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Luck & Ruck  作者: kooo
2/30

は○たいらに10000点を賭けても見返りは少ない

ソード&マジックで晃と合流した幸多は、ゲームのレクチャーを受けることになった。

 馬鹿だ、いやお前のが馬鹿だと言い合った後、今学期の期末試験の点数勝負にまで発展し、お互いを傷つけあった僕らは不毛な会話をやめた。


「外の世界には出てみたのか?」

「行ってみたけど、このゲームバランスはどうなの? 虎とかドラゴンとか強すぎでしょ」

「虎? ドラゴン? お前どこにいったんだよ。そんな敵は王都周辺にはいないぞ」

「だって実際に出会ったし、殺されたぞ」


 頭は大丈夫かと僕の額に向かって延ばす手をはねのけ、外で起こった出来事を晃に伝えるも、


「うーん……。夢でも見たんじゃない?」


 軽く流しやがった。


 夢のような世界でみる夢があれだったら、僕はどんだけ悲惨な末路を望んでいるんだ。

 言い足りない苦言をはき出そうとしたとき、晃はそれを遮りゲームレクチャーを始めてきた。

 このゲームにはレベルの概念がない。装備が全てだと言い切られた。

 言われてみれば、確かに、周りには同じ格好をしたキャラクターはいない。

 派手な格好から地味なもの、馬鹿でかい両手斧を担いだ壮漢から、黒いローブを頭からすっぽりと被った、いかにも魔法使いですと言わんばかりの者まで、どこかに個性を出している。

 装備の種類は数億もあり、組み合わせは数え切れないそうだ。

 さらに、ジョブの概念もなく、私は魔法使いです、戦士です、などは個々人が勝手に名乗るらしい。

 このゲームで職種を決めるのは自分であり、それを裏付けるのは装備と振り分けたステータスだけだ、と。


「ステータスって筋力とかの?」

「そう。キャラメイクで初期値の一万ポイントを振り分けたろ? ストレングスとかカリスマとか」

「あれ適当に振り分けちゃったけどダメ?」

「一応聞くけど、どう振りわけたんだ」

「LUCKに一万点!」


 前に曾祖父のパソコンから発掘された動画を再生したとき、その時代のテレビ番組でやっていたノリで言ってみたが、晃はゴミを見る目付きで、僕を見据えるだけだった。

 現実世界の晃ならノリが悪いぞと、蹴りの一つもお見舞いしてやるところだけど、この世界での美つくしい顔で『この豚め』と言わんばかりの視線は胸が高鳴りそうになる。

 そんな自分が怖い。


「なに考えてるんだ。STRとかDEXとか色々とあっただろ。よりにもよってLUCKに全部つぎ込むとは」

「いや、ここは譲れない! この世界まで不運だったら僕は生きていけないよ」

「生きるか死ぬかで言うのなら、即死だ! だいじな基本ステータスなのに……」


 呆れた晃から詳しく聞くと、キャラメイク時に振り分けるボーナスポイントとも言うべき一万ポイントは、この世界で『個性』を決める重要な項目だとか。

 Strength(筋力、攻撃力)、Dexterity(器用、機敏)、Vitality(耐久、防御力)、Agility(敏捷、回避)、Mind(理性、精神力)、Intelligence(知恵、思考力)、Charisma(魅力、指導力)、Virtue(善、美徳)、Vice(悪、悪徳)、Luck(幸運、運勢)の十項目からなり、総計一万ポイントの中で振り分ける。

 頑強な戦士タイプを目指すならStrengthやVitalityに多く割り当て、忍者タイプを目指すならAgilityを上げるなど、自分の目指すタイプを作り出す。


「軽い気持ちでラックに振ってみたけど、それってゲームとしては致命的だよね?」

「やっとわかったか」

「ど、どうしたらいいの、もう一度振り分け出来ないの?!」

「手っ取り早いのは、キャラクターを作り直すことだけど……」

「たしかこのゲーム二度目の作り直しは、千円くらいかかったよね」


 ここでもぼったくりゲームとして名高いソード&マジックは威力を発揮する。初回は無料で出来るのだが、こだわる人が多かったのかキャラクターのリメイクにかかる費用は異様に高い。


