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Luck & Ruck  作者: kooo
30/30

誰もいない空間のなかに大声で叫ぶのはフラグ踏むのと一緒

「サクラさーん、アキラ〜」

 

 真夜中の墓地を思わせる静けさが一階のホールを支配していた。

 僕はその空間へ声を忍ばせるように囁きかける。

 なぜ周りの空気を振るわすほどの大声で叫ばないのかと言えば、答えは単純、僕がビビりだからだ。

 ゲームとかではよくあるよね、こんな場面。大声を出した瞬間、扉の向こうからゾンビ犬とか化け物が出た日には腰を抜かす自信だけはある。


 壁の向こう側へ行く前、ここは数百人のプレイヤーがたむろし、彼らが雑談する声は鳥のさえずりのように彼方此方から聞こえていた。

 それが今は、周りを見渡せば中庭のテーブルや椅子はなぎ倒され、小物やアイテムが転がっているだけだ。

 いくら鈍い僕でも『何か』が起きたことは一目瞭然だ。

 一体何が起こったのか? それがわからない。いや、想像はしているが、それこそ悪いことしか思い浮かばず、後ろ向きな考えを否定するのに必死だった。

 誰にも相談することが出来ず、呆然と立ち尽くしていると、微かな、本当にこの無響空間と化していなければ耳に入ることがないほどの囁き声が階上から聞こえてきた。それは僕にとって、天使のさえずりだった。

 早く誰かに会いたい。

 まったく見知らぬ人でも、集団の中の孤独でもいい、とにかくこの空間に一人きりという不安に押しつぶされそうになっていた僕は、階段を昇ることすらもどかしく、吹き抜けとなっている中庭から二階へとジャンプする。

 白虎ブーツの助けもあってか、僕の飛翔力は以前とは比べられないほどの違いをみせ、二階の欄干を踏み台にして、三階フロアに降り立つことが出来た。

 着地した姿勢のまま、三階の廊下を左右に見回すも、どの扉も閉まったままで、廊下には人影は見えない。

 おかしいな、確かに話し声が聞こえたはずなんだけど。

 しばらくそのままの姿勢で待っていると、


「ハハハ」「ヤメロヨー」


 すこし甲高い女性らしき声が、左方面のドア越しから漏れ出るのを、僕のデビルイヤーは聞き逃さなかった。

 やっぱり誰かいる!

 帰宅中に人混みをはずれ、街灯がない夜道を歩いているとき、前方から女子高生の声が聞こえてきたときの安堵感が心に染み渡る。

 なぜ女子高生に限定するかと言えば、男なら不良とかその他の類いで一人のときよりも怖い想像がよぎるから。

 着地した姿勢から四つん這い、さらに匍匐前進へと体勢を変え、声の方へと這い寄った。決して女子(中味は不明)の会話を盗み聞きしたいと考えたわけではなく、ボソボソと聞こえてくる声は、どこか録音した言葉を繰り返す単調なリズムが続き、その違和感が僕の行動を制限させていた。 

 匍匐前進しながら扉の前までいくと、何を言っているかはわからないが、確かに声は聞こえてくる。

 ドアには隙間らしきものも見えず、そっと耳を寄せると、


「マッテー、マッテヨー」


 複数の会話の中から拾えた言葉はそれだけだった。

 何を待つの!? 中ではいったい何が行われているの?

 タイミングを見計らって内部の様子に聞き耳を立てていたけど、相変わらず会話の内容はまったくわからない。でも、この中に人がいる。それがわかっただけでも僕の気持ちは幾分か楽になっていた。

