残念な食事事情
ハンターギルドに戻ったイチカは、受付嬢に三丁の銃と討伐を記録したメモリーカードを提出した。
動作確認なんてされない。事務的に手続きが進む。
時間はさほどかからず1分程度で結果が出た。
「審査結果です。問題がなければサインをお願いします」
受付嬢が情報端末をイチカに見せた。
画面には狩りの記録と金額が提示されている。
殺人エイプ3匹で3万デロス、ファイヤーウルフ10匹で2万デロスだった。銃はAM-5と表記され3丁で6000デロスだ。そこに税金が30%ほど発生して、手元に残るのは51800デロス。これが一日の労働に対するイチカへの対価だ。
1デロスが1円ほどの価値なので、日給5万円となる。
命と貞操を懸けて戦った割には少ないようにも思えるが、イチカはまだ恵まれている方だ。
多くのハンターは複数人で戦うため、人数で割らなければならない。もし2人で活動していたら収入は約2万5千デロスとなって、宿代と食事でほとんど消えてしまう。貯蓄なんて望めないだろうし、怪我をしてしまえば治療費がかかるので、食事を抜くか野宿をするしかなくなる。
報酬を分配する必要のないアルゴスがいるイチカは、駆け出しとしては良いスタートを切ったと言っていいだろう。
「魔物より武器の方が安いんですね」
「AM-5は小さなハンドガンほどの威力しかありませんからね。駆け出しのハンターぐらいしか使いません」
「そ、そうですか……」
受付嬢の言っていることが正しいか不明ではあるが、あまりにも当然と言った感じで言われてしまったため、イチカは何も言えない。
アルゴスも黙ったままなので、金額に納得してサインをした。
「それでは報酬を振り込みますので、情報端末をお貸しください」
イチカが何かを言う前にアルゴスが情報端末を受付に置いた。
画面にはバーコードのようなものが表示されていて、受付嬢がカードを近づけると電子音がする。
「お振り込みしましたので、ご確認ください」
情報端末には振込金額と残りの合計金額――約6万デロスが表示されていた。
「確認しました」
「ありがとうございます」
笑顔を浮かべている受付嬢だが、換金待ちのハンターが他にもいるため、さっさと目が移動しろと言っている。
プレッシャーを感じたイチカは、情報端末を持ちながら受付から離れてハンターギルドを出て、大通りを歩く。
「今あるお金だと、個室の宿は借りれます?」
イチカはゴーグルを首にかけ、両肩に銃をかけながら隣にいるアルゴスへ質問した。
「最低限のセキュリティがあって食事とお風呂付きだと、一泊3万デロスぐらいだから二日分ね」
「とりあえず野宿は回避できそうでよかった。早くお風呂に入ってご飯を食べたい……です」
「今日は頑張ったし良いと思うわ。おすすめのお店に案内してあげる」
アルゴスが先行して大通りを進み、しばらくして10階建てのビルの前で止まった。
名前は「ハンターホテル」となっていて、ターゲット層が単純明確でわかりやすい。
中に入るとエントランスには誰もいない。受付の上にタブレット端末があるだけだ。イチカは近づくと画面の指示に従って操作し、最後に情報端末を接触させて支払いを済ます。
「明日の午前まで使用できる鍵が発行されたわ。ドアに情報端末を接触させるだけで入れるわよ」
「完全自動化なんて、すごい技術ですね」
「地球に比べれば、ね。ここでは普通よ」
驚いているイチカに対して、冷静な返答をしたアルゴスは先に行ってしまった。
「勝手が分からないから置いていかないで~!」
慌てて追いかけるとエレベーターに乗って借りている部屋に入る。
見た目と大きさはビジネスホテルと変わりない。テレビまであった。イチカは電源をつけると、ニュース映像が流れる。
しばらく見ていたが、内容が分からないため興味を失ってテーブルに視線を移す。
「何これ?」
透明の袋に包まれたスティック状のものがあった。開けてみるとクッキーのような匂いがする。
「今日の晩ご飯よ」
「これが?」
初戦闘を無事に終えた褒美がスティック状の食べ物だけ。ビュッフェスタイルの豪華な食事をイメージしていたイチカは、恨めしい目をしながらアルゴスを見る。
「防壁外の食事は、栄養バランス満点の人工スティックだけ。人工肉や野菜を食べたいのであれば、今の2倍~3倍の値段がする宿に泊まる必要があるわ」
「天然の肉とかだともっと高いんですか?」
「防壁内の人間だけが食べられるのよ。イチカの今の身分じゃ無理ね」
「逃げる前に食べておけばよかった……」
最悪な食事事情を聞いたイチカは、非情な現実を前にして下を向いてしまった。
防壁外で育てている食物や動物は全人口をまかなえるほどの量はない。すべては防壁内の人間だけで消費されてしまう。都市と定められているエリアから出ない限り、天然物は口に入れられないのだ。
「食事が……ただの棒……」
イチカはフラフラとしながらベッドに座り込む。
手に持っていたスティックを食べると、苦みが口の中に広がる。さらに水分を吸い取ってしまうため、喉が渇く。
「ずっとこんな食事が続くの……?」
「例外は狩りに出ている最中に見つけた食べ物ぐらいね。外に出る理由がまた一つ増えたわね」
小さな泉で食べた果実を思い出し、イチカはゴクリとつばを飲んだ。
「なら、あの果実も食べなければ売れました?」
「1000デロスぐらいかしら。売ってもいいけど、食べた方がやる気につながらない?」
指摘されて、イチカは手に持っている食べかけのスティックを見た。
数週間程度なら我慢できるが一年、二年と同じ物を食べ続けられる自信はない。
エンに復讐するためにも健康的な体と精神を維持するのも重要だ。
快適な食事事情は必須である。
イチカは、そう自分を納得させた。
「やる気になります」
「そうよね」
これでイチカは金銭以外にも魔物を狩り続ける理由ができた。
引きこもる理由をなくしたアルゴスは、内心で喜んでいた。




