漏らしてしまう
暗殺カメレオンを倒してからも森の中を進む。
野営に適した場所は見つかっていない。アルゴスを連れて歩いていると、次第に周囲は暗くなってきた。
あと30分もすれば夜になる。
時間が無い。
内心で焦りながら、イチカは周囲をキョロキョロと見渡していると、大きな木の洞を見つけた。中には熊がいる。手足や頭、背中には金属が付いていて防御力は非常に高い。また魔力を流せば攻撃にも使えるため、駆け出しのハンターなら逃げ出す相手だ。
幸いなことに熊はイチカたちの存在に気づいていない。体を丸めて眠っている。
「アイアンベアよ。弱点は防具が着いていない腹の部分だけ。どうする?」
体が丸まっているため弱点は隠れている。奇襲は難しそうだ。
「他の場所を探す……のは時間的にも難しいですよね」
「そうね。付け加えるなら、近くにアイアンベアがいたら危険よ。排除をオススメするわ」
「わかりました」
覚悟を決めたイチカはAM-15をアルゴスに渡して、RM-1Kを受け取った。
スナイパーライフル型で遠距離の攻撃に向いている。拡大スコープを覗いてアイアンベアを見ると、頭と体の間に隙間があると気づく。
肉体部分にあたれば致命傷になる。
イチカはしゃがんで左膝を立てると、右腕を乗せてRM-1Kを構える。銃身は安定している。呼吸を止めると、スコープを除きながら隙間を狙ってトリガーを引いた。
音もなく魔力弾が放たれ、やや右にそれて体を覆っている鉄にめり込む。AM-15よりも威力はあるのだが、貫通までには至らなかった。
奇襲されたアイアンベアは鳴き声を上げ、撃たれた方を見る。スコープから覗いているイチカと目が合った。
「敵は動き出してないわ! 次弾!」
「は、はい」
また魔力を流し込む。AM-15と違って速射はできないため、魔力弾の生成に時間がかかっている。
攻撃準備中にアイアンベアは全力で走ってきた。整地されていない地面なのに、速度は馬と同等だ。そのまま突進されてしまえば防御シールドを使っても危険である。
あまりの迫力に股下が少し湿ってしまう。
一瞬、イチカは逃げるかと考えたが、すぐに雑念を振り払う。
慌ててしまえば狙いが甘くなる。既に経験済みだ。
敵の移動スピードは想像より速いが、もう一発撃てるぐらいの距離はある。
弾道の曲がり具合を考慮して狙い、トリガーを引く。
生成されたばかりの魔力弾はアイアンベアの右目に当たり、頭蓋骨を通り過ぎて脳まで破壊した。
手足が止まったが、勢いまでは殺せない。ゴロゴロと転がりながらイチカの右側を通り過ぎていった。
「目は狙ったの?」
「口の中を狙って偶然当たりました」
偶然ではあったが運を味方にして勝ったとわかり、アルゴスは技術はまだまだとの判断をくだす。
「今度は狙って当てられるように」
「もちろんです。死にたくありませんからね」
アイアンベアが迫ってきたときは、イチカは少し漏らしてしまった。それほどの恐怖を覚えたこともあって、次は一撃で仕留めると心に誓う。
そのためにも訓練は重要だ。
日々の積み重ねが技術の向上につながる。
魔力さえあれば魔術弾は生成できるため、時間さえあれば技術を磨く機会は多いだろう。
「アイアンベアの死体を遠くにおいて寝床を確保しましょうか」
死体が近くにあれば他の魔物が近寄ってくる。
木の洞で寝るとしても、死体は離しておきたかった。
足を持つとイチカはアイアンベアを引きずり、近くに流れている川に捨て、パンツを洗って脱水までした。その際、一部の肉を切り取っており、火をたいて焼いて食べた。
塩すらないので、素材そのままの味だ。
それでも数日ぶりに食べる肉は、格別に美味しかった。
独りの食事を手早く終わらせると、リュックから布を出して木の洞で眠る。パンツははいていないが魔力起動式スーツのおかげで、股の守りは完璧である。
警戒はアルゴスが担当だ。
高性能のカメラで周囲を警戒している。
夜も深まりイチカが完全に寝入っていると、アイアンベアの血の臭いに誘われてグリーンウルフが数匹やってきた。突風の魔術を使うことで有名な魔物だ。
鼻を地面に着けて臭いを嗅ぐと、アルゴスの方を見る。
寝ているイチカの存在には気づいているが、アルゴスが電撃を放って威嚇すると、すぐに逃げ出してしまった。
各種センサーから近くに魔物がいないと分かっている。
アルゴスはイチカのように、冤罪人として転生させられた人たちの様子を確認していく。彼らには同じようにサポート機械を派遣していて、生存への協力を惜しみなくしているが、全員が生き残れるわけじゃない。
順調に力を蓄えている者は一部だけ。多くはエンの手によって地獄のような苦しみを味わっているか、死んでいる。
エンを倒す協力者の育成に時間はかかりそうだが、計画はバレず進んでいる。
そう考えれば今の状況は悪くない。
アルゴスは今後の明るい未来を夢見て、計画を進めていくのであった。




