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桃と少年 少女と猿

新作です。お手柔らかに…



かつて、幼いころ昔話や童話に誰もが親しんだことがあるだろう…



桃太郎…


金太郎…


かぐや姫…


シンデレラ…


眠れる森の美女…


白雪姫…


西遊記…



どれも皆、聞けば懐かしいと思うだろう。


もし、これらが全部昔に本当にあったとしたら…



その物語の登場人物たちが現代に転生していたら……





これは、そんな世界の物語である。






~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



第一話『桃と猿』





宮本邸…


それは宮本道三が構える道場兼、和風な造りの豪邸である。弟子はそこそこ……道三がかつて剣道で世界チャンピオンになったことが影響しており、そのことは彼の家族にも少なからず影響していた…。






「えい、やあ、とう!」


道場で竹刀を振るうまだ、幼いポニーテールの可愛らしい少女。道三の娘、『宮本百華みやもとももか』である。

彼女も父に憧れ剣道を志すもその幼さがあまり両親は反対し、竹刀を握らせてもらえなかった…。

でも、今日は両親も暑苦しい弟子たちもいない。そこで道場にこっそり忍び込み、1人で秘密のお稽古である。


「やあ、やあ、とう!」


といっても、竹刀は競技でも普通に使う物と同様、もちろん、まだ小さい彼女には大き過ぎるワケで非常に危なかっしい。


「えい、えい、や……」



ズルッ…


「ふぁ!?」


間もなく、適当に竹刀を振り回した勢いで足を滑らせ転倒してしまう。

「うっ…うっ……泣かないもん。」


痛みが彼女を襲うが百華は決して泣かない。父やその弟子たちはどんな時でも泣かないから…自分もそこに行きたいから…



彼女は涙をぐっとこらえ、道場に繋がっている中庭に出る。そこには、樹齢が何百年と言われる立派な桃の木がそびえ立っており、ちょうど実がたわわに実り熟していた。









「ウキッ!」


「ふぇ?」


その枝の影からのぞく影…。ちょうど、大きさは百華と同じぐらい。猿だろうか?


「ウキッキッキッキッキッキッキッキッキッキッキッキッ!んんん~んめえ!」


「あ…」


猿(?)は枝を渡り適当な桃1つをもぎ取るとムシャムシャと頬張る。百華はそれを呆然と見ていた…。


「ムシャムシャ…ごっくん!ん?何だお前?」


ここで猿(?)は百華に気がつき、桃にがっつくのを止め木から文字どおり猿のようにスルスルと降りる。


「お猿さん?」


「いや、オラはサルじゃないよ?オラにはちゃんと、『猿馬えんま』っちゅうとーちゃんかーちゃんから貰った名前があるよ?」


降りてきたのは紛れもなく人間の少年…まあ、どこか猿っぽい顔立ちだが…年齢は百華と変わらないだろう。

名前は『猿馬』…

猿に馬とのこと…


「そーだ!オラ、回覧板届けに来たんだ!」


彼はあっ!と思いだした身振りをすると取り出したのは桃の果汁でベチョベチョになった回覧板。これは渡されるほうは非常に迷惑である。


「オメーのかーちゃんに渡しといてくれ!ほんじゃバイバーイ…」


グうう~~~…


「あ…」


それを百華に押し付け、去ろうとした猿馬だが彼の腹の虫が盛大に泣き彼を止めた…。


「いやあ~、オラ、腹ペコなんだ!」


そう言うや否や再び桃を喰らいだす猿馬…。

あれよあれよと言う間に一個が種だけにされ、二個目に喰らいつく…。


「あ…」


ぐうう…


ソレを見た百華はあまりの美味しそうな喰っぷりにお腹を鳴らしてしまい、恥ずかしさに頬を薄く染める…。


「ん?オメエも喰うか?」


猿馬もそれに気がつき自分の食いかけを差し出す。百華は恐る恐るそれを受け取り口に運ぶ…。









「おいしい。」


彼女は口に含むとふっと笑い、猿馬も歯をくわっと見せ二ヒヒと笑う。


「そういやお前の名前訊いてなかった…。」


「わたし…?わたしのね名前は百華っていうの。」


「桃…?美味しそうな名前だな。」


「わたしは食べれないよ!」



百華の名前を勘違いしよだれを垂らす猿馬…。どうやらこの少年、思考の基準は食べ物のようだ。



「んじゃ、じゃあな~桃ちゃん~!」


「桃ちゃんじゃないもん。」



そして、猿馬は百華の名前を『桃ちゃん』と誤解し、現れた時の木をスルスルと登り、塀を超えて去っていった……。


「桃ちゃんじゃないもん…。」


そして、最後まで百華の訂正だけが続いていた…。










ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





時は経ち、14年後…




とある夜道…



『うぅ…ぎぃ…!?』


そこに倒れる異形の姿…


一つ目に角のある姿はまさに鬼…。だが、その身体には痛々しい刀傷があった……。


『き、貴様、何者なのだ!』


鬼は問う。自らの身体を傷つけた目の前に立つ存在に……


そして、答は……


「私か?私はな……桃から生まれた…桃太郎!!」



その正体は美しく成長し、セーラー服を纏った百華であった…。刀を持つその姿はポニーテールとあいまって侍のようだ。



「せや!」


ザシュ!!


『うぎゃあああ!!』


百華はトドメの一太刀を振るい、鬼を殺す。すると、鬼の肉体は塵が風に吹かれるように消えてしまった…。


「これで、終わりだ。物の怪…。」


それを見届けると刀の血を払い、鞘に収める百華…。そこに、一匹の子豚のような生物が近寄ってくる…。


『百華様~!相変わらずのうるわしゅうお姿でした!』


「ハッカイ…まず、いきなり人の胸に飛びつくな。」


その生き物の名はハッカイ…。彼は嬉しそうに百華の豊かな胸に取り付き彼女の勝利を喜ぶ。(胸にとりついていることを喜んでいるように見えるが…)


「それに、してもだ…。導師の言う『魂を継いだ者』はどこにいるのか…?」


『百華様で充分ですよぉ~ん!どんな物の怪だろうと一刀両断、美しき現代の女桃太郎!!よっ!』


「ハッカイ…おだてても何も出ないぞ。」


百華は調子にのるハッカイを胸から引き剥がし、月明かりの照らす夜道の帰路についた……。




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