 どうしよう。場の空気も読まずに扉を開けるべきか。いや、まずはノックか。いつも思うけどノックしたあと、どうぞ〜って言うのを待ってから扉開ける人って少ないよね。

 すぐに脱線したがる思考を排除したあと、悩んだあげく僕の頭脳からひねり出された作戦は二つだ。

 すいません、あ、ごめんなさい部屋間違ったみたいだ〜作戦でいくか、やったね! これでここから脱出できるね、ところで僕の友人知りませんか? 作戦でいくか。

 例え相手が呆然とこちらを見つめても、それはそれで良しだ。

 扉の前で立ち上がり、深呼吸ぽいことをする。

 仮想空間では生命維持のための呼吸が必要ないため、あくまでもフリだけど。高まる鼓動……もないけど、落ち着けと言い聞かせ、軽いノックのあと、真鍮製のドアノブに手をかけ勢いよく扉を開けた。


「こんにちは! ここに僕の友人が……」


 数十、いや数百対の視線が一斉に僕を見つめた。

 朱く鈍く光る視線が。

 ここはゲーム世界だ。現実のように碧い瞳もいれば、多くの日本人のように黒や焦げ茶、もしくはここでしか見ることができないオレンジやライトグリーンなんて虹彩をもつ人もいる。しかし、僕を見つめてくるそれは、その中のどれにも当てはまりそうにもない。

 それは人ではなかったから

 部屋を埋め尽くすほどのそれは、窓枠や机、シャンデリアなどに止まり、こちらを訝しむように覗き込んでいた。

 朱く炎に包まれた鳥の群れが。


 「ヤメロヨー」


 一羽が翼を大きく広げ、雄叫びのように言葉を発すると部屋中の鳥が追従した。

 静寂を打ち払う鳥の合唱が空間に木霊し、それに気圧された僕は一歩後ろへと下がる。そしてこれが攻撃のきっかけを作ることになった。

 動いた僕を獲物と判断したのか、鳥たちは両翼を大きく広げ、羽ばたかせると一斉に襲いかかってきたのだ。

 

「うあああ」


 そのまま後方へ走り出し、廊下を越え、躊躇なく中庭へと飛び降りる。

 一瞬無重力を思わせる空中での浮遊感をあじわったあと、そのまま下へと引っ張られ落ちていく。

 一階のフロアへ着地した衝撃は自分が思っていたよりも少なく、すぐさま柱の陰に身を潜め、気がつかれないように上を見上げた。

 鳥の群れは、急降下して僕を追ってくることもなく、一体一体が鋭い嘴を突き出し、そのまま炎の矢と化して対面側の壁へ突進していく。

 マシンガンから発射された弾丸のごとく頑丈な壁にぶつかっては鳥は火の粉を散らして霧散していった。

 なんだよ、あれ、あの炎の鳥は……、まるで小型版の朱雀じゃないか。

 アルカノが死んだことによって城内に侵入できたのか。でも、どうやって。

 うつむく僕の影が不自然に揺れ動き、光源を探して目を彷徨わせると、見上げた先にあるシャンデリアの炎が不規則に揺れていることに気がついた。煌めくガラスに包まれた蝋燭の炎が次第に膨らみ増していくと、それはやがて頭や尾を、そして翼を持ちはじめ、鳥の形にまで成長すると緩やかに羽ばたく。

 シャンデリアのガラスがそれにつられて光を反射し、流星が上昇していく様は、アキラの銀髪が陽の光を反射したときのように美しく、思わず目を奪われる。

 炎の流星はシャンデリアから抜け出ると、僕がここにいるのを知っているのか、側にあった椅子の背を止まり木と見定めて、ゆっくりと降下してきた。

 背もたれに止まったそれは、襲ってきた鳥たちよりも遙かに小さく、雛鳥を思わせる仕草やキューともチュンとも取れる声で鳴く姿に、思わず手を出しかけていた僕だったが、目と目が合った瞬間に、こいつとは意思の疎通などは無理だと察知した。

 拡大された昆虫写真を目の当たりにしたような感覚とでも言うべきか、情と呼ばれるものを一切排除した瞳には可愛らしいとかキュートといったスパイスは一つまみもない。

 シャンデリアからは数十羽の雛鳥が次々と生まれ、二階や三階、または他に止まれそうな場所へと降り立っていた。僕の周りに降りてきたのは最初の一羽だけなのが、幸いと言って良いのかどうか。

