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Luck & Ruck  作者: kooo
6/30

白虎 vs 300

 このゲームで初めて出会った敵は、また出会ったなと言うような表情を浮かべると、宣戦布告ともいうべき咆哮をあげた。

 巨大な虎が放つ咆哮は広い草原を駆け抜け、その場にいた三百人あまりを騒然とさせた。

 周りが呆然とするなか、出会ったときの攻撃パターンを思いだした僕は、巨大虎の咆哮に合わせて、耳を塞ぎ、次に素早く敵の懐に飛び込んだ。

 先ほどまでいた場所を、暴風とも言うべき、虎口が通過する。

 敵の下方へ潜り込んだことに成功した僕は、巨大虎の腹を頭上に見上げ、ショートソードを力任せに突き上げた。しかし、力まかせの一撃は、敵にダメージを与えるどころか、まるで岩に剣を叩きつけたように、反動の力が跳ね返ってくる。動物の腹を切りつけて、一瞬、手が痺れるような感触を受けるとは想像もできなかった。それでも構わず剣を振り回し、すこしでもダメージを与えられないかと奮闘する僕に向かって、巨大虎は強烈な後ろ足蹴りを放ってくいた。その一撃を横っ飛びにかわし、今度はその場に留まることなくアキラ達の元へと駆けだした。


「テラーの事を教えてもらっていなかったら、やばかったな」


 アキラから、敵の威嚇にはテラー効果があると聞いていなければ、致命傷をまともに食らっていたに違いない。

 中学のサッカー大会以来となる全力ダッシュは、数秒でアキラ達の元へと辿り着けたが、同時に最悪の災厄を一緒に連れてくることにもなった。

 かなりの距離を数秒で稼げたと思っていた認識は甘く、巨大虎はほんの二歩で追いつくと、死神の鎌の如く、巨大な前足を横凪で振り払ってきたのだ。

 回避しようと動かした脚がもつれて転倒したのは、はたして運が良かったのか悪かったのか。

 死神の鎌は僕の頭上を通り過ぎると、未だにテラー効果から復帰出来ずにいた取り巻き達を吹き飛ばした。

 二、三十人がただの一撃で宙を舞い、ボロクズのように、装備を撒き散らしながら草原に転がる姿は、ゲーム上とは言え恐怖に値する。


「なんだよこいつは!」

「こんなモンスターが、なんでミネルヴァ周辺のフィールドにいるんだ!」


 テラーから解放された集団が口々に叫び驚く。だが、彼らは初心者の僕とは違い、喊声をあげているだけではなかった。

 幸いにも虎の攻撃を受けなかったプレイヤー達は、防具を着込むと、武器を構え直し、巨大虎へと立ち向かい始めたのだ。

 巨大な戦闘斧、槍、剣などを持ち出し突進する者、弓や魔法で遠隔攻撃をする者らが、敵の注意を引きつけ、準備が整わない者達を危険から遠ざける。

 巨大虎の意識が僕から移り変わったのをみて、親友の元へと走ると、アキラの方でも、ミンメイやユンらと一緒にこちらへ駆け寄ってきた。人だかりの中心にいたアキラ達には、巨大虎の壮絶な一撃は届かなかったようだ。


「アキラ!」

「ラック! あれはいったなんだ? なんであんな敵がこんなところに」

「はじめから言っただろ! 虎やドラゴンと出会ったって。やっぱりいたじゃないか! このおとぼけ野郎め」

「あんなのは私だって初めて見る!」

「ウチも」「わたくしも」とユンやミンメイが続く。


 会話をしている間にも、虎と集団の闘いは続いていたが、百人近くの集団に囲まれても巨大虎はひるむどころか、圧倒的な力で引き裂き、噛み砕き、蹴り飛ばすなど暴虐の限りを尽くしていた。


「まずいなパニック状態だ。このままじゃ全滅するぞ」


 死の恐怖から逃げまどう現実のパニックと違い、ゲーム上のパニックとは、個々人が集団の意識を離れて勝手に動くことだ。

 どんな大人数でも、まとまりの無い烏合の衆と、意思の疎通がとれた少数では、圧倒的に少数のほうが有利な場合が往々にしてある。

 現在の状況は、残念ながら前者寄りだ。

 会心の一撃で大ダメージを出す戦士も、後方の援助がなければすぐに力尽き、後方支援役も誰を回復担当するかなど、役割分担を決めなければ、すぐに疲弊してしまう。


「パトリチェルはどこですの? こんな時こそ副団長がまとめないと」


 ミンメイが辺りを見回し、ジジイ言葉を話す若干十五歳のホビット族を探す。

 まさか、蹴散らされた中にいたのか!?

