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Luck & Ruck  作者: kooo
5/30

宣戦布告

「トリプルスラッシュ!」


 目の前の敵に向かって覚えたての技を発動させ、ショートソードが払い、斬り下ろし、突きと連撃を振るう。

 立ち上がれば、僕の体の半分くらいにはなる大きなウサギは、華麗にステップを踏むと、ショートソードから生み出される連撃を躱した。

 目の前にいる真っ黒なウサギは、現実世界にいる、どのウサギよりも二廻りは確実にでかい。凶暴さを漲らせた赤目、鋭利な爪が可愛らしい前足に生え、口元に見える犬歯は、ウサギと呼ぶには相応しくないかもしれない。

 大ウサギは左右にステップを踏み、大きな後ろ足で地面を蹴り上げ、僕の懐へと入り込む。

 足下で小さく縮こまった大ウサギは、溜め込んだエネルギーを解き放つように、下方から頭突を食らわしてきた。

 とっさに後へと仰け反った僕は、そのまま倒れ込み、でんぐり返しの要領でさらに後方へと逃れる。


「うわぁ、大ウサギ相手に善戦しちゃってるよ」

「ウルトラ初心者だな」

「初心者でも、もうちょっとマシな闘い方ができっしょ」


 周りから悪意のある声が聞こえてるが、気にしている暇はない、そう心に言い聞かせても、自分へ向けられた悪意が気にならないわけがない。

 気を取られた隙に、体勢を整えた大ウサギが、猛然と突進してきた。

 ものすごい殺気!

 後方から!!

 殺気から逃げるように真横へと飛び退くと、今までいた僕の場所を貫くように、大量の弓矢が通り過ぎ、突進して来た大ウサギに、次々と刺さり致命傷を与えていく。

 無数の矢に射抜かれた大ウサギは、巨大なハリネズミと化して、大地へ倒れ伏した。


「ち! はずしたか」


 いや当たってますけど!

 大ウサギに全矢刺さってるんですけど!?

