表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/43

モニカの背景

 モニカはME/CFSについて、山田に簡単に説明した。

 一部のウイルス感染症の後に発症しやすいとされる自己免疫疾患。治療法の確立されていない難病である。


「あたしは、まだME/CFSの確定診断が付いてる訳ではないんだけど、PS4。準寝たきりみたいな感じなのよ。身体に負担がかかると、すぐに疲れちゃう。激しい運動はするなと言われてる」


 確定診断が付いていない理由は、診断に数年かかることも珍しくないほど、診断そのものが難しい事情があるためらしい。


「コロナ禍の前なんかは『見て見ぬふりをされてきた病』と言われることもあったみたい。要は診れる医者が極端に少ないのよね。軽い自律神経失調症や心因性の鬱病と勘違いされることも多いんだって。でも、あたしのは全然違う」



 山田の母親は、自己免疫疾患の難病、潰瘍性大腸炎を患っている。山田は母親から難病に関しての話は聞いていた。

 モニカに対して、改善する希望はあるというような無責任なことは言えなかった。


「たぶん、人それぞれ症状はかなり違うんだよな?」


「うん。仮にMEの確定診断が付いても人それぞれ。色んな症状が組み合わさってたりするのよね」


「だからさ、先に言っておくけど、俺はモニカが病気の件で……症状とか治療法の話をしてきても……医者でもないのにとか、そんなのネット知識だとか、絶対にそんなことは言わない。この件でモニカを否定することは絶対にしない」


 山田の母親は、数回の入院を経てから、医学論文や関連記事を読み漁り、自分に合った対処法を考えて実践することで、10年以上の寛解を維持していた。


 症状や治療法について、『あくまで自分の場合は』と断りを入れて、『複数の医学論文に記載されている例』を伝えても、医者でもなく学歴もないのに何を言ってるのかだとか、にわかのネット知識だとか……それこそ、担当医でもない者たちから否定されることが何度もあったと山田は聞いている。


 逆に同じ病気の患者は、真剣に聞いてくれて、礼を言われることが何度かあったらしいが。その他の人間には、否定されることがあるため、話す気すら無くなったと。


 症状が多岐に渡る以上、有効な治療法も人それぞれ異なり、周囲には状態が理解しづらいという事情がある。

 山田はそれを考慮して、苦しんでいるのは患者自身なので、その努力を頭ごなしに否定しないと言いたかった。

 これは、医者に頼るべきではないとか、そういう話ではない。



「うん……。山田は共感覚、シナスタジアも人それぞれって言ってたじゃない?だから、ちゃんと話してみる気になったんだ」


「CFUの中なら、重い症状は出ないのか?」


「最初はブレインフォグのせいでキツかったんだけどね。薬や栄養素でブレインフォグが軽くなってからは、特に問題ないわ。疲労感はミトコンドリア機能不全のせいらしいんだけど、CFUでは仮想的な身体だからか大丈夫みたい。ME/CFSは脳の炎症みたいだから、みんなあたしのように動けるとも限らないけど……」


「とにかく現実世界と違って、CFUなら極端な疲れを感じないで動ける。それでこっちにいる時間が長くなった感じ?」


「うん。学校の勉強をしてない訳じゃないんだけどね。スマホを持つのも疲労に繋がるのよね。アダムでもネットは見れるから助かってる。映画をこっちで観るのもそういう理由。長時間座るのも怖くてね」


 山田は母親の話を思い出した。母親は、特に活動期においては、外出先のトイレの位置をいくつも把握しておく必要があると話していた。

 寛解が10年以上続いていても、突然増悪することはあり得るため、母親はトイレの位置を把握するようにしており、常に体調にも気を遣っている。


 モニカが仮に長時間座ることが可能になっているとしても、増悪を怖れて警戒するのは無理もない。



「モニカは、症状が改善するのを諦めた訳じゃないんだよな?」


「可能性はあると思ってるわ。病院も通ってる。ただ、もしも身体がキツいままでも、AIのプロンプトエンジニアリングを覚えれば、やっていけるんじゃないかと思って」


(だからモニカは、衣装やスキルを自分で創る方法に詳しくなったのか……。そして、俺の感度レベルを上げるのに付き合ってくれたのも、一緒にドラマを観たのも……。そっか、俺たちにはいくつか共通点がある)



「えっと……。とにかく、あたしにCFUで気を遣う必要はないわ。言っておきたかっただけ」


「俺から他には言わないよ。ところで盾を持ちたがらないのも関係あんの?」


「うん?えっと……女子は男子に守って貰いたいじゃない?」


「盾がレベル1の俺に無茶を言いやがってー」


「実は盾のデザインを調整中という理由が大きいのです。てへぺろ」


「ガーン。見せてみ。ここでも盾なら出せるだろ?」


「本当にもしもの時は出すつもりだったのよ。ゆめかわハート・シールド!」


 ハート型の大盾が出てきた。

 パステルカラーのグラデーションで、紫とピンクが混ざったようなカラーリング。キラキラのデコレーションも施されている。


「別におかしくなくね?」


「ちょっとメンヘラぽいとか子供っぽいとか思ってない?ユニコーンや虹を入れたほうが良いかなー?」


「(方向性が変わらない気がするが……。)今のデザインでもモニカらしくて良いと思うけどな」


「うーん……。あ、ところでさ。荒木と中島が来るまで待つ?」


「感度レベルの件か。いや、学校サボった件もあるからさ。あいつらに説明するのが面倒だ。今日のところは、また2人で行ってみねえ?」


「いいけど。ハハァ?まだ、あたしと2人で遊びたい感じだなー?」


「まー、それもあるかな」


「(即答?)……えと……それじゃ、キタザワさんに教わったエリアに行ってみる……です?」


「先にスキルショップに行こう。盾のレベルを上げないとキツいわ。あと武器の件も少し教えてくれ」


「うん、それでは行くです」


 山田たちは、不足している感度レベルを得るため、再度2人だけで冒険に向かうことにした。

 山田にとっては、また負け続けることになっても構わない。モニカと一緒に楽しめるなら、それで良かった。


VRで難病を取り上げるならば、大人しく筋ジストロフィー辺りにすべきという意見がありそうなので、後書きを追記します。


ME/CFSとしたのは批判覚悟の上です。

COVID-19以外でも発症するということを1人でも多くの方に知って頂きたく、取り上げる形に致しました。

なお、ME/CFSの背景やPEMとクラッシュの危険性については、閑話を追加予定です。


特に線維筋痛症を伴う場合は、モニカのようにならないと思いますが、PS4レベルのME/CFS様症状でも動けるケースはあると考えています。

無理があると思われた方は、ご指摘頂けますと幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