 僕は吹き飛んだ人達の中からパトの姿を探そうとしたが、ホビット族の姿はなかった。


「あそこにいたニャ」


 やや呆れ気味のユンが指さした先には、虎と戦闘中の集団がおり、その最前線で巨大な敵に「昇龍拳」と叫びながら拳を天へ突き上げているのは、紛れもなくパトだった。

 あのとき言っていた昇龍拳は、本当にマクロに仕込んでいたらしい。

 古参プレイーやたる副団長の動きは、目を見張るものがあった。

 空中へ飛び上がったパトへ、巨大虎の前足が襲ったのだが、ホビット族の小さな体を細かく動かすと、攻撃を紙一重でかわし、隙ができた敵に向けて、小さな拳から放たれた必殺の一撃は、巨大虎をも怯ませ、押され気味だった集団の勢いを盛り返していた。

 巨大虎を取り囲む集団から、喝采されたパトは照れくさそうに手を上げて答えている。

 そんな矢先、突然頭上から大音量の声が振り落ちてきた。


『我、西門を護りし者也。小賢しき人間共よ、我が力とくと見よ』

「喋った!? モンスターが喋ったぞ!」

「人格をもったモンスターだ。やばいぞ! これは……」

「神獣クラスだ! レジェンドモンスターだ! 何か仕掛けてくるぞ、離れて体勢を整えろ!」


 最前線にいる強者達が口々に叫び、蜘蛛の子を散らすように、身を翻して巨大虎から一斉に離散した。


『主たる祭壇を左に、西門より風を呼びこまん! 風よ、爆ぜよ! 西風爆虎!』


 呪文? らしきものが唱えられると、初めの咆哮が小鳥の囀りに聞こえるほどの爆音が発生し、猛烈な衝撃波と爆風が巨大虎を中心に、半径十メート内にいたプレイヤーを吹き飛ばした。

 巨大虎を囲い込み、追い込んでいた光景は、ほんの数秒前だ。だが、今や、巨大虎の周りに動く者はおらず、遠方に先ほどの爆音が児玉となって響き渡っていた。


「う、嘘でしょ。百人はいた集団を一撃で倒す魔法なんて……、今まで見たことないわ」


 ユンがニャとつけるのも忘れて、棒立ちとなっている。

 今日このゲームをやりはじめた僕にだって、この凄さはわかる。

 どんなゲームにもバランスというものがある。あるはずだ。だけど、この敵はそんな常軌を逸しているんだ。

 周りのプレイヤーを吹き飛ばし、こちらへ襲って来るかと思われた巨大虎は、その場に四肢を踏ん張るように構え、身動きをしなかったのは幸いだった。

 あんなのに対処法もなく襲われれば、すぐにでも全滅してしまう。


「こりゃまずいぞい」

「「パトリチェル!」」


 爆発に巻き込まれて死んだと思っていたパトが、アキラとミンメイの間に座り込んでいる。

 闘う前のさっぱりした姿ではなく、身につけていた道着はボロボロになり、下に着込んでいたアンダーウェアも、所々ちぎれている。

 いつもは余裕の表情を浮かべる顔色も、どことなく悪い。


「生きてたんだ!」

「勝手に殺すんじゃない。しかし、やばかったぞい。レジェンドモンスターと気がついて【瞬歩】で逃げたんじゃが、爆風に巻き込まれたわ」

「パトリチェルさん、あれはいったい何ですか?」


 アキラが尋ねてみるが、パトの返答は素っ気なかった。


「わからん。わしも初期からやってるが、あんなのは初めてじゃ。ハカセ! ハカセは生き残っておらんか!?」

「生きていますよ。副団長殿」


 ハカセと呼ばれた男は、ずっと闘いを観察していたのか、すこし小高いところに立っていた。

 装飾も地味な鎧兜を着込み、何より特筆すべきは、鎧からはみ出た顔と手がクマそのものだということだ。熊手も真っ青の本物のクマの手には、大きな盾をもち、それを斜面に突き立て、虎の方を伺っている。

