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 全部に意味を込めて。比喩にも思いを込めて。




 今回の話は閲覧注意です。暗ーいお話し。









 運命から脱線しそうになれば、誰かが脱線を防いでくれる。私が一瞬でも幸せになれば、何かが犠牲になり、定めは深く心に刻まれているということを思い知らされる。


 もう明かさない。明かしたところで何も変わらないから。


 もう目をそらさない。忘れたとて、何にもなり得ないから。

 むしろ忘れてはいけない。忘れてしまえば、それだけ犠牲を買う。私は疫病神だから。


 苦しむ前提で日々を過ごすべき。そうでなきゃ痛い目を見ることになる。




 でももう私は、




 知ってしまったから。










「あれ▲もいるじゃん。」

 呼ぼうとした途端に、目的の者が現れる。

「タイミングぴったし!!ちょーど呼ぼうとしてた!」

 ●が、校舎から出てきたところが見え、すぐに目が合った。大きく手を振りながらこちらに向かって走ってくる。

 そのとき、●の足が砂利に引っかかったようにガクンと崩れ、体が小さな波のように揺れる。まるで重力にほんの少し裏切られたかのように前のめりになり、手をばたつかせながらバランスを取ろうと必死だ。

「ぉおっ...と、....うあ!?」

 倒れかけの寸前で、もう片方の足を出し、バランスを取った。かと思いきや、バランスを取った足がまたも綺麗に滑り、不格好に尻をついた。

「いってぇえ....」

「......ぶっ」

 なにもないところで、そんなにも派手に転げるなんて。

 意図せず頬が緩み、口角が上がっていく。筋肉の強張りが消え、内側から溢れ出すのを止められない。

「あっははは!」 

 お腹を抱えて()()私の横で、▲も口元を押さえて肩を震わせている。

「え、なにギャグ漫画?その転び方。」

「笑うなよー!人のミスをさぁ」

 ●は痛むお尻をさすりながら、立ち上がった。その顔は少し赤くなっているけれど、瞳の奥には私たちを見つけた安心感が溢れている。

 気づけばガラスケースは眼中になかった。

「あははっ」

 あれ?私...

「なぁんだ。■、もう大丈夫そうじゃん。」

「『大丈夫』....」

 その言葉を聞くたびに、喉が締め付けられるようだった。無責任に綺麗事を並べて、もうどうにもならないものを大丈夫という人達が大嫌いだった。


 でももう今なら。

 私を縛るものなんてない、飛び舞う色彩に包まれて手足をのびのびと伸ばすことのできる今なら。


「私、大丈夫!」

 心の底から、本気でそう思う。


 私は、生命そのものが産声を上げたような、人類に初めて感情が宿ったときの気持ちを理解できたような気になっていた。


 ...私の鼓動は、こんなにもみずみずしく、生命力に溢れていたんだね。


「私、安心していっぱい笑ったらお腹すいた〜」

「...私?」

「あー....」

 そういえば●に言ってなかったな。

「いーのいーの!後でちゃんと話す!」

 私、こんな事言うキャラだっけなー。

 自分の変化に、微笑ましく思う。多幸感にも、私は浸れていた。

 私の言葉に、●は一瞬きょとんとした顔をしたが、すぐにいつもの屈託のない笑顔に戻った。

「よく分かんないけど、このまま三人で何か食べに行こっか。」

「賛成。僕も、今日はなんだか特別なものを食べたい気分だよ」

「....僕?」

「はいはい、あとでー!」

 きっと、前までのガラスケースな習慣ならば、この会話に殺されていただろう。

 

 『自分が「自分」であれば、この会話も楽しめたかな。』


「...ふふん、」

「どした?■。にやけて」

「べつにー?」

「そんなに嬉しーんだ!」

「照れ天使〜」

「ちがうもん!!」

 ()()()()()で、私達は肩を揃え同じ帰り道を歩んだ。










 ()()()ふうに思っていた私はどれほど馬鹿だったんだろう。そんなふうに思うから。私は二()()()()()()()()()()

 部屋に明かりはない。視界に入るなにか、そのなにかが()()()を思い出すものだったとき、見たくないから。片付けた方が良いが、

 片付けをするときでさえ


 見たくない。


 ただ、それが解決策になるとは限らない。むしろ全く解決していない。希望を見て、手にしたあとの喪失感は、心に吹き続け、抜けていく量は倍以上。



 瞳は機能していない。表面上では。


 水晶体の焦点は、過去の記憶に定まり、瞳にはあの光景が浮かぶ。







 ──横断歩道。


「あ、あそこ行こ。」

 ●が指を指した先は、ハンバーガーチェーン店だった。

「最近食べたけどなぁ」

「いつ?」

「2ヶ月前」

「お前の最近の範囲でけぇな」

 ずっと、待ち望んでいた。この「普通」を。()()とふざけ会える、この「平穏」を。

 ずっと、続けばいいなぁ


 そう、思っていた。


 胸いっぱいの幸福を、救済と一緒に噛み締め、味わう私。

「おーい青なったぞー?」

「あべ、あべ」

「あべそーり」

「やめい」


 いつまでもこのままでいたかった。




 ──あんなふうに思うから。




 視界の端に、車の姿が映った。

 あれ、今青....

