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Luck & Ruck  作者: kooo
15/30

振り下ろされた剣(中編)

 敵と思われる集団と数度の戦闘を繰り返し、僕らはようやく西広場へと辿りついた。

 ハイム城の西側は城壁の内側に広い湖の一部を取り込み、湖畔には何艘か小舟が浮かんでいる。

 そのすぐ側にフランスのアミアン大聖堂を思わせるゴシック建築物が、半ば湖に飛び出すような形で建立し、その屋根には十字架ではなく女神像と天使が飾られている。


 不思議なことに僕らを追い回していた集団は一定の距離を保つと足を止め、遠巻きにこちらを伺うようにするだけで遠隔武器も魔法も使おうとはしなかった。

 手を出してこないのなら幸いとサクラさんはペッジがいる大聖堂内部へと足を進め、僕らもそれに続く。


 敵の動きに作為的なものを感じるし、これって罠くださいんだよなぁ。

 僕が思うくらいだから団長やユンもわかってはいると思うけど……。


 必要以上に辺りを見回し、他のみんなに続いて大聖堂の扉を潜ると、とつてもなく高い天井が僕らの頭上に広がる。僕が普段みなれている高い天井といえば学校の体育館しかないのだが、それを遙かに突き抜けた高さだ。

 アーチ状に作られた天井を支えるように直径二メートルはある巨大な石柱が建ち並び、扉から一直線に伸びた空間の先には明かり取りのために設えられた窓にステンドグラスがはめ込まれ、日の光に照らされたそれは色とりどりに輝き荘厳さを醸し出している。


 最奥に位置する教壇にはやさしい顔立ちの女神像が立ち、その前にいかつい格好をした数十人の集団を見ることができた。

 遠目にもわかっていたが集団の中心にいるのは例の金髪碧眼の美青年ペッジであり、その周りにいるのはペッジの部下と、桜花団のメンバー達のようだ。

 捕捉したと聞いた僕はてっきりペッジは縄で括られ地べたに座らされているものだと思っていたのに、あれではまるで雑談している一風景にしか見えない。


 サクラさんはその集団に眼をやると躊躇無く歩を進めていく。

 僕の疑問をユンも感じとったのか彼女はサクラさんよりも先に相手集団へと駆け出し、ハンゾウさんの部隊は入り口や建物周辺の警戒へと散開していた。

 

「ちょっとこれはどうなってるんだニャ」

「ユンさん。いやペッジが抵抗はしない、団長と話がしたいというものですから」

「だからって馬鹿正直に拘束もせずに雑談してるって、おかしいだろ! ニャ」


 付け足すようにニャをつけたユンの気持ちもわからないでもない。

 もう意識してキャラを作ってる場合ではないのだ。

 これがただのゲームだったらこのような状況でもかまわないと思う。でも今は命がかかったゲームだ。しかも僕らは罠にはめられた立場であり、このような悠長なことをしている場合でもないはずだ。


