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お仕置きに使っていた電撃

「匂いで気づかれたみたいね。戦う?」


 風呂にも入らず汗をかいていたこともあって、風下にいた殺人エイプは女がいるとわかり興奮している。


 敵は二匹だ。イチカはマップを最小にして視界を確保するとAM-15を構える。


 トリガーを引いて魔力で作られた銃弾を放つが、殺人エイプには当たらなかった。


 反撃に数発撃たれる。魔力で強化した身体能力は銃弾すら視認できる。イチカは首を傾けて回避すると、銃弾が耳元を通過、ひゅんと音がした。


「照準が甘いわ。落ち着いて狙いなさい」

「分かってます!」


 銃弾がかすったことで、イチカは極度の緊張感に襲われている。また大きく膨らんで伸びた股間も最悪な未来を想像させて、冷静さを奪っていく。


 心臓がバクバクしていて手が震え、動き回っている殺人エイプに当たらない。


 だがイチカの銃弾によって殺人エイプも距離は詰められない。


 お互いに打ち合っている。今は互角といったところだ。


「時間をかけていると他の魔物も近づいてくるわ。どうする?」

「魔力の解放量を増やして近づきます」

「悪くない作戦ね」


 アルゴスからの同意があったことで、イチカは自分の計画に自信をもった。


 魔力の解放量を7割ほどに増やすと、全身が熱くなる。血が沸騰するようだ。人間よりも魔物に近づいていて、瞳が金色に変化する。猿人エイプが放つ銃弾も、よりハッキリ見えるようになった。


 人間らしい感情も薄れたため冷静さを取り戻している。今なら緊張せず、己のパフォーマンスを十分に発揮できるだろう。


「行ってきます」

「フォローしてあげるから頑張ってきなさい」


 AM-15を持ったままイチカが駆け出した。


 数発の銃弾が頭や体を狙ってくるが、イチカは当たる直前で体をひねり最小の動きで回避する。


 止まれば攻撃が当たるため、走りながら撃つ。銃身がブレて銃弾は地面にめり込むが、けん制にはなった。


 戦闘経験が少ないタイプの殺人エイプであったため、攻撃を止めて逃げ回る。


 追撃する好機である。イチカは立ち止まり、銃身を安定させてから撃つと、数十発の銃弾が殺人エイプに叩き込まれて穴を開ける。力尽きてドサリと倒れた。


 残りは一匹だ。


 AK-15を横にスライドさせて生き残りに向けて撃つ。数発は外してしまったが、銃弾が頭部の一部を破壊して脳をまきまき散らす。力が抜けた殺人エイプは、股間から白い液体を放出しながら倒れた。


 死の瞬間に最高の快楽を得たこともあって、半壊した顔は満足そうな笑顔を浮かべている。


 完勝ではあったが、イチカはどこかで気味の悪さと、何かに負けたような気持ちを抱いた。


「ふぅ……」


 モヤモヤした感情と共に息を吐き出して、全身の力を抜く。解放している魔力量も5割にまで抑えた。


 無事に勝ったことを伝えるため、振り返ってアルゴスを探す。


「ウキィ」


 銃撃を聞いて駆けつけた殺人エイプがいた。手にある銃はイチカを向いている。


 ゴーグル内のマップを最小にしたことで、気づけなかったのだ。


 戦闘は終わったと思い込んでいたイチカは、急な出来事に対応できない。体が強張っている。また距離も近いことがあって避けることは不可能だ。


(あ、これ死ぬ)


 殺人エイプが銃弾を外すイメージの沸かなかったイチカは、死を覚悟した。


 目を閉じてその瞬間を待つが、数秒経過しても訪れるはずの痛みは感じない。ゆっくりと(まぶた)を上げると、殺人エイプは倒れて痙攣していた。


 近くにはアーム状の腕を出したアルゴスが浮遊している。


「感電死させたわ」


 女性っぽい振る舞いに失敗したとき、お仕置きとして電撃を流していたが、出力を最大まで引き上げれば殺人エイプぐらいは殺せるのだ。


 そんな物騒なものを使われていたのかと気づいたイチカは、頬を引きつらせながらも礼を言う。


「助けてくれてありがとうございます」

「魔物を倒したらマップを使ってすぐに周囲を警戒しなさい」

「そうします」


 言われたとおりイチカはゴーグルでマップを確認した。近くにマーカーは表示されていない。敵どころか人間すらいない。完全に安全と確認すると、倒した殺人エイプの所まで移動する。


 落ちている銃を拾った。


 細かい傷は付いていて使い古されている。魔力を吸い上げて魔術の弾丸を放つため、マガジンは存在しない。銃口を覗くとびっしりと魔術文字が刻まれている。イチカどころか多くの人には解読できないものだ。


「武器屋かハンターギルドに持って行けば売れるわよ」

「私が使うのは?」

「なしね。AM-15の方が高性能よ」

「それなら売りましょうか」


 三丁の銃を拾ってから、イチカは死体をじっと見る。


「肉は売れます?」

「マズイから、すっごく安いけどね。持って行く?」


 防壁内では人工的に作られた肉が主流で、ごく一部の富裕層が豚や牛から手に入れた天然物を口にする。魔物はさらに下の扱いをされていて、スラム街の住民すら食べない。それほどマズイのだ。


 大量に持って帰っても昼食代にすらならないだろう。最悪の場合は処理代を請求される。


「戦いにくくなりますし、やめておきます」

「賢明な判断ね」


 満足そうに言うとアルゴスは黙った。


 血の臭いがしているため休憩する気にはならない。イチカは三丁の銃を抱えながら帰ることにする。


 マーカーを見ていれば敵と会わずに済む。


 昼過ぎには無事にデロス都市の防壁外についた。

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