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蘇我馬子、聖徳太子にツッコミを入れる

作者: 宇占海

場所   七世紀の飛鳥の都


登場人物

聖徳太子 推古天皇の摂政

     「天皇記」「国記」という歴史書を

      編纂したと伝えられる。

蘇我馬子 大臣



第一幕

(聖徳太子、宮廷の書庫で、書物の山に埋もれて調べものをしている。

 そこへ蘇我馬子登場。)


馬子 皇子。いかがですか。

  仕事ははかどってますかな?


太子 おお、大臣どの。見てください。

  こんなに記録が集まりましたぞ。


馬子 ほう。良かったですな。皇子。

  しかし皇子もたいしたことを考えましたな。

  朝廷の記録や豪族の家に伝わる伝承を

 まとめて、我が国の歴史を明らかにしようと

 いうのですからな。


太子 はい。私は、それを「天皇記」「国記」

 という二巻の歴史書にまとめようと考えて

 います。


馬子 そうですか。


太子 私が集めた記録によると・・・

 我が国の最初の天皇は、

 ミマキイリヒコという人だったのですね。

  次がイクメイリヒコ、

 その次がオシロワケ・・・

 なんだか長い名前ばかりで覚えにくいですね。

  この際、歴代天皇にみんな、漢字2文字の

 名前をつけることにしませんか?

  ミマキイリヒコは「崇神天皇」、

 イクメイリヒコは「垂仁天皇」、

 というように・・・。


馬子 皇子。皇子がそれを言ってはなりません。


太子 どうして?


馬子 我々より後の時代の人が、歴代天皇に

 漢字2字の名前をつけたのです。

  我々の時代にはまだ、その「崇神」とか

 「垂仁」という言葉はありません。

  だから皇子がそれを言ってはなりません。


太子 そうか。ではやめておこう。

  ていうか、なんで大臣どのは、それを

 知ってるの?


馬子 それを言うなら、皇子こそなんで、

 「崇神」とか「垂仁」とかって言葉を

 知ってるんですか?


太子 ・・・。

  まあ、お互い、くだらないツッコミを

 入れるのは、このぐらいにしとこうか。

  はは。


馬子 そうですね。気を取り直して次に

 進みましょう。

  ええと・・・我が国の最初の天皇は、

 ミマキイリヒコ。

  その人から数えて四代後の天皇の時に、

 事件が起こるわけですな。


太子 そう。この時の朝廷が、クマソの国(九州

 南部)討伐の軍を起こしたのが、ことの始まり

 でした。


馬子 朝廷がわが大敗し、将軍がクマソの矢に

 当たって戦死したのですね。


太子 それでこの九州遠征軍は大混乱におちいり、

 そうなると九州の豪族がクマソに呼応して

 反乱を起こしたりで、大変なことになりました。


馬子 しかしこの九州遠征軍には、優秀な

 副将軍がいたーー。


太子 ホムタワケという人ですね。

  この人は河内(大阪府)の豪族で、

 九州遠征軍の副将軍になっていました。

  この人が、将軍戦死の後、動揺する

 遠征軍をまとめ、豪族の反乱を鎮圧し、

 九州を平定してしまったものだから、

 彼は遠征軍の英雄になり、将兵たちはすっかり、

 このホムタワケに心服してしまったそうです。


馬子 そこでこのホムタワケは、悪い気を

 起こしたわけですな。

 「今、俺は遠征軍の英雄といわれて、全軍が

 俺に心服している。

  今から大和国にとって返し、軍を使って

 都を占領してしまえば、天下は俺のものだーー」

  そう考え、大和国にとって返したーー。


太子 軍人が軍功をたてて、将兵から

 カリスマ的な人気を得る。

  そこでその軍人が、軍隊の支持をバックに

 都に乗り込んで政権を奪取し、独裁権力を

 打ち立てる

 ーー古今東西、よくある話です。

  かつてローマのカエサルもやった手口です。

  このホムタワケは、言ってみれば、

 ここでルビコン川を渡ってしまったわけですね。


馬子 は? ローマ? カエサル?

  何です、それ?


太子 おっと失礼。これは言うべきではなかった。

  我々が古代ローマの知識を持ってるわけ無い

 ですからね。

  すみません。今のはそら耳だと思って、

 忘れてください。


馬子 そら耳にしては、ヤケにはっきり聞こえた

 気がしますが・・・まあ、良いでしょう。


太子 この時、都ではオシクマ王という王子が

 留守を守っていました。

  彼がホムタワケの軍に抵抗したので、

 ホムタワケはオシクマ王をだまし討ちで

 殺して都を占領し、自分が天皇の位についた。


馬子 ええ、そうです。そうですが・・・

 これは良くありません。


太子 良くないとは?


