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グローバリゼーションとは何だったのか

作者: 青山

 今日の世界を語るのに、グローバリゼーションが外せない事に異論のある人はいないでしょう。

 最初に結論として言えることは、おおよそ今の世界はかつてグローバリゼーションが目指した理想の世界とはかけ離れているという事です。この事に異論のある人もいないでしょう。

 グローバリゼーションが進めば国境がなくなって世界が一つになって平和が訪れる。今、このお題目を額面通りに受け取る人は多くはないでしょう。なぜこんな事になってしまったのでしょうか?


 そもそもグローバリゼーションとは定義としては「資本や労働力の国境を越えた移動が活発化するとともに、貿易を通じた商品・サービスの取引や、海外への投資が増大することによって世界における経済的な結びつきが深まること」です。

 その結果何が起こったのか?

 

 端的に言ってしまえば、先進国の労働者階級の職が途上国の安い人件費に奪われて国際金融資本だけが潤ったのです。

 彼ら国際金融資本の考えでは安いところで作ったほうが利益が出る。国々がそれぞれの得意分野に特化したほうが効率がいい。これだけでした。

 そこで働いていた先進国の労働者階級の生活や誇り等に彼らは見向きもしなかったのです。


 国際金融資本が望んだグローバリゼーション。それが究極まで進んだ世界は恐らく次のような世界だったはずです。


A国:穀物

B国:資源

C国:工業機械

D国:安い労働力


 自国で何もかも賄うなんて非効率だ。こんな感じで文字通りそれだけに特化した国を作り、関税も国境も取っ払ってしまえばいい。その国で足りないものが出たら他国から融通してもらえばいい。

 グローバリゼーションが極限まで進み、国際分業が完成したら戦争なんて誰も起こそうとしないだろうし何より起こせないようになるだろう。得意分野に特化して効率化を進めれば回収を見込めるので投資も増える。すると自然と皆が豊かになる。


 国境も関税も無くなった世界。人々が自由に世界中を動き回る地球。

 国際金融資本と各国のエリートと呼ばれる人たちはその先に、地球連邦すら夢ではないと思っていたのではないでしょうか?


 では実際には何が起こったのか。

 まず新型コロナウイルスの発生により各国が国境を閉ざしたことによりサプライチェーンはズッタズタ。これは仕方がありません。何もせずに自国に入ってこられるほうが問題ですし、隣国で感染症が流行っているにも関わらず入ってき放題なんて国民が許さないはずです。何より現代においてスペイン風邪やペストレベルのパンデミックが起きるなど、予想しろというほうが無茶です。

 未来を知っていない限りこれは避けられない事であり、グローバリゼーションの弊害ではあれど、これをもってエリートや国際金融資本を責めるのは流石に酷です。


 ただ、戦争は別です。戦争は人の意思で起こされるものなので予想がつきます。衛星やSNSが常に目を光らせている現代において、軍の大量動員と配備は即座に感知されることでしょう。

 そして、グローバリゼーションが平和に貢献できなかったどころか一部の国家に誤ったシグナルを送った最たる例がロシアによるウクライナ侵略なのです。


 上記のA~Dの国で説明すると、

 「我がA国は世界中に穀物を輸出している。つまり、例えD国に侵攻してもB国とC国は非難こそすれ具体的な行動には出ないだろう。なにせ、こちらは食料を握っているのだ!」

 A国の王様もしくは大衆がこんな思想を持ってしまった場合、B国とC国は生命線たる食料をA国に依存している以上本当に何も動けない可能性があるのです。

 いくらC国とD国が「そんな事をするなら資源と工業機械をA国に輸出しない!」と宣言したところでA国は「ならお前ら飢えろ」と言えてしまうのです。

 現にロシアはこれをガスでやったのです。「我々の行動を容認しないなら凍えろ」と。

 

 日本だとマスクが良い例でしょう。

 2020年前半は本当にマスクが無くて、本来は使い捨てのはずの一枚を使いまわした経験のある人も多いのではないでしょうか。

 かく言う私も使い捨てマスクを3~4日間使い回しました。4日目など皮膚に触れる部分が痒くてたまらなかったです。

 こんなことになったのはマスク生産のほとんどを中国に頼っていたために起きたことでした。

 問題なのは中国ではなく、生産を海外に頼りきっていたという点です。


 もう一つ、例を挙げさせてください。

 マスクとほぼ同時期に、一人のSNSの呟きによりトイレットペーパーが消えた現象を覚えていますか?

