第10話
「貴様らはどこの所属だ」
だが二人とも沈黙して、一切口を割ろうとしない。
もっとも、自分も同じ立場となれば、まずは話さずに、様子見と決め込むだろう。
いったんアクーリクを見ると、どうするのかと興味津々である。
これくらいの子供だ、やはり好奇心旺盛なのだろう。
「サーピ、尋問を開始する。コード6でいこう」
「了解です」
すでに戦闘モードを解除していたサーピであったが、俺の言葉でその背中から尋問セットを展開した。
貴重品であるが、今回の2人に対する尋問ぐらいであれば再利用もできるものばかりだ。
尋問セットはコード別に分けられており、生身相手は1から4、機械兵相手は5から8、特殊事例であれば9を使う。
今回のコード6尋問セットでは、展開されたのは工具箱1つと、小型発電機1台だ。
「いいかアクーリク。もしも嫌だと思えばすぐに目を逸らしてもらっても構わない。だが、もしも見届けたいのであれば、その全てを両目に留めよ」
言いつつも、サーピは銃を構え、二人が動き出しそうになったり、暴れそうになったらすぐに鎮圧するための対応を整える。
「では尋問を始める。今尋問データについてはサピエンティアにおいて記録し、それを手野武装警備内におかれる、国連軍中央捕虜情報局へ通知する。サピエンティア、時間を記録せよ」
「時間記録します西暦不明日付不明現地時刻推定13時45分以上の時刻を記録しました」
サーピの言葉で正常に時間が記録されたことを受けて、さらに俺は続ける。
「現時刻をもって、今次の捕虜については所属不明の機械化兵2名、1950年10月21日に効力が発生した捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーブ条約第17条に基づいて、本時点の所属、氏名、階級、生年月日、軍の番号、連隊の番号、個人番号または登録番号もしくはそれに類する番号を明らかにしてもらいたい。貴殿らは、ジュネーブ条約第4条A項1号の規定による紛争当事国の軍隊の構成員として推定されるためである」
だが彼らは何を言っているのか理解ができていない動きをしている。
「繰り返す、貴殿らの所属、氏名、階級、生年月日、軍の番号、連隊の番号、個人番号または登録番号もしくはそれに類する番号を明らかにせよ。本情報を明らかにしない場合、ジュネーブ条約に基づく捕虜として認めない」
「そのなんたら条約っていうものすら俺らは知らねぇよ」
ようやく口を開いたかと思えばそんなことを言ってくる。
だがここは最後の確認をしなければならない。
本人らが本気なのかどうかを、これで確かめることができる。
「これが最後の、穏便にすますための最後の機会となる。これに答えない場合、ジュネーブ条約に基づく捕虜ではなくテロリストと同一とみなす。貴殿らの所属、氏名、階級、生年月日、軍の番号、連隊の番号、個人番号または登録番号もしくはそれに類する番号を明らかにせよ」
心の中でカウントダウンを始める。
これまでの傾向から、彼らは一切応えようとしないだろう。
だが、もうそれでいいのだ。
「答えないよ」
それで結論が出た。
「サピエンティア、記録せよ。現時刻をもって、彼らは捕虜としての全ての権利を喪失する。またこれからは捕虜としては扱わず、一テロリストとして取り扱う。上記のことを、手野武装警備内におかれる国連軍中央捕虜情報局に通達し、記録させる。なお、その情報の正確さを担保するために、彼らの外見の情報を添付するものとする」
「時間記録します西暦不明日付不明現地時刻推定13時51分以上の時刻を記録しました国連軍中央捕虜情報局への通知は通信を回復次第速やかに実施するものとし両者の画像データを添付します」
サーピがいうと、細い管を体から伸ばして、全身の3Dスキャンをおこなった。
これで彼らがどこの誰かは分からなくても、少なくともわかることができそうな材料を保存できた。
「ではこれよりテロリストの尋問を開始する」
しかし、ここからが本番だ。




