第4話「毒と策略で挑む初対決」
侯爵家の書斎。月光が大理石の床に差し込み、リリアーナの影を長く伸ばしていた。手にした手紙が、犯人の存在を示している。
「……ここまでくれば、逃げられない」
前世なら、ここで恐怖に負けていた。しかし、今のリリアーナには知識と覚悟がある。毒草の成分、微量の薬剤、そして宮廷内の微妙な心理。すべてが彼女の武器だ。
その時、扉が音もなく開いた。背の高い男が、書斎に忍び入る。
「――侯爵令嬢、何をしている」
低く冷たい声。リリアーナの心臓がわずかに高鳴る。
「……あなたが、宮廷の陰で動いていた犯人ですね」
リリアーナは手紙を指し示す。
男は一瞬たじろぐが、すぐに笑みを浮かべた。
「よくぞここまで……しかし、甘いな」
リリアーナは微笑を崩さず、手にした小瓶を静かに掲げる。
「これは微量の幻覚作用を持つ薬です。あなたの動きを鈍らせることができます」
男の目が一瞬で恐怖に揺れる。
「まさか……」
「私はただ、前世の失敗を繰り返さないだけ。宮廷を守るために動いている」
リリアーナは冷静に、しかし一歩も引かずに男に向き合う。
男は手を振り、手元の小型の毒瓶を投げる。しかし、リリアーナは予め準備していた香薬で防ぎ、瓶は床に当たると音を立てて砕けた。
「――ふっ、なるほど。やるな」
男は悔しそうに息をつく。
「これで終わりではありません。あなたの陰謀は、ここで阻止されます」
リリアーナは再び小瓶を掲げ、男の視界に薬の煙を漂わせる。瞬く間に男は動きが鈍り、書斎の床に膝をついた。
その時、扉が開き、皇帝が入ってきた。
「……リリアーナ、やはりお前の判断は正しかったか」
リリアーナは笑みを浮かべる。
「はい、陛下。これで宮廷の陰謀は一つ、防げました」
皇帝は男を取り押さえ、冷たい目で睨む。
「貴様、皇帝に逆らうとは愚かな」
男は何も言えず、ただ膝を屈した。
リリアーナは皇帝の方を向き、心の中で誓った。
「前世の私なら、この瞬間を迎えることすらできなかった。でも今は違う。知識と勇気で、運命を切り開く――」
皇帝は静かに頷き、リリアーナの肩に軽く手を置く。
「……面白い、リリアーナ。お前には期待できそうだ」
その言葉に、リリアーナの胸に小さな誇りと自信が芽生えた。
毒と策略、知恵と勇気――転生令嬢の宮廷戦いは、ここから本格的に始まるのだ。