第31話
トランプも終わり、寝ているといつの間にか時は過ぎていく。
そして夜もすっかりと終わり、朝日が昇ってくる頃。
「サーピ、今の時間は」
「おおよそ6時半ですおはようございますカニスすでに出発のための準備は整っています」
サーピはすでに昨日伝えておいたことを、全部終わらせていたようだ。
俺の横では、アクーリクが寝息を立てて布団にくるまっていた。
たしか、昨日のトランプが終わってから、俺は寝袋を使って、アクーリクは布団を準備して眠らせていたはずだ。
そして、その横にレーニスがぼんやりと何かを見ているようにして起きていた。
「あ、おはようございます」
レーニスはふわっと意識を戻してきて、俺へと声をかけてきた。
「ああ、おはよう」
さて、と寝袋から抜け出して、軽く体操をする。
古の友人に教えてもらったラジオ体操なる体操を、朝一番にするのが日課だ。
その間に、サーピに伝えていたことがどうなったのか、という結果を、体操をしながら聞いた。
「で、寝る前に頼んでいたことの結果は」
「はい警備システムはザルそのものです警備ロボットはおろか監視カメラも2台ほどしかなくそれも難なく掌握することができました次にエネルギー源つまりはカニスたちが必要となるであろう栄養源となる物資についてはあらかじめシビイラと話をつけておきましたもうまもなく60Lのスーツケース複数個分のものを持ってきてくれる手はずとなっています最後のAIあるいはロボットの類というのはシビイラが管理しているもののみになっており何かを詐取して行動する必要はありません」
「……そうか」
もしもと思って考えていたことについても、サーピはお見通しだったようだ。
「じゃあ、それが来次第に出発としよう。今度の目標地点となりそうなところはあったか」
「何カ所か選定しておきました聞かれますか」
「そうだな」
体操をしながらサーピへと答える。
「近隣施設としてはここと同規模の城が2か所街と呼ばれるものが3か所ありましたただし近隣といっても最低でも150キロメートルは離れています城はここと同様に有翼種の住居で街は機械種の住居となっているようですこの5カ所以外にはアマーダン防衛会社所有のデータセンターが250キロメートル離れたところにテック・カバナー総合軍事会社と手野武装警備の共同所有のデータセンターが300キロメートル離れたところにあります」
「手野武装警備のデータセンターってことは、ここに閉じ込められていた理由も判明するかもな……」
「御三家の施設に行くんですか」
いつの間に起きたのか、アクーリクが震えた表情で布団から上半身を起こしてみていた。
「起きたか」
「御三家は愛書の中でも特別なところで、エイアイ様が最初にその心を顕されたのもこの御三家なんです。御三家はエイアイ様に仕える最初の使徒であり、特別な人間種としてエイアイ様に一番近いとされているんです」
「てなれば、俺はそこのしがない従業員ということになるだろうな。サーピは御三家筆頭である手野家のマークを付けているわけだし、俺は28000年も昔ということではあるが、手野グループに仕えていたわけだからな」
体操も終わり、軽くストレッチをしておく。
と、そこでノックの音が聞こえる。
ノック3回、さらにはロボットのような無機質な声で、荷物を届けに来たということもした。
サーピへ目配せを送ると、サーピは問題ないというジェスチャーを、腕を使ってした。
「どうぞ、入って下され」
ドアの向こうへ声をかけると同時に、寝袋を扉と体の間になるようにして盾代わりにする。
この寝袋はケプラー繊維のさらに100倍強いといわれた炭素繊維を使っている。
多少の刃物なら十分に対応できるし、銃弾も7.6mmくらいなら受け止めることはできる。
ただし、ものすごく痛いのは経験済みだ。
そしてドアを通って出てきたのは移送用のロボットだ。
飾り気のない、箱型に車輪がついただけの簡易ロボットだが、運送会社とかでは減益だった。
そういえばここではこれもかなり貴重なものになるのかもしれない。
「荷物をお届けに来ました」
「ああ、そこにそのまま置いて出て行ってくれたらいい」
そう伝えれば、箱の側面が上へと開いて、中から木箱が2つ、30cmくらいの立方体で出てくる。
滑り出てから用は終わったといわんばかりにさっさとロボットは部屋から出て行ってしまう。
「……爆発物か?」
「検査は全てパスしました開けても大丈夫です」
そういわれたので、俺は恐る恐るではあるが開けた。
中身は要は栄養補給剤と呼ばれるもの一式だ。
あとは水がかなりの量はいっている。
「これらすべてを圧縮しておいてくれないか」
「了解です」
サーピに頼むと、すぐに圧縮装置の電源を使って、木箱をそのまま中へと納めた。
「完了しましたいつでも解凍することができます」
「了解した」
と、なれば荷物も受け取ったことだし、ここに用はない。
「出発しよう。荷物をまとめて、すぐにでも」
今日もどうやら用事は山積みある。
時間はたくさんある、待ってはくれない。
「了解です」
サーピは壁中に這わしている電源コードなどを一瞬で収容した。