「基本ステータスが全てじゃない、装備とかアビリティで補えるから。そんなに気を落とすな」


 晃が慰めるように解説をしてくれた。

 戦士をやる気で作ったキャラクターでも、人の気持ちはよく変わるし、途中で魔法使いやシーフのように動きたくなる時も多い。その場合は、器用さのステータスを上げる装備や、アビリティを覚えて補っていくのがこの世界での常識なのだそうだ。

 これだったら僕にも望みがありそうでよかった。


「幸た……じゃなくて、ラックは色々と教えるよりも、実際に動いた方が覚えるだろ。装備を整えてモンスターと闘ってみようぜ」

「名前じゃなくて、キャラ名で言われると気恥ずかしいな。晃のキャラはなんて名前なの?」

「アキラだ」

「まんまかよ!」

「考えるのも面倒だったんだが、気張った名前にしても、お前に呼ばれるかと思うと、むずがゆくなりそうだしな」

「今はアキラの気持ちがわかるよ。僕もコータにすればよかった。そう言えば、このゲームは招待制だったよね、アキラは誰から招待されたのさ」

「んー。まぁ、それはいずれ。そいつも来たらお前を紹介するよ」

「ふーん。ま、いっか」


 考えてみたところで、晃の交友関係は広すぎて、よく一緒にいる僕にもわからない。

 それを気にするよりも、まずは僕がこのゲームでやっていけるかを考えなければ。

 このゲームをやる目的は、晃に誘われたというのもあるけど、運がよければ白川さんと一緒に遊ぶことが出来る点だ。さらにうまくいけば、この夏はドキ! 男だらけの水泳大会イン市営プールに、あこがれの女子が混じってアレがアレしてアレな展開があるかもしれない。

 そのためにも、格好悪い姿はなるべくさらしたくないのだ。


「アキラァ、どうしたのぉ、ミネルヴァにいるなんてめっずらしぃニャ」


 どこか間延びした女性の声が、アキラを呼び止めた。

 声のする方を見やると、茶色のショートボブカットから、ピンと天へ突き出した猫耳、大きく野性味を帯びたトパーズ色の瞳、それとは対照的に小ぶりな唇が可愛らしいキャットピープル(と呼ぶべきか)の女性が立っていた。

 猫耳娘の服装は長袖にホットパンツ姿と、彼女にお似合いの格好なのだが、大胆に広げた胸元、肩から腕先まで入ったスリット、それらをヒモが辛うじてつなぎ合わせているなど、怪しい淫靡さが、細い肢体から匂いたつように溢れていた。

 極めつけは、短めのホットパンツから飛び出した、美しい御御足を惜しまれつつも包み込み、尚且つ、その繊細さを際立たせた網タイツ、膝丈まであるロングブーツと相まって、キャットピープルという種族的魅力を惜しみなく引き立たせているではなかろうか。

 アキラほどの美少女でもないが、もし現実に僕の目の前に現れたら、即座に犬にしてくれと申し込んでいただろう。相手は猫だけど。


「ユン。君こそどうしてここに?」

「ちょぉーと野暮用ニャ。そっちの子は従者? それとも、まさかアキラの彼氏かニャ?」

「従者とか彼氏って、アキラはおごもぼご」


 反論しようとする僕の口を、アキラの繊細な腕からは想像もできない力で押さえつけてきた。現実世界なら僕のことを窒息死させているに違いない。


「友達です。このゲームをやり始めたばかりで、案内しているところなの」

「へー、アキラの友達なんだぁ。実はぁアキラが男性キャラと二人だけで歩いてるのが珍しくて、さっきから見てたんだニャ」


 えへへ、と可愛らしい笑顔に惹かれそうになりながら、この子もアキラと同じく中身は男かもしれないと思うと心にブレーキが……かかりそうにもない。どうしよう。僕はもう誰でも良いのかもしれない。不純すぎる僕を神様は許してくれるそうにない。