 体を硬直させた僕と雛鳥の見つめ合いは数分にも及んだかもしれない。実際には数十秒だったかもしれないけど、体感的には数時間にすら感じた。

 先に動いたのは、雛鳥の方だった。

 小さな敵は僕をそこら辺のオブジェクトとでも認識したのか、不意に視線を外すと他へと興味をうつす。

 気がつかれないようにジリジリと後ろへ下がり、雛鳥がこちらを見ては動きをとめる。

 逆だるまさんが転んだを繰り返し、身を隠せそう通路まで、後一歩だ

 もうちょっとだ、あと一歩、あそこまでいけば身を隠せる。だが、雛鳥は僕の心をの焦りを見透かしたように長くこちらを見続け、視線を外そうとはしてくれなかった。ジリジリと焼き付けられそうな焦燥を必死で押さえ、雛鳥が小さな嘴を動かしながら、ゆっくりと首を回していくの見たときは心が躍った。僕が喜色を浮かべて、動こうとしたとき、雛鳥の首は現実ではあり得ない方向へと曲がった。

 数字的にいうのなら、三百六十度ほど。

 首を一周させた雛鳥の視線に僕の体は硬直し、止め損なった足に、床に転がっていた貨幣の山があたる。

 静寂な空間を打ち破る金音は、吹き抜けの空間すら切り裂いて天井にまで響き渡った。


「キュケァ」


 可愛らしい声のくせに、それと正反対の印象を叩き込まれた僕は、なりふり構わず通路に駆け込んだ。

 遅れて無数の羽ばたく音が背後から聞こえたときは、かつて祖父が見せてくれたヒッチコックの『鳥』という映画のワンシーンが頭に思い浮んだ。

 子供心にみた恐怖映画のせいか、その場にとどまって戦うという考えは僕の中にはなく、とにかく逃げる、何が何でも逃げる。

 でも、どこへ逃げたらいい!? さっきまでいた地下通路はどうだ? だめだ。壁の向う側が安全地帯かもしれないが、もしこいつらがすり抜けてきたら、逃げ場がない。

 部屋の中はどうだ。これも却下だ。さっきのように鳥群がいたら挟み撃ちにされる。

 どうしたらいいんだ。

 白虎ブーツによる快足で通路を駆け抜けていくが、迫り来る羽音は次第に大きさを増し、恐ろしさのあまり振り向く事もできない僕の思考の幅をさらに狭くしていった。

 やばい! やばい!! やばいよ!!!

 焦りだけが先行し、上下に逃げることもせず、一階をものすごい早さで走ることの意味に気がついたときはすでに遅かった。 

 目前には大きな彫像が飾られ、左右への逃げ道はない。つまり、行き止まりだ。

 彫像を背に、振り返ればがいる!

 通路を埋めるほどの鳥の群れが一直線に迫ってくる姿はトラウマものだ。

 覚悟を決め、魔法の鞘から白虎の短剣を抜き構える。

 恐怖に震える手を押さえつけ、吐き気を催すほどの動揺は次第に静寂を増していき、ほんの数秒の間に自分でも驚くほど達観した気持ちへと変わっていく。 

 死ぬときってこんな気持ちなのだろうか。 

 

「ごめん」

 

 誰に対して、なぜ謝ったのか、自分でもわからなかった。

 ただ口から出てきた言葉が、その一言だったのが自分でもおかしかった。


「何を笑っておるんじゃ。本当におぬしは緊張感がない男じゃの」


 小さな体に白衣を纏い、緋袴をはためかせた幼女が空中に現れ、僕に語りかける。

 口元に浮かんだ微笑とキラキラと輝く瞳は可愛いらしさを通り越して愛おしい。

 行き止まりの通路から突然音もなく現れたサクラさんは、手に持っていた払い串を左右に振るい、呪文を唱えた。


「はらったま! きよったま! チョコレートバナナ! 抹茶プリン! ハニーピーチ! 【パフェ】」


 払い串から光の粒子が煌き、雪のように辺りに降り注ぐ。粒子が合わさり、点から線へと変化を見せ、光の帯と化して僕らを取り囲むと白壁を築き上げた。それが瞬く間に溶け落ちると、そこは通路などではなく、月明かりが頭上を照らすどこか見知らぬ屋根の上にいたことに気がつく。