「ユン。よいのじゃ。今はそれよりも真相を問いただしたい。ペッジ、正直に答えてもらおうか」


 サクラさんの鋭い視線を受けても気後れすることも無くペッジは平然と受け止め、胸元で組んだ腕を崩そうともしない。


「真相……とは何のことでしょう」

「猿芝居はやめよ。いまさらの問いをするほど、わしも心穏やかではないぞ」

「それは怖い。S+Mでも歴代のPvP(Player versus Player)強者といわれるサクラ殿に睨まれては生きていけそうにない」

「猿芝居はやめよと言うたはずじゃ。貴様も対人戦では有名じゃろ。ペッジ、どこまでこの件に絡んでおる」

「……サクラよ。お前が思うほど俺は今回の件にあまり絡んではいないと前もって言っておく」

「嘘つくんじゃニャいよ!」


 ペッジの言葉に半ばかぶせるようにユンが歩みよると、ものすごい猫眼で金髪美青年にガンをつけはじめた。

 ものすごく……こわいです。

 ユンの中身はあれか、ちょっとアレはいってるのかな。


「おぬしがどの程度絡んでいるかどうかは私が判断する。知っていることを話してもらおうかの」

「……」

「言いにくいか。ならば私から言ってやろう。今回の襲撃者はNPC軍ではなく、アルカノの一団であろう。襲撃者の中に何人か見知った顔がおったわ」


 サクラさんの一言により、桜花団のメンバーは「やっぱり!」「んな事だろうと思った」「俺らは罠にはめられたのか?」と思っていたことを口々にはしらせる。

 サクラさんはさらに続けた。


「おぬしらと同盟を結んだ我らの盟約が未だに破棄されないということは、おぬしらはギルドを二分して反乱戦ということにしたんじゃろ。ひとつの集団を近隣に忍ばせ、我らを内部に引き込み包囲殲滅しようとでも考えたか。わからぬのは、なんで我らなのかということじゃ」

「……」

「我らはS+Mでも屈指のギルドと自負しておるし、おぬしらも知っているはずじゃ。ラフィン・スカルのゲームに乗ったとして、我らと敵対するにはリスクが大きいと思うが?」

「……アルカノは……恐れていたよ。お前達のことをな」


 沈黙し続けていたペッジが重い口を開くと關を切ったように話し出した。


「奴はラフィン・スカルが現れたときも余裕の態度を崩さなかった。飄々とした態度で聞き流していたし、危機感を微塵も感じさせることはなかった。そう、お前らの中に潜ませた密告者からの報告を受けるまではね」

『密告者!』


 密告者。その言葉が出た瞬間辺りは静まり、桜花団のメンバーはお互いの顔を見合わす。

 楽しく遊んできたメンバーの中に裏切り者がいる。

 なんでゲームの中に密告者なんているのか。その理由は彼らの愚痴めいた言葉から察せられた。


「あれか、俺らしか知らないレアモンスターのポップ時間に合わせて他の集団がきたのも密告があったからか」

「俺が作った必殺技がぱくられたのもそのせいか!」

「いや、あれは誰だって思いつくだろ」

「桜花団の金策の狩り場がばれたのもその類いか」

「ネットの情報ってのも考えられるしな、それに誰がとか言い出したらキリがないだろ」

「パイロンのグループが怪しいよな。金カネうるさかったし」

「待てよ、俺らが罠にはめられたってことは連絡をよこしてきたマルコだって……」

「やめよ!」


 不安のなか誰が密告者かを探り出した桜花団を制するように、サクラさんの一喝が堂内に木霊した。


「いまは犯人捜しをしておる場合ではない。真実を知ることじゃ。ペッジよ、アルカノは何を恐れたのじゃ」

「お前らも知っての通りアルカノは不遜な態度を取り続けてきた奴だ。そんな奴がお前らのある言葉によって一変した」

「それは?」

「オーバークロック」

「!?」

「あいつはその言葉を聞いた瞬間慌てふためき、取り乱し、喚きだした。すぐに増員しろとか集められるだけの戦力をとかな」

「脳のオーバークロックを知ったということか」

「それを知ったのは、あいつが少し落ち着きを取り戻してからだ」

「なんじゃと? ではただオーバークロックという言葉を聞いただけで取り乱したというのか」

「そうだ」


 サクラさんは何か租借するように口を開閉させ、手をアゴにあてると押し黙った。

 いったい何が起きているのか僕にはさっぱりわからない。

 オーバークロックの件は一般常識なの? 襲ってきたのがアルカノ?、マルコさんはペッジ派?、ペッジは何?

 頭が混乱するよ!


「ちょっと待つんだニャ。それと桜花団を罠にはめるのはどうつながるんだニャ」

「さてね。俺もうちのボスに言われたままのことを実行しただけなんでね」

「そこを詳しく話すニャ。何を命令された」


 ユンが今にも噛みつきそうなほどペッジに顔を近づける。


「まず街から誰も出さないように宣戦布告したのは本当だ。ただし、敵軍がすぐに来ないよう遠くの国にした。ギルドを二分し一方はお前らが来るまで外で待機し、俺たちはお前らを中にいれる手はずだった。あとはお前らが油断したところで捕縛する。それだけだ。決して殲滅するためとは聞いていない」

「本当ですか?」

「なんだと?」


 ペッジが冷たい眼差しでこちらを睨みつけてくるがかまうもんか!

