番外編:CFU-α 企画会議(4)
「最近、イギリスの首相が発言したように、AIが半身不随の人の歩行を助けたり、新しい抗生物質を発見している点に注目すべきだ。VRに関してもな」
「しかしそれは、医療分野の話ですよね?」
「俺と石野は、ゲーム業界とファッション業界、医療業界なんかは、AIとVRで連携していくと思ってる。……例えばそうだな。WordPressテーマ、Cocoonは知ってるよな?」
「勿論、私はWebサービスにも関わっていますから。日本のブログでは、かなり使用されていますね」
「Cocoonの開発者は、事故で頸髄損傷して、四肢障害となっている。起き上がることも厳しく、まともな握力すらもない状態で開発した」
「ええ。彼に頸髄損傷があるのは知っています」
「脊髄に関連する病気だと、筋ジストロフィーがある。こちらでは、20歳で突然発症して、動くのが困難となりながらも、歌手として活躍している人がいる」
「障がい者や難病患者が活躍しやすい環境を提供したいと言いたいのですか?」
「そうだ。俺からしてみれば、身体的ハンデを持つ人間は多い。AIとVRを駆使すれば、そういう人にも生産性の高い環境を提供出来る。俺と石野は、アクセシビリティを重要視している」
「アクセシビリティの説明で良く出てくるのは、色弱者は全人口の4%以上。日本人男性の約20人に1人なんて話ですね。そういうのも含めると、かなりの人数がハンデを負っている。しかし……」
「また認知度が低いって話か?いつ自分や家族が難病や大怪我になるともしれんのに、多くの人はそこから目を逸らしているとは思うが」
「老人ホームのWebサイトですら、アクセシビリティを重視していなかったりするのが現状ですよ。要は……」
「利益に繋がらないからだろう?CFUなら運営の利益にも繋がるとは思わないか?」
社長の問いかけを受けて考え込む常務。
「確かに、身体的ハンデを持つ人をサポートすることでユーザー数を底上げ出来る。CFUで活躍するクリエイター数も増えるでしょう。しかし、それほど大きな効果が得られるとは……」
「一旦、個人情報保護を厳しく考えずに、医療分野も視野に入れてくれ」
「……ターゲティング広告が出せるなら効果は高いですかね。それと、身体データ、おそらく、対話AIの使用履歴も活用出来るか……」
「難病を持つ人が、データ提供を嫌がるもんかね?治療やサポート機器に関する広告も受け入れると思うけどな」
「確かに、病院が全てサポートしてくれるものでもない。Cocoonの人も自分で環境を揃えていますしね」
「求人情報等もそうだな。四肢障害、色弱、弱視、難聴、一部の怪我や難病……VRでサポート出来る範囲は広い」
「健康的な仮想の身体を提供出来る前提なら、ユーザーは、現実の身体と比較出来ることもメリットになりますね」
「アバターが心身に影響を及ぼす、プロテウス効果を治療に活かせる可能性もある」
「機器次第だとは思いますが、VRで視力が回復したという事例はありますね。研究が進めば、可能性はあると思います」
「勿論、ハンデを持つ人だけを視野に入れている訳では無い。
例えば、画像AIに対するプロンプトの履歴を、年齢性別などの属性別に分析するだけでも価値はあるだろ?」
「考えようによっては、常にアンケートを実施しているような物ですね。例えば……どんなファッションアイテムを欲しがっているかが解る」
「VR世界で欲しがるなら現実でも興味はあるだろうよ。Web3を語りながら、データの権利を持つのは中央集権だという議論はあるかもしれんが、運営利益なしにインセンティブを提供するのは無理がある」
「プライバシー保護の線引きが難しいところですね。課題は多いですが、社会的価値は大きい」
「次に重要なのは権利保護だ。特に身体的ハンデがある人は自力で守るのは困難。
いくら資産を持っていても、詐欺や強盗にやられたら終わりだ。
現行法が犯罪の抑止力になっているか?昨今の連続強盗が防げなかったどころか、毎日のように詐欺事件が報道される始末だ。犯罪者を罰せられれば良いという物じゃない。法だけでは限界がある。
Web3とAIとVRを組み合わせれば、大勢の人たちがハンデを克服して、権利が守られる方向に進める」
「その辺は理解しましたが、フルダイブのためのハードウェアはどうするんです?
ブレイン・マシン・インターフェース、BMI技術の進歩で、身体的ハンデを克服する方向になるのは解ります」
「既にBMI技術で、筋ジストロフィーの患者がフォートナイトのアバターを動かすなんてのは出来ているな」
「むしろ、手足が動く人のフルダイブのほうが難しい気がしますよ。脳から身体への信号を遮断する必要がある」
「手足を動かそうとすると、動いてしまうからな」
「アニメに出てくるヘッドギアのように、延髄付近で信号を遮断する手法は、数年で出来るとは思えません。仮に可能だとしても、健康被害がないことを立証するのに時間がかかりすぎる」
「Virtuix社のOmini Oneのように足場を用意する方法はある。それだと、四肢障害は別のハードウェアとなるが」
「Omini Oneは、現状は数十万円の価格帯。コスト面を解決しても、日本の住宅の広さに合わない」
「とにかく、しばらくはフルダイブに拘らないが、石野はヘッドセットのみでフルダイブ可能とする目処が立っている。
ひとつは、左右異なる周波数を聴かせるバイノーラル・ビートのような手法で脳刺激を与えて、半覚醒状態にする方法だ。身体だけを眠らせる。夢で動いても身体は動かない。
要は脳を勘違いさせれば良い。現状は完成していないため、複数の方向性を並行して進める方針だ」