プロローグ
諸君、アハトゥンク!
私の作品を見て下さったことのある方は、なんだ、また異世界トリップものか…などと思われるでしょうが、ご容赦を。
尚、この作品は 戦闘4:日常4:お笑い1:エロ1(百合)でお送りして行きたいと思っております。
最後に、プロローグと本編の書き方は全く違いますので、出来れば次を見て頂けたら幸いです。
月も雲に隠れ、漆黒に支配されている夜の草原を、六両の戦車が土煙を巻き上げながら疾駆する。
草木を掻き分け、くぐもったエンジンの唸りだけが草原に響く唯一の音だ。
きちんと隊列を組み、先が見えない暗闇の中をライトも灯さずに常に一定の距離を保ちながら楔型隊形を維持して全速力で走行する姿は、とても高い練度を持ち合わせている事を証明している。
月明かりも星の瞬きさえも存在しない草原では一寸先は闇と言っても過言ではない。
その鋼の身体を灰色に塗装している戦車達は、目的も無くただひたすらに夜の草原を走っている訳ではない。
勿論、目的地に向けて走っているのである。
六両の戦車達が目指しているのは、遥か前方に見える幾つもの小さな光だ。
殆ど光のない草原ではそれはまるで夜空に浮かぶ一等星の様に煌めき、鋼鉄の軍馬等を導いて行く。
無論、その光は決してそれらを導く為に灯されている訳ではない。夜の凍える様な寒さを凌ぐ為に、兵士達が薪をしている光だ。
だが彼らが気付く事は無い。
自らを寒さから守る為に焚いている火が、知らぬ間に自分たちに牙を剥いていることに。
その炎がこちらに疾走している六両の戦車のを導き、刻一刻と彼らに死を齎らさんが為に刃を研いている死神が、己の傍らに座ってせせら嗤っている事に…
月も星も無く、光源は背後で揺らめく炎だけ。
その光も五メートルも離れてしまうと、お互いに何処に居るのかも分からなくなってしまう。それ程今夜はとても濃密な闇に支配されている。
猛禽類や夜行性の獣の類いでもない限り、漆黒の草原を見通す事は出来ないだろう。
いくら歩哨を立たせた所で、人間の眼には限界があるからだ。
それは、箱の中に入っているモノを透視しろと言っているようなものである。
それに、真夜中の歩哨に立っていた兵士達は、日中の無理な徒行軍の所為で、常に睡魔に襲われて余り機能していなかった。
勿論、彼等も処罰を受けたくないので我慢をしているが、背後で仲間が焚いている炎の揺らめきが、とても強く歩哨を眠りの世界に誘っているのだ。
歩哨達が小さな唸りとして近付いてくるエンジン音に気が付いた時には時既に遅く、矛先が目と鼻の先にまで迫った時にやっと彼らはそれらの存在に気付く。
迫る戦車を前に、ただ茫然と立ち尽くす歩哨を象が蟻を踏みつぶすかの様に轢殺し、次々に彼らの野営地に突入しては死を振り撒き始める。
上がるのは怒号と悲鳴、吐き出されるのは戦車の砲口から轟く轟音と、撃ち出された榴弾の炸裂音。
それら全てが調和し、初めて戦場音楽を奏で始めるのだ。
六両の戦車のオーケストラが紡ぎ出す旋律に、被害者たる兵士達が奏でるコーラスが生み出したメロディが一つになり、シンフォニーへと昇華する。やがて戦場に送り出されたシンフォニーは、力強く華やかで、燃えるように情熱的で美しく舞う。
その狂気を孕む狂想曲は聴く者を魅了させ、戦場へと伝播する。
狂想曲が伝播した野営地は瞬く間に潰乱し、阿鼻叫喚の地獄絵図へとその姿を変えた。
もし、彼らがきちんと訓練を受け、戦争を食い物にしている職業軍人達の集まりであれば、この素晴らしき地獄へと変貌を遂げる事は無かったかも知れない。
しかし、哀れにも職業軍人は少なく、彼らのほとんどは単なる徴集兵であり、つい先日まで農夫や新聞記者、炭鉱労働者やパン屋だった彼らには、これを撃退する力はおろか、押し留める力さえも持ち合わせては無かったのだ。
さらに言えば、皆疲れ切って既に床に就いていた所為も大きく働いている。
詰まる所、天は彼等に味方しなかったのである。
だが、そんな彼らの事情など意にも介さず、その鋼鉄の巨体で天幕を引き裂き、逃げ惑う背中に鉛玉をくれてやり、転けた運の無い兵士を履帯で挽き肉に変えて行く。
ちらほらと、健気にも雑多な小火器で立ち向かう兵士や手榴弾を投げる兵士もいたが、小さな口径の砲弾さえも弾き返す強固な装甲に小銃弾が装甲を貫ける筈もなく、小気味の良い音を奏でながら弾き返され、小さな手榴弾は苦もなく回避されるだけだった。
しかし、薪の明かりしか無くただでさえ暗いのにも関わらず、地面に投げられた拳程の手榴弾を回避する技量は、もはや練度うんぬんの話ではなく、天才的な何かを感じさせる。
そんな化け物じみた戦車が六両もいるのだ。
それは争いではなくなり虐殺に変わるのも、さして時間は掛からなかった。
一方的に死を量産し続けるそれらに立ち向かう勇気ある者等は既におらず、我先にと同僚を押し分け暗闇に逃げ出す。
