第2話「毒と知識で紐解く宮廷の影」
侯爵家の朝食の間。金色の陽光が大理石の床に反射し、豪華なテーブルを照らす。リリアーナは静かに座り、香ばしいパンと果物を前に、頭の中で今日の計画を練った。
「――誰かが、私を陥れようとしている。」
前世の記憶が告げる。宮廷には私を狙う陰謀が渦巻いている。毒殺の計画、謀略、裏切り。知識があれば、未然に防げる。
そのとき、扉が開き、皇帝がゆっくりと入ってきた。
「リリアーナ、今日は宮廷の書庫に行くのだそうだな」
冷徹な声。しかし、どこか柔らかさも混じっている。リリアーナは微笑みを返した。
「はい、陛下。少し調べたいことがありまして」
皇帝は視線を鋭くこちらに向ける。
「……毒のことか?」
リリアーナの心臓が跳ねた。予想外に、皇帝も毒に関心を持っている。いや、警戒しているのかもしれない。
「……ええ。宮廷で小さな奇病が続いていると聞きました。原因を突き止めたいのです」
リリアーナは平然と答えた。毒や薬草の知識を隠し持つ彼女なら、真相を解明することも容易だ。
皇帝は微かに笑うと、何も言わず席を立った。
「ならば、同行する」
書庫には、古文書や薬学書、過去の宮廷事件の記録がぎっしりと並んでいる。リリアーナは手早く書物を調べながら、奇病の症状や流行を整理した。
「……これは……」
症状の出る人物の行動や食事、接触者をマッピングしていく。前世なら見落としていた小さな手掛かりも、今の知識があれば意味を持つ。
「リリアーナ、何か見つけたか?」
皇帝が近づく。リリアーナは微笑を浮かべながら、資料を示した。
「はい、この果物に微量の毒草が混入していました。ただし、自然に育ったものではありません。誰かが意図的に……」
皇帝の眉がぴくりと動く。
「なるほど、宮廷の誰かが私に敵対している、ということか」
「ええ。でもご安心ください、陛下。私はその犯人を見つけ、未然に防ぎます」
リリアーナは胸の奥で、前世の失敗を思い出した。今回こそ、同じ運命は繰り返さない。
その夜、書庫での作業を終えたリリアーナは、皇帝の不意な問いかけに少し驚いた。
「リリアーナ、君の目はただ者ではないな。宮廷に潜む陰謀を、すぐに見抜いた」
リリアーナは微かに笑った。
「ありがとうございます、陛下。ですが、真の悪役はまだ見つけていません」
皇帝の視線が鋭くなる。しかし、そこに僅かな興味の色が混じる。
「……ならば、共に探そう。だが、私を煩わせるな」
リリアーナの心が高鳴った。冷酷と噂される皇帝の真意――信頼か、それとも警戒か。どちらにせよ、この先の宮廷での駆け引きは、前世以上に知恵と勇気を試されるものになる。
毒と知識、そして宮廷の闇。リリアーナは自らの運命を切り開くため、再び歩みを進めた。