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何処の間抜けがネコ目にしたのか

「食肉目をネコ目なんて文部省が定めたばっかりに、イヌ科をネコ科と混合できると考える馬鹿が生まれた!!」


「乃三花。残念ながら、フェンリールはイタリア系アメリカ人を自称している。日本の文部省とは関係ないと思うよ」


「マクフェンリーなのに? マクフェンリーのマクはMacでしょう?スコットランドとかのゲール語で息子っていう意味になるやつ。イタリア系の苗字じゃないのにイタリア系?」


「だから自称だ。誰もが大人の事情って分かってる」


 晩餐は映画かドラマの貴族の食事風景のように、長方形の長いテーブルがある食堂でだったが、映画やドラマと違い、アダムと乃三花はテーブルの端と端で向かい合って座るのではなく、肩をぶつけられるぐらいの近さで斜めに向かい合って座っていた。

 乃三花は大声を上げながらアダムと食事はしたくはないし、常にアダムのそばにいたいが彼女の本意でもあるからだ。


 アダムにも現状にも乃三花は苛立つくばかりであるが、アダムの顔は乃三花の情緒を安定させる推しの顔である。彼女はこの現状を招いたアダムに怒りを抱いていていようが、彼の顔で癒されれば許すぐらいの勢いなのだ。


 あおり十度右四十五度の角度も完璧。

 ああ、まったくもって顔が良い。


「君の私への愛が私の顔だけとは、悲しいばかりだ」


「私はガワが欲しくて作っただけだからな」


「ならば理解できるだろう。ジョーン・マクフェンリーの気持と絶望が」


「奴は中身はそのままでガワを変えろという注文では無いの?」


「彼はちゃんと言っただろう。出会った時から大事な我が子で息子です、と。彼は息子の外見に一目惚れしたんだ。そして愛し、種族違いでの悲劇が起きた」


「それじゃあ、無理矢理フェンリールに変えちゃっても駄目じゃない」


「ああ。彼の望みは殺してしまった息子の復活だ」


「でも、フェンリールとして復活。無理難題」


「――私は白身魚が好きだ。私達の皿に乗っている魚は何かな?」


「タラ?あるいはメルルーサ?」


「代用魚を出して来たのはさすがだな。資源の枯渇には財力は関係ない。そして悲しいことにこれはデコラだ。かってはメルルーサだったホキも数が減り、その代用魚としてデコラが使用されるようになった。ただ、う~ん。癖があるな」


 眉をひそめたアダムは口に合わなかったらしい魚の味を消すためか、白ワインのグラスを取り口に含む。


「あおり二十度からゼロに移行。左四十五から右十五へ。その私を睨みつける目線付きも、かんぺき!」


「――君が私に嫌がらせしているって、どうして気が付かなかったかな?」


「あなたが信奉者の目つきに慣れているからよ。私はあなたに対しては、ええ、外見に対してはただただ見惚れているだけだもの」


「だったら、愛する男を全部手に入れる努力もして欲しいものだ」


「今、食事中。生々しい話題は禁止」


「手を付けていないようだが?」


「柘榴を四粒食べたせいで四か月は冥界にいなきゃいけなくなったペルセフォネの身の上を考えると、私は妖精界で出された食事は食べる事が出来ないわ」


「ハハハ。なかなか賢いが、ここは妖精界では無い」


 アダムが手に持っていたワイングラスをほんの少し動かすと、食堂室の窓を覆っていたカーテンが一気に左右へと引かれた。カーテンが隠していた風景を目の当りにして、乃三花はポカンと呆けるしかない。


 大きな横長の窓ガラスに映るのは、映画やドラマ、あるいは海外ニュースで見た事があるニューヨークの夜景なのである。


「アッパー・イーストサイドにようこそ!!」


「よ、妖精界のあなたの屋敷では無かったの?」


「私は妖精界に屋敷など持たん。前回だってギリシャのヴィラだった」


「ちょっと待って、あれ、あそこはギリシャだった?あの青い海はギリシャの海だったの?」


「青い海で泳ぎたいと言っていた癖に、海に行きもしなかったよね」


「だって知らんし。妖精界で冒険して帰れなくなったら怖いしって思って。ああ馬鹿だ私。冒険する事を忘れるなんて」


 両手に顔を埋めた乃三花の頭に優しく大きな手が乗った。

 乃三花が顔を上げれば、最高の顔が乃三花に微笑んだ。


「だからもう一度、だ。ただ、この館は私のものなのに、マクフェンリーファミリーが解決まで私達を監視するらしく若造が数匹居座っている。前回とは違って好きに外に出られないから気を付けて」


「前回はそんなに気軽にギリシャで遊べたのかあ~」


「ほらほら、大丈夫だ。君の為に私はジョーンに提案したんだ。妖精の時間は永遠だ。人間の時間で期限を決めた方が良いのでは?と」


「その期限とは?」


 アダムは乃三花の怒りを知っているからか、あおりも角度もつけず、真正面となるように乃三花に顔を向けた。

 彼女に微笑みそうな閉じた唇は魅惑的で、彼女を見つめる青紫の瞳には桜が咲いている。乃三花はアダムを見つめ返しながら、これは違う、と思った。


 私は見つめるために精魂込めて作ったのであり、見つめられて蠱惑されるためじゃない。アクリル絵の具で虹彩を描きレジンにてガラスの質感を出した目玉が、こうしてちらちらと虹彩の中の桜の花色を煌かせ動きを見せて来るならば、これは私の手を全て離れた別物だ。


 アダムが消えたその代わりに自作人形を取り戻しても、私は動かなくなった人形に満足できるのだろうか。


 乃三花は自分の考えにぞっとして身震いをした。


「アダム。その期限とはいつなの?」


「――君が死ぬまで」


「ああ。どうしてギリシャで遊んで来なかったんだろう!!」

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