 この金髪野郎のどこか他人事みたいな態度がどうしても気にくわず、ユンとの会話に思わず口を出してしまった。


「まぁ待て小僧。私もいま考えを整頓中じゃ。ペッジ、貴様らのギルド……あえて反乱軍と呼ばせてもらうが何人おるんじゃ」

「反乱軍ね。言い得て妙だな。俺らはお前らとの直接戦闘を避けるメンバーで構成された。ここにいる奴らも桜花団の誰かとフレンドだという奴らばかりだ」

「何人かと問うておる」

「五百人ちょっとだ」

「なるほど。それ以外はアルカノ派というわけか。昨日の今日でそんなに増員できるわけなかろうから、アルカノ派は城内にいた連中と後から来た奴らと合わせてもざっと八千くらいか。それで我らに奇襲……う〜ん。つながらんの」

「サクラさん、こんな奴らの言うことをまともに受けちゃダメですよ。気に入らないから戦闘をしかけてきた。それだけじゃないですか?」

 

 思考のループへと入り込みそうになるサクラさんに僕は思いつきを投げかける。


「僕は経緯とかまったくわかりませんけど、アルカノって野郎は桜花団に恐れをなして早めに潰そうとしかけた。それじゃだめですか?」

「小僧は単純じゃのぉ。私なら恐れる相手は潰そうとする前に戦いを避ける」

「そんだけ慌ててたとか?」

「何を慌てるというんじゃ。力が互角なら十分に戦力を整えあとに仕掛けても良いと思うんじゃが」

「桜花団が巨大になるのを恐れたとか? もしくはサクラさんを潰したかった」

「私をのぉ。なぜそう思うんじゃ?」

「さっきPvP戦で強いって言ってたじゃないですか。今後自分の敵になりそうなPvP強者を倒したい、とか」

「なぜPvPなんじゃ」

「それも昨日言ってたじゃないですか。一万人を生け贄にする奴が出てくるかもって。でも生け贄になるほうだって黙って殺される訳じゃないと思うんです。抵抗もするでしょ? 相手方に対人戦に秀でた人がいたら邪魔になるんじゃないですか?」

「おぬし、たまに突拍子もないことを言うのぉ。対人戦にわしは邪魔か。考えたことも無かったわ。……邪魔じゃと!?」

「い、いや別にサクラさんが邪魔とか言ってるんじゃなく」


 サクラさんがユンにも負けないほどの眼で僕を睨む。

 いやサクラさんを決して邪魔に思ったわけじゃないのだけど誤解を生んでしまったのか?


「なるほど。邪魔か。なんとなく道筋が見えてきおったわ。皆の者、至急団を集結し街から出るぞ。ペッジ、おぬしらはどうするもつりじゃ。ここに留まり静観するか、アルカノについて我らの邪魔をするのか」

「お前にはどんな道筋が見えたというんだ?」

「おぬしに話すことでもないわ。少しは自分で考えるんじゃな。それから同盟は破棄じゃ」

「サ、サクラさんそれやっちゃうと違約金が発生するんでは?」

「一方的な破棄はな。盟約者同士なら契約解除扱いじゃ」


 サクラさんとペッジがお互いの親指を重ね「解除」と一声発すると、僕らの腕についていた腕章が消え去り、同盟が破棄されたことがわかった。

 僕らが大聖堂の扉を潜ろうとしたとき、見送るようについてきたペッジがサクラさんに投げかけた


「サクラ。お前はこのデスゲームが本物だと思っているのか?」

「おぬしはどうなんじゃ」

「質問に質問で返すか」

「おぬしにまともに返答する理由もなかろう。じゃが、これだけは言うておこう。動かなければ後悔する。そんだけじゃ」

「お前らしいよ」


 二人はそれ以上語らず、僕らはペッジ達と別れた。

 

