1
名前考えるのめんどぉ。でも決めた方が楽ですね、、
あ、■■■■は主人公の名前。
世界の辞書に、「公平」などありもしない。そう断定してやろうか。
*
横を向けば、すぐに目に映る。
何もせずとも、すぐに耳に刺さる。
感覚を通して心を殴り続けていることも知らずに、ただ しょうもない会話で ただ 笑う奴ら。
私は周りを横目に背もたれに腰掛け、目は機能しているがなにも見えていないような感覚のまま過ごす日々。見えないケースにでも入っているのだろうか。外側に色鮮やかな色彩が舞い、私だけがそこに触れられずにいる。
物理的には、私と彼らは同じ空間、同じ教室にいるはず。それなのにどうしてもそうと思えない。彼らとは隣り合う次元に属している人間かのように感じる。身近で、すれ違うほどの近さでさえ、どこか遠い存在であった。
平穏。私にはない、「当たり前」。知らなければきっと、恵まれていない環境こそ、恵まれていないなんて思わずに生きていられた。不幸だなんて思わず、私にとっての「当たり前」が狭い視野の中での基準であれば。
見えないガラスケース。そう思えば平穏な笑い声も分厚いガラス越しに歪んで聞こえてくる。
「はぁ.....」
気づけば吸い、吐いているため息。ため息混じる空気は、そのまま私の胸を吹き抜けていく。
横を向けば、すぐに目に映る。 私とは違う女性らしい容姿や体型。
何もせずとも、すぐに耳に刺さる。 私とは違う女性らしい綺麗でキーの高い声。
私とは違う。
私とは違う、無自覚に自分らしく生きていられる人生。
考えるだけで、鬱になる。
「ねー■■■■」
生きるだけで、鬱になる。
「んー?なにー」
表に出せないことが、一番の鬱。
──はぁ...
心のなかで、再びため息をつく。貼り付けた笑顔のまま。
なんで私、ちゃんと生まれなかったんだろう。
なんで私は
なんで私は、ちゃんとした性別に生まれてこれなかったのだろうか。
いつから。勿論 命 芽生えたときからだ。この世の中の手の抜かれた道、生まれつき存在する不平等や差別といった不完全な道の上を、私はずっとずっと歩かされている。皆が当たり前に持っている幸せを、私は持っていない。その事実に気づいたのは、もう遠い昔のこと。
「昨日テレビつけたらニュースやってたからちょっと見てたんだけどさー」
学校生活、一緒にいがちな女子が話しかけてくる。
「何についてだったー?」
興味があるわけじゃない。ただ理由もなく、鬱であること、悩みがあることを隠し、あっちにとっての「いつも通り」を保つだけ。
「なんかさ、なんでか忘れたけどうつ病の子が自殺しちゃったんだって。うちより一個下の子が。」
どこか触れてほしくない場所を小突かれたような気がした。
「うわぁ朝から悲しいニュース。」
もう一人、よく一緒にいる隣の席の男子が割り込む。私、というよりかは最初の話題を振ってきた女子の方の子と一緒にいるイメージがある。彼らとは「友達」、そういう感覚は私にはないが、この関係を言うには「友達」が正しいのだろう。
「しかもうちの住んでるとこの結構近く」
「もしかしたら学校一緒だったりして」
「ぃやー違った。どこか忘れたけど」
「...悲しいね。」
会話にワンテンポ遅れてしまった。多分。
....自殺。そうだな、死んでしまいたい。私も何度も思う。が、私に死ぬ勇気はない。ゴールが果てしなく暗く、先が見えないような未来に期待をし、苦しみながら生き続ける。
「やさしっ」
...そう偽っているだけだから。相手になにかできるのは自分の負担に興味がないから。
「いいこっ」
なんでこの話題で彼らはふざけていられるの。
「いや皆もそう思ってるでしょー?」
なんでこの話題で私は笑っていられるの。
「てれてる〜」
「てれてんし〜!」
「照れ天使〜笑」
「ちがーう!」
...自分が「自分」であれば、この会話も楽しめたかな。
自分が自分でいる居場所。そんなものを望むには彼らからの私のイメージを固定してしまった時点でもう遅い。
苦しみながら生き続ける。きっと、そうなんだね。
これからも、ずっと
いつか心が雨じゃない日が来たときには、私は自分の鼓動に耳を澄まし、生きている実感に浸っていたい。
「あのさ」
「...」
「...ん!」
とん、と肩を叩かれた。というよりぱしんと軽く叩かれた。
「え、あっ...な、何?」
そこに立っていたのは、今さっきまで会話をしていた男子だった。もう一人の方の女子は自分の席に戻っていった。ちなみに言えば私の一つ前の席にいるのだが。
彼とは同じ学級、隣の席というだけの他人という他人すぎる関係。彼の世界は鮮やかな色彩で満ちている。私とは違う、無自覚に 自分は自分ということが「常識」となっている人間。
「大丈夫?」
「...え?」
予想外すぎる言葉を耳に、不意に笑顔が増す。
....「大丈夫」、どういう意味なのか。
「大、丈夫だよ、?どしたの?」
「いやなんか変だったから。」
変。それは、いつも通りではなかったということ....?話題への動揺がバレた?
