第1話「転生令嬢、毒を携えて目覚める」
侯爵家の豪華な寝室で、リリアーナは目を覚ました。頭を抱えながら、自分の置かれた状況を整理する。
「……ここは……?」
見覚えのある天井、豪奢な天蓋付きのベッド。記憶がふと甦る。
前世、私は――
『悪役令嬢リリアーナ・フォン・アルシュタイン。罪もないのに処刑される日が近づいている。』
その瞬間、全身に冷たい恐怖が走った。前世の私は、宮廷の陰謀に巻き込まれ、毒殺の疑いをかけられ、無惨にこの世を去ったのだ。
「――なら、今度こそ違う未来を。」
リリアーナは決意を固める。目の前には、父である侯爵が立っている。
「お嬢様、お目覚めでございますか」
父は柔らかく微笑むが、その目には何か企みがあるようにも見えた。
リリアーナは深呼吸をひとつし、机の上の薬草と毒瓶を見やった。彼女には、前世にはなかった“知識”がある。毒や薬の力を駆使すれば、宮廷の陰謀を一歩先に見抜くことも可能だ。
その時、部屋の扉が静かに開いた。
「リリアーナ、朝食の時間だ」
冷たい声。黒髪をきっちりと整えた青年――若き皇帝が立っていた。
噂では冷酷非情な皇帝。だが今のリリアーナには、そんな噂も恐れる理由にはならなかった。むしろ、彼の存在を利用することもできる。
「……おはようございます、陛下」
リリアーナは微笑を浮かべ、心の中で毒と薬の計画を練った。
これが――新しい私の、転生令嬢としての第一歩だ。
処刑される悪役令嬢ではなく、知恵と毒で宮廷を渡り歩く、未来を変える令嬢。
そして、冷酷な皇帝との駆け引き――すべては、まだ始まったばかりだった。