そんな彼等の中には、戦車に立ち向かうように怒鳴り声を上げ、逃げる兵士の背中を拳銃で次々に撃つ士官達が現れ、それを見た兵士達が士官を次々にライフルで射殺し始め、他では押された拍子に倒れてしまった者が、後続の兵士達に次々と踏まれて息絶えてしまったりもしている。
一時間もする頃には、薪の火が装備や倒された天幕に燃え移り、それらが息絶えた兵士に燃え移って、火がどんどん大きくなり、辺りが煌々と照らされる。明るくなると同時に、人肉や装備品が焼ける酷い臭いが漂い始め、呼吸をするのも止めたくなる程に醜悪な臭いに発展する。
ほとんどの者は、殺戮の恐怖に打ち勝つ事が出来ず、持ち場を放棄して暗い夜の草原へと散り散りに逃げ出してしまった。
生気の無い陣地の地面に、無惨にも横たわっているのは、死んでいる者か今にも死にそうな者だけになっている。
それは、手足を榴弾で吹き飛ばされ、失血で死んだ者。破片を頭に食らい、頭部の上半分が千切れ飛んで脳髄を地面にぶちまけて死んだ者。機銃弾を食らい、仲の良かった同僚と折り重なる様にして死んだ者。転けた拍子に両足を戦車に踏まれ失い、失血で意識を失いそうになりながらも恋人の写真を見詰め、名を呼び、最後にお母さんと一言だけ呟いて意識を失う者。榴弾の破片で腹部が切り裂かれ、溢れ出たはらわたを、笑いながらかき集める者。
その数を数え上げたらきりが無い。
気が付くと、木が燃えて爆ぜるパチパチという音と、微かに聴こえる呻き声以外に野営地は静まり帰っていた。
紅蓮の炎に照らされた、一両の戦車のコマンダーキューポラ上部のハッチが開き、頭がスッと音もなく出て来る。
それは、ハッとするような美少女で、肩口で切り揃えられた輝く様な銀色の髪に、透き通る様な白い肌。真っ直ぐに結ばれた口許に、冷徹な印象を与えるキリッとした眼。そして、翡翠の如き深緑の瞳。
銀髪と対照的な黒い士官服に真ん中に銀のラインが入った黒い略帽。
そして、左腕に銀のピンで留められた赤色の腕章。
その腕章に描かれた黒色の鉤十字。
そのどれを取っても彼女の美しさを損なうものは無い。むしろ、その一つ一つが彼女を引き立ててすらいる。
彼女は、自らが作り上げた地獄をグルリと眺め、ニヤリと口の端を歪めて満足気に笑った。炎の赤色を反射した美しい銀髪が、キラキラと金剛石の様に煌めく。
戦乙女の如く場を支配した彼女の近くで、今にも息絶えようとしていた一人の兵士が、霞む視界の中で彼女を捉える。
彼は、彼女をこの世の物とは思えない程美しいと思ったのと同時に、とても醜悪で醜いとも思った。
疲れて寝静まっていた自分達を襲い、無差別に殺し、一切の躊躇無く蹂躙し尽くした憎むべき敵が、なんと少女が指揮する戦車だったのだ。
これが憎いと思わないだろうか。答えは否である。
死に逝く彼の脳裏に激しい憎悪の炎が燃え盛り、一つの奇跡を起こした。
失血により既に言う事を聞かなかった筈の右手が震えながら持ち上がり、左の腰に装備してある拳銃を静かに引き抜く。
己に残された僅かな魂の炎を燃やし、文字通り最後の力を振り絞って、ゆっくりと照準を少女の頭部に合わせ、息を吸い込む。
まだ少女はこちらに気付いてはいない。
好機は今しかなかった。
引き金を引く人差し指に力が籠められ、引き金に連動して撃鉄が雷管を叩いた。
パンッ
弾丸が発射される乾いた音が鳴り響き、血が宙に飛び散った。
彼の腕から力が抜ける。
彼には何が起きたのか理解出来なかった。いや、出来なかった。
最後まで理解する事無くこの世を去った。
少女には傷一つ無く、彼女の手には一丁の無骨なモーゼルが硝煙を上げていた。銃口の先には、一人の拳銃を握った兵士。
頭部には穴が開き、もたれ掛かっていた天幕の残骸に、己の血で鮮やかに飾っていた。
最後に彼が、死に際に僅かな命を燃やして放った復讐の弾丸は、遂に当たる事は無かったのだ。
少女は自分が射殺した兵士に一瞥もくれずに、戦車の中へと戻って行った。
停止していたエンジンに再び火が入り、低い唸りを上げて地獄から仲間を連れて引き返して行く。
光の無い虚ろな彼の瞳が、去り行く死神の後姿をじっと見つめていた。
死神達が去った後には、死以外に何も残る事はなかった。
さて、この作品は少なからず「ジパング」や「ゲート~自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」、そして「ガールズ&パンツァー」等々に少なからず影響を受けた作品になっとります。
分かった方もいらしたりして…
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『何それ漢字豆知識クイズー!パチパチパチ
このコーナーでは、普通使わない単語やトリビアな漢字の読み方とかを出題します!
正解しても何も無いけどね。
それでは行きます!
『戴勝』
これはなんと読むのでしょうか!
出来ればパソコンで調べるのはやめましょう』




