番外編:CFU-α 企画会議(3)
企画会議(2)から続いているため(3)としました。(4)の前置きみたいな内容です。
社長の進め方に不安を感じた常務は、飲食店の個室に社長を呼び出して、2人きりで話すことにした。
「社長、こそこそ何か進めているとは思っていましたが、さすがに独断専行が過ぎますよ」
「常務は既存の案件で忙しいだろうに、気づいていたのか?」
「最近は落ち着いていますよ。私に気を遣ったつもりかもしれませんが、少しは相談すべきでしょう?私の肩書きは、常務取締役CTOですよ?」
この企業の社長は、代表取締役CEO(経営最高責任者)である。いわゆる雇われ社長などではない。
かといって、当然、他の役員や株主もいるため、独断専行が許される訳ではない。
常務の言い分は当然と言える。
彼は執行役員ではない。取締役である以上、経営責任は問われる。
社長、常務、専務などは、肩書きに過ぎないが、法的には表見代表取締役と解釈される。
おまけに、ゲームやWebサービスの開発を行う企業において、CTO(技術最高責任者)とされているのだから、彼の責任は非常に重い。
簡単に言えば、社長に何かあったときに、責任を追求されやすい立場である。社長が勝手に進めたなんて言い訳は通用しないのだ。
「そこは謝罪するが、いつもはそこまで言わんだろ。もしかして、ウォーレン・バフェットが、ChatGPT等のAIは原爆に匹敵するのではないかと発言した件やらを気にしてるのか?」
「アメリカの投資筋が、AIに懐疑的なのは確かに懸念してますけどね。今後5~10年で人類を破滅させると考えている経営者は42%でしたっけ?」
「俺としては、欧米はAIが兵器利用されて暴走することを懸念しすぎだと思うけどな」
「あるアニメの監督も言っていましたね。ハリウッド映画だとAIは人類の敵になるケースが多いせいか、AIに支配されることを怖れがちだと」
「それ、俺も読んだやつかな。既にスマホに支配されてるようなものなのに、何を怖れているんだ、みたいな方向でまとめてたな」
「まあ、私はAIとVRに前向きなスタンスですから、暴走で社会的に大問題になるみたいな懸念はしていません」
「それだと、他に何を懸念しているんだ?」
「石野のネームを使って、株主や他の役員を動かして、押し切られては敵わないということですよ」
「ああ……言いたいことは理解した。俺がお膳立てをしすぎて、引き返せなくなるのは困ると。当然だな。それと、心配しているのは、石野の法人との契約だろ?」
「ええ。その件の調整については、私と専務も噛ませて貰いますよ」
「勿論、俺の独断で進められる話じゃないよ……。石野をうちの役員にする方向で考えている。競業避止義務があるから、向こうの法人は解散。開発チームごと、うちに来る形。業務提携ではない」
「……AIの学習データの権利は石野個人。それで、彼の資産を担保に融資を引っ張る気ですか?」
「まあな。一応、言っておくが、あくまで石野はCFUプロジェクトの担当役員。CTOは常務のまま。石野の持ち株については要検討」
「とにかく石野は、それだけの覚悟があるということですか……」
「それよりも、せっかくだから本来のコンセプトについて話しておきたい。AIに関しては、職が失われるとか、権利問題だとか、うちが気にすることじゃないだろ?」
「しかし、株主に対する説明は難しいですよ。規制に関しては、各国政府まで絡んできますから、そこは懸念されてしまう」
「それでも、Web3、AI、VRの技術が進歩していく流れは止まらない。
特にプロンプトエンジニアリングで収益を上げる人間は、これからどんどん増えていくはずだ。ChatGPT、大規模言語モデルに限定される話ではない」
「国内にも既に、ファッションデザインAI、メタバース生成AIがありますしね。
プロンプトエンジニアリングで月収100万円も出てきたとか。当然、アメリカなんかはもっと稼いでる人がいる。
しかしまだ、一般認知度が低いのが問題ですよ。……で、本来のコンセプトとは?」