第42話
「じゃあさっき伝えられたデータを表示していくね」
プーラは俺へモニターを見るように言いながら、そんなことを教えてくれた。
8面あるモニターのうち下4つはここの施設の概要、そして上4つにそのデータが左が古いようにして並ぶ。
今は件名、保存日時、保存者だけが1面につき3つずつ表示されていた。
「一番古いものから、順番に表示をしていってもらってもいいか。原語でかまわない」
「わかったじゃあ一番古い記録から順番に表示していくね」
プーラの言葉から数秒待って、モニターの下半分に文章がずらずらと表示されていく。
少し読み込みに時間がかかったのは、それだけ古いシステムを使っていて、読み取りに時間がかかったためだろう。
一番古い記録は俺が覚えているのとほとんど同じ時間。
俺が倒れて、あの洞窟に置き去りにするしかなかったという内容だ。
「2048年3月4日付、発T/E338688、宛国連軍欧州総本部手野武装警備後方負傷室」
ちなみに、発は発信者で番号で表示されている。
今回の番号はケレベル・クレーディ用の番号だ。
宛は宛先で、今回は国連軍欧州総本部に存置されていた手野武装警備の負傷兵が発生したときに報告する部局に対する通知ということだ。
日付からみると俺が倒れて意識を失った日ということで、この信号はそのあとに通知されたものなのだろう。
原語でいいといったが、標準英語で話されていたから俺にとっては十分に読解可能な範囲だった。
「攻撃を受けた。負傷兵が1名発生。カニス・デサタン。個人識別番号T/E369369。速やかに収容を願う」
この後、攻撃を受けた場所の座標や、俺を一時的に保護している洞窟の座標も添付資料として付けられていた。
だが、この後にケレベルへ通知されたのはこの場所からの撤退命令だった。
これが2通目の内容で、すぐに撤退しなければ収容が不可能になり地面を走って帰ってこいということになるという、ある意味では脅しともとれる内容になっていた。
これにより3通目は俺をどうすればいいのかという内容の話し合いになっており、それに対する回答が4通目に乗っていた。
「同日、発国連軍欧州総本部手野武装警備後方負傷室、宛T/E338688。個人に対する非常事態を宣言することを承認する。個人を保護するいかなる手段を用いることを許可する。T/E338688がT/E369369に対して行うすべての行為については正当な業務の一部とみなし、その行為に対する責任を問わないものとする」
この通知を経て、ケレベルは再びあの洞窟に戻ったらしい。
そのうえで俺の愛機となるサーピと合流したようだ。
ただし、このあたりは発言がないし、どうやって合流したかについては、そういえば知らない。
だが、これで俺はただ洞窟に寝かされていただけだったのが、サーピの中に入れられたようだ。
ケレベルはその後、サーピもスタンバイモードへ移行させ、その後、どのような措置を行ったかの報告を5通目として後方負傷室宛に出していた。
「個人に対する非常事態の宣言に伴う措置を報告する。パワードスーツサピエンティアに当該人物を隔離、ただし、パワードスーツも相当に消耗をしているため指定座標にて保護を実施。現在スタンバイモードとする。なお、交戦団体に発見される可能性を考慮し、量子圧縮装置を使用し、指定座標にある洞窟において保護を実施した」
あの洞窟では特殊なことになっていたようだ。
「ロボットやサーピのようなAIならいざしらず、人体をまるまる量子圧縮して解凍したってことか」
実験室段階でも聞いたことがないことだ。
いや、もしかしたらしていたのかもしれないが、それは今は関係ない。
「その解凍装置ってあそこにあったか?」
「山全体が何らかの装置になっていましたもしかしたらそれなのかもしれません但し電力が不安定だったのかほとんどの機能は消滅していました今戻って調べ直しても意味はないでしょう」
サーピがいうのならその通りなのだろう。
ともかく、これで後方負傷室とケレベルの会話は終わりのようだ。
だが全部で12通あるという話で、残りについては個人日誌のうち俺の権限でも見れる範囲のようだ。
もっともどこまで見れるかは、実際に見てみないとわからない。




