞きたいのだが……君は酒が飲めるか?』





一切の穢れもない綺麗な風が頬を撫でた。

眼下には緑豊かな森と若草色の草原、そして白い漆喰が日の光で白亜の輝きを放っている街が見える。

空は懐かしい程深い蒼色をしていた。


気が付いたら私は格納庫の屋上に居た。

最近設けられた二つの長いベンチに座りながら、背もたれに身を預けている。

わざと頭の中を空っぽにして、美味い空気を堪能しては、風を全身で感じる。


「こんな所に居たのか少佐」


急に後ろから抱き締められた。

柔らかくて大きい乳が両肩に乗せられる。

コメカミがピクピクと痙攣するのが分かった。


「イェーガー…それは私に喧嘩を売っているのか?買うぞその喧嘩」

「おいおい、冗談は止してくれよ。少佐とやったら命が幾つ有っても足りない」


とか何とか言いつつも、片手が頻りに私の胸を愛撫し続けている。


「…殴って良いか?」

「まぁ起こりなさんな。減るもんじゃ無いだろ?」

「それで?私に何の用だ?」

「まぁ色々とね」


イェーガーが隣に座って、煙草に火を点けて一服し始めた。

何時もの通りに一本勧めて来るが、何時もの通りに断る。


「少佐は本当に吸わないんだな」

「まあな。私は美味いとは思えん。それに、この隊で吸っているのはお前だけだぞイェーガー」

「ん?マリアが吸ってるだろ」

「あいつは最近止めたぞ。何でも知り合いが癌になったそうだ」

「はん。ソイツは単に運が無かったんだな。それよりも少佐、インディアンポーカーしないか?」

「また賭けるのか?」

「もちろん。だが今回はライヒスマルクじゃなく、こっちの金貨さね」

「お前、金貨なんか持ってたか?」

「あぁ、ちょちょいとババ抜きで巻き上げてね」

「……はぁ、どうせ無理矢理インディアンポーカーやらせるんだろう?」

「よく分かっていらっしゃる」


ニマニマしながら、何処からともなく真っ白なカードを取り出した。


「トランプじゃないのか?」

「今日は趣旨を変えたい気分なんでね」

「ではあと二人欲しいところだな………ナハト!ネルケ!上がってこい!」


下を覗き込んだら、ちょうど真下をネルケとナハトが歩いていたので、呼び掛ける。

こちらに気付いたらしく、片手を挙げて手信号を送ってきた。

『そちらに向かう』だそうだ。


すぐに階段を駆け上がる音がして、ひょっこり二人が姿を現した。


「たいちょー、呼びました?」

「あぁ、何だかイェーガーが少し変わったインディアンポーカーをするみたいなのだが、人が足りなくてな」

「なるほど!でも大尉強いしなぁ~」


ナハトの返事をネルケが受け継ぐ。

ネルケが言った事はもっともで、イェーガーにはなかなか勝つことが出来ない。


「イエーガー、内容の説明を求む」

「了解少佐。まず、この白紙のトランプを全員に配るから、他人に見えないようにお題のテーマに沿った事を書いてくれ。そうしたら、トランプを伏せて自分から右の奴に渡す。そして、自分の持っているトランプに書かれている内容を当てるんだ。他人に質問して良いのは4回までだな」


