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Luck & Ruck  作者: kooo
4/30

必殺技を叫ぶときは厨二くさい方がいい

 十五歳のくせにジジイ言葉を使う奇妙なホビット族のパトリチェルは、上級ソードマスター達には有名な存在だとか。

 アキラの所属するギルドに在籍し、色々と武技を編み出している変わり者(?)らしい。

 彼に教えを請う人は数多もいるが、教える子は好みじゃないと門前払いされる。まるで大昔の香港ムービーを彷彿とさせる師範ぶりだ。


「もぉ〜アキたんの頼みならぁ、ことわれないでゲス」

「口調が変わってないか?」

「だってジジイ言葉を拒否するから。これでも日々個性を出そうと頑張ってるんだ」

「ウ、ウチはがんばってニャい! そんな目で見るニャ!」


 みんな苦労しているんだな。

 僕も凛々しい個性を出すために日々精進しないと。いや、そんな頑張りなどいらず、現実世界の雰囲気が勝手に滲み出て、このキャラを引き立たせるに違いない。


「ないよ」とアキラ。

「なんてこと言うのさ。てか、人の考えを読むな」

「ラックの考えそうなことはわかるよ。顔にでるし」

「へー、僕はこれでもポーカーフェイスで有名なんだ。なんて考えていたのか言ってみなよ」

「現実世界のラックが持っている雰囲気が勝手に滲み出て、キャラを引き立たせるに違いない。とか考えている」

「どの表情筋を見たら、そこまで読めるわけ?」


 子供の頃から一緒だと行動パターンや考えまで見透かされるのか。幼なじみって怖いな。


「アキたんのそんなやり取りは、初めて見るわい。いやぁ眼福、眼福」


 結局ジジイキャラに落ちついたのか、パトリチェルは口調を戻した。先ほどのユンといい、ここでのアキラはどんなキャラ設定なんだか。


「いいものを見せてもろうたしの。武器はショートソードか。初手の技でいいかの」

「ありがとうございます。ラックもお願いして」

「うぃーす。ありがとうジジイ」

「こやつは……。まぁええ。録画ウィンドウを起ち上げて」

「録画って何? 何か撮影するの?」

「言われたとおりにやってみて」


 アキラのサポートを受けて、ステータスウィンドウから録画ウィンドウなるものを起動させる。そこには録画ボタンを押してからストップするまでの間、自分のモーションを記録することが出来るのだ。そのモーションを切り張りして、一連の動きを作る。

 これが『型』だ。

 本来のゲームであれば、ボタンを押せば、切りつけたり、突いたり、魔法を唱えるなどは、ゲーム会社が用意したモーション行う。しかし、ソード&マジックでは、ユーザーが、ありとあらゆる場面で自由にキャラクターを動かせるため、固定モーションが用意されていないのだ。

 しかし、自由なのは良いことかもしれないが、あまりにも自由に出来ると言うことは、棒きれひとつ振ったことがない素人にとって、剣を振っていると言うよりも、剣に振らされていると表現をするしかない有様となる。

 剣道有段者やフェンシングなど、剣技を会得した人間以外には、非常に辛い仕様なのだ。

 この仕様は玄人好みの人には受けたが、ライトユーザーには不評で、僕らが今やっているように、録画や編集を行ってモーションを簡単に作成できるように機能が追加されたとか。


 そういった型の歴史の中でパトリチェルは、実戦でもつかえ、見栄えも良いモーションを作り出したことで、周りのプレイヤーから一目置かれる存在なのだと、アキラが教えてくれた。

 オレンジ髪のホビットは僕からショートソードを受け取ると、小さい体を俊敏に動かし、初めから用意されていたモーションのごとく剣技を繰り出す。

 鮮やかな型のオンパレードは息つく暇も与えず、それに魅入られた僕は圧倒されていた。

 パトリチェルが手本を見せ、僕は同じように剣を振っていく。それを録画し、良いできばえの物だけを残し、次のモーションを録画する。これを何度も繰り返し、最後に編集モードで組み合わせていく。

