第3話「毒と陰謀の影に挑む」
侯爵家の夜。窓から差し込む月光が、書斎の重厚な机を銀色に照らしていた。リリアーナは一枚の地図と書物を前に、静かに唇を噛む。
「……犯人は、宮廷の奥深くに潜んでいる」
先日の奇病事件から得た情報を整理し、接触者や行動パターンを重ね合わせる。すると、自然には説明できない痕跡が浮かび上がった。
「……誰だ。誰がこんなことを」
書斎の扉が静かに開く。皇帝の黒髪が月光を受けて鈍く輝いた。
「リリアーナ、まだ調べているのか?」
その声は冷たいが、どこか興味深げだ。
「はい、陛下。小さな手掛かりを見つけました」
リリアーナは書物と地図を広げ、毒草の混入場所、宮廷内の出入り記録、目撃情報を一つずつ指でなぞる。
皇帝の目が鋭く光った。
「……これは、単なる悪戯ではないな」
リリアーナは頷く。
「ええ。前世の私なら見逃していたでしょう。でも今の私は違います」
その言葉に、皇帝の唇が僅かに歪む。
「……面白い」
リリアーナは息を整え、次の策を口にした。
「陛下、この奇病の裏には、誰かが私を陥れようとしている証拠が隠されています。私の知識を活かして、先手を打つことができます」
皇帝は一歩近づき、低く囁いた。
「その先手が、私の手を煩わせないならな」
その言葉にリリアーナは微笑んだ。
「もちろんです。ですが、真の犯人を見つけるためには、少しの時間をいただきたい」
翌日、リリアーナは宮廷内で動きを観察し、巧みに情報を集める。庭園に配置された噴水、使用人の行動、書庫の出入り――すべてを注意深く見張る。
そして夜、侯爵家の私室で彼女はついに痕跡をつかむ。
「……ここに、怪しい動きがある」
書斎の扉が再び開き、皇帝が現れた。
「……ついに見つけたか」
リリアーナは小さな笑みを浮かべ、薄暗い書斎の中で一枚の手紙を皇帝に差し出す。
「これが、犯人の手掛かりです」
皇帝はそれを受け取り、目を細めた。
「……ふむ。リリアーナ、お前の目はやはり只者ではないな」
二人の間に、一瞬の沈黙。緊張と信頼、警戒と興味が入り混じる空気。
リリアーナは胸の中で決意を新たにする。
「前世の私なら、ここで運命に抗うことを諦めていた。でも今は違う。必ず、宮廷の闇を暴き、私の未来を掴む――」
書斎に月光が差し込む中、リリアーナの瞳は鋭く輝いていた。
毒と知識、そして宮廷の陰謀。次なる一手を打つのは、リリアーナ自身だ。