ハンターに必要な道具
アルゴスが集めた果実を中心に、イチカは昼ご飯を食べている。
周囲は見晴らしの良い草原だ。ゴーグルを着けたままなので不意打ちの心配はない。索敵範囲内に赤いマーカーがないため、安心して食事を続けていた。
「謎のスティックより美味しいけど、甘い物食べているとお肉も欲しくなりますね」
人の欲望は尽きない。新鮮な果実の他にも貴重な肉を求めるようになっていた。
食事に文句を言えるほど心の余裕が出来てきたとも言えるが、アルゴスは気が抜けていると不安になっている。エンの運命操作は甘くない。
装備、経験、知識、お金、どれも不足している状況で、楽観的になってもらっては困るのだ。
「食にこだわるのはいいけど、他にお金を使うからお肉は買えないわよ?」
「わかってますって。接近戦用の武器や防具を買ってワンピースを卒業しなきゃいけませんからね」
「他にも回復ポーションや野営用の道具、乗り物、AM-15よりも強力な武器もよ」
「……いくら必要なんですか?」
「最低でも1000万デロスかしら。それを短期間で稼いだ方がいいわ」
「短期間? どうしてです?」
「昨日、イチカが寝ているときに部屋へ侵入しようとした男がいたの。あれはエンが宿命を操って襲わせようとしたのよ」
「え……えぇっ!?」
イチカは襲われそうになっていたとは、想像すらしていなかった。
高いお金を払ったから大丈夫、と無意識に油断していたのだ。
日本に住んでいたころの常識が足を引っ張っていたのである。
「きっとイチカがこの世界に来るとき、男に襲われやすいよう宿命をイジったのかもしれないわ」
「最悪……」
嫌悪感を隠すことなく、イチカは顔を上げて汚物を見るような目をしていた。
「それじゃ、エンを倒しても私は襲われ続けるんですか?」
「ううん。その時は私が何とかしてあげられるわ。イチカとして生きるなら宿命を操作するし、誤審を認めて魂を再処理――輪廻させることも出来るわよ」
絶望的な状況において、協力すると言ってくれたアルゴスは心強い。
イチカは頼れる存在として信じることにした。
「ありがとうございます。エンのヤバさはわかりました。食事のバリエーションは後回しにして、装備を整えることに注力します」
「それが良いと思うわよ」
アルゴスが望む方向に、イチカが決断したことに満足していた。
これなら多少過酷な訓練を実施しても、途中で投げ出すこともないだろう。
「それじゃ午後の狩りもしましょうか」
「はい!」
ただ訓練をして金を稼ぐだけじゃない。狙われている貞操を守れるとわかれば、ヤル気も出てくる。
イチカは魔物を順調に狩っていく。
その日の売上は10万デロスにもなり、無事にハンターランク2に上がった。有象無象から一歩前に出て、ギルドからは駆け出しとして認識されるようになる。
翌日以降も狩りを続けて資金は50万デロスまで到達すると、ようやく装備を調える準備が完了した。
◇◆◇◆◇◆◇
防壁外の治安は悪い。殺人、傷害、強盗、強姦、そんなのは日常的に発生している。しかも取り締まるのは公的機関ではなく自警団だ。
賄賂は横行していて、マフィアが絡めば自警団はすぐ手を引いてしまうのだから、頼りにならない。
そんなこともあって、私刑が横行していた。
イチカが武具店を訪れるためメインストリートを歩いていると、黒焦げになった死体を見つけた。息を吸うと喉に苦い膜が張り付くようで、非常に不快で自然と険しい顔になってしまう。
「露店の商品を盗んで殺されたのよ」
メインストリートの左右には露店商がある。売っているのは、アクセサリーや怪しい薬、スティック状の食料、雑貨などだ。
武器や防具といったハンター御用達の高級品は置かれていない。
「盗んだだけで、殺すんですね……」
「この世界、舐められたら終わりだからね。敵対する相手は徹底的に叩きのめすのよ」
元日本人の感覚からすれば過剰な制裁と思えるが、露店商にとっては死活問題なので当然の対応である。
商品が盗まれてその日の利益が減るだけじゃない。
あそこは盗みに甘いと噂が広がり、スラム街の住民からターゲットにされてしまうのだ。
店主は一人しかいない。守り切るなんて不可能である。
また自警団に頼れば余計な金がかかるため、悲惨な方法で殺して予防するというのが一般的な方法なのだ。
「イチカも無闇に敵を作らないよう、気をつけてね?」
「わかってます」
恵まれない生活をしていた時ですら、敵を作らないよう静かに生きていたのだ。
今は稼ぐ手段もある。イチカは頼まれても敵を作らないと決めていた。
死体の横を通り過ぎてアルゴスの案内に従って道を歩き、ハンター御用達の武具店に着くとドアを開く。
「いらっしゃいませ」
店内はショーケースに入った銃器やパワードスーツなどが展示されている。あまり広くはない。一階建てで女店主――エイリが一人だけ。30代前半の女性だ。
店主が男だとイチカは襲われる可能性があるため、アルゴスが女性のみの場所を選んだのである。
そのため店は小さく、品揃えは充分とはいえないが、初期の装備を調えるに十分ではあった。




