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殺人エイプ

「何かあれば助けるつもりだったけど、ちゃんと勝てたようね」


 アルゴスは電撃のほかにも攻撃手段をいくつかもっている。殺意をもった敵を前にして動けないようであれば、いつでも援護射撃をする予定であったが、興奮していてもイチカは体を動かせていた。


 魔物との初実戦だと考えれば合格点をあげてもよいだろう。強盗と戦って逃げるときも思いっきりはよく、イチカは平和ボケしていない。アルゴスはよい拾いものをしたと満足していた。


「思ったより体は動きました。それに……」

「殺しても罪悪感はなかった?」

「はい」


 ファイヤーウルフの死体を見ながら、イチカは勝利した高揚感だけを覚えていた。


 生物を殺した恐怖、嫌悪、後悔、罪悪といった負の感情は、ほとんどなかったのだ。これはイチカ自身が最も驚いている。


「遠距離武器の利点ね。手応えがないから殺した感覚は薄いのよ。それでも慣れは必要だけどね」

「そんなものですか」

「そんなものよ。次の魔物を探してみる? それとも帰る?」

「もう少し、戦いに慣れておきたいです」


 ワンピース姿からの卒業したいという理由もあるが、イチカは今日こそまともなベッドで寝たいと思っている。風呂だって入りたい。


 また大部屋だと襲われる危険もあるので、そこそこ高級な宿に泊まる必要があり、そのためにはもっと金を稼がなければならない。


 体力、気力共に余裕があるので、魔物退治を続ける決断をしたのである。


 ファイヤーウルフの死体を放置して、イチカたちは地図を見ながらデロス都市を離れていく。


 黄色と赤のマーカーが入り乱れるようになってきた。駆け出しのハンターの狩り場に着いたのだ。


 遠くから銃声音もしていて誰もいない場所を探すのに苦労している。


 もう少し奥に行くべきだろうか。イチカが悩んでいると近くで爆発が発生した。


「ハンターが戦っているみたいね。私の映像を共有してあげる」


 高機能補助機械のアルゴスに搭載されたカメラは、望遠機能もある。


 イチカが着けているゴーグルに爆発があった場所を映した。


「銃を持った猿?」


 男のハンターが10人とゴリラのような見た目の魔物――殺人エイプ20匹戦っていた。どちらも銃を持っていて打ち合いになっている。


 殺人エイプの武器はファイヤーウルフのように体と一体化しているわけではなく、人間と同じように銃を持って使っていた。


「人間から奪ったみたいね。しかも魔術銃だから、魔力切れにならない限り使い続けられるわよ」


 イチカは魔物が武器を製造する高度な知識と技術を持っているのかと驚いていたが、実際はアルゴスが説明した通りに奪い取った物である。


 壊れれば修理すらできないが、強力な武器だとは理解しているので人間のマネをして使ってた。


「ハンター側が劣勢ですね」


 善戦しているが数が劣っていることもあって、人数を減らしている。


 立っているのは3人だけ。殺人エイプは10匹も残っている。


 逃走したハンターもいたが、背を向けた瞬間に撃ち殺されてしまったため、生き残っているハンターは戦うしかない。怯えながらも銃弾を撃ち続ける。


「助けに行く?」

「……いえ、止めておきます」


 殺人エイプは銃の扱いに慣れていて狙いは正確だ。イチカが参加したところで勝てるかわからない。


 また、ハンターを助けてもその後、男どもに捕まって襲われるかもしれないと考えたら、冷たいかもしれないが救助に出るとはいえなかった。


 人類の方が及ばない都市外だからこそ、自分の身を最優先で考えて行動しなければならない。イチカの判断は、この世界の常識と照らし合わせても妥当である。


「そう。それじゃあっちの方に行ってみましょうか」

「……うん」


 後ろ髪を引かれる気持ちはあるが、ハンターが全滅する前に逃げるのが正解だ。


 音を立てずにその場から去って行き、マーカーがない方を選んで歩いて行く。


 しばらくして小さな湖を発見した。魔物の姿はない。


「少し休憩しましょう」


 疲労していると感じたアルゴスの提案にうなずいたイチカは、近くに転がっている人の背丈ほどもある岩に腰を下ろした。


 風が吹いて火照った体を冷ましてくれる。


 溜まっていた足の疲労がじんわりとほぐれていき、緊張がほぐれていくとイチカは空腹を感じた。


「ご飯、買ってなかった……」

「お金がなかったからね」


 イチカが休んでいる間に、アルゴスは周囲の探索して食料を見つけていた。アーム状の腕に赤い果実を挟んでいる。


「これは食べられる物よ」


 果実を放り投げると、イチカはキャッチした。硬質な重みと、つるりとした皮の感触がする。


「リンゴみたいですね」

「味も似ているわ」


 服で果実の表面を拭いてから、イチカはかぶりついた。


 しゃくっと心地よい音を出すと口内に、ほんのりとした甘さと酸味が広がった。噛んでいくと果汁になって喉を潤してくれる。


 空腹だったこともあり、あっという間に食べ尽くしてしまった。


 イチカは残った芯をぽいと湖に投げ捨てる。


「リンゴ一つでお腹いっぱい。燃費の良い体ですね」


 男だったときは大盛りの定食を食べていたイチカだったが、少女の胃袋は小さい。成人男性の半分も食べられないだろう。


 こういった小さな体の変化を感じる度に、嫌でも女性になったと実感させられる。


「小食なのも親の血が影……イチカ、魔物よ」


 ゴーグルのマップを確認すると、イチカは赤いマーカーを二つ確認した。泉に向かっている。


 AM-15を手に取ると、岩の背後に隠れて様子をうかがう。


「ウキ、ウキィ」

「ウホホ!」


 銃を持った殺人エイプだ。全身に血が付いていてハンターを殺した後だというのが、イチカたちにも伝わった。


 泉の近くまで来ると、一匹の殺人エイプが立ち止まり、上を向いて匂いを嗅いでいる。


 股間が膨らみ岩の方を見た。

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