第59話
「それで、なんだが」
少しその場で伸びをする。
「ステータスも、負傷兵となったことで新たにできることも増えた」
そうだよな、と受付のロボットに確認をすると、そうですと答えられた。
「で、ここからは相談なんだが、君らがもしもよかったら、このまま一緒に旅をしてほしい。これから俺は長い長い、今までたまりにたまった有休を消化する必要があるんだ。ついでに負傷兵になったんで、特別休暇も取得しなきゃならん。その間、手野武装警備の職員という身分を保ったまま、世界中を旅してまわってやろうと思ってな」
半分も意味が分かっていなかったようだが、レーニスとアクーリクが目を合わせ、一瞬でこちらへと向き直る。
「もちろん。そのためにここまでついてきたんだから」
まず話すのはアクーリクだ。
待合となっている椅子に座って、俺の話をじっと聞いていたようだったが、それでも分かった言葉から俺とまだ旅が続けることができるという意味は分かったようだ。
その顔は笑顔であふれている。
「だから、一緒に行くよ。どこまでも、ね」
レーニスはアクーリクのすぐ横を、椅子から20センチくらい浮かんだところで、同じように笑顔で俺の方を見ていた。
DNAがいじられていたとしても、生物として、人間としての本能は残っているのかもしれない。
だが、このあたりは今は考えるべき時じゃない。
「ありがとう」
思わずお礼が出る。
でも二人にはどうして俺が礼を言ったのか理解ができなかったようだ。
「当然、サーピもついてきてくれるよな。一応は有給で職員の身分を保持し続けることになるわけだし」
「カニスは私がいないと何もできないですからね移動するにしてもこの世界では私がいなければいけないでしょう」
「決まり、だな」
俺はこの世界のことをまだ何も知らない。
この二人もそうだ。
この世界がどうしてこうなったのかというのは、だいたいはつかみかけているが、あくまでもそれは予想に過ぎない。
だからその答えを確かめたい。
そのために、この有給は大切に使わないと。
俺は考えながら、受付へと舞い戻った。
これからの、止まった人生を再び動かすために。