 あちこちから聞こえてくる舌打ち音と、口々にのぼる悪意の言葉に、ツッコミ返さずにはいられない。


「いいかげんにするニャ。ラック君の練習にニャらニャいでしょ!」


 両腕を組んで僕の闘いを見守っていたユンが、さすがにしびれを切らしたのか、周りのギャラリーに注意を促してくれる。

 このような状態になるのは、これが初めてではない。

 狩り場に来てから鳥や大型の昆虫、そして大ウサギと、対峙してはピンチになると後方からヘルプ(?)が入るのだ。

 ヘルプと言よりも、どれも僕を狙っているのは明白だけどね。


「そこの初心者君がピンチになったから、助けてやっただけだって」


 言い訳もさっきから変わりない。

 ユンも怒りはするが、彼らの気持ちもわかるのか強く言い出せない様子だ。

 何でこんな事になったのか。

 あの握手のあと、アキラがはじめからミンメイと一緒に狩りに行く予定だったことを明かすと、周りからのブーイングはさらに高まった。

 アキラの予定では、僕、アキラ、ミンメイの三人でパーティプレイに慣れるのが当初の目的で、戸惑う周りを無視して、狩り場へと移動していく。

 僕は周りを気にしながらも、二人の後ろを着いていった。

 しかし、ここでお別れと思われた取り木巻き連中は、テレポート後も、なぜか一緒にいた。

 彼らは狩りをするわけでもなく、ミンメイ達を取り囲み、僕の悪口を声高にいっては、合間に先ほどの嫌がらせをしかけてくるのだ。

 やっぱりあの握手が原因なんだよな。

 僕には全然わからないそのすごさを、どれだけ奇跡的な出来事なのか、パトリチェルが力説してくれた。


「彼女はこの世界に現れると、周りを惹きつけて、あっという間にソード&マジックのカリスマ的存在になったんじゃ」

「アキラがアイドル的な存在とか言ってけど」

「アイドルね。うまいこと言うの。ミンメイちゃんは、歌と踊りでパーティを支援するタイプじゃし」

「へぇ。支援とかもあるんだね」

「歌や踊りによるパーティ支援は、上級モンスターを倒すには必須じゃ。歌に偏る人を詩人、それ以外を大抵は踊子と呼ぶんじゃ」


 他のゲームをやってきた僕でも、支援が大事なのはわかる。

 大抵こういったオンラインゲームでは、ユーザーは戦うジョブを選ぶ。だって誰でも勇者になりたいもんね。

 回復や支援系のジョブをする人は稀少だけど、パトリチェルが言うには支援系をやるから人気があるのではなく、彼女の歌唱力がすごいのだと、強調された。

 ソード&マジックの歌による支援とは、技と違いモーションはなく独唱で、棒読みでも、読響でもいいらしい。とにかく教えられた言葉を唱えれば、効果が発動するのだとか。

 ここに体を使ったモーションが加わると踊り子と呼ばれるジョブになる。

 どのユーザーも歌うときは適当な抑揚をつけるか、楽器を鳴らすだけなのだが、彼女はその歌唱力で、一つの歌に仕立て上げた。

 巷に出回っているものは、ほとんどがミンメイのアレンジ版らしい。

 ミンメイのすごさは何となくわかったけど、それと僕が恨まれる理由が未だに繋がらない。

 アイドルならファンもいるだろうし、握手くらいするでしょ。


「ばっか! おま! ばっか! ちげーよ」


 またもキャラを忘れたパトリチェルが、僕に額をつけ、唾を飛ばして説明してくれた。

 余談ではあるが、このゲームは妙なところに凝っていて、唾を吐きかけることや、小便をするなど、挑発行為が豊富に用意されている

 開発した奴らは何を思っているんだか。


「彼女と握手した人間は多い。だけど、彼女から握手をしたのはアキたんだけじゃ」

「アキラもやるな」

「注目するのはそこじゃない! アキたんはまだいいわい。絶世の美女だし。じゃが、お前はだめじゃ」

「なんでさ! 僕だって握手くらい、いいじゃないか」

「お前さんの場合は、握手だけに留まらずフレンドになったからの。本当、死ねよクソが」

「ちょっと、本音漏れまくってるよ!」

「そのくらい珍しいってことなんじゃよ」

「珍しいのはわかったけど、握手ってフレンドになるアクションでしょ。みんな友達になったんじゃないの?」


 お前、本当に飲み込みわりぃな。そんな表情を浮かべたパトリチェルが、僕に握手を求めてきた。友達になりたいのかと握手で答え、登録の【はい】を押す。すぐにメッセージが表示された。


【相手はあなたとのフレンド登録を拒否いたしました】


「せつねぇ!!」

「握手はフレンド登録のアクションじゃが、必ずしも、フレンド登録するものでもない」

「思わせぶりでこれはないよ」

「ミンメイちゃんは設定で、相手からの握手では、フレンド登録のダイアログが出ないようになっているんじゃ」

「いちいち出てたらきりがないけどね。まぁ、何となくわかったよ」


 僕が立って場所は、ひらけた草原で、ゲーム上ではフィールドとも呼ばれるところだ。

 ここには、先ほど倒した(?)大ウサギや、翼を広げた大きさが二メートルはある鳥、でかい昆虫など多種多彩なモンスターが生息していた。

 草原から、すこし東のほうへ行くと、なだらかな丘があり、そこに誰が運んできたか知らないが、白い木製のベンチシートが置かれていた。

 ミンメイとアキラは、僕と遊ぶ前に引き離され、導かれるままベンチシートに座らされ、周辺を親衛隊が囲んでいた。


「ミンメイとアキラってどんな仲なの」

「わからん。お互いに親しげに話すのは確かじゃ。ギルドメンバーでも二人と話すのは、限られておる」

「パトは話さないの?」

「パトって俺?」

「いや、舌かみそうな感じだから略した。呼びやすくて良いし」

「勝手にしろ。わしは副団長という立場もあって会話はするが、今日のアキたんとお前さんみたいなのはしたことがない」

「そういえばアキラってどんなキャラクタ……」


 最後まで言い終わらないうちに、ものすごい罵声が、アキラの方から聞こえてきた。

 また僕に向けてなんだろうか。


「この腐れ豚が!」


 すごい言われようだ。声からして、女性キャラに言われているかと思うと凹む。

 まさかユンに言われたのかと思い、そちらの方へ振り向くと、僕に向けて何かを投擲しようとしていた取り巻き連中に、アキラが何か叫んでいるようだ。


「いいかげんにしろ! 養豚場から逃げてきた豚共が」


 アキラが罵っていた。

 なんかすごいセリフがきたよ!