「トイレットペーパーは中国で生産されているからコロナで輸出が滞っているから不足する」この呟きは結果的にはデマでした。トイレットペーパーは日本で生産していたことから供給は幸い比較的すぐに回復しました。

 問題なのは、もし本当にトイレットペーパーが中国で生産されていたらどうなっていたでしょうか? 

 当時の中国が、ワクチン提供を餌に相手国に強気に出るワクチン外交が問題になっていました。

 もし、トイレットペーパーが中国からの輸入に頼っていたとしたら、中国がそれの提供の見返りにどんな要求をしてきたか分かったものではありません。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。


 これらの現象から言えることは、グローバリゼーションが国と国の結びつきを強めて平和を創出するどころか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事が明らかになったのです。


 グローバリゼーションは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。パンデミックはともかく、戦争を想定していなのは致命的でした。

 人間の持つ邪な欲望。野心の強さを勘定に入れていなかった。これでは上手くいくはずがなかったのです。

 先ほど地球連邦と書きましたが、まさに人類初の統一政体を自分の手で成し遂げたい。歴史の教科書に英雄として記されたい。そんな野心を持った人間にとって、他国の主権やそこに生きる人々のささやかな生活と幸せはどうでもいい事です。どれだけ犠牲が出ようが自分が偉人として記される栄光への小さな犠牲としか感じないでしょう。

 これほどではないにせよ、国際金融資本と各国のエリートもその性質ゆえに労働階級を見下していたでしょう。あいつらは新時代に適応できない敗北者だと。


 この傲慢な態度への鬱憤がついに爆発したのが2016年のトランプ大統領の誕生だったのです。

 もちろん、トランプ大統領の誕生はグローバル化への反抗だけではありませんが、ラストベルトと呼ばれ、かつて栄華を謳歌していた地域の労働者たちが自分たちは見捨てられたと感じ、自分たちの不満を代弁してくれていると感じたトランプ大統領へ投票したのは、ある意味当然の事だったのです。

 これはあくまでも私の意見ですが、トランプ大統領はアメリカ分断の原因ではなく結果です。

 トランプ大統領が分断させたのではなく、分断した先にトランプ大統領が誕生したのです。

 2020年の選挙であれほどの騒乱を引き起こし、数々の疑惑で追訴されるという歴代アメリカ大統領の中でも前代未聞な人物が未だに多くの人気を保持し、2024年に再び大統領の座を狙える位置にいるのは不満が解消されていない事と分断が広がっていることの証左です。


 今、世界は協調と平和から遠ざかっています。

 アルメニア・アゼルバイジャン間では戦争によりナゴルノカラバフ地方が再びアゼルバイジャン領に戻りました。そこにあったアルツァフ共和国(未承認国家)は消滅しました。

「ナゴルノ・カラバフ消滅へ、全行政機関を来年1月で解体 2023.09.29 CNN」

https://www.cnn.co.jp/world/35209692.html


 ロシア・ウクライナ戦争はソ連を復活させたいという一人の男の野望がむき出しになりました。NATOの西進が原因と言う人もいるでしょうが、武力によって自分たちの望む環境を作り出したいと思ったのは間違いないです。

 ハマス・イスラエル戦争は憎悪の連鎖でもうお互い引くに引けません。恐らく、どちらかが消滅するしか解決方法はないでしょう。個人的には今のハマスは壊滅、もしくは全滅するが、数年後にはネオハマスが生まれて結局終わらないと思っています。

 そして、あまりニュースにはなっていませんが、ベネズエラが隣国ガイアナに野心をむき出しにしています。ガイアナの国土の7割を占めるエセキボ地域を、石油が出るからとベネズエラが狙っています。

「ベネズエラ 係争地併合賛否問う国民投票 9割超賛成 緊張高まる」 2023年12月5日 NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231205/k10014278221000.html


 未遂に終わりましたが、セルビアがコソボに侵攻しようとしてアメリカとイギリスに釘を刺されて諦めました。

「セルビア、国境付近に軍展開 コソボ緊張、米が撤兵要求」 2023年09月30日 時事ドットコム

https://www.jiji.com/jc/article?k=2023093000234&g=int


 一連の事態を見ても、もしかしたら世界は戦国時代に入ったと言っても過言ではないのかもしれません。


 正直、もう()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。


 「国際法など当てにならぬ。大国は無視できるのだから。」


 戦艦ビスマルクの命名元となったドイツの宰相ビスマルクのこの言葉を今ほど強く感じる事はありません。正直、これに反論できる人はいないと思います。

 悲しい事ですが、国と言うものが生まれて以来、1()0()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のです。必ず国境が移動していたり、あったはずの国がなくなっている。逆に100年前は影も形もなかったはずの国が生まれている。それが人類の歴史です。


