山田、武器強化と感度レベル追加
山田とモニカは、荒木や中島にログイン状態を通知しない設定にしたまま、武器屋に向かった。
モニカが武器屋の店員に宝石の効果を尋ねる。
「店員さん。宝石カーバンクルを使い方を教えて」
「騎士サン・ジョルディが退治したドラゴンの魔力が込められたルビーです。武器に埋め込むことで、火属性のスキル効果を強化することが出来ます。
4月23日はサン・ジョルディの日です。親しい人にバラや本を贈ってみては如何でしょうか?」
「サン・ジョルディの日?」
「スペイン・カタルーニャ地方伝統の祝祭日です。毎年4月23日、バルセロナでは、バラの花と本を売る屋台が数多く立ち並ぶ、盛大な祭りが開催されます」
武器屋にあるモニターに、祭りの様子が映し出された。更に店員の解説が続く。
「4月23日は、ドラゴンを退治して王妃を救ったとされる伝説の騎士サン・ジョルディの命日とされることから、男性から女性にバラの花を贈る日となりました。
更にスペインの作家ミゲル・セルバンテスと、イングランドの作家ウィリアム・シェイクスピアの命日でもあることから、女性から男性に本を贈る日となりました」
モニカは、すっかり武器のことを忘れて祭りの様子を見ている。
「へえー、凄い人。見て見て、山田。建物がバラで装飾されてるー。カワイイー。カサ・バトリョだってー」
なお、カーバンクル伝説とサン・ジョルディ伝説には、直接的な関係はない。
カーバンクル伝説は、16世紀にスペイン人が目撃したという話が発端だが、額の赤い宝石がドラゴン由来とする説がある。
カーバンクルをデザインしたユーザーが、スペイン、ドラゴン、赤で結びつけて、案内を付け加えた結果、このようなことになった。
(要するにスペインのバレンタインデーみたいなもんか。まー、女子はバラとか好きだよなー。なんか旅行会社の人とか絡んでそうだな……)
山田は少しの間、モニカに付き合ってモニターを見ていたが、目的は武器の強化だ。
「モニカ、店員に杖に宝石を付けるよう頼めば良いんだよな?あとで他の武器に変えるとき、損とかしない?」
「うん、あとで杖から剣に変えることも出来るわよ。効果は引き継がれるから安心して。あたしが先やるから見ててね」
モニカは、店員に手持ちの杖に宝石を付けるよう依頼した。
すると、モニターに完成イメージがいくつか映し出されて、デザインの選択を求められた。
「うーん、取り敢えずは我慢するかなー。A案でお願い」
モニカは、デザインを指定して武器を店員に預けた。
手順を良く知らない山田がモニカに尋ねる。
「武器を渡すの?」
「奥のドワーフ工房で加工する扱いだからね。でもすぐに出来るわよ」
モニカの言う通り、すぐに武器が返却された。
「こういうとこは、リアル感ないのよねー。あたし、最初はどうなのかなーと思ったんだけどさ、1週間かかりますとか言われても困るじゃない?」
「そうだな。考えてみたら、本来なら剣なんか手入れも必要だもんな。わざわざそんなことするのも面倒だ」
「リアルにしすぎると、武器を落として失くしたり、盗まれたりもしちゃうしねー」
CFUでは、他のプレイヤーを攻撃するPK行為が可能ではあるが、他人の武器などを盗むことは出来ない。
プレイヤーと所有武器の距離が離れすぎると、勝手に手元に戻ってくるため、落としても問題ない。
このような仕様でないと、モンスターに剣を突き刺したまま敗北した時などに困る。
「そもそも、モニターで映画が観れたり、ポップコーン買える時点でな。更にはスペイン旅行の案内とか、もはや街中の不自然さは気になんねえや。さっき、化粧品の広告とかも見たし」
CFUは運営の収益を維持するため、そこら辺に現実世界の広告が設置されている。
時折、現実に戻される感じがあるが、中世ヨーロッパの世界観にこだわりすぎても不便だ。
世の中には、スロットマシンやバニーガールやロボットが出てくるRPGだってある。
山田にはCFUの不自然さは、それほど気にならなかった。
なお、モニカいわく、剣と魔法という側面は維持されていて、現代兵器、機関銃なんかはデザイン出来ないとのことだった。
山田は、モニカと同様に杖を強化した後、スキルショップに向かって、今後のために盾のスキルレベルを2に上げた。
◇
山田とモニカは、キタザワから教わっていた、光・闇・土の属性攻撃が多いとされるエリアに移動した。
そこはエルフの街があるとされる森のエリアだ。
CFUには、ゴブリン族、オーク族、ドラゴニュート族などの村や街が存在しており、その周辺は関連モンスターが出現しやすい。
エルフ族とドワーフ族は、人間と敵対していない扱いで、遭遇しても通常は向こうから攻撃してこない。
ただ、ダークエルフという特殊種族は別だ。人間と敵対関係にあるため、遭遇すると戦闘となる。
現在いるエリアは、そのダークエルフが出現する可能性が高いとされる。
山田たちは取り急ぎ、敗北に備えて転送魔法陣を設置した。
「エルフといえば、弓矢のイメージなんだよな。いきなり攻撃されたりしねえの?」
「敵対してるのはダークエルフだけど、弓使いは少ないのよね。男は剣、女は魔法メインが多いわ。女エルフ探しましょ」
近接攻撃が得意な男エルフは、山田とモニカだけでは厳しい可能性がある。
女エルフを探していると、最初に見つけたのは、小さなダークエルフ5体だった。
「なんだかなあ。ゴブリンだと気にならなかったけど、エルフの子供だとな……てか、親と一緒にいろよ、危ねえだろ」
小さいゴブリンもいるのだから、当然エルフの子供みたいなのも存在する。
しかし、エルフは人間に近い見た目なので、山田は子供サイズだと戦う気にならなかった。
「どのみち感度レベル3以上にならないでしょ。成人サイズじゃないと……」
「いた!女のダークエルフが2体。近くに黄色のハーピーもいる」
キタザワの説明によると、現状、CFUで光属性の攻撃をしてくるのは、10人以上で力を合わせて戦うレベルのボス級モンスターが大半。
通常エリアに出現する光属性は、黄色のハーピーくらいという話だったが、エルフと一緒に見つけることが出来た。
山田は、中距離からファイアー・ブレッツを使って、エルフ2体とハーピー1体のグループに仕掛けた。
今の山田とモニカにとって、それほど強くもない相手だった。
適度にダメージを受けてから、わざとエルフ1体のみを残すと、エルフがサンドゴーレムを召喚した。
キタザワからの情報通りだ。ゴーレムは2メートル級で少し時間はかかったが、無事に全滅させられた。
「Hey、アダム!……よし、これで感度レベル3で揃った」
山田とモニカは、それから何度か戦闘してから切り上げることにした。
「モニカ、明日も朝からイン出来る?」
「たぶん大丈夫よ。……て、またサボる気なの?」
「風邪って言っちゃってるしよ」
「ならウッドマンの続き観よっか。ちょっと行きたいとこもあるのよね。それじゃ、また明日ー」