 普段の晃から想像もできない言葉を連呼している。


「な、なんだあれ。アキラってあんな感じなの?」

「アレも恒例といって良いかもしれん。うちのギルドでミンメイちゃんと人気を二分するのがアキたんなんじゃが、普段は口数が少なくての。それで、周りの連中が、ちょっかいを出してたら、ある日あんな罵声を浴びせはじめたんじゃ」

「周りの連中は何も言わないわけ?」

「何を言うとるか! 罵声を浴びせてるアキたんの顔を見てみ。輝いているじゃろ。病み付きで何とか罵倒してもらおうと必死なんじゃ」

「へ、変態共の集団か」


 おほん、と一つ咳をするとパトは向き直り頭を下げ、まじめな顔をして謝ってきた。


「さっきの連中の悪戯を許してやってくれ。あれも、アキたんの罵声を聞きたいがため」

「ろくな理由じゃねぇ! 許してあげる必要あるのかな」

「本当は気の良い連中なんじゃ。これも一つのコミュニケーションと思うて」

「理由はろくでもないけど、わかったよ。じゃぁ、これからは、みんなと遊べるのかな?」

「あ、無理。うちのギルドって上級者の集まりだから。いまさら大ウサギなんてマジ無理。腕が鈍っちゃうよ」

「ジジイ口調やめてまで、真面目な返答やめてくれるかな! お前らもう帰れよ!」


 もういいよと言って、僕はフィールドにいる手頃なモンスターへと向かう。

 今度の獲物はちょっと凶暴そうだけど、ラプトルと勝手に名付けた獲物を狩ることにした。

 ラプトルの大きさは僕と同程度で、体は細く、頭は体格に不釣り合いなくらい大きい。長い尻尾をもち、後ろ足で立つ、二足歩行の恐竜型モンスターだ。

 薄紫色をした、ハ虫類に酷似した質感の肌と、細長い口には、小さく鋭い牙がサメのように何列も並び、後ろ足には凶暴さを表すカギ爪が備わっている。

 先ほどの大ウサギよりも苦戦が予想されるけど、やりがいはありそうだ。


 右手に剣を、左手に盾を構えながら、じりじりと距離を縮め、すり足で敵へと接近していく。

 こちらに気がついたラプトルは、僕を見るなり牙がびっしりと生え揃った口を開き、威嚇の奇声を上げた。

 敵によっては、叫び声にこちらを竦ませるテラー効果があると、アキラから教えられていたが、実際に受けてみて初めてどんな効果かわかる。

 恐怖に足が竦み、硬直した身体は自由に動かず、その場にへたりこみそうになる。

 その間に、ラプトルはこちらへ突進を開始し、後ろ足の巨大なかぎ爪で攻撃をしかけてきた。

 何度か攻撃を盾で受けながら、左右に動き回ることで、硬直していた身体を柔らかくしていき、余裕が出てきたところで反撃を始める。

 ショートソードで突きを主体に攻撃をしかけ、敵が退いたところに、相手の懐に飛び込み、大きく斬り上げる【ダッシュインエッジ】を発動させた。

 斬り上げた剣がラプトルの首筋に上手く当たり、敵は大きく仰け反った。ラプトルは足下をふらつかせて苦しそうに呻き、二、三歩後方へとよろめく。


 HPゲージがないこのゲームでは、相手が弱っているかどうかは目視するしかない。

 今がチャンスなのか、全力を出すポイントはどこなのか、経験を積みながら戦闘を繰り返す。

 身体をくねらせ、苦しそうにしているラプトルに、今がトドメの刺し時かと踏み出そうとしたとき、全身を紙ヤスリで撫でられたような悪寒が走った。

 弱そうに動いているのは擬態で、まだ余力があるのか?

 立ち止まって様子を伺い、ラプトルと対峙するも、先ほどの殺気は別の方向から迫ってくる。

 また取り巻き連中が、何かしかけてくるのかと、そちらへ目をやるが、彼らはミンメイやアキラに夢中で、こちらへは見向きもしていない。


 ラプトルからアキラ達へ、そしてまたラプトルへ視線を戻す。この動作はほんの一瞬で、時間にして一秒もかかってないはずだ。

 しかし、僕が見たものは、先ほどまでラプトルがいた位置に、その姿はなく、変わりにいるのは巨大な白い虎だった。

 それは、先ほどのラプトルが,子供が遊んでいるおもちゃに見えるほど、雄々しく偉容さを誇っていた。

 緑色に染まる草原に立つ真っ白い虎が、悠然と僕を睨め付ける。

 この場にいる誰にも気づかれず、これほど巨大な虎が、音もなく近寄る事が可能なのだろうか。だが、たしかにコイツは存在し、僕へ烈風のような殺気を放ってきている。

 このゲームで初めて出会った敵は、また出会ったなと言うような表情を浮かべると、宣戦布告ともいうべき咆哮をあげた。


書き直し(2012/4/11)

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