 そんな中で、海外に生産を依存することがどれだけ危険な事か、もうお分かりになるのでないでしょうか。たとえそれが友好国であってもです。非常時にはどの国も自国を優先するでしょう。それを責める資格は誰にもありません。

 死にかけの人間に、他者を優先しろと言っても大半の人は耳を貸さないのと同じです。

 国内で消費する物資の全てを自国内で生産できて供給できる。これがどれほどの強みを持つかは正にアメリカ自身が証明しています。


 日本の場合は嫌でも鉱物資源を海外に依存しなくてはなりませんが、せめて昭和時代のように製造・組み立てラインくらいは国内に戻したほうが良いと思います。

 国内に働く場所が出来たらそれだけお金も国内で回ります。

 海外に出稼ぎに行く若者が出てくるなんて、どう考えてもおかしいです。経済政策を間違えた証拠です。

 きちんと国内で働いてもらって、彼らの給料をあげて国内で消費してもらうようにしていきましょうよ。

 これってそんなに変な主張、思想ですかね??


 グローバリゼーションは一部の人にしか恩恵をもたらさなかったのは明白です。

「海外の安い労働力を使えたからいろんな物が安く買えるようになった! これがグローバリゼーションの恩恵だ!」

 そう主張される方もいるでしょう。

 まさに()()()()()()()()()()()()()()のです。

 重要なのは物を安く買える事ではなく、高くてもごく普通の人々が少し背伸びすれば買える。それだけの収入を得られている事です。

 株だ証券だ為替だNISAだと金融に関係なくとも、ごく普通に真面目に誠実に働いてさえいれば給料が上がっていく。そして、数年前は手に届かなかったものが買えるようになる。

 この循環で社会は回っていくのが理想だと考えます。この循環は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()です。

 最近、ようやく賃金が上がっていない事を問題視する声が出てきましたが、遅すぎると思います。


 少し余談になってしまいますが、東京タワーは総工費(建築にかかる全ての費用のこと)30億円で建設されました。

 この30億円を安いなと思った方は正しいです。なぜなら、これは東京タワーが完成した1958年(昭和33年)の物価だからです。

 今の物価に直すと総工費は600億円ほどだそうです。


 何が言いたいのかと言いますと、()()()()()()()()()()()()()()()という事です。

 人々の収入が増えて物が売れるようになり、それに合わせて企業の業績もより上がってさらに従業員への給料に回すという好循環によって順調に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんです。


 グローバリゼーションはこれを破壊しました。日本に限らずほぼ全ての先進国で、です。

 日本の停滞と衰退はもちろんこれだけではありませんが、その一端は間違いなくグローバリゼーションを妄信して一般の人々の生活を顧みずにひたすら安い労働力による安い物を求めた結果だと考えます。

 一般の人々が節約を心がけるのはもちろん悪い事ではありませんが、全員がそれをやったら経済が冷え込むのは当たり前です。お金が動かなかったら、それは死んでいるも同然でなんの経済成長の役に立ちません。

 そのおかげで日本はここ20年全く経済が成長せず、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事態にまでなったのです。


世界の平均年収 国別ランキング・推移

https://www.globalnote.jp/post-10401.html


 また、東京タワーが30億円で建設できるようになることが正しいと思いますか?

 このまま世界に置いていかれたら、いつの間にか「()()()()()()()()()()()6()0()0()()()()()()()()()()()()()()()」と呼ばれるようになるのは確実です。

 つまり、()()()()()()()()ということです。


 最後のほうは話がずれてしまいましたが、もう一度、真の豊かさとは何かを考えてみませんか? 

 もし最近、あなたが色んな物が高くなった。あったはずのサービスが利用できなくなって不便になったと感じたならば、それは何故かを今一度考えてみませんか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] グローバリゼーションは、国境の必要性を再確認させてくれましたね。 関税がなければデフレ圧に晒され続け、自国の産業を破壊され、安い労働力とばかりに移民にたよれば当然奴隷のままでいてくれる訳も…
[良い点] 第一次、第二次大戦前の世界も高度にグローバリゼーションされていたとの研究結果は経済学者や社会学者の共通認識だと思います。 当時は帝国主義の植民地化により、人流、物流がグローバル化されていま…
[良い点] すごい・・・。 まったくの正論と、鋭い視点の論の展開に、文字通り「グゥの音」も出ませんでした。 非常にボリュームと読み応えもあり、本当に久しぶりに骨のある論説を楽しませていただきました…
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