 すぐさま抜剣した白虎の短剣を身構え、辺りの様子を伺うも、不気味に朱く光る炎の鳥は周りには見受けられなかった。


「ここはハイムから少し離れた建物の上じゃ」

「いったいどうやって? いや、一体何があったんですか? みんなは? サクラさんは今までどこに? それよりもハカセが……」

「落ち着け。ここには私の短距離転移魔法で移動したんじゃ。領土戦が終結したのでようやく使えるようになったわ。待て待て、おぬしが聞きたいこともあるかも知れぬが、まずは私の質問から答えよ」


 聞きたい事が山ほどあったけど、サクラさんに手で制されてしまった。


「おぬし、今までどこにいた?」

「どこって壁の向こう側ですよ。サクラさんたちこそどこにいたんですか!? 僕らが戻ってきたときには誰もいなくて心細かったんですよ!」

「私らはおぬしらを待っておった。丸一日もじゃ」

「へ?」


 もう間抜けな返答しかすることができない。

 どれだけサクラさんを待たせていたか、正確な時間まではわからないが、少なくとも丸一日はない。通路の先で起こった出来事も含めてサクラさんに事情を説明をすると、幼女は頭を抱えて蹲ってしまった。


「なんてことじゃ、ペッジがラフィン・スカルとは。いや、それよりもハカセが連れ去られるとは」

「サクラさん……。でも、まだハカセは死んだわけじゃないと思うんです。あの雰囲気ではどこかに連れ去られた、そんな感じでした。きっとハカセは生きているはずです」

「小僧……」


 俯いたままのサクラさんはどこか微妙な、今までに見たことがない表情を浮かべていた。いつもの余裕のあるものではなく、もっと切羽詰まったような。


「一体何があったんですか。アキラたちはどこに?」

「小僧との話ではだいぶ時間的に行き違うが……」


 サクラさんは重い口を開くと、僕らが壁の向こう側へ行っている間のことを語ってくれる。


 小僧たちが壁の向こう側へ行って一時間も経つとアキラ達が心配しはじめての。直接通話やリンカーで話しかけても返事が返ってこないと。

 私は即断した。すぐさま【引き寄せ】魔法をつかったんじゃが、反応はなかった。これは私がうかつじゃった。何度か試すべきだったんじゃ。

 後悔しても遅し。おぬしたちは向こう側へと消え、私らにはどうすることもできんかった。

 何か対策を立てるべく、その場で話し合いをしていると、団員の一人が慌てて走り寄ってきた。


「て、て、敵が! 城内に!」


 その場にアキラたちを残して、私が一階に戻って見たものは地獄絵図じゃった。

 どこから現れたかわからぬ炎の鳥たちが縦横無尽に飛び回り、プレイヤーに襲いかかっておったのじゃ。

 城内はパニックよ。襲われたプレイヤー達は逃げ回るか、やたらに剣を振り回し、魔法が飛び交う有様じゃ。周りのプレイヤーと協力する考えなど端からなく、ついに逃げ場を失った集団が城門を開け放ったのじゃ。