まずい
「大丈夫だよ。平気」
...まずい?
私とは別次元の存在。羨み、妬む対象であった存在。対話するだけで嫉妬で潰されそうになるような。
なのに
このときほど、私は「妬む」という感情を憎んだことはなかった。
*
鐘を合図に休憩時間は終わり、授業へ切り替わる。私は席から一歩も動いていない。日直の「起立」の合図でその場で席を立ち、机の上に前の授業の教材が置かれていることに気づく。
やらかした。
「......先生、教科書取ってきていいですか。」
思いのほか、弱々しいぼそっとした声が漏れた。教卓にいる先生には届かず、そのまま「礼」の合図が出された。
...最悪。
「先生」
隣から、聞いたばかりの声が聞こえる。
「■■■■、ちょっと調子悪くて休憩時間に準備できてないっぽいです。」
...え?
「あぁ、そうか。■■■■、準備できそうか?できるんだったら素早く準備してきて。」
...え??
私は戸惑いつつ、席を離れロッカーに向かう。なんであいつはこんなことを...?
「やっぱ大丈夫じゃなさそうに見えるけど。」
彼とのすれ違い際にこそっと言われた。気づけば、足取りが遅いことがわかる。
「大丈夫だっていってんじゃん」
教科書を取り、席についたあとは、いつも通りの授業が始まる。いつも通りって、こんな、視界がセピア色に染まるような感じだっけ。
先生の声が左から右へと流れていき、気づけばまた目や耳が機能しているのに機能していないような感覚に襲われている。
『まずい』
『...まずい?』
バレてはいけない。
どうして、?
....引かれてしまうから。
ほんと?
....。
「私」の勇気がないだけじゃない?
「....はぁ」
もう一体私はどうしたらいいのか。幸せを望むことすら、私にそんな権利なかったりするのだろうか。周りと違う道に生まれたのならば、その道を受け入れ、その道に従うのが正解なのだろうか。
勿論そんなことはない。そうだと思わなきゃやっていられない。いつまでも、鬱なまま、ただ生きることしかできないなんて、そんな不公平、あっちゃいけないだろうに。
そもそも、世界の辞書に、「公平」など、ありもしない。そう断定でもしてやらないと
やっていられない。
また、鐘がなった。授業終了の合図だ。慣れたからなのか、いつの間に、と思うことはない。時間が飛んだように感じ、時が動き出すにつれ、感覚のバグは治る。
教材を片付けているとふと声をかけられる。
「ほんとに大丈夫か、?」
あぁ、またか。
「なんども大丈夫だって、言ってるでしょ。」
冷たい態度を後悔したはずなのに。どうしてか、私の言葉には怒りが帯びているように自分でも感じた。
怒ってなんかいないのに。
「どしたのどしたの」
女友達が加わる。いつもならば「いつも」の笑顔で嫌悪無く受け入れていると装えるのに。
「....なんで、」
彼の顔がよく見えない。...いや、私が見ていないだけか。
「なんで、■■■■は嘘つくの?」
「....、ぇ」
開いた口が塞がらない。
「嘘?ついてないよ?」
嘘だ。
「■■■■嘘付いたの?」
彼女もそろって何を。
この流れはよくないかもしれない
「だか...」
「そんなんじゃなくて。」
気づけば必死になっている私の嘘の否定ではなく、彼が私を遮って彼女を否定する。
「なんか変、■■■■。いつも隣で顔見てるからわかる。」
...え?
見開いた目から嬉しいのか悲しいのかはたまた驚きなのか、いろいろな感情が混ざってよくわからなくなったものがこぼれ、悲喜だけが一段と光った。
「えっ...ちょ、ぁああそ、外行こっか!?」
あれ、口の中がしょっぱい。視界がぼやけ....あれ、泣いて...る?
「ご、ごめん...だいじょ、ぶ」
「大丈夫じゃないって!?」
...てかどうして私は必死に、?
心は、恐らく「優しさ」というものに満たされ
ガラスケースにヒビが入ったような。
吹き抜けていく感覚が消えていくような。
そんな気がした。
反復?の表現技法。いつもより多く使ったつもりではある。あ、意図的にです。




