第30話
あとのことはサーピに任せて、俺はいったん寝ることにする。
何かとてつもなく疲れた。
それだけは間違いない。
そしてベッドを圧縮装置から展開して取り出すと、なにか視線を感じる。
「……どうかしたか」
二人はとても好奇心旺盛のようだ。
「あ、いえ……」
ただ人にものを聞くというのには全くと言っていいほど慣れていないのがわかる。
そんな世界ではない、といってしまえばそれまでなわけだが、一から今から教えていくのも骨が折れる。
「この装置が気になるんだな」
「え、あ、はい。そうです」
レーニスとアクーリクは互いに一瞬だけ目を併せて、俺へと向き直った。
寝るのはまた後にすることにして、用意していたベッドを部屋の片隅へと追いやってサーピに尋ねる。
「サーピ、なにか子供らと遊べるゲームはないか。できれば3人用か4人用がいい」
「ではカードゲームはいかがでしょうかルールブックも付けますのでしばらくはワイワイ楽しめるかと思います」
出してきたのはトランプだ。
52枚とジョーカー2枚のあわせて54枚のトランプが圧縮装置から出てきた。
その様子を、目を丸くして二人は見ていた。
「ん、もしかしてこっちの方に興味があるか」
「はい、これも気になりますけど……」
トランプはどうやら知らないようだ。
となれば、そのあたりのルールも教えていく必要がありそうだ。
「こっちは圧縮装置っていうんだ。まあサーピのバックパックみたいなものだな。サーピにとっては重要なものだから、あまり触れては欲しくないと思うぞ」
「はい、エイアイ様がそう思われるのでしたら、絶対に触れません」
2人の声がユニゾンする。
「ま、とりあえずはこいつで時間でもつぶそう。君らが眠くなる頃まで、な」
「えっと、それなんですが、眠くなるっていうのはどういうことなんでしょうか」
「えっ」
こんど声を合わせるのは俺とアクーリクの番だ。
もしかして、と思って、俺はレーニスに尋ねる。
「寝ることを知らないってことは、24時間働き続けるってことか」
「あ、働き続けるのはさすがに無理です。でも、こんな道具を使わなくても、疲れは取れますもの。愛書では、働くことは喜びで、それは24時間享受することができることが幸せだ。という内容の一節があります。僕たちはそれをすることができますが、人間種はすることができません」
「なるほどな、だからこそ有翼種はその働き続けることができるからこその上位に位置しており、機械種も人間種もそれができないから、低位になると。そしてAIは無限に動き続けるからこそ、君たちよりもうえになるということか」
「はい、当然のことですが」
シレッとそういうことを言うあたり、昔からの教育の成果が出ているとみえる。
それも、AIとなるシビイラなどが支配しやすいようにしたものなのだろう。
ともすれば、俺らは途中で眠ってしまわないといけないが、レーニスはそれこそ朝が来るまでの間トランプをし続けることができるだろう。
ただ、これには一つ問題がある。
「じゃあサーピに聞いて、11時になれば終わりとしよう。サーピ、今の時間は」
「現在時刻は午後10時29分ですアラーム設定でもしておきましょうか」
「ああ、頼んだ。30分くらいしかないが、ちょっとは楽しもうじゃないか。28000年前のゲームを」
そう言って俺はルールブックとトランプを一式、近くの空いている床へと持ってきた。




