第19話
ドローンを動かして、レーニスへとそっと近寄る。
レーニスは数メートルまで近づいたところでも、気づかないようだ。
時折出てくるため息のような音だけが、レーニスが現実にいるんだという認識させてくれる。
それだけ存在感が希薄なわけだ。
「どうします声をかけますか」
サーピが俺に尋ねてきた。
「よし、やってみてくれ。特にこの城の情報が欲しい。可能であれば名乗りはせずに、ただ必要だと判断をすれば、手野グループだということと、AIであること、それに偽名を用いても構わん」
「承りましたでは実行します」
いちおうの礼儀といわんばかりに、サーピは俺へと答えた。
それからは、基本話しているのは俺じゃなくてサーピになるわけだ。
俺はというと、アクーリクとともにことの成り行きを見守るしかなかった。
まだ、レーニスは壁に向かって作業をしている。
どうやらこういうチマチマとした手作業は苦手のようだ。
時折、建材やコテを落としながらも、一つ一つを丁寧につけていく。
「もしもし」
急に話しかけられたせいか、羽が凄まじい勢いで色が変わっていく。
そういえば昔、イカが威嚇のためにいろんな色に変わっていくのをみたことがあったが、まさにそれに近い感覚だ。
「な、なに?」
「ああ驚かせてしまいまいたね申し訳ありません実は少々お尋ねしたいことがありまして」
「え、だれ?」
まず最初の反応としては、当然のものだろう。
相手が誰か、敵か味方か、知り合いか初めましてか。
上司の上司だっていうことだってありうるだろう。
それを短時間で見極めろというのは非常に困難だ。
特に、若い個体ではなおさら。
「ここはどこなのでしょうかまたどこかにネットワークに接続できる場所はないでしょうか電波は確かにこの辺りまで来ているのですがまだ弱々しいものしかないもので」
「ネットワークってなんですか。そもそもあなたはだれですか。上役呼びますよ」
このままでは通報をされそうだ。
「わたくしはフィランナといいますこの小さな昆虫ロボットを通して話しています本体は別のところにあります」
どうやら偽名としてフィランナというものを作り出したようだ。
意味などは知らないが、どうせこれ一回きりの名前になるだろうから気にも留めない。
「ここまで小型の機械種って初めてみた……」
レーニスがようやく音の発信源を突き止めたところで、サーピがさらに話し続ける。
「実はというとこの辺りで故障をしてしまいましてできれば修理用の物品が欲しいのですお手間は取らせませんから場所だけでも教えていただけないでしょうか」
「得体の知れない機会種風情に、教えることなんてないよ。そもそも、機械種は私たちとはそこまで仲良しじゃないでしょ。城じゃなくて街を探してちょうだいな」
ただ、サーピはそこではいそうですか、と引き下がることはしない。
「ではとっておきの情報を教えましょう」
「とっておき?」
コテや建材はもう床に置いていて、レーニスがサーピの偵察ドローンに羽を覆い被せてテントのようにした。
他へと音が聞こえないようにするためだろう。
「実はわたくしは手野武装警備の一員のAIです情報をお渡しください」
それはとんでもない情報だったらしい。
3回ぐらい宙返りでもしかねない勢いで羽をたたみ、壁際まですっ飛んでいくと偵察ドローンに向かって土下座をした。
「も、申し訳ございません、。エイアイ様とはつゆとも知らず、命だけはお助けをっ」
「殺そうということはないそもそも殺すつもりはない単純に情報が欲しいだけあなたはその先導をしてほしいの」
「はい、こちらになりますっ」
羽を虹色に輝かせ、まるでネオンサインのようだ。
とてもきれいだが、それ以上にサーピはレーニスを呼び止める。
「そうだった本体をここへと連れてきたいのだけどいいね」
「はい、エイアイ様のご自由にしていただければ」
サーピはそれから本体となっている俺がいる機械を動かしていく。
どうぜ空中戦用にも自由に動き回れるようになっている機体だ。
多少ならば無理も効く。
しかし、修理が欲しいというのはその通りだ。
できるだけ温存をしたいがために、ここで修理キットが手に入るのであればそれに越したことはない。
それ以上に、有翼種をこの目で見てみたいという思いもあった。




