一難去ってまた一難です
馬車は全速力で教会へと走っている。だけど嵐で思うように進まない。アイリンは座っているのがやっとという感じなので坊ちゃんと司祭様が支えている。このまま無事にウォーティー家に帰れますようにと祈ったけど、無理だった。馬車の後ろから猪型の魔物が猛スピードで追いかけてきた。
「この魔物たちは私が引き受けます。お二人は彼女と一緒に必ず生きて教会まで辿り着いてください。私も直ぐに向かいますから。」
そう言って司祭様は一人で馬車から降りて魔物と向き合った。司祭様は土魔法が得意なようで土壁を作り魔物があたしたちに追いつけないようにした。何かがぶつかり合う激しい音だけが聞こえる。
「急に魔物が出るなんて。奴らリーシャ様の闇の力に引き寄せられたのかもしれないな。」
「ええ。しかし司祭様もヴァイス様もご無事でしょうか。」
「二人なら大丈夫だろう。司祭様は光属性の魔法が使えるし、ヴァイス殿には炎龍がいる。必ず合流できるさ。」
突然馬の嘶きが聞こえ、馬車が止まった。窓から様子を見ると狼型の魔物に取り囲まれていた。狼型の魔物は中級だが知能が高く、群れで連携して攻撃してくるので厄介なのだ。たぶん坊ちゃんが馬車から降りて戦っても、隙をついて馬車にいるあたしたちに攻撃してくる。あたしではアイリンを支えながら魔物を蹴散らして進むことはできない。坊ちゃんもそれがわかっているから動けずにいる。魔物が徐々にこちらに近づいてくる。どうしよう。そう思った時だ。
「ズシャッ。」魔物が倒れる。誰かが風の刃を放ったようだ。
「遅くなってすまない!」
「「エドワード殿下!」」
エドワード殿下が馬車の隣に降り立った。
「ダグラス先生から聞いて、王宮から急いで精霊に乗ってきたんだ。なんとか間に合ってよかった。ここは僕が引き受けるから二人は彼女と教会へ。僕も光属性の魔法が使えるから。」
殿下が魔物の相手をしてくれている隙に馬車を出る。襲ってくる魔物を氷の盾でガードする。あたしが光属性の魔法を使っていないのをみて殿下が言う。
「マリア、光属性の魔法は分離なんだ!闇は実体を持たず、何かに纏わりついている。だからそれを剥がすイメージだよ!」
たしかに魔物をよく見ると黒いモヤが体全体を覆っている。殿下に言われた通りやってみる。すると魔物が倒れ白い狼に変わった。殿下のアドバイスのおかげでなんとか魔物の群れを抜けることができた。
精霊もさすがに3人は乗せられず、歩いて教会まで向かう。ただ初めての領地だから最短ルートがわからない。すると、
「みなさま、こちらですわ!」
アイリンの熱心な信望者の筆頭、ヴィオラ様だ。
「殿下に聞いて私も駆けつけましたわ。さあ、教会までの近道はこちらです。」
彼女の案内のおかげで教会が見えてきた。後ろに司祭様たちも見える。みんな無事だったようだ。
「僕が先に行ってくる。彼女を頼んだ。」
坊ちゃんが教会へ走る。よかった、これで帰れる。
「ヴィオラ様、本当にありがとうございました。おかげさまで魔物にも会わず、教会へ着きますわ。」
「お礼を言われる筋合いはないわ。全てアイリン様のためですもの。だから、マリア様。ここで死んでください!」
彼女が氷の矢を放つ。アイリンを支えているから魔法が放てない。マズい、避けきれない!