「それはあんまり良い趣味じゃないよ。ラック、こちらユン。私がいるギルドの一員。ユン、こっちはラック。昔からの友人なんだ」


 急に言葉使いを改めるアキラの喉をかっ斬りたい衝動に駆られながら、ユンからよろしくと差し出された手に握手で答える。


【フレンド登録しますか? はい/いいえ】


「フレンド登録しますかって出たけど」

「この世界では、友達の登録は握手でするんだ。せっかくだしフレンドになったら?」

「アキラの友達なら、ウチは大歓迎ニャ」


 お言葉に甘えますと言って【はい】を押す。何が変わったわけじゃないけど、これでフレンド登録が出来たらしい。


「友達になると、フレンドリストから直接通話が出来るんだ」

「へー、でもどういう時に使うの」

『こういう時だニャ』


 ユンの声が頭の中に直接響いた。

 先ほどまでいたユンの位置に顔を向けてはみたが、そこに姿はなかった。

 辺りを見廻しても見つけらず、声はずっと頭の中に聞こえてくるのが不思議な感覚だった。


『お互いに離れていても連絡を取れるんだニャ』

「僕はどうやって答えたらいいの?」

「フレンドのリストから相手を選択して、通話ボタンを押してみて」

『こうか? もしもーし』

『はいはいーニャ』


 これは電話と言うよりもテレパシーとトランシーバーみたいなものか。会話は口頭からではなく、ボタンを押している間に思ったことが相手に伝わり、先方からの内容も頭の中に響くのは違和感があるけど、そのうち慣れるだろう。


「えへへぇ。これでまた友達ゲットだニャー」


 人混みに隠れていたユンが、そんなことを言って姿を現した。


「この世界は異常に広いから、ギルドに所属してリンカーをもらうか、個別にフレンドにならないと、偶然で出会えることなんてほとんど期待できないんだ」

「僕とアキラは登録しなくてもいいの?」

「招待したユーザは自動的にフレンドになってるんだよ。リストに載ってるだろ」

「本当だ」

「まだリストに二人だけなんだから、見落とすなよな」


 たわいもない、いつものアキラとの会話だったが、ユンがその大きな猫目をさらに大きくしてこちらを見たかと思うと、口角を思いっきりつり上げて嬉しそうな笑顔になっていた。


「ふふぅ。アキラがそんなに親しげな会話をするなんて、初めて見たよぉ。仲いいんだねぇ」

「ユンがフレンドリーすぎるんです」

(おい、アキラ)


 流石に我慢しきれなかった僕は、小声でアキラの耳元に口を寄せた。


(なんだよ)

(なんだよは僕のセリフだよ。その気味悪い話し方は何? アキラが私とか使うと、僕は喉をかっ斬りたくなるよ。アキラの喉笛を)

(ははは、心配するな、俺が今すぐ斬り落としてやる、お前のをな!)

「人殺しぃ!」

「あははは、本当に仲が良いんだねぇ」


 ユンの暖かい目線が、僕にとっては、十字架を向けられた吸血鬼の気分にさせてくれる。この人、絶対に勘違いしてるよ。


(とりあえず、俺のリアルのことは言うな。色々と諸事情があるんだ)


 どんな諸事情か知らないが、仮想空間で、友人がネカマ紛いになっている事実を突きつけられた気持ちは、現実世界の晃にぶつけようと思う。


「なんかお邪魔しちゃったかニャー」

「いや、そんなことないですよ。ユンもよろしければラックにパーティプレイを教えてあげてくれませんか」

「ウチは別にいいけど、ラック君はいいのかニャ」

「初心者ですけど、よろしくお願いします」

「じゃ、まずはラック君の装備を調達しニャいとね」


 二人が先に歩き出し、取り残されそうになった僕は慌てて二人のお尻を……じゃなくて後ろ姿を追った。


 繰り返すようだが、ミネルヴァはとにかく広い。どれくらい広いかといえば、何かを基準に何万個分という例えを出せないくらい広いんだそうだ。

 どうりで城門へいくのに、時間がかかったわけだ。

 そのことをアキラに話すと、また呆れた顔をして、テレポーターのことを話してくれた。

 広すぎるこの世界は実際に徒歩で移動すると、とてつもなく時間がかかる。かといって、電車やバスが整備されているわけでもないので、テレポーターと呼ばれるノンプレイヤーキャラクターか転移装置を利用して移動するのが常識なのだとか。