 獣人タイプのハカセは、深く重い男性の声で丁寧に敵の解説をしてくれた。


「あれはきっと白虎です。ソード&マジックワールドライブラリーで見たことがあります。出現方法などはまったく不明ですが、まさかこんなところで出会えるとは」

「あれが白虎か。もしやと思うておったが……。実装されているとは」

「私もデータだけが存在して、実装はされていないと思っていましたが、人格の所有といい、西門の守護者というセリフといい、間違いないでしょう」

「レジェンドモンスターニャんて、ウチも初めて見るニャ。パトリチェルどうするんだニャ」

「増援を呼ぼう。あれが白虎なら二千人いても勝てるかどうか。うちのリンカーにいる奴らを片っ端から呼ぶんじゃ。三千人くらいはすぐに集まるじゃろ」

「無駄よ。パトリチェル。アレを見て」


 ミンメイの美しい視線が白虎を通り過ぎて、草原の向こう側を見る。

 その先にあるのは森や山などの背景ではなく、空間を歪めたような蜃気楼だ。


「これってまさか特殊フィールドですか!?」

「なんじゃと!」


 ハカセとパトが四方を見渡すと、僕たちを中心に、半径数キロメートルに及ぶ蜃気楼が発生していた。

 アキラの説明によると特殊フィールドとは、レアポップやユニークモンスターと呼ばれる敵に遭遇した場合、その敵と独占的に戦えるボーナスエリアだ。

 ソード&マジックの基本は、敵を倒してアイテムを獲得し、それを売るなり、ドロップ品からの素材を加工してアイテムにするなど、ゲームの中心は狩りとなる。

 狩り場で戦う敵は自分だけの独占ではなく、後から来たプレイヤーも攻撃することができ、誰がトドメを刺すかで敵から獲得できるアイテムが変わる。このため、プレイヤー同士で、敵の奪い合いがよく発生するのだそうだ。

 レアアイテムや、クエストで頻繁に要求されるアイテムをドロップする敵は、プレイヤー間の取り合いが激しく、諍いは絶えない。

 しかし、希にボーナス的な敵には、特殊フィールドが発生し、独占的に戦う権利を得る事ができる。

 それが今なのだ。

 絶好の機会を得た、僕らだったが、今やそれは僕らを閉じこめる監獄と化していた。


「これほどの獲物を前にして、増援もなく、今いる百数十人で相手をしなくてはいけないとは。どうします? ここは諦めてホームポイントに戻りますか?」

「馬鹿たれ! 我がギルドのモットーを思い出せ。ゲームは楽しく、仲間と仲良くじゃ。最強の敵結構! 楽しもうじゃないか」


 パトの言葉で折れかかっていた心を取り戻した集団は、武器を手に立ち上がった。


「楽隊! わたくしの周りに集まってちょうだい。支援の担当を各自お決めになって」

「盾隊を編成する。敵からのターゲットを分散して負担を軽減するんじゃ。アタッカーに力を発揮させよ」

「私は近接攻撃部隊を組みます」

「ウチは遠隔班を組むニャ。物理と魔法の削りで白虎の体力を奪うニャ」


 ミンメイ、パト、アキラ、ユンが生き残った人達を周りに集め、役割分担を決めていき、次々と隊列を組んでいく姿は、一人のゲーマーとして感動すらした。

 ミンメイの周りには二十人ほどの楽器をもったプレイヤーが集まり、マーチングバンドを思わせる楽隊の隊列が組み上がる。

 十人ほどのプレイヤーが、マジックバックと呼ばれる腰に備え付けた小さな鞄から、大きなドラムを出して自分の前面へ装備する。両手に細長いスティックを持って、身構えるや高速のドラムロールが始まった。

 続いて管楽器を装備したプレイヤーが、ドラム隊の両脇を固め、ホルンやラッパの演奏が鳴り響き、それにミンメイの歌と踊りが合わさると、不思議と力が漲り、戦闘への高揚感がせり上がってきた。


