第3話
意外と距離がある家までの間に、いくらかの小麦畑らしき畑を通過していく。
一つ一つがとんでもなく広いが、それがすべて丁寧に使われているのがわかる。
そして徐々に夜から朝へと移り変わっていく、群青の空を見上げて少しばかり思いをはせる。
「……あいつは無事なんだろうか」
「あいつとは私たちをあの洞窟へとかくまって姿を消した戦友のことですか」
「聞いていたか」
思わず口から思いが出てきてしまっていたか。
サーピは動きながらも俺のことを気にかけているようだった。
「あいつは入隊以来のダチでな。何かあれば互いに助け合おうと言い合ったものさ。俺をあの洞窟へ置いたのも、必ず戻ってきて助けるって思っていたんだろうな」
「でもそれが叶わなかったとなればすでに」
「いや、それ以上は言わんでくれ」
この職業についてからはその可能性だって常に頭のどこかに置いていた。
だが、こうもなればその十二分にありうる可能性を否定しようがなくなってくる。
「しかし、意外と遠いな」
かなり動いているはずなのだが、一向に小さいままのように見える。
「あの家、本当はとんでもなく遠いところにいるか、俺らが遅いのかのどちらかだな」
「そうですね遅いというのは否めないでしょう」
今は時速10キロ内ぐらいの速度らしい。
「それ、今言う?」
「聞かれませんでしたので」
歩いたり走ったりよりかは早いだろう。
そもそも、今は俺は走れるほどまで筋肉がついているとは思えない。
「一応歩けますよ微弱な電気を流し続けて筋肉を動かし続けましたのですぐに敵と遭遇して私を脱ぎ捨てても対戦は十分にできるはずです」
「……そうだったよ、お前はそういうやつだったよ」
AIそれぞれにも個性というものがある。
最初は全くの真っ白の状態で生まれ、搭載されるが、それから搭乗員との会話や周囲の状況などで学習をかさねて人格を確立することができる。
これが個性だ。
今現状、サーピは俺に合わせた人格を確立しており、それがサーピの個性ということになる。
当然、あいつにも同じように別搭載のAIがいて、別の個性を確立させているはずだ。
「着きました」
とも思いつつ、しているとようやく家らしきところへとたどり着いたようだ。
だが周辺はなにやら騒がしい状況にあるのがわかる。
「敵か」
「敵味方識別不明相手もどうやらパワードスーツのようですですが見たことがない恰好をしています」
「新型か?」
「不明交戦準備完了すぐにでも対戦に移動できますが?」
「いや、今はやめておこう。偵察モードを。ともかくあの家の中で何が起きているのかを確認したい。迷彩は」
「言われなくてもすでに展開済みです」
さすがわ我が相方だ。
迷彩は周辺の光の屈折を操作するための薬剤を、パワードスーツの周辺に常時撒き続けることによって、敵から見えにくくするという効果をもたらしてくれる。
これによって接近して一気に片を付けることだってできる。
だが、今はそれ以上に家からおおよそ400メートルほど離れたところで待機し、何が起きているかを確認することの方が先決だった。
「無音ドローンは」
「これから展開させます無音ドローン3体放出状況を周辺確認モードかつ偵察モードとします」
サーピがいうと、背中に積んでいる装置圧縮装置からデータを取り出して小さな羽虫サイズのドローンを3体出した。
彼らが俺らの代わりに目となり耳となり、家の内部の様子を知らせてくれることだろう。