「開け放たれた城門から数千……、数万かもしれんな。城内を埋め尽くすほどの鳥が入り込み、プレイヤー達を襲ったんじゃ」


 押し黙ってサクラさんの言葉をゆっくりとかみ砕く。


「……アキラたちはどうなったんですか」

「無事じゃ」


 ホッと息が漏れでる。

 よかった。本当によかった。


「城門が開かれたあとはどうなったんです?」

「桜花団や残った人員をまとめ上げて、地下に籠城したんじゃ。半日ほどはそこで耐えていたんじゃが、我らはそこでどうやって炎の鳥たちが入り込んできたか知ったよ」


 地下通路にあったかがり火。

 煌々と暗い地下を照らし出してたかがり火が、炎の鳥に変化したんじゃ。

 数羽ほどではあったが、そやつらを討伐するのに何十人もの仲間が倒れていったよ。本当に悔しいの。目の前で仲間が死んでいくというのは。


 サクラさんは僕に顔を見せないように月を見上げ、声に涙を滲ませていた。

 数瞬の沈黙のあと、彼女は鼻をすすって続きを話す。


「地下へ避難した我らは一箇所に集まり防壁を築いた。そこで半日は応戦しておったと思う。敵も数を減らし、なんとか落ち着きを取り戻した頃に、次の混乱がおこったんじゃ。領土戦終結のシステムメッセージが流れたあと、テレポーターや転移魔法が解禁になると、皆こぞって逃げ出したんじゃ。主にアルカノギルドの奴らじゃったが、慌てた団員も転移魔法の範囲内に飛び込み逃げ出したんじゃよ」


 それがついぞ四時間前のことじゃ、サクラさんはそう言った。

 おかしい。アルカノが死んだのは十分前くらいのことだ。それが四時間前とは。

 時間のズレがいったい何を意味するのか。


「残ったメンバーで残敵を掃討したあとは桜花団にも逃げ出すように指示を出したんじゃ。しかし、アキラやミンメイが言うことを聞かなくての。小僧が出てくるまでは残ると言い出したんじゃ」

「アキラたちが」


 なんだか嬉しいような、歯がゆいような。照れ隠しで顔を指先でかく。


「桜花団の主立ったメンバーはパイロンに任せて脱出させ、街に残っている団員はアキラ、ミンメイ、パトとあとあの小娘、名前はなんじゃったか」

「え?! アスカも残ったの?」

「そうそう、アスカじゃったか、あやつも残ったわ。この街のテレポーターは大聖堂にあっての。そこに待機しておる。その後は、小僧に付けたマーカーを目標点に、十分おきに短距離魔法を使っておったのよ」

「なるほど、だから突然あの場に現れたんですね。でも、それなら一気に大聖堂にワープしてくれればよかったのに」

「馬鹿者。敵があんなに迫っている中、いきなり隠れ家にとべるか。もし敵も一緒に引き連れてしまったら大事じゃ」

「そ、そうですね。調子に乗りました」

「まったく。小僧といると緊張しているのが馬鹿らしくなるの。さて皆のところに帰ろう。そして、こんなところからはおさらばじゃ」


 何かを吹っ切るようにははにかんだサクラさんが僕に手を差し伸べる。

 幼く、小さな手を取るために僕も手を出すと、目の前を朱い弾丸が火の粉を散らしながら通過した。


「なんじゃ!?」


 僕とサクラさんが振り向いた先に、何もない空間から無理矢理体を捻りだそうとする数十羽の朱雀の首が、そこにあった。

 炎の鳥は首だけを宙からぶら下げ、身をよじらせるように動かし狭い穴からなんとか這い出ようとしている。


「朱雀が……」

「なんじゃこの現象は。いままでこんな攻撃はなかったぞ。小僧! とにかく一旦逃げるぞ、近くに!」

「は、はい」


 払い串を左右に振り払い呪文を唱え終わった一瞬の硬直時間と、空間を這い出た一羽の朱雀がサクラさんへ追突したのは同時だった。

 サクラさんの右手が燃え上がり、幼い顔立ちを苦痛に歪めて蹲る。


「サクラさん!」


 腹の底から出した、恐怖の絶叫は夜空に響き渡り、次々に這い出る朱雀の弾丸が迫るなか、完成した呪文が発動して僕らをどこかへと転移させた。

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