そういって、大きい乳の谷間から白紙のカードの束を取り出して全員に見せた。

何処にでも売ってそうなものだ。


「うへぇ、なんか難しそうだなぁ」

「まぁそう言いなさんなって、ネルケ」

「じゃあ、その代わりお題はボクが決めるって事で」


ほう、その手があったか。

俗に言うハンデなるものだな。

英語ではハンディキャップってヤツだ。


「う~ん、まぁ良いだろう。どうせナハトには勝てるし」

「ちょっ!?私カモなの!?イェーガー姉、訂正を求む!!」

「却下する。プフフ、だってそのままじゃないかさ」

「ひどーい!!」


ぷくぅと拗ねた様に両頬を膨らませたナハトは、ポコポコとイェーガーの背中を軽く叩いて、反逆の意思を見せた。


「いい加減ナハトも諦めようよぉ。はいはい!では先にお題だけ言いますねぇ!お題は、映画!」


呆れながらナハトに言ったネルケは、気を取り直して先にお題だけ言った。


イェーガーを叩くのを止めたナハトは、若干涙目になりながら大人しくこっちに近付いて来た。


「じゃあ車座を組もうか」

「床に座るのか?」

「もちろん!」


仕方無いのでベンチから立ち上がり、屋上の真ん中に進む。

そこで円く座り、一枚づつ白紙のカードをイェーガーから配られた。


「じゃあ、先ずは他人に見えないように白紙のトランプに映画の名前を書き込むんだ。それから自分の右のヤツに回していく」

「成る程、分かった」


ちなみに私の左がナハトで右がイェーガーだ。

ふむ、ここで一つイェーガーに対する恨みを晴らそうではないか。


「書けたかな?」

「問題ない」

「よっし」

「ぐふふ」


何か裏がありそうなナハトから、裏っ返しにカードが回ってきた。


「回ったな。じゃあトランプの下を舐めて額に貼り付けるろ。絶対に表を見るなよ」


言われた通りに裏の下を舐めて、ペタリと額に貼り付ける。

さっそくネルケとナハトが私達の頭に貼り付けられたカードを見て、クスクス笑い始めた。


「プーックスクス」

「悪意を感じるぅ!」


一体ナハトは何て書いたんだ……

ネルケの額のカードには、アルセーヌ=ルパン。

ナハトの額にはロビンソン=クルーソー。

私は不明。

そして、イェーガーの額にはキングコングだ。

我ながら傑作を書いたと思うぞ。


「よーし、じゃあボクから始めるね」

「良いぞ」


ペロリと唇を舐めて湿らしたネルケは、質問を開始した。


「主人公は女の人!」

「違うな」

「違う違う!」

「違うぞ」


「じゃあ、次は…主人公は紳士!」

「ああ」

「そそ」

「確かに紳士だな」


「よしよぅし…主人公は女好き!」

「好きだな」

「好き好き!少佐みたいに」

「おい」

「まぁまぁ」


「主人公は強い!」

「強いな」

「かなり…」

「少佐には負けるんじゃないか?…ほら、答えを言うんだ」


「うーん……分かった!シャーロックホームズ!」

「残念!!」

「おしーい!」

「残念だなぁ」

「えぇ~、自信あったんだけどなぁ。うわっ、宿敵の方かぁ」


ナハトが元気に手を挙げた。


「じゃあ、次はナハトの番!私は男の人!」

「そうだ」

「そうそう」

「ああ」


「えっと、私は冒険家!」

「冒険家か?ヤツは」

「難しいねぇ」

「まぁ、そっち方面な内容なのは確かだな」


「私は漂流したりする!」

「鋭いな」

「結構苦労するかなぁ」

「私はこうはなりたくないよなぁ。煙草吸えなくなるし」


「分かったー!シンドバットの冒険だ!」

「はい、残念だったな」

「あらら~、押しがよわぁい」

「よしよし、私の読み通りじゃないかぁ。今回は私が金貨は頂きだぜ」


舌舐めずりしたイェーガーが、二本目の煙草に火を点けて、得意気に笑う。


「行くぞ、私は奴隷だ」

「ああ」

「奴隷かなぁ」

「似たよーなものじゃない?」


「よしよし、無理矢理海を渡って大陸へ」

「あぁ、本人の意思は関係無くな」

「少佐の言う通りかなぁ」

「確かに…」


したり顔をしたイェーガーが、いかにも分かった様に両手を擦る。


「最後だ、私は黒人!」

「違う」

「違う」

「違う」


「くそったれ!キングコングだ!!少佐、含んだな!!」

「がさつな所がそっくりではないか!」

「た、確かにぃ…あはははっ!」

「たいちょーやるぅ!」

「少佐、覚えてろ!」

「まぁ落ち着け。イェーガーは質問三回で終わったな。次は私の番だ」


ふむ、どうせナハトが書いたカードだ。それを見て笑ってたとなると、先ずは人間かどうかを疑った方が良いな。


「では最初に、私は人間か?」

「…違う」

「うーん、違うよねぇ」

「ぐふふ、似合ってるかも」


やはり人間ではないか。


「うむ…では、私は強いか?」

「強いな…私は勝てない」

「強いなぁ」

「無理無理ぃー、だって死なな…ムグ」


「ほほぅ、成る程分かったぞ。私はノスフェラトゥ(不死者)だ」

「ぐわぁぁ!少佐なんぞに負けたぁぁっ!!」

「ナハトぉ、しっかりしてよ」

「あ、あははは…まぁ、そう言う事もあるよねぇ」


悔しがるイェーガーから金貨を三枚程巻き上げ、更にインディアンポーカーが白熱した。

以外にも、私に運が向いてきたようで、更にその日は4枚の金貨をイェーガーから巻き上げてやった。

こう言うのも良いな。

そうこうしていると、数人の部下たちが屋上に上がってきて、いつの間にか最初の3倍の人数でやっており、それは日が傾くまで続いた。


天城大尉の居た部隊は存在しませんのであしからず。

「attention please! この作品に出て来る団体・宗教・企業・一部の部隊は存在しません。

ガ島には飛行場こそありましたが、対空陣地は無いと思われます。

調べてみてはいるのですが、あまり詳しい情報が無いのでこのような結果になってしまいました。大変申し訳ありません by作者より皆様に愛を籠めて」


少佐の行動に関しての、改善点を求む!

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