 自分が作った『型』を連続的につなぎ合わせると『技』となる。この『技』は必殺技、もしくはウェポンスキルと呼ばれ、マクロに登録が出来るのだ。

 早速出来上がった型を組み合わせ、マクロ欄に登録をしてみることにした。


「マクロ欄に技名を入力してみて。名前は何でもいいから」

「わかった。じゃぁ【アキラの変態】にしてみる」

「その前に殺す!」


 もの凄い殺気を放つアキラから逃げながら、マクロ名を【ヤッター】にしてみた。


「登録したけど、これはどうやって使うの?」

「登録した技はボイスマクロで引き出すニャ」

「ボイスマクロって普通に発声すればいいわけ?」

「そうじゃ。まぁやってみなされ」


 じっと見つめてくる三つの視線に見守られながら、ショートソードを身構え、技名を発する。


「ヤッター!」


 間抜けとしか言いようのない技名が道場に響くと、身体が勝手に動き出し、先ほどの型を誤差なくトレースする。

 払い、打ち落とし、突きの三連撃がキレイに決まった。


「か……かっこいい、なにこれ! これが必殺技か! これでモンスターに勝てる」

「いやいや、それは本当に基本中の基本じゃから。今みたいな技をいくつも登録して組み合わせていくんじゃ」

「なるほど。アキラやユンもいっぱい登録してるの?」

「私は少ないかな。それでも基本の四十八手は登録しているよ」

「ウチは少し多くて、百くらいかニャ」

「上級者になると色々とマクロを組み合わせて、戦闘を有利にするんじゃ。例えて言うなら、弱払いからの強打バッシュで動きを止めて、三連コンボ後の小足避け昇龍がわしの定番じゃ」

「それ本当にソード&マジックの話をしてる? さっぱりわからないよ」


 パトリチェルの言葉に違和感はあるが、技とかを覚えて使う楽しさはわかった。この調子で色々と登録していけば、虎やドラゴンに立ち向かえそうな気がしてきた。


「ラック、一つ忠告がある」

「大丈夫。僕は水色のパン……なんて見たことない!」


 アキラの両手が喉元にかかる寸前に回避しながら逃げ惑う。

 ちょっとしたジョークなのに、すぐ怒るんだから。


「ラックのせいで、私のストレスがたまりまくりです」

「僕はアキラのツッコミでストレスがたまるよ! それで忠告ってなに」

「さっきのボイスマクロだけど、安易な呼称はやめた方がいい」

「でも【ソードラッシュ】とか【ダンシングエッジ】とか、叫ぶとき照れくさいな」

「別にそれはとめないけど、日常に出てくる言葉はやめておいた方がいい」

「アキたんが言っているのは、オッハー事件じゃな」


 パトリチェルの言葉にうなずくアキラ。

 なにその聞いたこともない事件。


「今日入ってきたばかりのラック君にはそれじゃわからニャいって」


 ユンがかいつまんで説明をしてくれる内容はこうだった。

 ある男が格闘系の必殺技名を【オッハー】にしたことが所以らしい。何気なくつけた技名は、その男に挨拶する度に発動し、挨拶とは、殴り合い文化とまで言わしめた事件に発展した。この手の出来事はボイスマクロ導入時に多発したため、厨二くさいと言われても必殺技名をしっかり設定するのが主流になったとか。


 魔法も必殺技と同じようにモーションから入る。

 簡潔に言うならば、これは手話だ。

 回復系なら右手を狐のような形にし、親指を突き出した形、最後にパーにする流れで発動する。効果を倍にしたいときは左手のモーションを加えるなど、不器用な僕にとっては少し面倒だったけど、ボイスマクロに登録することによって一度だけ苦労すれば、あとは楽に発動できるのが救いだった。


「魔法の名称は一般的にメジャーなものからつける人が多いニャ。回復ならホイミやケアル、キュアやリリム、ディアなんてつける人もいるニャ」

「技名もアニメや漫画、ゲームからの流用も多い。自分が覚えやすいのが一番じゃて」


 その後もいくつかの技と簡単な魔法を登録し、アイテムショップを回って、いよいよ実戦をしてみることになった。


 テレポーターまでは少しばかり距離があり、歩く道すがらアキラに疑問を投げてみる。


「このゲームさ、リアルを追求したって言ってたじゃない。でも、今の技編集といいボイスマクロといい、その事と矛盾するんじゃない? いや、楽でいいんだけどさ」

「あー、うん。それはね。運営会社が途中から変わったんだ」

「そうなの?」

「そうだニャ。ウチは初期組だから知っているけど、あの混乱時は大変だったニャ」

「わしも当時からやっていたが、運営とかもめておったのぉ」


 なぜか一緒についてきているパトリチェルも、会話に加わってきた。


「初期は本当にリアルさを追求していて、テレポーターもなかったし、ボイスマクロもなかったんだニャ。初めの頃のソード&マジックはライトユーザーを切り捨てて、やってる人があまりいニャかったんだ」