「あぶない!!」

 ▲に向かっていく車と●。


 え?







 ひゅっと喉が鳴るのがわかり、それを機に自分の時が動いた。


 え?


 尚、思考は停止したまま。


 何が起きた?今?


 足元にぴちゃっと液体に触れる音がする。

 首を下に倒し、俯く。

 黒と白の縞模様だった横断歩道。もはや横断歩道とは呼べない。ここは一度、()()()()()()()()

 車が歩道を通るわけがないから。


 真っ赤に染まる、縞模様が薄っすらと浮かぶ()()()。私の膝の赤い斑点。

 あれ、私。靴、白なのに。汚れちゃった。

 体の震えが収まらない。呼吸の乱れが整わない。

 これ以上、前を見たくない。

 足元に落とした視界の上側に、地面と同じ赤色の●のと思わしき靴と脛、▲と思われるものの原型のない頭部が見切れている。

 きっと今私の視界には赤いフィルターが掛かっているんだ。

 パサパサしてきた目を、涙が潤う。

 認めたくない仮説と事実を、脳が結びつける。


「な、何が..」

 起きたの?

「お、ぉし...ぇ...」

 教えて。


「......かっ」

 誰か。




 ...ねぇ、●。▲。



「今、どういう、状況...?」



 理解など、とっくに


「わかんない、よ。どういう、こと」




 喉が焼ける感覚と、口の中に酸っぱいものが現れる。




「う゛っ」




 それは嘔吐いた声なのか。嗚咽なのか。





 直後、叫びであることが分かった。







 早すぎるよ。










 彼らは、疫病神の犠牲者だ。


 私が、望み、願うから。運命を拒むが故に、必然的に招かれる不幸。


 あの日、何もかも忘れ、希望を見出したのは、●が私の傷に勘づいたからだ。


 今まで


 ずっと鬱だった。ずっと同じくらい鬱だった。


 波なんてない、常にどん底で凪を貫いている。


 それを乱すから。


 どうして、あの日に気付いたの。


 そんなことをするぐらいなら


 はじめから助けてくれればいいのに。


 中途半端な希望を見せて、すぐ奪うくらいなら、


 最初からずっと地獄にいさせてほしかった。


 


 いや、そんなふうに人の所為にしてはいけない。全ては私が元凶だ。


 あそこで話してしまうなんて、身勝手なことをするのがいけなかった。


 


 全部自分で抱えてしまえば、犠牲を買わない。


 


 


 私が、全部悪い。


 


 


 なのに、なんで。


 なんであの日を、まだ私は望むの。


 私は、もうあの取り返しのつかないことを犯してしまった。


 戻ってこない。彼らは。


 もう戻れない。あの時間には。


 


 


 戻ってこないのなら。


 


 


 


 私から行けばいいじゃない。


 


 


 



 


 


 


 勇気がない。


 そんなことを考えている余裕はもうない。


 恐怖もない。


 私は覚悟を決めたあの屋上にまた来ていた。


 私の顔には笑みがある。


 また会えるから。


 一緒にいるだけで、幸せ。


 きっと、自分よりも大切なものができたんだと思う。


 夏の風は心ではなく、髪を吹き抜け、靡かせる。


 心には、温もりを与えてくれる。 


 大きな入道雲と青い空。


 そんな夏の絵の一部になった彼ら。


 彼らは今どうしているだろうか。


 柵に手をかける。


 太陽に熱せられた金属の熱が伝わってくる。


 日光から、柵からの温もりが、あの時のような生をくれた。


 光に目を細め、見上げる。

 

 あそこなら、脱線しても邪魔されない。


 性別も、体も、運命も関係のない場所で


 「私」として二人とまた居られる。



 「久しぶり。」



 本物の笑みで、地から足を離した。








 これにて、「いつか」は完結です。

 短い間でしたけど。

 読んでくれて感謝!


 それと最期に。もし、もしもですよ。

 もしこの物語のように、大切な人が先に旅立ってしまった、なんてことがあるなら。

 そんなときは、死んではいけません。そういう物語ではあったのですが。

 小説内では描かれてはいませんが、お空の彼らは、きっと主人公が死んでしまうことを望んではいないでしょう。むしろ生きてほしい。そう願っています。

 あなたが大切にしている人は、きっと大切にされている側からも、貴方のことを大切にしていると思います。

 死んでしまった大切な人のために、苦しくとも、生きてみましょう。

 死んでもなにもないです。死の先に、光はない。

 主人公は取り返しのつかないミスをまたも犯してしまったんです。


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