「これが音楽と踊りの効果だよ」


 いつの間にか隣にいたアキラが、両手に双剣を持ち、身構えている。


「僕は何をしたらいいのさ」

「ラックは私の班。はぐれないように。相手がレジェンドモンスターなら、戦闘に勝てた際、すごいボーナスがつくはずだから。必ず生き残って!」


 はじめてのパーティ戦が、こんな大物になるとは思っていなかったけど、贅沢を言ってはいられない。

 いや逆に最高の贅沢か。

 ruckという名前の如く、パーティ戦では有象無象の一員になるのはわかっていた。だけど、高揚感が止まらないのは歌のせいだけじゃないはずだ。


「いくぞ!」

「おお!」


 パトの掛け声に、みんなが応答すると、盾隊が名称のごとく、体を隠すほどの大きな盾を身構え、一部隊が二十人一組の三部隊で、白虎に向かっていく。

 僕らの作戦会議がおわるのを待っていたかのように、まったく身動きしなかった白虎が咆哮を上げると、パトの部隊へ襲いかかった。

 今度のパト達は非常に統制がとれており、三つに分かれた部隊が前と左右の三方から白虎を取り囲み、一部隊が崩壊しそうになるともう一部隊が挑発行為をして敵を惹きつける。その間に後方支援が回復魔法を飛ばし、傷ついた部隊を立て直す、これを繰り返し三部隊でターゲットの分散を試みた。

 盾部隊が安定してターゲット回しを展開し始めた頃、白虎の体力を奪うためユンの指揮する遠隔班が攻撃を開始した。

 高角度に設定された数十本の弓矢が山なりに放たれ、白虎の頭上へ雨のように降り注ぐ。

 盾部隊と上手く連携を取らないと味方を巻き込む遠隔攻撃だが、パトとユンの連携は絶妙だった。盾部隊の一人に攻撃が集中した瞬間、遠隔班から放たれた魔法が白虎の目をふさぎ攻撃を外させたのだ。

 (うまい!)

 心の中で喝采した。しかし、それを声に出すわけにはいかなかった。

 パト達が白虎の意識をあちらに向けている間に、僕らは背後に周りバックアタックをする事になっていたからだ。

 このゲームでのファーストバックアタックは、敵をしばらくの間、混乱させるボーナスタイムがつくため、アキラが指揮する攻撃班は白虎に気がつかれないように、後方へと回り込んでいた。

 僕らは茂みに潜み、じっとアキラの合図を待つ。

 アキラは上げていた手を、タイミングを見計らって振り下ろすと、みんなが一斉に、白虎の背中めがけて走り出した。

 先頭を駆け抜けるのは、両腕を水平に広げ、手の先にもつ双剣で空を切るアキラだ。

 チャイナドレスの裾を風に閃かせ、颯爽と走る姿に、思わず見とれてしまう。

 決して布が捲れて、パンツが見えないかなと、邪な気持ちを持っていたわけではない。

 アキラは高々と飛び上がると、双剣を白虎の尻に突き立て、バックアタックを成功させた。

 背後からの攻撃を受けた白虎は荒れ狂い、盾部隊や、攻撃班など見境無く、誰彼かまわず噛みつき攻撃を仕掛けてくる。

 これが混乱状態なら狂乱とも言うべき姿だ。


「みんな離れるニャー」


 遠くに陣取ったユンが大声を張り上げると、盾隊、攻撃班はいっせいに白虎から退避した。白虎は誰かを追うこともせず、荒れ狂ったように、自分の尻尾を追ってぐるぐると、その場を回り、なんだか猫科の動物を思わせた。


「アポカリプス」

「アイスストーム」

「エルディ=アーク」

「サンダーフレア」


 遠方の丘から、魔法を発動させる声が聞こえると、白虎の頭上に轟音と様々なエフェクトが発生し、ブラックホールみたいな闇や、巨大な雷、猛吹雪が巻き起ると、巨大な虎は身もだえをしながら、その身に魔法を受け続けた。

 美しい白に、黒い虎柄が施された皮は傷つき、大地に降り立つ姿は見るからに初めの勢いがない。魔法の着弾が終わると同時にパト達が突撃し、先ほどと同じようにターゲットの分散化を計る。