「それでも玄人ゲーム好きなわしや、団長はやっていたがの」

「団長、いまだに今のソード&マジックはぬるいって言いますよね」

「実際ぬるいと思うわい。しかし、これだけの大規模なゲームを、当時会員数二万人足らずで運営できるはずもないわ。だから大手メーカーに買収されたんじゃて」

「ボイスマクロやテレポーターも、買収後に実装されたんだニャ」

「ふーん。キャッチコピーを変えればよかったのに」

「それは買収後に残った経営者兼開発主任が、買収時にキャッチコピーを変えないでくれって懇願したみたいだよ。理由はわからないけど」

「こだわりかなぁ。どうせなら装備のことも簡易化してくれればいいのに」

「そのうちそれも変更されるじゃろ。良くもあり、悪くもありじゃ。しかし、女性キャラの生着替えが見られないことになるのは嫌だ!」


 後半は、じじい言葉にするのも忘れた、パトリチェルの魂の叫び声だった。

 なるほどそんな事情があったとは。

 その後もソード&マジックの近況などを話しながら、テレポーター近くまで来ると、僕らの前方に人だかりの山が見えてきた。


「なんだかテレポーターのところに人が集まってない?」


 テレポーター前には、二、三百人ほどの集団が、誰かを囲んでいるようだ。


「狩り場へいくテレポーターって、いつも混むわけ?」

「どこかの団体が大規模ハントに行くために、事前打ち合わせでもしてるのかニャ」

「テレポーター前で打ち合わせとか迷惑な話じゃ」

「いえ、あの中心にいるのはミンメイですよ」

「誰そ「「ミンメイちゃん!」」れ?」


 僕の疑問もよそにユンとパトリチェルが人山へと駆け寄り、集団に溶け込む。パトリチェルは背が低いため、集団の下を潜り込んでいくほどだ。


「なにあれ」

「この世界でアイドル的なプレイヤー」


 周りに人がいなくなった途端に口調が晃に戻る。声が可愛いままだから違和感がありすぎるんだけど。


「アイドルねぇ」

「幸多は興味ないのか?」

「あんまりかなぁ。だいたいアイドルにろくな奴はいない」

「それは特定の人を指しているだろ。……あれからミー太とは連絡取ってないのか?」

「全然。あいつも忙しいだろうし、例の事もあるしね」

「そっか……」


 ミー太は晃以外で僕のことを幸多と呼ぶ、もう一人の幼なじみだ。中学までは一緒だったが、ちょっとした事件があって疎遠になってしまった。

 ミー太のことになると、晃とは会話が続かなくなる。

 話題を切り替えようとしたとき、集団が割れ、一人の女性がこちらへと向かって来た。

 白石の石畳が、まるでミラノコレクションのステージに様変わりしたかと錯覚をさせるモデルのような歩み方は、美の女神が地上に降り立ったようだ。

 外見の美しさはアキラと互角だが、どこか人を突き放すアキラに対して、その女性は逆に周りからの視線を惹き寄せている。

 黒曜石を溶かした黒髪は、美しい螺旋の縦ロールを巻き、着ている服装がドレスなら貴族を真っ先に連想させるのだが、彼女が着ているのは昇り龍の刺繍がはいったチャイナドレスだ。

 チャイナドレス流行っているの?

 よく見るとアキラとおそろいだし。


「アキラ、遅いじゃないの。待ちくたびれましたわ」

「すいません。ちょっと手間取ってしまいました」

「そちらの方はどなた?」

「ミンメイ、この人は親友のラック=メニーです。」


 やけに『親友』を強調したアキラを不信に思いつつ、紹介された相手へ僕は視線を向ける。

 なぜあなたがアキラの隣にいるの? そんな視線で僕を殺しかけていたミンメイが、名前を聞いた途端に目つきがかわった。


「親友……ラック……メニー……」


 なぜこんなに驚かれるんだ。

 は! まさかスペルがどこからか丸見え!?


「はじめましてラック。ミンメイよ。友達になってあげてもよくってよ」


 ゲーム世界でしか出会えなさそうな、高飛車な態度と共に差し出された手も美しく、思わず見とれていると、ミンメイの不安げな表情が視界に入る。

 高飛車なキャラ設定なら、早く私の手を取って跪きなさいよ、とでも言うのかと思っていたのに、彼女の不安げな表情が印象に残った。そんな顔をさせたことを後悔しつつ、握手で答えると周りから絶叫が上がる。


「う、うそだろぉ、あんな奴がなんでミンメイさんとフレンドに」

「俺も! 俺も握手して!」

「あいつを殺す」

「ミンメイちゃん愛してる!」


 大多数からの殺気と罵声を浴びた僕は、これからもゲームを続けられるのだろうか。


書き直し(2012/4/11)

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