馬子 過去に天皇の位が武力で奪われ、

 王朝が交替していたとあっては、

 皇室の尊厳にかかわります。

  皇室は、大昔から連綿と続いていたことに

 しなければなりません。


太子 王朝交替が無かったことにすれば良いの

 ですね。

  それでは、さっきの

 クマソの矢に当たって戦死した将軍、

 この人が実は先代の天皇で、

 しかもホムタワケの父親だったと、

 そういうことにしましょう。

  これで皇統は万世一系になりました。


馬子 勝手に将軍を天皇に昇格させてしまう

 わけですね。

  しかし、ホムタワケがオシクマ王を

 だまし討ちにしたというところも

 まずいのでは・・・?


太子 そうですね。ううん・・・

 そうだ、こういうのはどうでしょう。

  ホムタワケの父が天皇だとしたら、

 母は皇后ということになります。

  だから、先代天皇没後に、

 ホムタワケの母君(ははぎみ)が皇后として軍を指揮し、

 オシクマ王を殺したということにしては

 どうでしょう?


馬子 なるほど。九州を平定したのは母君。

  オシクマ王をだまし討ちにしたのも母君と

 いうわけですな。

  それじゃ、ことのついでに、その母君が

 三韓(朝鮮半島)にも攻め込んだことにしては、

 いかがでしょう?


太子 おお、大臣どの。良い考えです。

  そうと決まれば、この母君にはカッコ良い

 名前をつけなければなりますまい。

 「神功皇后」という名前はいかがでしょう?


馬子 だーかーらー!

  その「神功皇后」という名前は、我々より

 後の時代の人が考えたものです!

  皇子がその言葉を使ってはいけませんってば!


太子 ああ、そうでしたな。・・・すまない。


馬子 それと、もうひとつ良くないのが、

 我が国の最初の天皇はミマキイリヒコ、

 というところです。

  天皇家はもっと古い歴史を持つ家という

 ことにしないと、権威がありません。


太子 そういう時は大臣どの、これを使うのです。


馬子 これは、大伴氏に伝わる記録ですな。

  ホムタワケが九州から大和を平定した時、

 大伴氏の先祖はホムタワケに従って戦い、

 武功を立てています。

  その時に大伴氏の先祖が、どのような

 活躍をしたかが書いてありますね。


太子 そう。そこで、この大伴氏の記録に

 残っている大和平定戦は、

 ホムタワケの時代より

 ずっと前の時代の出来事だったと、

 そういうことにするのです。


馬子 つまり・・・ホムタワケの時代より

 ずっと前に、九州から大和への東征が

 もう一回あったことにするわけですか。

  本当は東征は一回だけなのに、二回にして

 しまうのですね。


太子 そうです。

  まず、ミマキイリヒコより前の時代に、

 架空の天皇を九人でっち上げます。

  その九人のうちの最初の天皇(神武天皇)が

 最初の東征をした。

  そしてミマキイリヒコは第十代ということ

 にする。(崇神天皇)

  それからホムタワケの母君(神功皇后)による

 二回目の東征を経て、

 第十五代のホムタワケ(応神天皇)につながる。

  これでどうでしょう?


馬子 おお、立派な歴史ができましたな。

  さすが皇子。見事でございます。


太子 いえいえ。大臣どののおかげで、これが

 作れたのです。


馬子 しかし皇子。

  歴史を捏造(ねつぞう)するという作業は、なかなかに

 楽しいものですな。


 ー幕ー



第二幕

(聖徳太子、机に向かって執筆している。それを横で、蘇我馬子が見ている。)


馬子 さあ、この歴史書の執筆も大詰めですな。

  しかし、歴史書を書く場合、最後の方を

 特に慎重に書かなければなりません。

  現在に近い時代を書くわけですから、

 当時の歴史に関わった人で、現在も存命の人が

 沢山おられるのです。

  そういう人たちを傷つけることがないよう、

 配慮して書かなければなりません。


太子 そのとおりです。

  いわゆる近現代史は、慎重に配慮して

 書かなければなりません。


  では、先帝(崇峻天皇)の時代を書きます。

  この時、大臣どのが先帝を暗殺してますね?

  では書きます。

 「蘇我馬子、先帝を殺す」・・・と。


馬子 書くなバカ。たった今私が言ったことを

 聞いてなかったのか。


(蘇我馬子、聖徳太子を殴る。)


太子 痛え! 何をする!

  摂政を殴るやつがあるか!

  摂政というのはな・・・天皇の次に

 偉いんだぞ! 知らないのか!


馬子 天皇の次に偉い? それがどうした?

  私はその天皇の叔父だ。文句があるか。


太子 うっ!


馬子 さらに言えば、私はあんたの義父(妻の父)

 でもある。


太子 うぐっ! そうだった・・・!


馬子 「うぐっ! そうだった」とはなんだ!

  まさかあんた、自分の義父が私だという

 ことを忘れていたのか?


太子 えっ? そ、そんなわけ無いでしょ!

  自分の義理の父を忘れるなんて、そんな

 ことあるわけ無いでしょ。はは。


馬子 目が泳いでるぞ。

  さてはやっぱり、忘れてたな。


 ー幕ー

おあとがよろしいようで。

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