 パト達の部隊から白虎のターゲットを奪わないように、僕たちは背後から慎重に攻撃を仕掛け、遠隔班も同様に攻撃を続けた。

 楽隊は、戦闘意欲を鼓舞する激しい楽曲に変え、他隊を支援している。


「これっていけそうじゃね?」


 攻撃班の誰かが呟いた。

 僕も白虎を倒せるのではと思っていたし、敵が弱り始めたのも確かだ。

 やれるかもしれない。

 しかも、レジェンドモンスターを。そう思うと、逸る気持ちは止まらなかった。

 誰もが、我先にとトドメを狙いはじめ、弱り切った白虎へ必殺技を叩き込む。

 遠くの丘陵地帯にいる魔法班も、明らかに大技を連打し始めていた。

 パトのいる隊も盾役から、徐々に攻撃比率を上げはじめ、遂に白虎がその場にうずくまったときに、僕の背中に猛烈な悪寒が走った。

 何かがくる!


「アキラ!! 何かまずい気がする、一旦下がった方がいい!」


 僕の声に振り向いたアキラは、バックステップでこちらに近寄り、訝しげな目を向ける。


「どうしたのさ。追い込むチャンスだよ」


「なんか嫌な予感がするんだ。一旦引き下がって基本に戻った方が良いと思う。レジェンドモンスターとかよくわからないけど、すんなり行き過ぎって言うか……」


 ソード&マジック初心者の言葉では、みんなを動かすことは出来ない。だからアキラから言ってとお願いをしてみるも、顔を横に振られた。


「たぶん、私の言うことも耳に入らないよ。初めての神獣だし、みんなトドメがほしいんだ」

「トドメってそんなに良いわけ?」

「ソード&マジックだけじゃないと思うけど、トドメを指した時、優先的に戦利品が手に入ったりするんだよ。みんなそれを狙っているんだ」


 気がつけば楽隊も楽器を武器に持ち替え、白虎の戦闘へと参加している。はじめての神獣へ群がる集団は躁状態といってもよかった。

 確かにアレを止めるのは至難の技だろう。


「ちょっと、危ないかもね」


 戦線を離れた僕らに近づいてきたのは、伴奏をしてくれるお供がいなくなったミンメイだ。


「神獣クラスが百人程度に追い込まれるのも怪しいわ。なんとか止められないかしら」

「パトに落ち着くように言ってきます」


 アキラがそう言って駆け出そうとしたとき、またも頭上から声が聞こえてきた。


『小賢しき人間の小賢しき知略と蛮勇。笑止!』

「何かしかけてくるぞい。一旦距離を……」


 パトはそれ以上言葉を発することが出来なかった。

 白虎の口が大きく開かれ、怪しく光る牙を晒すと、その巨体を真横に回転させたのだ。

 丸い電動のこぎりのごとく、空中で高速回転しはじめた白虎に呼応するように、辺り一帯の空気は、そこへと吸い込まれていく。

 空気の渦は、目に見えて大きくなり、巨大な竜巻を発生させた。

 竜巻は白虎の側にいたプレイヤー達を巻き込み、身を切り裂き、少し離れた所まで避難した者には、容赦なく真空の刃となったカマイタチが襲う。

 天高く昇っていく竜巻が、白虎の側にいたプレイヤー達を消し去るまで数分も要さなかった。

 僕たちは、幾分か白虎から離れていたのと、とっさに地面へ伏せたので被害を免れたが、何も出来ずに、その光景を見ていることしか出来ないのが歯がゆかった。

 白虎の周りにいた百人あまりのプレイヤーは、ものの数秒で消え去ると、白虎は回転をやめ、大地に巨大な四肢を降ろす。

 またも動きを止めるかと思われた予測を裏切り、その口腔内に光の粒が集束し始めた。

 白虎の口元に集められた光の粒は、次第に光球へと変わり、それを遠隔班のいる場所へ向ける光線を放った。


『虎砲覇!』


 短い詠唱から想像もできない威力の光線は、三十人以上いた遠隔班へ放たれ、逃げ出すことすら出来なかった彼らを瞬時に焼きつくした。

 光の線となったそれは、威力を下げることもなく、遠方の特殊フィールドへとぶつかるまで消えることはなかった。


「パト、ユン……」


 三百人の集団は、ほんの数瞬で、たったの三人だけとなり、僕たちは呆然とその光景を眺めることしかできなかった。


書き直し(2012/4/11)

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