銃の使い方
数分で朝食を終えたイチカは、AM-15を手に持つと頭に着けていたゴーグルを降ろす。
マップが表示されて赤いマーカーがいくつか出現する。
「1キロぐらい先に魔物がいるみたいです。近づいてみますか?」
「ちょっと待って。確認するわ」
アルゴスは装着されたカメラにあるズーム機能を使うと、遠くにいる魔物の姿が鮮明に映った。
人型の形をしたゴーレムだ。両肩には小型の大砲が乗っていて、素材は石でハンターからはストーンゴーレムと呼ばれている。
「近くにいるのはストーンゴーレムね。肩にある小型大砲の射程は短くて、300mを越えると命中率は10%以下に落ちるわ。威力も低いし、銃の練習にはちょうどいいから戦いましょう」
AM-15の最大射程距離は500mほど。イチカはそこからさらに200mほど離れた距離で銃を構えると、ストーンゴーレムを銃撃する。
魔力によって作られた銃弾は前に進むが、やや右にそれてしまいストーンゴーレムには当たらなかった。
攻撃されてイチカの存在に気づく。
「適性個体を確認。迎撃します」
機械音声とと共に両肩に乗った小型大砲が動き、砲弾を放った。
イチカの数メートル前方に着弾すると、地面に小さなクレーターができて土が舞う。顔や体に当たった。
直撃すれば、魔力で強化している体でも無事では済まない。威力が低いとは嘘だったのか。
疑問に満ちた目で、イチカはアルゴスを見る。
「威力は低く、命中率は10%以下なんですよね……」
「大砲という種別の中ではね。それと、命中率は0ではないのよ。当たるときは当たるわ。油断せずに戦いなさい」
「…………」
半目になったイチカだが、アルゴスは気にした素振りはない。
「移動しないと狙い撃ちされるわよ?」
警告と同時にまた砲弾が近くの地面をえぐった。
文句を言っている暇なんてない。ワンピースのスカートをヒラヒラとさせながら、イチカは全力で走る。
「移動しながら攻撃しなさい」
言われたとおりにAM-15のトリガーを引いて銃弾を放つが、銃身がブレてストーンゴーレムには当たらない。
敵の命中率が低いと判断したストーンゴーレムは、反撃するのを止めて歩き始める。イチカが思っていたよりも早い。人間が小走りする程度の速度だ。
「ち、近づいてきた!」
「距離を維持しながら攻撃よ!」
「そんな、むちゃなーーーっ!」
悲鳴に近い苦情を言いながらもイチカは銃を撃ち続けるが、狙いなんて定めてないので当たらない。
運良く命中、といったこともなく無駄撃ちが続く。
「呼吸を落ち着かせて平常心を意識して。今回は距離もあるんだし、打つ瞬間だけは立ち止まった方が良いわよ」
返事こそしなかったイチカだが、言われた通りに撃つ数秒だけ止まるようにした。さらにしゃがみ銃身を固定するように持つ。その際、呼吸まで止めると、ブレていた銃身が少し安定する。
魔力を流し込むと、銃身に刻み込まれた魔術文字によって静かに銃弾が生成され、トリガーを引くことによって放たれた。
狙いはストーンゴーレムの頭だったが、風の影響もあってやや右に反れる。肩についていた小型大砲の中に吸い込まれていく。
運がよかったのは、ストーンゴーレムも攻撃しようとして砲弾を放つ直前だったことだ。
魔術弾が砲弾と衝突すると爆発を起こす。小型の砲台を破壊するだけでなく、上半身の半分を吹き飛ばした。かろうじて頭部と体は繋がっていたが、ストーンゴーレムが一歩前に動くとヒビが入り、体は砕けてしまう。
頭部が、ぼとりと地面に落ちた。
ストーンゴーレムは頭部にあるコアによって動いているため、分離されてしまえば存在は維持できない。
体はボロボロと崩れ去っていった。
「勝てた……?」
あれだけ苦労させられたのに、終わるときは一瞬だった。しかも狙ったわけではない。
手応えのなさに、イチカは生き残ったと実感を得るのに時間がかかっていた。
「まあまあの結果ね。長距離から狙い撃ちする感覚は掴めたかしら?」
「少しだけ……」
銃身が動いてしまえば狙いは定まらない。そのために必要なことは、いかにAM-15を固定するかだ。
冷静さを失ってしまえば、当たるものも外してしまう。
落ち着いて正しい姿勢を取るだけで命中率は上がるのだ。
「パワードスーツがあれば自動補正してくれるけど、魔力干渉によって動作不良を起こしてしまうから、イチカには使えないの。頑張って技術を磨きなさい。それがエンを倒すことにつながるわ」
再会する方法を隠したまま、アルゴスはアドバイスをした。
「そうですね。頑張ります」
緊張を強いられた戦いをしていたイチカに心の余裕はない。アルゴスの言うことを素直に受け取った。
「新しい魔物を探します」
ゴーグルに映るマップを確認しながら、イチカは歩き出す。しばらくしてファイヤーウルフの群れと遭遇したが、遠距離から一方的に攻撃をして全滅させる。
ストーンゴーレムとの戦いで成長したイチカにとって、周辺に出てくる魔物は冷静に対処できるようになった。武器の性能は悪くないため、使用者がそこそこの技術さえあれば勝てる。
殺人エイプはライフル式RM-1Kを使って敵の射程外から攻撃を続けて一方的な勝利を得ると、アルゴスは一人で任せても問題ないと判断する。
イチカに狩りをさせている間、アルゴスは果実を採取して昼食を用意するのであった。




