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縛りばかりの妖精様

 アダムが乃三花にドレスや靴だけでなく、祖母宅の乃三花の部屋に置いてあったはずの化粧箱まで指を鳴らして出現させた。


 だが乃三花はアダムからドレスを与えられた事が、自分への褒美と感じるよりも罠に嵌められたネズミになった感覚しかなかった。ネズミの罠には、ネズミをそこに引き込むための餌が必ず設置されているものなのだ。


「前回はこんなことは無かった。どういうこと?」


「素直に喜びなさい。先日の結果だよ。功労者への給金だ。君の協力で私は力を一つ取り戻せた。セイレーンは海の精霊。私が失っていた海上運送業についての財産を取り戻せたと言ってもいい」


「妖精が海上運送業?」


「人間から信仰を失った我々は自力で生きねばならないだろ? こうなる前の私は人として生活していたんだよ。人間の世界では伯爵様として領地も持っていた。会社だっていくつも抱えていたよ。社長さん凄いって人間から敬意を向けられ、それが力の源にもなっていたからね、私は精力的に経済活動を行っていたな」


「――飲み屋のお姉ちゃんに褒められるのが活力だってのたまうとこが、脂ぎったオジサンみたいで嫌だ。推しの顔でそんな戯言言うの止めて。で、セイレーンってそんな大きな権力持ちだったの? 海で船乗りを船から落とすだけの魔物じゃ無かった?」


「そうだ。船乗りには怖い魔物だ。彼等は私への再契約を行い、私は海の支配権を再び手に入れた」


 ニヤリと笑うアダムは妖精なんて可愛いイメージの存在では無かった。

 乃三花はぞくりと身を震わせる。彼の後ろで荒れ狂う海の情景と蛸に似た化け物が見えた気がしたのだ。


「それで、ええと、じゃあ、お金があるならあなたこそ服を着替えなさいよ。あなたが着ているそれは私が着せたっきりの父の冬物スーツじゃない」


「だな。だが私は君という下僕から衣服を捧げられて初めて着換えられる。君は私のお陰で君が大好きなドレスメーカーの新作を手に入れられたというのに、私は今だに着たきりスズメとは、ふう」


「そんなお芝居みたいな振り付けつきで悲しがっても私の同情は買えませんよ。でもね、父が大事にしていた冬物スーツの紛失を父に気付かれる前にクローゼットに戻さなきゃなんだから、ええ、新しい夏物スーツを買うわ。お金が出来たら」


 乃三花は実は冬物スーツを父親に返すつもりはない。アダムが着ている人形は、乃三花の推しの造形なのだ。アダムが人形を脱いだ暁には、人形は乃三花だけの推しとなるのだ。推しのためならば高級スーツを買えるならば買う、乃三花はそんな気持ちであるため、アダムに素直に買うと答えていたのである。


「ありがとう。今回のお客様は、私が失った金融業の方の力を復活させるからね、私は君が高級スーツを購入できるぐらいの褒賞を君に与えられるな」


「わお。だったら、今お金をくれてもいいんじゃ無いの?」


「迷える我が信奉者よ。私は君の望みを聞いてからしか事を成せない。君のドレスは気が付けば君がブツブツ言っていたから与えられた。そして今回は私のスーツを買うという目標が君に出来た。では、指導者として君に試練を与えねば、という流れだ」


「面倒くさ!!今後いちいちこんな七面倒臭いやり取りしなきゃ、あなたは欲しいものも手に入れられないの?」


 アダムは普通に微笑んだ。

 その顔はとっても人間臭いもので、乃三花の父が殺人事件などがテレビで報道される時によくする表情に似ていた。


 やるせない、という。


「妖精ってどうしてそんなに縛りが多いの」


「私達は敗者なんだよ。もとは神だったが、その座を奪われて追い払われた種族だ。存在を許されるには、現行神達が我々に課したルールに従うしかない」


「わかった。とにかく私はあなたから一日でも早く解放されたいから、あなたに協力しましょう。で、その金融業に直結する方々の種族は何かしら。ドワーフ?」


「近いな。フェンリール達だ」


「フェンリール?北欧神話のフェンリルと関係が?」


「フェンリルの子孫だ」


「狼が、金融?」


「フェンリルが信頼の為に神に片腕を差し出させた神話は有名だろ?契約を履行しなかった神の腕を咬み砕いてやったのも。ハハハ。契約を大事にし、契約者に博打を打つ気概を求める狼だ。投資の守護者として最適じゃないか」


「で、そのフェンリールさん達が復顔を望む、と。私も何か賭けをしないといけないって状況にはならないわよね」


「君が彼等の求める答えが出せるまで、君が自宅に帰れない、ぐらいかな」


 乃三花はゴスロリのブーツが厚底で良かったと思いながら、気兼ねなく、思い切り、ブーツを持ってアダムに殴りかかった。


「気前よくドレスやら何やら与えてきたのはこれか!!」

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