 ミネルヴァでも装備を調えるために、歩いて移動していては時間がなくなるので、それを利用してショップ周りすることになった。


 『装備通り』と呼ばれる一区画にワープすると、そこは雑多な物と人で溢れ、壁に立てかけられた大剣や、マネキンに着せている鎧を飾った店などが、所狭しと軒を連ねている。

 買い物客や、呼び込みなどで埋め尽くされた通りを、アキラとユンは縫うように抜けていき、目的の店へと進んでいく。

 メイン通りを一本横に入った路地にも店はたくさんあり、古書店を思わせるような店へと二人は入っていった。

 武器や防具を買う時のワクワク感は、ロールプレイングゲームを好む者にとってはずせない感情だと思う。

 強くなったらあの鎧を着るんだとか、武器はあの漫画の主人公みたいな大剣にするんだとか、妄想をはじめるとキリがない。

 そんな妄想をさらに掻き立てるように、ショップに並ぶ甲冑や武器をみて、僕の興奮は最高潮へと昇っていく。

 無造作に並べられた兜、黄金色に輝くものから渋めに抑えられた銀色の甲冑。壁に飾られている片手剣や弓等々。取り上げていけばキリがない。


「これなんて良いんじゃニャい?」

「それは付けてみたけど動きにくかったよ」


 初めて見る武具や甲冑に興奮を抑えきれない僕を余所に、アキラとユンの選ぶ装備はどれも無難で、店の奥に飾ってある『漆黒の鎧』とか男の子心をくすぐる物には見向きもしてくれない。試しに僕が着てみたい装備などを伝えてみたけど「却下」と一蹴される有様だ。


「ひょっとしてステータスの問題で着られないとか?」


 ふとした疑問をアキラにぶつけてみるも、返答はあっさりしていた。


「装備はステータスに関係なく全部装備出来るよ。ただ筋力が高い人と低い人では、相手に与えるダメージも武器を振るスピードも違ってくる。こちらが受けるダメージも、同じ装備を着けている耐久力が高い人と低い人ではだいぶ違うんだ」

「ふーん。じゃぁ僕はどれをつけたらいいのさ」

「これなんてどう?」


 アキラがチョイスしたのは、今の僕が農民だとすれば、町人か商人にジョブチェンジした服装だ。なんというか、その他大勢の一員になれました、とでも言うべきか。


「贅沢いうな。この装備は結構いいものなんだぞ」

「そうだニャ。これは初心者が付けるには、かなーり良い装備ニャ。値段も結構張るんだよぉ」

「とにかく、一度装備してみなよ」


 装備してみなよと言われたのは良いものの、どうやるんだ。ステータスウィンドウを開いて装備をするのかと思い、画面を見たけど項目はない。


「実際に試着するんだニャ」


 僕が戸惑っているのがわかったのか、ユンが教えてくれる。


「装備リストとかあってそれを選択すると、パッと姿が変わるんじゃないの?」

「ラック、このゲームのキャッチフレーズを思いだしなよ」


 このゲームのキャッチフレーズってなんだっけ? お前の幻想を砕くとかだっけか。なんか違うな。『リアルさを追求したファンタジー』だったか。

 リアルさを追求した、ってまさか。


「これって、この場で着るの?」

「さっきからそう言ってるニャ」


 僕はこのゲームで何度か叫んだと思うけど、また叫びたいと思う。


「そんなリアルさはいらねー!」


書き直し(2012/4/11)

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