 僕は混乱している。

 話が飛躍しすぎて現状を把握しきれていないんだ。

 白川さんがいるという街で暴動が起こったとか、顔を知らないアルカノが逃げたと思ったら罠だったとか。

 首謀者だと思っていたペッジもアルカノに指示されていただけ。アルカノの目的もハッキリしていない。

 そもそも僕らがここに来たのは脱出できなくなったマルコさん達と合流するためだったんではないのか。

 そのマルコさんが敵方についてたとしたら僕らはまんまとおびき出された間抜けだ。だからといって初めから見捨てれば良かったとも言えないし。


「あ〜〜頭の中がごちゃつく〜〜」


 頭をかきむしり、全ての感情と考えを整理する。ことを単純化せねば。全てはみんなと合流し、この不毛きわまる戦闘地域から脱出する。

 それが全てだと自分に言い聞かせた。


「皆の者グループ会話モードにせい」


 大聖堂を出て、元来た方角へ歩きながらサクラさんが指示を出した。

 ステータスウィンドウから会話モードにグループをチェックすると、この場にいるメンバーのみが会話できるようになる。


「皆聞こえるか? これから我らの行動を指示する。先ほどパトと連絡を取りおうたが無事にミンメイの部隊と合流できたようじゃ」

「パト達は無事なんですか?」と僕。

「死者はまだ出ておらんが、苦戦しているようじゃ。本城の一画を占拠し、そこに立て籠もっておるそうじゃ」

「団長、この戦いの意義が見えないでござる。ペッジが言うておりましたが団長には見えたのですか?」

「私も憶測にすぎないが……」

「それでも聞きたいニャ」


 一瞬押し黙ったサクラさんの声が頭の中に響く。


「なぜアルカノが我らを罠にはめたか。たぶん奴もこのデスゲームが本物であると踏んだのであろう。だが奴は一億ユピテルによる脱出ではなく、当然グラウンドミッションクリアも選択をしないことを決めたのじゃ」

「その真意はなんでござるか?」

「金……じゃろうな。皆忘れたか、ラフィン・スカルの条件を」

「「ああ!」」


 ユンやハンゾウさんだけでなく、メンバー全員が納得していた。

 ラフィン・スカルの条件。グラウンドミッションクリア者、一億ユピテルを支払った者に賞金はない。まさにそれだけのためにアルカノは第三の選択を選ぶというのか。


「ペッジが言うておった事がどこまで本当かわからぬが、アルカノがユピテルをため込んでいるのは知れ渡っているのじゃ。それを金相場で変換できるとなれば……。一万人殺すことも厭わぬじゃろう」

「そのために僕らを罠にかけて殺すっていうんですか?」

「いや、強欲さに目がくらんでもそこまで危険を冒す奴ではなかった。我らを罠にはめたのは、我らが先にゲームから離脱することを防ぐためじゃろう」

「う〜ん、それがわかりません。なんで桜花団なんです?」

「正確に言えば桜花団ではないな、狙いはミンメイじゃ」

『ミンメイが?!』


 なぜそこでミンメイの名前が出てくるのか。不思議に思っている僕の顔をサクラさんがのぞき込み、意図をさっしたのか説明をしてくれた。


「小僧。おぬし最強の魔法と言われて何を思いつく」

「え? えーと有名どころだと隕石落としとか爆発系とか?」

「まぁそう考えるじゃろうな。じゃが、ここではそういったものは城塞戦以外にはあまり有効ではないんじゃよ」

「そうなんですか? 威力が弱いとか?」

「いや、昨日も話したように城を壊すほどの魔法もある。しかし高威力であればあるほどモーションは長くなり、動く相手に当てづらいのじゃ。奇襲などには強いがの。それでも一発限りじゃ。私がS+Mで最強と思える魔法は……範囲睡眠と範囲魅了じゃ」

「じ、地味っすね」

「地味じゃ。地味じゃが、威力は保証付きじゃ。範囲魅了はβ時代に一人でアルティメットミッションをクリアするほどの凄まじさを見せつけてくれたわ。サービスイン時にそれはさすがに修正されたがの。しかし範囲睡眠は残った。しかもユーザー数が二億人もいると言われているS+Mの世界でこれを使える者を私は今のところ一人しか知らん」

「それってまさか……」

「ミンメイじゃ」


 バラバラになっていたパズルのピースがひとつずつ埋まっていくような錯覚を覚えた。

気がつけばもう中旬です。時間が経つのが早すぎる。。

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