ジャンク品
「何をお探しですか?」
接近戦用の武器、回復ポーション、防具……足りないものは沢山ある。そのなかで優先度が高いのは、やはり魔力起動式スーツだろう。
便利な補正機能が無い代わりに、魔力を流すことで防御シールドを発生させて身を守れる。またスーツの防御力も上がるため、新しいモデルであれば拳銃程度なら無傷で済む。非常に優れた装備だ。
「魔力起動式スーツを見たいわ。予算は40万デロスだけど、あるかしら?」
イチカが何かを言う前に、アルゴスが前に出て要望を言った。
人ではなく機械が率先することに疑問を覚えたエイリではあるが、お金さえ払ってくれば問題はない。ワンピースに2丁の銃という普通ではない格好からして、何か事情があるんだろうと察した。
「一番安いので80万デロスなので、そのご予算ですと難しいですね……」
「中古は取り扱ってないのかしら?」
「ありますけど、40万デロスとなるとジャンクになります」
ジャンク……動作保証されてない製品だ。動かなくても文句は言えない。そういった前提で販売されている。
「それでいいわ。見せてくれる?」
「かしこまりました」
エイリがカウンターのパネルを操作すると、ドローンが3機やってきた。それぞれ、魔力起動式スーツをぶら下げている。表面には傷が付いていて、そのうちの一つは腹や胸、太もも辺りが破けている。
どれも肌にピッタリと密着刺せるタイプであるため、身につければ体型はまるわかりになる。
「状態が良い二つはMPS-10です。20年も前のモデルなので、性能には期待しないでください」
10年前に技術革新が起こって、魔術起動式スーツは性能が向上している。20年も前になると、銃弾が当たっても肉体に損傷を与えてしまうだろう。
機能するからといって、ほぼ全財産を使うほどのものではない。これならワンピースを着続けて、資金を貯めた方が良い。
「もう一つのは?」
「これはMPS-21です。8年前のモデルで性能は高いのですが、見ての通り状態が良くありません。魔力を流しても動作しないため、お客様自身で修理をする必要があります」
動作したとしても、肌が見えてしまう部分は防御力0である。
完全な状態に戻すのであれば、多額の費用がかかるため修理よりも新規購入した方が良い。また、破損状態から着用していた人は死んでいると思われるため、縁起が悪いと言われて買い手が付かず倉庫の肥やしになっていた。
「8年前……技術革新後のモデルね。気に入ったわ。これをちょうだい」
「本当によろしいのですか?」
後でクレームを言われたら困る。エイリはイチカを見た。
「アルゴス……この機械の判断に従うので問題ありません」
「かしこまりました」
MPS-10をぶら下げたドローンは店の奥に戻った。
「他に必要な物はございますか?」
「接近専用の武器が欲しいわ。出来ればレーザーブレードが良いのだけど、10万デロスで買えるかしら?」
「大型ナイフ程度のものであれば予算内に収まると思います。あちらにあるので、手に取りたい物があればお申し付けください」
壁にレーザーブレードの柄がぶら下がっていた。すべてガラスケースに入っていて、勝手に持ち出せないようになっている。
もしガラスを割ってしまえば、店の契約している警備員が急行して、銃撃してくるだろう。
「レーザーブレードの寝室はどれも同じなんだけど、気に入った形ある?」
一方的に決めていたアルゴスが、今回はイチカに意見を求めた。
「私が決めてもいいんだ。どれにしようかなぁ~」
イチカは新しい玩具を見るような顔をしている。
警備がしっかりしているこの店でなら、襲われる心配は無い。
ナイフと書かれたコーナーを見ながら、柄の形を確認していく。
(普通のナイフっぽいデザインでもいいけど、味気ないなあ。握りやすいとは思うんだけど、何でも良いなら趣味に走りたい。黒は無難すぎるし、色は……ん? あれは)
ガラスケースの隅に変わったデザインを発見した。柄が日本刀の様なデザインではあるが、鍔はない。長さが30cmほどなので合口とデザインが似ている。
違いがあるとしたら魔力を流さないと刃は出現せず、鞘がないところだろう。
「これが気になりますか? 片刃で反りがあるのが特徴です。切れ味は他のレーザーブレードと同じなのですが、デザインが流行から外れているのでお値段は5万デロスと安めですよ」
魔力もしくは電気で生成されるレーザーは、どのようなデザインにしても切れ味は変わらない。
そのため様々なデザインが生まれては消え、今は両刃が主流だ。片刃は流行遅れとなってしまいまったくれていない。在庫を抱えており、エイリはこの機会にどうにかして売ろうとしている。
「ふーん。なら、もっと安くならないかしら?」
「5万デロスはギリギリの値段なんです。利益なんてほぼありません」
「二本買うから安くして。在庫をさばくチャンスよ」
「そうですねぇ……」
エイリはアルゴスを見ながら、アゴに手を当てて考えている。
レーザーブレードは腐る物でないが、かといって何年も使わずに保管していれば故障するかもしれない。それよりも多少の赤字を覚悟して売るのもあり、だろう。
またイチカがハンターとして店を何度も利用してくれるのであれば、先行投資してもいい。
「これ以上の値引きは常連になってくれる人にしかしないんですよ」
「要は、今後もこの店を利用しろってことよね」
「そう受け取っても良いですよ」
「事情があって男性がいる店には入りたくないの。言われなくても、何度も利用させてもらうつもりよ」
アルゴスのカメラが動いて、イチカの方を見た。エイリの視線も続く。
可憐な少女だ。同性ですら目を奪われるぐらいである。治安が悪い防壁外であれば警戒するのも当然だろうと、エイリは思った。
「それではナイフ型のレーザーブレード2本で8万デロス。これでどうでしょうか? 今ならおまけで低級回復ポーション2個をお付けします」
「そんなに安くしてくれて良いの?」
「ええ、もちろんですとも」
アルゴスは笑顔のエイリから「武具以外も取り扱っているので、何度も利用してくれ」といったメッセージを受け取った。
裏の意図まで理解しきれなかったイチカは、安くなって嬉しいなと思うだけである。アルゴスがいなかったら、まともに買い物はできていなかっただろう。
「それじゃ交渉成立ね」
アーム状の腕から情報端末を取り出すと、48万デロスを支払った。
資金管理すら機械に任せていることにエイリは疑問を持つが、支払が問題なければ気にする必要は無いと忘れることにする。
「入金を確認しました。それでは商品をお渡しします。ここで着ていきますか?」
「そうするわ」
アルゴスが行ってと合図を送ると、イチカはジャンク品を受け取って更衣室で着替えた。




